9月第一週の投資トピックで生成AIの普及による電力需要から各電力会社が送電網を増強するという内容の記事を取り上げたが、このレポートでは電力設備投資関連株について取り上げる。
生成AIの普及と共に増える電力需要
日本の電力消費量は生産拠点の海外流出、人口減少や省エネ等で2007年をピークに減少傾向にあると言われてきた。しかし、2022年にリリースされたOpenAIのChatGPTの爆発的な普及で電力需要は一変した。
電力広域的運営推進機関(OCCTO)の2024年1月に発表した需要予測によると2024年に電力需要は増加に転じ、現在約8,000億kWhの需要がデータセンター、半導体工場の新増設10年後には10年後には約4%増加、2050年には1兆kWhを超えると発表した。想定を超えた生成AIの急速な発展とシェア拡大、クラウド多用のデジタル化が、電力消費量の見通しを変えた。ChatGPTは、公開からわずか2ヶ月でユーザー数1億人を突破したが、日本からのトラフィックはアメリカ、インドに次ぐ3位と非常に多い。アメリカの市場調査会社のGrand View Research Inc.によると日本の生成AI市場は2023年に5,520万ドルだったが2030年には6億9,600万ドル、CAGR(年平均成長率)は43.6%で拡大するとの予測を発表した。国際エネルギー機関IEAによるとChatGPTの回答に必要な電力は従来のGoogle検索の約10倍との事である。IEAの予測では、世界のデータセンターのエネルギー消費は2026年までに2023年の倍増、AI専用のデータセンターに限れば10倍超の水準に達する可能性があると発表した。
各電力会社の建設プロジェクト
各電力会社が電力需要増加に備える為に送電網の増強や変電所の建設等を行っているが、以下にまとめてみた。
東京電力:
千葉県印西市で新しい変電所を建設し、275kVの送電線を敷設。首都圏のデータセンターや産業施設の電力需要に対応するため、2024年4月に運転開始した。新宿区を中心に既存の送電線を引き替え、2027年までに新しい送電網を構築する予定である。新京葉変電所・新富士変電所での増強工事により、電力供給能力を大幅に強化する計画がある。
北海道電力:
「新北海道本州間連系設備増設工事」を2023年8月に着工した。北海道と本州を結ぶ電力連系設備の容量を、既存の90万kWから120万kWに増強する予定である。これには、北斗変換所(北海道北斗市)と今別変換所(青森県今別町)に新しい交直変換設備を設置し、両地点を結ぶ送電線を新設する工事も含まれる。2028年3月に運用開始を予定している。
東北電力:
東北北部エリアの再生可能エネルギー電源の接続増加に対応するため、秋田県秋田市の「河辺変電所」から山形県酒田市の「八幡変電所」までを結ぶ約96.4kmの新たな送電線(出羽幹線)の建設を進めている。このプロジェクトは2022年に着工し、2031年11月の使用開始を予定している。また、東北地方の500kV(50万ボルト)送電線網を強化し、宮城県の仙台市から福島県の南いわき開閉所までを結ぶ送電線の建設を進行中である。
中部電力:
静岡県の東清水変電所における周波数変換設備を増強する計画を進めている。これにより、現在の10万kWから13万kWに変換能力を向上させ、東京電力の50Hz地域への電力融通を強化することを目指している。また、東京中部間の連系設備(東清水で60万kW、新佐久間で30万kW)を増強するプロジェクトも進行中である。これにより、東日本と西日本間での電力のやり取りを強化し、広域的な電力系統の安定化を図ります。この設備には、最新の自励式交直変換装置(HVDC技術)を導入し、非常時の電力融通やブラックスタート機能も備えている。
北陸電力:
福井県、富山県、石川県を中心に、送変電設備の計画的な整備や新規建設を進めている。再生可能エネルギーの出力制御を含む広域的な電力系統の安定化を図る取り組みも含まれている。
関西電力:
基幹系統(主に154kV以上の送電網)の投資・廃止計画を発表しており、再生可能エネルギーの増加に伴い、送電容量の増強や系統混雑の解消に取り組んでいる。2024年には、既存の送配電網のシステム改修が予定されており、空き容量の改善や系統混雑の緩和を図っている。変電所の新設や増強計画についても取り組んでおり、再生可能エネルギーの導入に対応した電力供給の安定化を図るために、変圧器の増設や既存設備のアップグレードを行っている。
中国電力:
2024-2025年度にかけて、再生可能エネルギーの導入拡大や送電設備の保全業務の高度化を進める計画を発表した。この計画では、送電容量の増強と共に、デジタル技術を活用した効率的な設備運用が推進されている。再生可能エネルギーの導入拡大に向けて、富士通と協力して送電設備の保全業務を高度化する実証試験を実施している。
四国電力:
空き容量がない基幹系統に新しい電源を接続する際に、一部の増強工事を不要とする「ノンファーム型接続」を導入している。これにより、送電設備の容量を効率的に活用し、新しい再生可能エネルギーの電源を柔軟に接続できるようにしている。
九州電力:
2022年に新たに建設した50万ボルトの日向幹線の運用を開始した。この送電線は、九州北部と南部を結ぶ重要なインフラで、九州内の送電設備の更新工事を支えるため、供給の安定性を向上させることを目的としている。この送電網の強化により、九州全域での電力供給の信頼性が向上し、さらなる再生可能エネルギーの導入にも対応できるようになっている。
沖縄電力:
浦添市牧港に新たな天然ガスを使用する発電所を建設し、2024年3月に運転を開始した。この発電所は、老朽化した既存の設備の代替として建設され、ガスエンジンによる発電を行っている。これにより、温室効果ガスの排出が抑えられ、エネルギーの安定供給と環境負荷の低減が期待されている。
電力設備投資関連株5選
電力設備投資関連銘柄は沢山あるが、このレポートでは相対的に出遅れており、上値余地が大きそうな5銘柄を選んだ。株価、バリュエーションは全銘柄2024/9/24の終値をベースとした。
①SWCC(5805)
企業概要:電線・ケーブル等の製造、販売。旧社名は昭和電線ホールディングス。電線業界4位。電力ケーブル・電線・電力機器・巻線などのエネルギーシステム事業、光ファイバーケーブル・光加工品・ワイヤーハーネス等の通信デバイス事業、免震部材や事務機器用品等のデバイス事業を展開している。電力インフラ関係の戦略商品である電力接続部品SICONEX(サイコネックス)は小型化・軽量化・工期の短縮でシェアを拡大しており、競合他社が同様の商品から撤退した為に実質デファクトスタンダード化した。
業績推移:2024年3月期はエネルギー・インフラ事業の好調により営業利益、経常利益は過去最高を達成した。売上高は前期比2.3%増の2,139億円、営業利益は同22.4%増の128億円、当期純利益は同▲6.1%の88億円であった。電力インフラ系の工事は2024年3月期下期より増加し、その流れは今期も継続している。2025年3月期1Q決算は営業利益が1Qとして過去最高となった。売上高は前年同期比17.6%増の569億円、営業利益は同203.5%増の49億円、四半期純利益は同148.3%増の29億円であった。今通期の会社計画は売上高が前期比5.2%増の2,250億円、営業利益が同5.3%増の135億円、当期純利益は同1.8%増の90億円であるが、上方修正の可能性が高いと考えている。
株価 | 時価総額 | 自己資本比率 | ROE | ROIC |
5,540円 | 1,637億円 | 46.6% | 11.3% | 7.9% |
予想PER | PBR | EV/ EBITDA | PSR | 配当利回り |
18.2倍 | 2.1倍 | 8.9倍 | 0.7倍 | 1.98% |
②住友電工(5802)
企業概要:日本最大の非鉄金属メーカー。電線・ケーブル、通信機器、自動車部品、エレクトロニクス関連部品、素材等幅広い事業展開をしている。受電設備、変電設備を製造していた子会社の日新電機を2023年に株式公開買い付けを行った。住友電工は光ファイバーケーブルで世界有数のメーカーであり、通信インフラの整備、5Gの普及に伴い需要が増加している。北海道電力の青函トンネルを通って北海道と本州を結ぶ超高圧直流ケーブルの製造・施工を受注し、送電インフラの増強をサポートしている。
業績推移:2024年3月期通期は過去最高益を達成した。売上高は前期比9.9%増の4兆4,028億円、営業利益は同27.7%増の2,266億円、当期純利益は同32.9%増の1,497億円であった。2025年3月期1Q決算は売上高が前年同期比12.2%増の1兆1,155億円、営業利益が同181.4%増の533億円、四半期純利益が同16倍増の318億円であった。1Q決算が会社計画を上回った事から今通期会社計画を上方修正した。通期の会社計画は売上高が前期比4.5%増の4兆6,000億円、営業利益が同10.3%増の2,500億円、当期純利益は同▲3.2%の1,450億円の予定である。
株価 | 時価総額 | 自己資本比率 | ROE | ROIC |
2,374円 | 1.85兆円 | 50.0% | 6.5% | 5.0% |
予想PER | PBR | EV/ EBITDA | PSR | 配当利回り |
12.8倍 | 0.8倍 | 5.2倍 | 0.4倍 | 3.03% |
③トーエネック(1946)
企業概要:中部電力グループの電気設備工事、電力関連工事、電気通信工事を行う総合設備企業。主な事業は電力供給設備工事:配電線ルートの建設工事や保守・メンテナンス、地中線工事などを行っており、電力インフラの整備に取り組んでいる。電気設備工事:建物の受変電設備、監視制御システム、照明やコンセントの設置など、さまざまな電気設備工事を手掛けており、幅広い分野で電力設備の導入やメンテナンスを行っている。親会社の中部電力は電気事業法抵触でグループ2社を再編すると2024年7月に発表し、トーエネック株140万株を売り出しにより売却し、中部電力の議決権比率は51.9%から44.4%に低下する予定である。
業績推移:2024年3月期通期の決算は最高益を達成した。売上高は前期比9.0%増の2,529億円、営業利益は同54.7%増の159億円、当期純利益は同93億円であった。2025年3月期1Q決算は売上高が前年同期比3.4%増の599.8億円、営業利益は人材投資の推進により同▲8.8%の27億円、四半期純利益は持分法適用会社へ追加出資をし子会社化に伴い特別利益を計上した事により同11.5%増の19億円であった。今通期の会社計画は売上高が前期比4%増の2,630億円、営業利益は同▲18.3%の130億円、当期純利益は同▲10.1%の84億の予定である。
株価 | 時価総額 | 自己資本比率 | ROE | ROIC |
4,800円 | 898億円 | 43.3% | 7.2% | 4.8% |
予想PER | PBR | EV/ EBITDA | PSR | 配当利回り |
10.7倍 | 0.7倍 | 6.1倍 | 0.3倍 | 4.16% |
④東光高岳(6617)
企業概要:高岳製作所と東光電気が経営統合し発足した。東京電力パワーグリッドの持分法適用会社である。変圧器や開閉装置等の受変電・配電機器を主に製造しており、重電8社(日立製作所、東芝、三菱電機、富士電機、明電舎、ダイヘン、日新電機、東光高岳)の一角である。断路器と急速充電器において国内トップシェアを誇る。東光高岳では近年いくつかの不適切な検査や試験結果の不正な扱いが報告されたが、製品の安全や機能に対する影響はなく、また東電の入札資格が停止されるという状況にはなっていない。
業績推移:2024年3月期通期は最高益を達成した。売上高は前期比9.8%増の1,074億円、営業利益は同70.1%増の82億円、当期純利益は同59.9%増の47億円であった。2024年3月期時点で電力プラント機器(大型変圧器、開閉装置、制御装置)、配電機器(開閉器、小型変圧器)、電力システム、断路器、受変電設備等の電力機器事業セグメントは総売上高の58%であった。2025年3月期1Q決算は売上高が売上高が前年同期比9%増の237億円、営業利益は同0.9%増の11億円、四半期純利益は為替差益が今期は減少した事、営業外費用の増加により減益となり、同▲17.5%の5億7,600万円となった。今通期の会社計画は売上高が前期比▲2.2%の1,050億円、営業利益は同▲51.5%の40億円、当期純利益は同▲46.4%の25億円の予定である。
株価 | 時価総額 | 自己資本比率 | ROE | ROIC |
1,832円 | 294億円 | 53.8% | 8.0% | 9.9% |
予想PER | PBR | EV/ EBITDA | PSR | 配当利回り |
10.5倍 | 0.5倍 | 3.0倍 | 0.3倍 | 2.7% |
⑤富士電機(6504)
企業概要:大型電気機器を主力製品とする日本の大手重電メーカーで、重電5社(日立、東芝、三菱電機、富士電機、明電舎)の一角。2024年3月期時点の事業別売上高比率はエネルギー(30%)、インダストリー(36%)、半導体(20%)、食品流通(9%)、その他(5%)。富士電機は電力設備投資関連では変電・送電システムの高電圧用の変圧器や遮断器などの製品を製造し、送電網の安定運用を支えており、送電線や配電盤など、電力を効率的に配分するための設備を提供している。
業績推移:EV向けのパワー半導体事業やデータセンター向けの電源システムに牽引されて2024年3月期まで4期連続過去最高益を更新し続けている。2024年3月期通期決算は売上高が前期比9.3%増の1兆1,032億円、営業利益は同19.3%増の1,061億円、営業利益は同0.8pt増の9.6%、当期純利益は同22.8%増の754億円であった。2025年3月期1Q決算は売上高が前年同期比1.0%増の2,364億円、営業利益が同17.7%増の173億円、営業利益率が同1.0pt増の7.3%、四半期純利益が同▲6.7%の115億円であった。四半期純利益が前年同期比減となったのは前年同期に投資有価証券の一部を売却し特別利益を計上していた事による。今通期の会社計画は売上高が前期比1%増の1兆1,140億円、営業利益が同2.8%増の1,090億円、当期純利益が同6.8%増の805億円と五期連続最高益を更新する予定である。
株価 | 時価総額 | 自己資本比率 | ROE | ROIC |
8,437円 | 1.21兆円 | 49.1% | 12.3% | 10.5% |
予想PER | PBR | EV/ EBITDA | PSR | 配当利回り* |
14.8倍 | 2.0倍 | 7.4倍 | 1.1倍 | N/A |
*配当予想額が未定の為にN/A.
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