4月2日にトランプ政権が相互関税政策を発表して以降、株式市場は波乱含みの展開となり、世界中の市場がこの政策に翻弄される状況が続いている。世界経済の先行きが不透明で、相場のボラティリティが高まる中、業績が景気動向に左右されにくい「ディフェンシブ銘柄」への注目が集まっている。

このレポートでは、ディフェンシブ銘柄の定義や代表的なセクター、ボラティリティが高い相場でディフェンシブ銘柄にシフトする理由、ディフェンシブ銘柄のβ値、さらに注目される具体的な銘柄について解説する。

目次

  1. ディフェンシブ株とは?
  2. なぜディフェンシブ株にシフトするの?
  3. ディフェンシブ株のβ値は?
  4. 注目のディフェンシブ銘柄

ディフェンシブ株とは?

ディフェンシブ株の定義であるが、景気変動の影響を受けにくい企業の株式のことである。不況時でも需要が安定しており、業績が比較的落ちにくい特性がある。そのため、景気後退局面や相場の下落時に強い傾向がある。電力は規制業種のためにエネルギー価格や為替等により業績の変動はあるが、景気との連動性は小さい。

セクターとしては食品、飲料、家庭用品等の生活必需品、医薬品、医療機器等のヘルスケア、電力、ガス、水道等の公益事業、通信等である。

日本市場では人口減少・高齢化にディフェンシブ銘柄の中でも医療・介護系の重要性が増している。また、ディフェンシブ株は高配当・連続増配企業が多く、個人投資家から支持されている。

なぜディフェンシブ株にシフトするの?

米中間の関税合戦が激化し、世界経済の先行きが不透明になる中、市場のボラティリティ(上下に大きく変動する不安定な状況)は高まっている。こうした環境では、グロース株やテック株などの高β銘柄は売られやすい傾向にある。投資家はリスクオフの姿勢を強め、景気に左右されにくく業績が安定しているディフェンシブ株に資金を移す動きが強まっている。低βかつディフェンシブな銘柄は、守りの姿勢で資産を守る戦略として理にかなっていると言える。

ディフェンシブ株のβ値は?

ディフェンシブ銘柄のβ(ベータ)値はテック銘柄に比べて低い。まずβ値の説明であるが、個別の証券が証券市場全体の動きに対してどの程度反応して変動するかを示す数値で、現代ポートフォリオ理論で用いられるが、計算式はβ=個別証券のリターン÷市場全体のリターンである。ディフェンシブ銘柄のβ値は1.0(市場と同じ位動く)未満で、0.5以下の銘柄が多い。

例えばある銘柄のβ値が0.4だとしたら、市場が10%上がってもその銘柄は4%位しか上がらないが、逆に市場が10%下落してもその銘柄は4%位の下落ですみ、大きく下落する事はない。ポートフォリオ運用の際には高βと低βを組み合わせ分散投資をする。

注目のディフェンシブ銘柄

ここからはボラティリティの高い相場の局面で注目のディフェンシブ銘柄を紹介する。株価、株価バリュエーションは2025年4月14日の終値ベースで算出している。

①NTT(9432)

β値:0.23

企業概要:通信業界首位のNTTグループの持株会社。傘下にNTT東日本、NTT西日本、NTTコミュニケーションズ、NTTドコモ、NTTファシリティーズ、NTTアドバンステクノロジー等。NTTデータ(9613)はグループ内の中核子会社ではあるが、上場を維持しており完全子会社ではない。NTTデータは2016年にDell Servicesを買収、同年にスペインのSIerを買収、2020年にドイツのSIerを買収。NTTはディフェンシブ銘柄の代表格のような企業であるが、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)の次世代ネットワーク基盤構想で消費電力を100分の一にし、高速大容量通信、遅延の削減に取り組んでおり、将来的にはテック株として評価される可能性もある。

株価時価総額自己資本比率ROEROIC
147.1円12.23兆円33.2%12.6%11.4%
予想PERPBREV/EBITDA配当利回りPEGレシオ
11.4倍1.2倍3.6倍3.5%▲3.1倍

業績推移:2024年3月期は2020年5月に発表した中期目標のEPS320円、海外営業利益率7%以上、ROIC(投下資本利益率)8%は達成し、最高益を達成した。NTTドコモ、NTTデータの海外事業の拡大、コスト削減の推進、ノンコア資産のスリム化等が貢献し最高益となった。今期に関しては会社計画では増収減益の予定であるが、減益の要因は地域通信事業が手掛ける固定電話やフレッツ光の契約数の減少、また電気料金や人件費の高騰によりコスト削減効果も限界に達しており利益を圧迫している。ドコモはスマートライフ事業は順調であるが、携帯電話事業が競争激化による料金引き下げや契約数の伸び悩みにより収益が減少している。前期に計上された株式売却益等の一時的な要因が無くなる予定であり、生成AIやデータセンター等の成長分野への先行投資負担等が減益の要因である。しかし、成長分野での収益拡大が期待されており、中長期的な業績の改善が見込まれる。

②東洋水産(2875)

β値:0.38

企業概要: 「マルちゃん」のブランド展開をする食品会社。1953年の創業から1970年代までは冷凍魚や水産加工品がメインであったが、現在は即席めん事業が約9割、水産食品(冷凍品含む)は約1割で年々減少している。1970年代にアメリカに進出し「Maruchan Inc.」を設立し、アメリカ現地生産、現地販売とメキシコにアメリカから輸出している。

株価時価総額自己資本比率ROEROIC
8,556円8,524億円80.7%11.6%10.0%
予想PERPBREV/EBITDA配当利回りPEGレシオ
13.5倍1.8倍6.5倍2.0%0.4倍

業績推移:業績は順調に拡大しており、2024年3月期は過去最高益を達成した。売上高は前期比12.2%増の4,890億円、営業利益は同65.4%増の667億円、営業利益率は同4.3pt上昇の13.6%、当期純利益は同68%増の557億円であった。業績拡大の要因はアメリカ・メキシコでの「マルちゃん」ブランドの販売が好調で売上が売上が2,212億円、セグメント利益が463億円と国内即席麺の売上の1,001億円、セグメント利益97億円よりもドル高の影響により遥かに大きかった。水産食品事業では、コンビニエンスストアの来店客数や業務用・外食用食材の需要回復により販売が伸長し、増収となり、​低温食品事業や加工食品事業も堅調に推移し、全体として国内事業の収益性が改善した。2025年3月期に関しても業績は順調で3Q(累計)決算は売上高が前年同期比10.3%増の3,952億円、営業利益が同29.8%増の623億円、営業利益率が同2.4pt上昇の15.8%、四半期純利益が同31%増の523億円であった。通期の会社計画は売上高が前期比4.3%増の5,100億円、営業利益は同8.0%増の720億円、当期純利益が同6.0%増の590億円と最高益を更新する予定である。

③関西電力(9503)

β値:0.37

企業概要:電力会社国内2位。原発利用率は2025年3月期中間決算時で94.4%に達し、保有する原発がほぼフル稼働している。特に大飯、高浜、美浜原発が安定稼働しており、自社需要を超える供給力が確保できている。電力事業は原子力、火力(石炭、LNG)、水力・再生可能エネルギー。ガス・エネルギー事業は都市ガスやLNGの供給・販売、法人向けに電力+ガスの一括供給サービス等。その他通信インフラ(関電通信)、不動産開発・マンション管理、海外インフラ投資等。2024年年末に3,774億円の第三者割当増資を実施した。

株価時価総額自己資本比率ROEROIC
1,640.5円1.78兆円30.7%15.0%7.8%
予想PERPBREV/EBITDA配当利回りPEGレシオ
4.9倍0.6倍6.6倍3.7%▲0.28倍

業績推移:電力需要は右肩上がりであるが、2023年3月期は2022年から続くエネルギー価格の上昇により火力発電に必要なLNGや石炭などの燃料調達コストが大幅に増加したが、電力販売価格への転嫁の遅れ、また一部の原発が定期検査や稼働を停止していた為に収益性が低下し、▲520億円の営業赤字に陥った。2024年3月期は高浜原発1・2号機の再稼働により、原子力の利用率が大幅に上昇し、火力発電に必要な燃料調達コストが下落した事等により当期純利益が4,418億円と過去最高益を達成した。2025年3月期の3Q(累計)決算結果は売上高が前年同期比7.2%増の3兆1,526万円、営業利益は同▲34.7%の3,998億円、四半期純利益は同3.2%増の3,623億円であった。営業利益が減益だった要因は他社購入電力量が増加し、営業費用が増加したために営業利益が減少した。関係会社の株式売却益を630億円計上したので営業利益は減少したが、四半期純利益は増加した。通期の会社計画は売上高が前期比7.2%増の4兆3,500億円、営業利益が同▲45.1%の4,000億円、当期純利益が同▲17.4%の3,650億円の予定である。

④ユニ・チャーム(8113)

β値:0.1

企業概要:日本を代表するトイレタリーメーカーであり、国内外で高いシェアと安定した事業基盤を持つ。ベビー用紙おむつ、大人用紙おむつはトップシェアを持ち、ペットケア用品も首位級。タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、インド、バングラデシュ、中国、韓国、台湾、サウジアラビア、エジプト、メキシコに製造拠点、販売拠点を持つ。2011年にアメリカの老舗ペットブランド The Hartz Mountain Companyの株式の51%を取得し、2020年に完全子会社化。アフリカでは現地パートナーを通じ商品を販売している。2024年12月期時点で海外売上高比率は65.9%、アジア売上高比率は44.8%であった。

株価時価総額自己資本比率ROEROIC
1,263.5円2.22兆円62.3%10.6%N/A
予想PERPBREV/EBITDA配当利回りPEGレシオ
24.8倍2.9倍10.3倍1.4%4.4倍

業績推移:業績は順調に拡大している。売上高は2024年12月期まで8期連続過去最高を更新し、コア営業利益も価値転嫁推進や原価低減などにより過去最高を更新した。しかし、法人所得税費用の増加により当期純利益は前期比減少となった。2024年12月期通期の決算結果は売上高が前期比5.0%増の9,890億円、営業利益は同8.2%増の1,385億円、営業利益率は同0.4pt増の14%、当期純利益は同▲4.9%の818億円であった。日本国内、インド、中東、北米が業績を牽引した。事業別ではフェミニンケア、ウェルネスケア、ペットケアが好調であった。日本国内は人口は減少しているものの、パーソナルケアにおける価値転嫁の浸透、拡大により高成長を持続できている。アジアはインドは好調継続のなか、中国フェミニンケア改善傾向となり、4Qから増収転換した。その他地域は中東と北米の好調持続、ブラジルの増益が業績貢献した。2025年12月期の会社計画は売上高が前期比3.6%増の1兆250億円、営業利益は同5.4%増の1,460億円、当期純利益は同5.6%増の864億円の予定である。

⑤東京瓦斯(9531)

β値:0.17

企業概要:都市ガス首位。(約1,200万件以上)使用するガスはほぼ全てLNG(液化天然ガス)主な輸入先はアメリカ(シェールガス)、オーストラリア、マレーシア、カタール等。長期契約+LNG船の保有などにより、安定した調達体制を構築している。ガス以外に電力販売(家庭、法人向け)、再生可能エネルギー(太陽光、風力、バイオマス等の開発)、海外エネルギー開発(LNG上流事業、海外発電投資)、ソリューション事業(エネルギー効率化支援、脱炭素コンサル等)、不動産(商業施設運営)、エンジニアリング(ガス機器の製造・設計)等を手掛けている。

株価時価総額自己資本比率ROEROIC
4,846円1.85兆円43.4%10.1%4.6%
予想PERPBREV/EBITDA配当利回りPEGレシオ
23.7倍1.1倍8.3倍1.7%▲0.4倍

業績推移:2023年3月期は、売上高が前期比52.7%増の3兆2,896億円、営業利益が230.5%増の4,214億円、経常利益が199.6%増の4,088億円、当期純利益が146.6%増の2,360億円となり、いずれも過去最高を記録した。好業績の要因は1)ロシア・ウクライナの情勢により原油やLNGの価格が高騰し販売価格が上昇した。2)原料費の上昇が販売価格に反映されるまでのタイムラグにより、利益が増加した。3)電力の小売販売件数の増加や、JEPX(日本卸電力取引所)価格の高騰により、電力事業の収益が改善した。4)豪州や北米のLNG事業など、海外事業の利益が増加した。翌2024年3月期はエネルギー価格の下落や需要減少などにより、減収減益となった。売上高が前期比19.0%減の2兆6,645億円、営業利益が47.7%減の2,203億円、当期純利益が28.0%減の1,700億円となった。2025年3月期は3Q(累計)決算結果は売上高が前年同期比▲3.1%の1兆8,437億円、営業利益が同▲55.2%の729億円、四半期純利益が同▲68.3%の365億円であった。減収減益の要因は原油価格の下落や為替の影響により、都市ガスの販売単価が減少し、円安の進行により、輸入する原材料のコストが増加し、利益を圧迫し、卸供給先の需要減などにより、電力の販売量が減少等であった。通期の会社計画は売上高が前期比0.9%増の2兆6,890億円、営業利益が同▲46.9%の1,170億円、当期純利益が同▲57.6%の720億円の予定である。