執筆 西村 麻美
概要
・一足先に外出自粛/禁止が解除された中国では高額商品を中心に消費の急回復が起きている。
・日本株の中では旅行/観光セクターに注目している。
・需要の高まりを吸収できる事業規模、国内旅行の比重の高さ、インバウンド需要の取り込みに必ずしも頼っていない、などの観点からKNT-CTホールディングス(9726)、エイチ・アイ・エス(9603)、星野リゾート・リート投資法人(3287)をピックアップ。
外出自粛/禁止解除と報復性消費
5月14日に東京、大阪などを除く39県で5月末の期限を待たずに緊急事態宣言が解除された。日本より先に中国武漢市では1月23日から続いたロックダウンが4月8日に解除され、市外への移動が可能になり経済活動が再開された。
60日以上も外出や移動の自由がない状態で買いたいものを買わず、行きたい所へも行かず我慢を続けて来たことの反動で購買欲求が急激に高まる事を「報復性消費」と中国では呼んでいる。
「報復性消費」の典型例と言えるような事態が中国広州市のエルメスで起きた。
エルメスは広州市内の旗艦店を4月11日に移転オープンさせたが、当日の売り上げは少なくとも1,900万元(約2億8,500万円)に上り、中国国内の店舗における1日の売上高としては過去最高になったとみられている。
日本でも中国と同じように自粛で抑えられていた欲求の反動で購買欲求の急激な高まりや国内旅行や温泉による自粛疲れの解消現象が起きると考えている。
栃木県の下野新聞オンラインによると、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため4月20日から休館となっていた下籠谷(しもこもりや)の真岡井頭温泉が13日、感染防止対策を講じた上で約3週間ぶりに営業を再開した。自粛疲れを癒したい高齢者らが検温の為にソーシャル・ディスタンスを取りながら温泉施設の入り口に列をなした。
自粛解除後の消費意欲の急激な高まりは起こると思うが、消費関連株での銘柄選択となるとかなり難しくなる。エルメス、ルイ・ヴィトンなどのような高級ブランド銘柄が日本株ではなく、それではブランド品を取り揃えている百貨店に自粛解除後に朝から列をなして並ぶかというと高級ブランドほどの訴求力があるとは考えづらい。
そこで、ここでは国内旅行の回復という切り口で考えてみる。自粛解除後も各国は外国人を入国させるという事はしばらくなく、日本人の旅行先は日本国内に限定されると考える。
国内旅行需要
2019年度版「観光白書」によると日本国内における旅行消費額は26兆1千億円だった。このうち日本人の国内宿泊旅行が15兆8千億円(構成比60.6%)、日帰り旅行が4兆7千億円(同17.9%)、日本人の海外旅行(国内消費分)が1兆1千億円(同4.2%)、訪日外国人の旅行が4兆5千億円(同17.3%)だった。
日本人による国内宿泊旅行と日帰り旅行を合わせると20兆5,000億円にのぼり、このうち半分でも需要が回復すると10兆円超、三分の一でも需要が回復すると7兆円近くの消費になる。
自粛解除後の国内旅行需要喚起の施策として2020年度補正予算案で約1.4兆円計上されたGo To Travelキャンペーンがある。
Go To Travelキャンペーンは旅行業者経由で旅行商品を購入した方を対象に、旅行代金の最大5割程度(1人1泊あたり最大2万円程度)のクーポン等を付与するもので、全国を対象に約6カ月にわたって消費者の宿泊費などの旅行費用を国費で補助する事業。
また、国民に一律支給される一人10万円の特別定額給付金も一定以上の所得を得ている層の国内宿泊旅行や日帰り旅行の需要を喚起すると考える。銘柄選択にあたり国内旅行需要の回復で恩恵を受ける国内旅行の比重の大きい旅行会社や国内の旅館、ホテルを運営する企業を選んでみた。
個別銘柄ピックアップ
KNT-CTホールディングス(9726)
2013年に近畿日本ツーリストとクラブツーリズムが経営統合を行い設立。取扱高は業界3位。国内旅行比率は総売り上げの36%。2020年3月期決算は営業利益が赤字転落し、▲16億円、当期利益は▲74億円だった。
厳しい状況ではあるが、借入金がゼロである事から利払いなどがなく耐えられると考える。自粛解除後には業界3位の旅行業者として国内旅行需要回復の恩恵を受けるだろう。年初来安値は612円。(3/12/2020)
エイチ・アイ・エス(9603)
旅行取扱高業界2位。旅行取扱い以外にハウステンボスグループ運営、ホテル運営(国内)、九州産業交通グループ、エネルギー事業も手掛ける。
決算期は10月。2020年第一四半期(2019年11月~2020年1月期)の結果は売上高は前年同期比6.6%増の1,996億円、営業利益は前年同期比36.6%減の37億円、四半期利益は前年同期比7.6%減の21億円だった。
3月上旬に日本格付研究所がHISの長期発行体格付けを「Aマイナス」から「BBBプラス」に引き下げた。2019年10月末時点でキャッシュフロー対有利子負債比率が564.2%、インタレスト・カバレッジ・レシオ(キャッシュフロー/利払い)53.1倍だったが、これら財務安全性の指標はキャッシュフローの縮小とともに悪化していると推測されるものの、心配な領域には程遠いと思われる。
エイチ・アイ・エスはKNT-CT1ホールディングスよりも国内旅行取扱高比率が総売上の20%前後と低いが高い知名度から国内旅行需要回復の恩恵を受けるだろう。年初来安値は1,096円。
星野リゾート・リート投資法人(3287)
星野リゾートをスポンサーとするホテル特化型J-REIT。35%を下回るLTV(Life Time Value、顧客生涯価値)等、堅実な財務戦略を採っており、JCRからは「A-」という格付を取得。
星野リゾートでは3月上旬から、ビュッフェ対策や客室への食事持ち帰り、1フロア貸切プランなど、施設ごとに感染防止策や新プランを打ち出してきた。感染リスクへの不安を持つ宿泊者のニーズにこたえたプランが奏功し、緊急事態宣言が発出される前の3月は、グループ内の施設の稼働は前年並みで推移した。4月下旬にはグループ全体の衛生管理と3密回避を徹底する感染予防策を発表。チェックインは客室での実施(星のや、界ブランド)や自動チェックイン機の利用(OMO、BEBブランド)、レストランでは混雑管理と入店時間の分散化や、一部施設のプールでは宿泊客のスマートフォンに混雑状況を表示するシステムも導入した(温泉にも導入予定)。
リゾートホテル業界のリーダーとしてコロナ危機に迅速に対応し、3密を避けるプランを開発、また星野氏自身が様々なメディアに露出し、発信を高めている事もあり自粛解除後に大きく需要回復が見られるだろう。株価(5/18/2020)382,000円。 年初来安値250,000円(3/19/2020)
プロフィール
新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。
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