利上げ幅はともかく、核戦争が始まらない限り3月の利上げが確実となった。ここ2週間は多くの新聞やオンラインメディアで次のような発言を見かけた。

# 「実際に利上げを開始したら株価が上がるのだ」

…これをみるたびに思うことはたった一つ。

# インフレとバリュエーションを舐めてないのかい？

注意を呼び掛けることで誰も喜ばないだろうね、と思いつつ今日の投資家コーナーを書きまーす。

# 1970年以降の利上げサイクル

1970年以降、8回の大きな利上げサイクルがあった。1970年代はオイルショックと、ボルカー議長のスタグフレーションとの戦いで2回。1980年代と1990年代もそれぞれ2回ずつのサイクル。1990年代の2回目のサイクルはITバブルのピークで終了し、その後4年間利上げはなかった。2004年から始まった、グリーンスパン議長の定期的な利上げは2006年に終了した。2015年のイエレン議長の利上げは実は10年ぶりのものとなり、2018年12月末まで3年間のサイクルとなった。
![image.png](https://grid-images-production.cryptact.com/0cc2dd29-8bc9-43f5-a387-57eb6fa45ccc)
上記のチャートはFEDの1970年以降の政策金利の推移と、赤く染めた各利上げサイクル。過去20年間における利上げの珍しさが伝わってくるだろう。2009年以降、金利が実質ゼロとなっていた期間はいうまでもなく米国を皮切りに株価が右肩上がりで推移してきた。

利上げのサイクルがわかったところで、各サイクルにおいて株価がどうなったか見てみましょう。

# 利上げサイクル下の株価

![image.png](https://grid-images-production.cryptact.com/84c37cfe-d86c-4c06-a6b2-3a62b505d596)
上のチャートは対数スケール（log10）でS&Pの株価と、先ほどのチャートで赤くハイライトした利上げサイクルを重ねてみた。ぱっと見、確かに赤くなっているところは、 **上がっているところが多いな！** 要は…

**利上げが実際に開始したら株価が上がるのか？！**（おいっ）

結論を早める前にいくつか念頭に置いておきましょう。

まず、 **利上げは普段、好景気の過熱を防ぐ目的で始まる。** 特に1990年代の利上げ、2004年と2015年の利上げは好景気、強い雇用情勢を背景に金融の引き締めが決定された。つまり、 **業績が改善し続ける可能性が高い局面で利上げが行われるケースが多い。** あわせて株価も上がりやすい状況となる。

次は、 2015年を除けば、 **これまでの利上げはすべて「通常の金融政策下」の利上げだった。** すなわち、2009年以降は金融政策の変動可能ファクターは金利だけではなく、FEDのバランスシートや複数の特別支援ファシリティも加わっている。要は金融政策が複雑化している。市場にとっては、わかりづらくもなっている。

2013年～2015年は、利上げとバランスシート運営、ファシリティの終了等の憶測で市場が大きく混乱したのを覚えているでしょうか。「金利はいつ上がるのか」の答えだけではなく、例えばバランスシートの縮小が市場にどう影響するかも考慮せざるを得ない。

とはいえ、2015年から始まったサイクルも最初のボラティリティを乗り越えトランプ政権発足と同時に結果として大きく上昇した。

では、今回も同じ結果になるのでは？

# こんなに追い詰められたFOMCは50年ぶり

今回がどうかの仮設を立てる前に、過去8回の利上げサイクルをもう少し深堀してみましょう。

![image.png](https://grid-images-production.cryptact.com/255ce208-3f4a-448b-8d72-6a28d5308603)
上記のテーブルに各利上げサイクルの時期、利上げ開始時の政策金利、利上げが終了した際の政策金利、開始と終了時の名目CPI、開始時の直近12ヶ月収益に基づいた株価収益率（PER）、そしてサイクルを通したS&Pの騰落率を載せてみた。

一番右側の騰落率を先に見てしまうと確かに緑色が多い！やっぱり上がるのだ！

**おいっ。話を聞け。**

ここでいくつかの重要な要素に注目して頂きたい。

**まず、2015年と同様、ゼロ金利からの利上げであること。** 過去の利上げサイクルにおいては「正常」な金融政策運営だったのでゼロ金利からのスタートはあり得なかった。ドットコムバブル崩壊時でもグリーンスパン議長は1％で歯止めをかけた。ゼロからはじめていることで、変動の影響が大きくなる。1980年代で3％が4％に上げられたところで消費者にとっても企業にとっても「上がった」感覚はあったが、0％からのインパクトが圧倒的に大きい。

例えば、「イノベーション」を掲げている多くの赤字企業にそもそもお金が流れてきたのは、ゼロ金利だったからだ。利上げのスタートラインが3％だったら、5年後でも利益が出る見込みのない会社に最初から資金が流れなかった可能性が高い、とも考えられる。

**次は、開始時のインフレ率（CPI）。今回の利上げサイクルは7％を超えるインフレからスタートを切る。ここまで手遅れとなったFEDは、過去100年間において存在しない。** 「一時的」の判断を無理やりに維持した結果、1970年以降の利上げサイクルで一度もなかった「危険領域」からのスタートとなる。そして公式に「一時的」を卒業しているものの、未だに今年の後半にインフレが2％の目標に減速してくると期待している。

スタグフレーションの1970年代の利上げを除けばどのサイクルでも緩やかな利上げだった。もう一度上のFED政策金利のチャートを見て頂ければそれを確認できる。途中から利上げを加速させたり、臨時決定会合で利上げや引き締めを決定したりするようなことは、1970年代を除けばない。

先週はブラード総裁のコメントが話題となり、臨時決定会合の可能性が顕在化したが、その話は時期尚早。ただ、3月以降は可能性がゼロではない。インフレがどんどん下がる前提で金融政策を行う予定のFEDが、下がらないインフレと直面したらどう判断するのだろうか。

昨年からずっと言い続けているが、2022年度は **政策ミスの年** だと考えている。もう少し踏み込んで申し上げると、一つの政策ミスはすでに起きている。ここまで手遅れになっていること自体がミスである。ただ、これからその余波が現れてくる。

**最後は株価のバリュエーション。株価がここまで割高だった利上げサイクルはドットコム崩壊以来。** ITバブルが崩壊した2000年の最後の利上げは同年の前半。実はこの利上げサイクルは8つの中で最も短いものでもあった。たった1.3年で終了した。このサイクルの騰落率を見て頂ければ＋13.1％と大きくプラスになっているが、その後の株価は…

なお同サイクル開始時のCPIは1％台で決して高インフレではなかった。

**つまり今回は、極めて高水準のインフレ、過去2番目に高いバリュエーションを目の前にして利上げをスタートする。**

# **そして同時にこの二つの腫れ物に触れながら利上げを決断したFOMCは過去100年間、存在しない。**

その事実だけでも、単純な「買いだ！」の結論を躊躇うべきだ…

一番近かった1970年代は、ご覧の通り株価は利上げの期間を通して下落している。途中で **40％の最大ドローダウンも記録している。** 1970年代が再現されるかはともかく、「利上げをしたら目をつむって買え！」の呼びかけを少し疑って頂きたいと存じます…

投資するチャンスはどの環境でもどの相場でも訪れるが、投資家の皆さんは余力を無くさずに最近のFEDと同様に「nimble」であって下さい！

「実際に利上げしたら買いだ！」の皆さん。インフレとバリュエーションを舐めすぎではないのか。