先週でGAFAM決算が終わったが、各企業の一番気になる点をまとめてみようと思う。
① アマゾン
コスト増が売上増より大きく営業利益率が大きく低下している。2021年1Qに8.2%だった営業利益率が2022年3Qには2.0%と四分の一以下に低下しており、この傾向は暫く続くと考えている。アマゾンは今年2月にソフトウエア・エンジニアの基本給の上限を大幅に引き上げた(平均基本給13万1,040ドルから35万ドルに上げた)が、エンジニアに加えて9月末に物流施設内で働く人達の平均初任給を19ドル以上に値上げすると発表した。これにより人件費が年間で10億ドル増加すると試算されている。人件費が増加しているのはニュースとして報道されているので分かっていたが、ロジスティクス・コスト(フルフィルメント・コストとシッピング・コスト)も増加している。(*フルフィルメント・コストと受注、梱包、発送、受け渡し、代金回収、顧客のアフターサポートまでのバックヤード業務の一連のプロセス)アマゾンのロジスティクス・コストは売上拡大と共に増加してきたが、人件費同様利益の圧迫要因になっている。2019年まではロジスティクス・コストは売上高に占める比率が27.9%と20%台を維持したが、2020年は31%、2021年は32.3%、2022年3Qまでは累計で32.9%となっている。基本的にアマゾンはインフレが鎮静化するまでは業績が回復する事はないと考えている。
②アルファベット
YouTube広告の初の減収。アルファベットはユーチューブの広告売上高を2019年10~12月期から開示しているが、前年同期比で▲1.9%と初の減収であった。またGoogleネットワーク広告も3Qは▲1.6%と前年同期比減収であった。(2022年1Qは+20.2%、2Qは+8.7%)主力の検索連動型広告(3Q時点でアルファベットの総売上高の57%)の売上高はこれまで好調に推移してきたが(2022年1Qは+24.3%、2Qは+13.5%)、3Qは+4.3%と大幅に鈍化した。YouTube広告の初の減収、Googleネットワークの減収、検索連動型広告の鈍化を見るとやはり企業はおさまらないインフレ、景況感の悪化から広告主の企業が広告費を削減してきているのが表れている。また、企業の広告費削減に加えて昨年4月にアップルが開始したiPhone、iPad上のターゲティング広告の制限の影響も受けていると推測している。広告収入は4Qも引き続き減速するだろうと考えている。
③アップル
アップルの決算に関してはGAFAMの中では一番健闘していた。厳しい経済環境の中過去最高の売上を記録したが、ホリデーシーズンの1Q(10~12月期)のiPhoneの売上が一番気になる点である。上位モデルのiPhone Proは高評価で売れているが、供給不足の状況であるとアップルは公式に認めているが、通常ラインのiPhone14とiPhone PlusはiPhone 13とあまり変わらないと不評の声も上がっている。9月中旬にiPhone14はiPhoneの一番大きな市場の中国での人気が振るわず増産を断念したという経緯がある。中国景気の悪化を受けて需要が鈍化している事に加えてサプライ・チェーンもリスクを抱えているようである。iPhoneの世界最大規模の生産工場は台湾のフォックスコン・テクノロジー・グループの中国河南省鄭州市の工場であるが、この地域はゼロコロナ政策から11月2日からロックダウンに入った。一週間の予定であるが、年末商戦を控え生産強化に必要な追加の人員や部品の供給が妨げられる恐れがある。(出典:ブルームバーグ )iPhoneの一番大きな市場での需要鈍化と供給リスクが1Qの業績にどの位のインパクトがあるか気になるところである。アップルのCFOは1Qは4Qの売上の伸びより低くなるだろうとアーニングス・コール上でコメントをしていたが、中国の需要鈍化は織り込んでいたが、サプライ・チェーン・リスクについては織り込んでいないだろうと思われる。
④マイクロソフト
マイクロソフトの業績はアップルについで比較的健闘していた。営業利益ベースで主に法人向けビジネス(”Office 365”、”Dynamics”と”Dynamics CRM Online”、Azure等のクラウド事業)が全営業利益の80%を占めており、消費支出の減少に影響される個人向けの製品割合が20%と割合が低いためであった。2Q(10~12月期)の業績についてはPC販売の鈍化は継続し、1Qに前年同期比▲15%だった「ウィンドウズ」の販売も同様に落ち込む、またXboxもホリデーシーズンではあるがドル高の影響であまり振るわないのではと見ている。しかし、その他のビジネスはドル高の影響はあるものの堅調な伸びを維持すると考えている。
⑤メタ・プラットフォームズ
メタに関しては業績回復の手段はいまのところ何もなさそうだと考えている。2021年春にアップルが始めたiPhone、iPad上でのターゲティング広告の制限に一番影響を受けているのはメタである。ターゲティング広告の制限によりFacebook上での広告精度が低下していたが、それに加えて景況感の悪化から広告主の企業が広告費を削減している。アップルのターゲティング広告の制限が自社にとって多大な損失をもたらすと分かっていたために新規事業のメタバース事業に注力し、設備投資、人員採用を加速した結果メタの営業利益率は一年半で半分以下に低下してしまった。またメタバース事業の人員増加で従業員数は一年間で30%以上も増加した。設備投資に関しては来年は更に増額するとのコメントがあり打つ手はなさそうな印象である。
執筆者プロフィール
株式会社pafin
マーケットアナリスト 西村 麻美
新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。
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