機関投資家やファンドマネジャーはよくファンドフローに注目する。有料だったりするが、個人投資家でもファンドフローがみられる一般向けサイトが過去10年登場している。

**なお同じ10年間の時間軸で米国におけるETF投資が爆発的に伸びている。** 様々な指数、スタイル、セクターのETFが存在し、ブルとベア、レバー等の戦略を用いたものも豊富にある。

個別銘柄と異なり、ETFは毎日NAV（ネットアセットバリュー）と資金流出入を開示する。そうするとETFのファンドフローが、実はとても把握しやすい。

個人投資家の市場占有率が著しく上昇した2020年、2021年においてETFへの資金流入が非常に旺盛だった。

さて、以下のようなチャートがよく記事やSNSで出回る。

![image.png](https://grid-images-production.cryptact.com/9fe00214-c1ab-4d00-91cd-c50446230380)
例えばこのチャートは、ETFだけではないがバンカメの調査で2021年末における株式への資金流が1.1兆ドル（125兆円相当）と、 **たった1年で過去19年間の合計を上回ったことがわかる。**

それ自体はもちろんすごいことだが、自分のポートフォリオや日々の投資にその知識をどう生かせるのか。 **ごく当たり前だが、みんなが保有しているものであれば、潜在的な売り手が多く存在する。** 一方、誰も持っていないものは、潜在的な買い手がたくさんいるとは限らないが、下落局面において売りが売りを呼ぶ展開は少ないだろう。

上のチャートが示すように「株式が持たれている」が、具体的に何がどう持たれているかが重要。

冒頭にも申し上げたが、ETFデータがみられるサービスは最近多く普及している（例えば[ETFDBさん](https://etfdb.com/)等）。いくつか人気なものを見てお金がどこに集中しているかを調べましょう。

一先ず昨年27％弱上昇したS&P500の人気ETFを見ましょう。SPDR、iShares、Vanguardなどが運用しているものが多く、上位３銘柄だけで預かり資産が1兆ドルを超える。

![image.png](https://grid-images-production.cryptact.com/01c28717-9cd4-4d00-9286-dd255351d63d)
昨年はそういった人気S&P500 ETFへの資金流入が約1200億ドルだった。2017年～2021年の5年間で2150億ドルにも上る。

今年は40年ぶりのインフレを背景に、約20年ぶりのFEDの本格的なタカ派シフトが起ころうとしている。前代未聞の過剰流動性の後、急速な引き締めへの警戒で投資家マインドが一気に冷え込んでいる。その結果、S&P500が年初来6％下落し、大きく調整。ただ、これで一旦売りが終わり、再び上昇に転じるのだろうか。

その答えはそう簡単ではないが、自分が納得できる投資判断に辿り着くにはファンドフローの理解と把握が欠かせない。上図をみていただければ、2022年はすでにS&P500型ETFから188億ドルが流出（解約）されていることがわかる。

ただ、それだけだと何を意味するかは非常に不透明。コンテクストが必要。

そのコンテクストを作るには過去の流入と比べてみよう。188億ドルというのは **昨年の流入に対して約16％の流出に該当する。** すなわち、 **昨年に投資された、約6分の1が売却済み。** あくまでも一つの基準に過ぎないが、昨年の流入が過半・大半消滅したタイミングで、「さすがに売り手が力を尽きる！」とも考えられる。ファンドフローを基準にして１カ月未満で6分の1であれば、 ETFによる売り圧力が弱まるには**2カ月～6カ月の調整・売却期間が発生するとも言える。** なお昨年の平均的なS&P水準（＝株価＝買い手の取得簿価）に近づくほどこの潜在的な売り手の存在が影響力を増すだろう。

一方、過去5年間の2150億ドルを分母にすると **約8.8%しか抜けられてなく、10分の1以下の割合となる。** とはいえ、2020年以前の資金流入の取得簿価が低く、大暴落がない限りそういった層の売りが出るのは考えづらい。

次に昨年21％上昇したNASDAQを見ましょう。ナスダックの人気ETFはインベスコさんのQQQと、日本人の方が大好きなレバレッジ物（例えばProsharesさんのETF等）。

![image.png](https://grid-images-production.cryptact.com/9bcf0738-f3ef-4673-b9b3-d07018809654)
ナスダックの同じシリーズを見ると、 昨年は約250億ドルの資金流入があり、5年累計で509億ドルであった。ドットコムバブルに匹敵するバリュエーションとなったテック銘柄の暴落でナスダック指数は年初来すでに9.5％下落し、大きく値下がりしている。

年初来ナスダックの人気ETFから23億ドルが流出し、昨年の流入の約9.7%が出口を迎えている。S&Pと比べれば比率が少ないのは、実はレバレッジ物への流入が引き続き続いているからだ。押し目買いの傾向が強いナスダックは相変わらず投資家を引き付けている。例えばProsharesさんのレバーETFであるTQQQは今年、 **大きな下落に相反し実は20億ドルを超える資金流入である。** **なおこの20億ドルの流入は昨年1年間の17億をすでに上回っている。**

そういった意味でファンドフローを基準にするとナスダックのセリングクライマックスはまだまだ先だ、とも考えれる。

最後に米国投資家の日本株ETFに対する資金流入を見ましょう。

![image.png](https://grid-images-production.cryptact.com/0830b11b-8469-4af5-8567-df2660c1f03f)
はい…

# 資金流入はありません（笑）。

アメリカ人投資家の日本株への入り口はiSharesさんが運用している大型日本株ETFのEWJ。アベノミクスの最初の3年間でこのETFへの流入は130億ドルを超え、上のチャートが当時の日本株の人気を語っている。しかし、その後2016年～2021年の累計で113億ドルが流出し、 **EWJの資金フローを基準にするとアベノミクスがなかったことになっている。**

前代未聞の過剰流動性の2020年～2021年でもこのETFへの流入がなく、米国人の個人投資家やETF投資家は日本株に見向きもしていないのが明確に伝わってくる。

とはいえ、それは **日本株の潜在的な売り手が少ないことも意味する。**

今年S&Pが6％、ナスダックが9.5％下落している中で、日経平均は実は4.2%の下落にとどまっている。TOPIX指数はさらに堅調で3.1%の値下がり。外国勢が気にするドル建てでそれぞれ3%と2%の下落幅であり、 **米株の調整に比べ傷が非常に浅い状況。**

誰も売れないから買う！というのは投資をする理由にはならないが、低金利時代において常に資金の拠り所を探している世界中の投資家は、日本のような底堅い相場に目を向けるかもしれない。

日本が大きな政策ミスを起こさなければ…。

【2022.01.21】ETFファンドフロー把握のすゝめ