エグゼクティブサマリー
AI x ビッグデータ・マーケティングで年初来高値を更新する注目の二銘柄:マイクロアド(9553)、unerry(5034)
株価上昇の要因:AI x ビッグデータでマイクロアドはマーケティング領域での圧倒的な優位性、unerryは位置情報をベースのリアル行動ビッグデータの独占的地位
マイクロアド(9553):サイバーエージェントの子会社としてスタート。ビッグデータ・プラットフォームを有するマーケティング支援業務を提供。主力商品は業種ごとに特化したビッグデータでターゲティング精度の高い広告を可能にする「UNIVERSE」。他にデジタルサイネージ・サービス、コンサルティング・サービスも提供している。新サービスでオルタナティブ・データを米FactSet Research Systemsの運営する金融データプラットフォーム経由で機関投資家向けに2022年8月販売開始。mitoriz社の保有するレシートデータを使いマイクロアド独自の分析で購買行動を分析・可視化する飲料・食品メーカー向け商品分析サービス「カウミー」の提供を2022年11月に開始。
上場日 | 2022年6月29日 |
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公募価格 | 1,410円 |
初値 | 1,290円(公募価格の▲8.5%) |
年初来騰落率 | +94.3% |
株価(2023/3/9) | 時価総額 | 自己資本比率 | ROE |
3,180円 | 285億円 | 42.3% | 19.7% |
ROIC | 予想PER | PBR | EV/EBITDA |
20.2% | 46.9倍 | 11.3倍 | 30.9倍 |
unerry (5034):スマートフォンの位置データを集積したリアル行動データプラットフォーム『Beacon Bank®︎』を運営。GPSやビーコン等により位置データを取得し、unerry独自開発の AI で解析して、ユーザーの行動特性や属性、嗜好等を推計し、リアル行動ビッグデータとして活用してリテールDXやスマートシティ領域にサービスを提供している。『Beacon Bank®︎』は各社保有のビーコンをシェアできるオープンプラットフォームで 各社のビーコンをシェアする仕組みにより、参画企業がすぐに大規模の取り組み(データ・配信)ができるプラットフォームである。
上場日 | 2022年7月28日 |
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公募価格 | 1,290円 |
初値 | 3,000円(公募価格の132.5%高) |
年初来騰落率 | +70.6% |
株価(2023/3/9) | 時価総額 | 自己資本比率 | ROE |
3,765円 | 131億円 | 66.9% | 14.0% |
ROIC | 予想PER | PBR | EV/EBITDA |
12.9% | 103.7倍 | 12.8倍 | 57.4倍 |
以下フルレポートになります。
AI x ビッグデータ・マーケティング
5月のゴールデンウィーク開けから新型コロナウィルが現行の2類相当から5類に移行する事になり人流の回復が期待されている。また円安からのインバウンド需要の増加も期待されている。経済の本格正常化からコロナ禍に苦境にあった小売店、飲食店、ショッピングモール、ホテル/旅館、観光地での売上回復が予想される。このような背景の中で、株式市場で連日高値を更新している小型の二銘柄がある。マイクロアド(9553)、unerry(5034)である。両社とも昨年2022年に東証グロース市場に上場した企業であり、売上回復が期待される業種をクライアントとして持ち、消費者行動のビッグデータ・マーケティングを提供する企業である。
市場調査会社のStatistaの調査によると、2022年末の日本のスマートフォン利用者数は1億700万人になった。スマートフォンの普及率の向上とともにモバイル上でやり取りされるデータ量が増加し、企業は顧客とのやり取りについて膨大な量のデータを収集できるようになった。位置情報やユーザーのネット上の閲覧履歴のビッグデータをAIを使って分析し、その結果をマーケティングのツールとして顧客企業に提供する企業が増加している。
ICT/デジタル分野を主とした市場調査会社のデロイト トーマツ ミック経済研究所の調査によると、日本国内のビッグデータ・マーケティングを含むビジネス・アナリティクス市場規模は、2021年度は112.2%の4,223億円、CAGR(年平均成長率)12%で成長し、2028年度の市場規模は9,342億円に達するとの予測である。
ここからは早速二社の紹介をする。unerry(5034)についてはAI市場アップデートと関連銘柄四選でも取り上げたが、このレポートではビジネスモデルについて詳しく述べる。
マイクロアド(9553)
会社概要:2007年サイバーエージェントの子会社として創業。2022年6月東証グロース市場に上場。ビッグデータ・プラットフォームを有するマーケティング支援業務を提供。マイクロアドの主要サービスは自社製品である 「 データプロダクト 」 と、主に 他社製品を扱う 「 コンサルティング 」 に分類される。「データプロダクト」は自社で取得したインターネット上のオーディエンスデータや、第三者企業から提供を受けたデータを、統合的に集積しAI分析することで、広告配信に活用し顧客企業のマーケティング基盤の構築を支援するサービスが主力サービスである。主力商品は業種ごとに特化したビッグデータでターゲティング精度の高い広告を可能にする「UNIVERSE」である。他にデジタルサイネージ・サービス、コンサルティング・サービスも提供している。社名の通りデータドリブンな広告支援サービスからスタートした企業であるが、新規に機関投資家向けのオルタナティブデータの販売、飲料・食品会社向けのデータ分析サービス等事業領域を広げている。
ビジネスモデル:データプロダクト 「UNIVERSE」がマイクロアドが最も力を入れているサービスであるが、そのビジネスモデルは以下の通りである。データ保有企業から収集した消費行動データを、データプラットフォーム「UNIVERSE」でAIを使って分析し、17業種に向けたマーケティングプロダクトを広告主企業へ提供している。
(出所:株式会社マイクロアド 事業のご説明 P.7 2022年12月)
UNIVERSE
「UNIVERSE」では企業の保有する顧客CRMデータ、マイクロアドが保有する4億ユニークブラウザのPCおよびスマートフォンの行動データを、単一のIDによって統合的に結び付け分析する機能を提供している。マイクロアドがハブになり、第三者のデータ保有企業との連携も支援し、様々なデータを統一的なIDで、横断的に集約・分析する環境を提供している。これら機能により、複数のデータソースによる多面的な分析が可能となり、より正確な顧客ペルソナを把握する事ができる。分析結果は広告配信だけでなく、顧客へのCRMやO2O(オンラインtoオフライン)施策などさまざまなマーケティング活動への適用ができる。
「UNIVERSE」では二種類のサービスを提供している。一つ目は「UNIVERSE DATA PLATFORM」である。「UNIVERSE DATA PLATFORM」で蓄積されている外部データの種類は主に以下になる。
【連携データ例】
1.属性データ ・・・ キャリアデータ
2.購買データ ・・・ 店舗購買データ、カード決済データ等
3.ライフイベントデータ ・・・ 就職、結婚、出産、育児、引っ越し等
4.専門メディアデータ ・・・ 自動車、健康、旅行、エンタメ、金融、ニュース等
5.行動データ ・・・ WEB行動データ、位置情報データ等
(出所:株式会社マイクロアドHP)
2022年9月時点で212の外部データ保有企業、メディアからデータを収集、集約して構成されている。その大量のデータを組み合わせて分析を行う事で消費者の様々な購買消費行動の分析を行う。主要なプロダクトとしてBtoB業種に特化した「シラレル」、飲料・食品業界に特化した「Pantry」、医療・製薬業界に特化した「IASO」、自動車業界に特化した「IGNITION」、エンタメ業界に特化した「Circus」、地方自治体向けに特化した「まちあげ」というプロダクトもある。このうちBtoB向け、医療・製薬向け、地方自治体向けが大きく伸びている。
二つ目は広告プラットフォームである「UNIVERSE Ads」になる。「UNIVERSE DATA PLATFORM」によって分析されたデータを活用し、「UNIVERSE Ads」を通して適切な消費者に広告配信を行う。「UNIVERSE Ads」はreal time biddingという技術を用いて消費者毎にリアルタイムに最適な広告を選択し、オークション形式で広告配信を行うプラットフォームである。「UNIVERSE Ads」は専任のデータサイエンティストがおり、AIを活用した最適化アルゴリズムを導入している。顧客企業へサービスを提供する際には上記の二つのプラットフォームを組み合わせて業界・業種ごとのプロダクトとして提供している。
デジタルサイネージサービス
「データプロダクト」カテゴリーのもう一つのサービスがデジタルサイネージサービスである。屋外広告や交通広告のデジタル化の促進とインターネットを通じたネットワーク化による一元的な広告配信サービスとして子会社のマイクロアドデジタルサイネージによる「MONOLITHS」の提供を行っている。「MONOLITHS」はデジタルサイネージを設置しているロケーションオーナー(小売り、流通、サロン、タクシー、屋外ビジョン等)向けのCMS(contents management system)でロケーションオーナーは「MONOLITHS」の管理画面より広告枠の設定が可能で、ロケーションオーナー独自でデジタルサイネージ広告事業を展開する際のアドサーバーとしての機能とその広告枠をアドネットワークの広告在庫として提供する機能もある。
(出所:impress business media “MADSのデジタルサイネージ広告ネットワーク「MONOLITHS」をウエルシアの店舗が導入”2021/6/23 )
2022年6月時点でデジタルサイネージの数は全国で13万面であったが、拡大が続いている。デジタルサイネージサービスは広告主及び広告代理店からロケーションオーナーへ支払われる広告収益の一部をプラットフォーム利用料とし、またロケーションオーナーからのCMS利用料を自社の収益としている。
コンサルティング
「コンサルティング」の国内コンサルティングサービスはメディア企業向けの広告収益最大化サービスの「Micro Ad COMPASS」と総合的なマーケティング課題の解決を行う「マーケティングコンサルティング」がある。
海外コンサルティングサービスに関しては中国とベトナムの拠点を売却し、台湾での事業に集中している。台湾では独自のプラットフォーム「COMPASS-FIT」の提供及び自社運営の訪日インバウンドWebメディア「Japaholic」でのタイアップ広告などマーケティングサービスの提供を行っている。また、訪日観光客の増加に合わせて、「Japaholic」以外に複数のインバウンドマーケティング事業を新たに開始した。訪日観光客向けプロモーションでは日本の国際空港を接点に日系企業の商品プロモーションサービスの提供、また日本人インフルエンサーをを活用した訪日観光客向けの動画マーケティング事業を開始した。
(出所:株式会社マイクロアド 有価証券報告書 2022年9月期 P.9)
KPI
マイクロアドの主力商品「UNIVERSE」のKPIは月次の稼働アカウント数である。企業単位でなくブランド毎に1アカウントとする。直近の決算2023年9月期1QのKPIは前年同期比40%増の1,506アカウントであった。
(出所:2023年9月期 第1四半期 決算説明資料 P.19)
成長戦略
粗利益率がデータプロダクトは40%、コンサルティングは20%と大きく違う事もあり、会社はデータプロダクトに注力している。マイクロアドのデータプロダクトは業種別に特化したものであり、同様に業種別のデータドリブンなマーケティング・ツールを提供している企業はない為に厳密には競合はいない。マイクロアドは保有するデータを組み合わせる事で新規のシステム開発は必要なく、即座に新商品を提供することが可能であるという強味がある。全国旅行支援、ふるさと納税のサービスを各地方自治体に販売したが、その際は下図のように保有データからデータを抽出し、それぞれに関心のある消費者をターゲットに広告配信をした。
(出所:株式会社マイクロアド 事業のご説明 P.20 2022年12月)
新規顧客獲得のための活動であるが、リモートワーク中心に変化している顧客企業に対して、オンラインセミナーを通じた販売体制を構築した。2023年度はオンラインでの営業活動を行う専門部署を設置しさらに強化した。オンラインセミナーの成果は2022年度は問い合わせ件数は6,600件、受注金額は1億4,000万円であった。
Google社のChromeにおいて、2024年後半よりCookieの利用が制限される予定であるが、マイクロアドでは2022年11月よりIntimateMerger社の提供するCookieを使わないID技術「IM-UID」を導入済である。これにより従来からCookieが利用できなかったiPhoneへの広告配信が可能になった。
新サービス
① 機関投資家向けのオルタナティブデータを 米FactSet Research Systemsの運営する 金融データプラットフォーム経由で2022年8月より販売開始した。FactSetに提供する日本株オルタナティブデータの内容は、自動車メーカーなどの「自動車」、ハウスメーカーなどの「戸建」、アウトドアレジャー施設などの「お出かけ」の3業種。また業種ごとに銘柄をセットとした指数をデータセットとして提供。
② 購買データ分析サービス「カウミー」を2022年11月にローンチした。mitoriz社の保有するレシートデータと、マイクロアド独自の分析技術によって、流通チェーンを横断したユーザーの購買行動を分析・可視化するツールで初のSaaS事業である。主に消費財メーカー向けの分析ツールとなり、自社商品を購買した消費者の特徴や販売流通チェーンの特徴をデータで把握することで、売上向上のための戦略や施策を模索することが可能となる。
業績推移
2022年9月通期 | 前期比 | 2023年9月期1Q | 前年同期比 | |
売上 | 122億円 | 4.8%増 | 33億5,300万円 | 10.6%増 |
売上総利益 | 38億円 | 26.3%増 | 11億2,300万円 | 19.2%増 |
営業利益 | 6.3億円 | 236.6%増 | 3億3,300円 | 60.7%増 |
営業利益率 | 5.1% | 3.5pt増 | 9.9% | 3.1pt増 |
経常利益 | 5.9億円 | 289.5%増 | 3億1,300万円 | 68.9%増 |
純利益 | 5億円 | 黒字転換 | 2億1,100万円 | 55.2%増 |
セグメント別売上総利益の内訳
22/9通期売上総利益 | 前期比 | 1Q23/9売上総利益 | 前年同期比 | |
UNIVERSE | 13億5,600万円 | 113.1%増 | 5億300万円 | 57.3%増 |
デジタルサイネージ | 4億4,700万円 | 43.0%増 | 1億2,700万円 | 21.1%増 |
コンサルティング | 19億8,200万円 | 2.3%増 | 4億9,400万円 | ▲4.6% |
売上総利益合計 | 37億8,600万円 | 26.3%増 | 11億2,300万円 | 19.2%増 |
直近の決算動向
業績は順調に拡大している。直近の決算の2023年9月期1Qは前期に売却した海外子会社の売上を控除すると、前年同期比10.6パーセント増の33億5,300万円であった。コンサルティング・セグメントの売上総利益が減少しているのはベトナムと中国の子会社売却による海外コンサルティングの売上減少によるものである。営業利益率が3.1pt向上したのは粗利益率がコンサルティングの二倍のデータプロダクトの売上拡大(1Q時点の稼働アカウント数は前年同期比40%増の1,506アカウント)によるもので会社の戦略に沿っているものである。1Q終了時点で通期の営業利益目標の43.2%を達成しており、このペースでデータプロダクトの売上が伸びると中間決算時点で上方修正する可能性が高いだろう。またデータプロダクトの比率が向上するのに伴い営業利益率は上昇していくと思われる。
アナリストの所見
マーケティング支援会社から総合データ企業へと転換する途上であるが、外部企業とのコラボで昨年夏から秋にかけて新サービスをローンチした。ビッグデータ x AI分析のポテンシャルは外部企業とのコラボにより大きく広がるだろう。マーケティング領域のポジショニングであるが、業種別のビッグデータは他社が追随する事は困難であり、また新規のシステム投資なしで保有データの選択的抽出により全国旅行支援、ふるさと納税向け商品をスピーディーにローンチ、また2024年のGoogleのCookieの利用制限に備え代替ID技術の導入済みと圧倒的に有利なポジションにある。旧来型広告、専門人材に頼るネット広告のシェアを取っていく、或いは彼らをクライアントにしていくだろう。今年の1月の後半から株価が上昇し始め現在の株価で予想PERが46.89倍、PBRが11.33倍、EV/EBITDAは30.9倍とAI関連銘柄としては現実的なバリュエーションである。
unerry(ウネリー、5034)
会社概要:2015年創業。2022年7月東証グロース上場。スマートフォンの位置データを集積したリアル行動データプラットフォーム『Beacon Bank®︎』を運営している。『Beacon Bank®︎』は各社保有のビーコンをシェアできるオープンプラットフォームで 各社のビーコンをシェアする仕組みにより、参画企業がすぐに大規模の取り組み(データ・配信)ができるプラットフォームである。提供位置データは、約 120 種類のスマートフォンアプリで GPS やビーコン(近距離無線端末)により取得する。取得したデータをunerry独自開発の AI で解析して、ユーザーの行動特性や属性、嗜好等を推計し、リアル行動ビッグデータとして活用している。リテールDXやスマートシティの領域においてリアルビッグデータを活用し、マーケティングや街づくりに必要なサービスを一元的に提供している。
事業提携パートナーは以下の通り。
(出所:株式会社unerry 2023年6月期第二四半期決算説明資料 P. 20 2023年2月 )
ビジネスモデル:リアル行動データプラットフォーム『Beacon Bank®︎』は月間300億件超のデータで実社会を網羅的に捉えている。「リアル行動ビッグデータ」をAIで意味付けし、サービスを提供している。屋外の人流データはGPSで取得、地下・館内等の人流データはビーコンで取得、店舗・イベント等の来訪者数データはIoTセンサーで取得し、リアル行動ビッグデータをunerry独自開発のAIで解析し、混雑状況の推定、移動手段推定・シチュエーション推定、来店可能性が高いユーザー群の発見、訪問傾向のプロファイリング等を行っている。
(出所:株式会社unerry 2023年6月期第二四半期決算説明資料 P. 8 2023年2月 )
サービス内容
①分析・可視化サービス
(出所:株式会社unerry 2023年6月期第二四半期決算説明資料 P. 9 2023年2月 )
ショッパーみえーる(リテールDX領域)
ショッパーみえーるは、全国約4.5万店舗のスーパー、ドラッグストア、ホームセンターの中から、都度自由に店舗を選択し、日々の来店人数推移や、期間に応じた実商圏、地域におけるシェア獲得率、曜日時間帯における集客力の強み・弱み、来店者の行動特性などが分析できるサービスである。既存に指定した店舗だけでなく周辺競合まで自由に分析対象店舗を選んで、ショッパーや商圏変化を分析ができる点が評価され、流通企業や消費財メーカーなどで導入が進んでいる。クラウド方式で提供するSaaSでサービス契約期間は基本的に年間契約とし、月額料金は店舗数に応じて違うが15万円から95万円である。
リアル行動データ可視化・分析(リテールDX領域、スマートシティ領域)
蓄積された月間300億件以上の人流ビッグデータをAI解析し、多様なアウトプットで「リアル」を可視化・分析する。人々の回遊、滞留、競合来訪、日常行動傾向など多面的なファクトが発見できるほか、分析・可視化の解析結果は、Beacon Bank ADの集客や行動レコメンドなどのマーケティング施策と連動できる。利用に適した場所の例としては商業施設などの商圏・消費者行動分析、旅行・観光事業者などのエリア分析、自治体・省庁などの街づくりに向けた分析に使われている。同じくクラウド方式で提供するSaaSでサービス契約期間は基本的に年間契約とし、月額料金は店舗数に応じて違うが15万円から95万円である。
②行動変容サービス(Beacon Bank AD)
小売事業者や消費財メーカー等に対し、リアル行動ビッグデータのAI解析により来店可能性が高い顧客群と商圏を発見し、当該顧客群を中心にSNSや動画等で情報を配信することで消費者等の変容を促す広告サービスを提供している。配信した広告に対し店頭設置のビーコン等を活用する事で来店数、来棚数、購買数などの費用対効果を計測でき、その結果に基づいてより効果の高い広告につなげるPDCAサイクルを実現できる。このサービスに対する収益としてはデジタルチラシとして毎月受領する配信量(月額100万円~1,500万円)の他、新規出店や特売セールなどイベント等に応じてスポットで受領する配信料がある。
(出所:株式会社unerry 2023年6月期第二四半期決算説明資料 P. 10 2023年2月 )
③One to Oneサービス(Beacon Bank 1 to 1)
主に小売事業者や商業施設運営事業者等向けにオリジナルアプリの開発や統合マーケティング基盤を構築して1人1人へのパーソナル体験を届けるシステムソリューション全般を支援している。unerryの保有するリアル行動ビッグデータをはじめとした各種データソースに顧客が保有するデータ等を集約し、リアル行動、リアル購買、ネット行動、ネット購買のデータを統合・分析し、AIで意味づけすることで顧客を深く理解し、それにより個々の顧客が必要としている情報や興味関心のある情報を最適なタイミング、最適な媒体(インターネット上の広告表示、アプリを通じたプッシュ配信、デジタルサイネージ等)を通じて提供する事が可能となる。
(出所:株式会社unerry 2023年6月期第二四半期決算説明資料 P. 11 2023年2月 )
Beacon Bank®︎の競争力
Beacon Bank®︎は国内最大規模のリアル行動ビッグデータのオープンプラットフォームである。全国210万箇所のビーコンネットワークが支える月300億件超のデータのシームレスな屋内外人流データである。unerryのBeacon Bank®︎のビーコンの相互活用技術は日本、中国、米国で特許を取得している。中国、米国でのアライアンスという形での展開を視野に入れている。また、アプリユーザーからデータの取得・活用に関する個別許諾をとることを徹底し、個人を特定しない人流ビッグデータとして、顧客が受け入れやすくする努力をしている。データの取得・活用に関するガイドライン策定もしておりプライバシー保護に十分配慮をしている。各社が単体でアプリ提供・ビーコン設置をしても、サービスの広がりが限定的であるが、Beacon Bank®︎のオープンプラットフォームに参画する事により大規模なデータ配信が可能になる。Beacon Bank®︎は100種を超えるさまざまなモバイルアプリと連携しており、アプリのダウンロード数は延1.1億、月間200億件超のログである。
unerryが開発したAI群
(出所:株式会社unerry 2023年6月期第二四半期決算説明資料 P. 19 2023年2月 )
成長戦略
unerryは上述したように各業界を代表するような大手企業と業務提携/連携してきている。これに加えて顧客企業のニーズに合わせた提供サービスの多様化により顧客数増加 x 顧客単価向上の成長を実現してきた。
具体的には「ショッパーみえーる」導入顧客向けの上位サービスである「行動変容サービス」「One to Oneサービス」とクロスセルする仕組みを構築している。店舗や公共交通関連等リアルな拠点を持ちデータ活用ニーズを持つ様々な業界でサービス導入が進んでいる。「分析・可視化サービス」、「行動変容サービス」、「One to Oneサービス」ともにリカーリング性の高い安定収益である。「行動変容サービス」、「One to Oneサービス」は1年契約がベースである。
(出所:株式会社unerry 2023年6月期第二四半期決算説明資料 P. 22 2023年2月 )
KPI
unerryが使うKPIは 1) リカーリング売上高比率、2) リカーリング顧客1社売上高(年換算)、3) リカーリング顧客数である、4) NRR(売上維持率)である。リカーリングの定義は4四半期以上連続、または3か月以上連続で取引のある企業である。
22/6通期 | 1Q23/6 | 2Q23/6 | |
リカーリング売上高比率 | 86.3% | 87.3% | 92.3% |
リカーリング顧客1社売上高(年換算) | 2,546.8万円 | 2,705.6万円 | 2,621万円 |
リカーリング顧客数 | 49社 | 58社 | 67社 |
NRR(売上維持率) | 160.1% | 141.2% | 144.2% |
業績推移
22/6通期 | 前期比 | 1Q23/6 | 前年同期比 | 2Q23/6 | 前年同期比 | |
売上高 | 14億4,600万円 | 84.7%増 | 4億4,900万円 | 78%増 | 5億100万円 | 66%増 |
売上総利益 | 5億4,584万円 | 147.5%増 | 1億3,300万円 | 39%増 | 1億5,200万円 | 67%増 |
営業利益 | 7,400万円 | 黒字転換 | ▲3,000万円* | N/A | ▲600万円 | N/A |
営業利益率 | 5.18% | N/A | N/A | N/A | N/A | N/A |
純利益 | 1億4,353万円 | 黒字転換 | ▲3,000万円 | N/A | ▲1,000万円 | N/A |
*注:1Q23/6の3,000万円の営業損失は上場関連費用とシステム開発費用の一時的費用が要因である。
直近の決算動向
リカーリング顧客数、NRRが伸び業績は順調に伸びている。2023年6月期中間決算はリカーリング売上の積み上がりと小売・流通企業の強いDX需要の取り込みに成功し売上高は前年同期比66%増加した。営業損益が赤字だったのは収益性の高い分析・可視化サービスや業務自動化のためのシステム開発の一時的な費用と相対的に粗利率の低い行動変容サービスが伸長したためである。しかし販管費率低下で前年同期比より1,000万円改善した。リカーリング顧客は堅調に増加した。また高いNRRを維持できており、昨年度までの顧客からより高い売上が得られた状況であった。2023年6月通期の会社計画の業績予想は売上が19億5,300万円(前期比35%増)、売上総利益が8億1,800万円(同50%増)、営業利益が2億1,200万円(同184%増)、当期純利益1億2,500万円(同▲13%)である。当期純利益が減益予想なのは2022年6月期において繰延税金資産の計上に伴って法人税等調整額が大幅に減少して当期純利益が増加したが、その反動により前期比13%減少の予定である。
アナリストの見解
市場調査会社のIMARC Services Private Limitedの調査によると世界の位置情報サービス(LBS)市場は2022年から2027年にかけて、市場は21.30%のCAGRで成長し、2027年には968億5,000万米ドル(約13兆円)規模に達すると予想されている。unerryの位置情報をもとにするリアル行動ビッグデータのBeacon Bank®︎の相互活用技術は日本、中国、米国で特許を取得しており、日本のみならず中国、米国でも他社とのアライアンスという形で展開する事を視野に入れている。海外展開となると大きな利益成長が期待される事から予想PER103.69倍、PBR12.79倍、EV/EBITDA57.4倍まで評価されている。他社の追随がほぼ不可能な技術力、多くの大企業との協業により積み重ねた実績、リカーリングなビジネスモデル、高単価であり、アップセル、クロスセルが可能な商品構成、市場の高い伸びと、競合と思われる大手通信会社は協業相手とほぼ死角はないように思われる。注意点として売上が3Qに集中する傾向にあり、1Q、2Qは売上が低調になりがちであるが通期の業績を見る事が大切である。
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