執筆:西村 麻美
※本レポートは2021年8月26日に執筆されました。


海運株が再び人気になり、株探の投資テーマランキングで2021年8月24日現在第二位にランキングされている。東証海運業指数は年初来163.93%と東証33業種の中でダントツのパフォーマンスである。

中国経済の他国に先駆けた回復から世界的な景気回復期待を背景に海運市況が上昇し、コンテナ船運賃の上昇、バルチック海運指数(外航ばら積み船の運賃の総合指数をロンドンのバルチック海運取引所が公表)が上昇し、4,000の大台にのせた事、運賃はドル建てであるために円安メリットなどのマクロ的な状況と海運各社が2022年3月期第一四半期決算を発表し、大幅な上方修正を行い、業績的にも今期は回復局面である事から投資セクターとして再び脚光を浴びている。


定期船運賃市況(2008年4月~2021年7月)

(出典:日本郵船HP、海運市況ページより


不定期船・タンカー運賃市況の推移(2008年4月~2021年7月)

(出典:日本郵船HP、海運市況ページより

注1:BDI(Baltic Exchange Dry Index) バルチック海運指数
注2:WS(World Scale)大型原油タンカーのスポット運賃

このセクターレポートでは海運各社の海運企業の業績動向、そして海運株投資においてのリスク要因についても書きたいと思う。


日本郵船(9101)

株価
(2021/8/26)
PER
(予想)
PBR EV/EBITDA 配当利回り
7,770円 2.62倍 1.71倍 8.4倍 9.01%

海運企業国内首位。コンテナ船、自動車専用船、客船などのターミナル運営と荷役サービス等港湾関連サービスを提供している。特にコンテナ・ターミナルにおいては、大型船による大量輸送に対応して高度なシステム荷役機器を整備し、効率的なオペレーションを行っている。陸空運も強化している。傘下に郵船ロジ、日本貨物航空。持分法適用会社のOcean Network Express(ONE社)は川崎汽船、商船三井と三社で定期コンテナ船事業を統合し2017年に設立。


2022年3月期1Q決算結果

売上高5,046億円(前年同期比39.7%増
営業利益530億円(同492.3%増
四半期純利益1,510億円(同1,193.1%増)

大幅増収増益。定期船(ONE社)、航空運送、物流事業で大幅増益。不定期専用船事業も収支が改善した。


2022年3月期通期の会社計画の業績予想

売上高1兆8,500億円(前期比15%増
営業利益1,500億円(同109.7%増
当期純利益5,000億円(同259.1%増)
EPS2,960.37円
配当金予想第二四半期末200.00円
期末500.00円
計700.00円

ただし、当期純利益については過去2017/3期に▲2,657億円、2019/3期に▲445億円の赤字を計上しており、過去の赤字分を黒字に相殺しているので税率低くなるために利益が大幅に出ているように見える。


商船三井(9104)

株価
(2021/8/26)
PER
(予想)
PBR EV/EBITDA 配当利回り
7,130円 2.55倍 1.21倍 14.9倍 7.71%

海運企業国内二位。ドライバルク船、エネルギー輸送の油送船、LNG船、自動車船、コンテナ船、コンテナ・ターミナル運営、ロジスティクス、客船事業も手掛ける。タンカーでの不定期船に強い。持分法適用会社にOcean Network Express(ONE社)。


2022年3月期1Q決算結果

売上高2,889億円(前年同期比14.9%増
営業利益80億円(黒字転換、前年同期は▲51億円)
当期純利益1,041億円(前年同期比1,660%増)

コンテナ船の旺盛な貨物需要・賃率上昇による増益および、自動車船における輸送台数の前年同期からの回復に伴う損益改善により、製品輸送事業が大幅な増益。加えて、ドライバルク船の市況改善が、油送船の市況悪化を上回る形で利益貢献した。


2022年3月期通期の会社計画の業績予想

売上高1兆1,000億円(前期比11.0%増
営業利益350億円(黒字転換、前期は▲53億円)
当期純利益3,350億円(前期比272%増)
EPS2,797.15円
配当金予想第二四半期末300.00円
期末250.00円
計550.00円


川崎汽船(9107)

株価
(2021/8/26)
PER
(予想)
PBR EV/EBITDA 配当利回り
4,960円 1.75倍 1.44倍 16.6倍 N/A

海運企業国内三位。日本郵船、商船三井に比べるとコンテナ船への依存度が高い。他に石炭、鉄鉱石などの不定期貨物船、自動車運搬船、LNGタンカー、石油タンカーなどを運行する。持分法適用会社にOcean Network Express(ONE社)。


2022年3月期1Q決算結果

売上高1,747億円(前年同期比14.8%%増
営業利益24億円(黒字転換、前年同期は▲65億円)
当期純利益1,019億円(黒字転換、前年同期は▲9.5億円)

ドライバルク船は主要国の経済活動に伴う輸送需要の回復があり、市況は堅調に推移したのに加えて前年度に実施した船隊規模適正化の効果が出た。VLCC(大型原油船)、LPG船、電力炭船及びLNG船は中長期契約で安定収益を確保した。自動車船事業は世界的な販売回復により輸送需要が増加。コンテナ船市況は貨物需要増により好調に推移した。


2022年3月期通期の会社計画の業績予想

売上高6,300億円(前期比0.7%増
営業利益40億円(黒字転換、前期は▲213億円)
当期純利益2,650億円(前期比143.8%増)
EPS2,841.10円
配当金予想未定(欠損金が350億円あり、これを解消しないと配当金が出せない。)


NSユナイテッド海運(9110)

株価
(2021/8/26)
PER
(予想)
PBR EV/EBITDA 配当利回り
3,340円 5.24倍 0.79倍 5.4倍 N/A

準大手海運会社。旧新和海運。2010年に同じ外航海運業者の日鉄海運と合併した。原料・エネルギー輸送を中心としたドライバルク輸送の専門海運会社。外航海運事業者で鉄鉱石、石炭などの鉄鋼原料や鉄鋼製品、LPG(液化石油ガス)などの海上輸送を行う。日本製鉄及び日本郵船の関連会社。筆頭株主は日本製鉄。


2022年3月期1Q決算結果

売上高428億円(前年同期比35.6%増
営業利益47億円(同47倍)
四半期純利益36億円(同66.5%増)

外航海運は中国向けを中心とする旺盛な海上貨物輸送需要が、環境保全対応を巡り低下基調にあった新造船供給を上回ることで市況は高水準で推移。営業損益は前年同期 比約45億円の増益となった。内航海運は国内製造業、建築部門の回復を受けて荷動きが活発化する中、効率的な配船に努め、営業損益は前年同期比で約1億円の増益となった。


2022年3月期通期の会社計画の業績予想

売上高1,500億円(前期比8.3%増
営業利益190億円(同183.6%増
当期利益150億円(同145.9%増)
EPS636.50円
配当金予想第二四半期末95.00円期末未定

2010年の合併以来最高益となる見込み。


明治海運(9115)

株価
(2021/8/26)
PER
(予想)
PBR EV/EBITDA 配当利回り
664円 27.82倍 1.12倍 10.1倍 N/A

外航船船主。自動車船、タンカー、バラ積み船を中長期貸船。船舶事業の他にホテル、不動産賃貸も手掛ける。2021年3月期決算時の営業利益レベルの事業別の内訳は外航海運事業は71%、ホテル事業は23%、不動産賃貸事業は6%


2022年3月期1Q決算結果

売上高98億円(前年同期比3.2%減
営業利益5.8億円(同14.2%増)
四半期純利益4.6億円(同11倍)

外航海運事業は増収増益であったが、ホテル事業は営業損失を計上、不動産賃貸業はセグメント利益が微増であった。


2022年3月期通期の会社計画の業績予想

売上高435億円(前期比8.3%増
営業利益29億円(同39.3%増
当期純利益8億円(同35.8%減)
EPS23.87円
配当金予想未定


飯野海運(9119)

株価
(2021/8/26)
PER
(予想)
PBR EV/EBITDA 配当利回り
498円 6.59倍 0.66倍 11.0倍 4.62%

資源・エネルギー輸送を主力とする海運業と、本社が所在する飯野ビルディングなどのオフィスビル賃貸を主力とする不動産業を両輪とした事業展開をしている。海運業はケミカル船、タンカー、ガス船、バラ積み船を運航。2021年3月期決算時の営業利益レベルの事業別の内訳は外航海運業37%、内航・近海海運業7%、不動産業56%。


2022年3月期1Q決算結果

売上高236億円(前年同期比7.9%増
営業利益11億円(同58.3%減
四半期純利益0.9億円(同97%減)

営業利益ベースで大幅減だった理由は大型原油タンカーが修理のためにドックに入ったために稼働減少、大型ガス船は保有船売却による稼働の減少と市況下落。ケミカルタンカーはプロダクトタンカー市況低迷によるケミカル船市場への船腹流入・市況下落の結果であった。


2022年3月期通期の会社計画の業績予想

売上高920億円(前期比3.5%増
営業利益45億円(同34.1%減
当期利益80億円(同4.5%増)
EPS75.61円
配当金予想第二四半期末11.00円
期末12.00円
計23.00円

営業利益は大幅減の予想であるが、大型ガス船1隻の売却(第2四半期に特別利益約29億円計上見込み)に加えて、ケミカルタンカー1隻の売却による特別利益約6億円を第2四半期以降に計上予定により当期利益は微増予定


玉井商船(9127)

株価
(2021/8/26)
PER
(予想)
PBR EV/EBITDA 配当利回り
1,890円 5.07倍 0.76倍 3.5倍 N/A

日軽金のアルミニウム原料船や全農向け穀物輸送が外航船の柱。内航海運も手掛ける。海運業の他に貨物利用運送事業、船員派遣事業、不動産の売買・仲介・賃貸及び管理業も手掛ける。


2022年3月期1Q決算結果

売上高16.6億円(前年同期 15億円)
営業利益3.7億円(同 3,800万円)
四半期純利益2.9億円(同 6,400万円)

注:収益認識に関する会計基準(企業会計基準第29号)を今期期首から適用しているために前年同期比の数字は発表していない。

外航海運業は北米や豪州からの輸入穀物や南米からの水酸化アルミや海外向けのスラグ(鉱石から金属を精錬する際に冶金対象である金属から溶融によって分離した鉱石母岩の鉱物成分を含む物質の事)の輸送を行い運行採算の向上を図り、また短期貸船により安定収益を確保した結果増収増益であった。内航海運も増収増益だった。不動産業も増収増益と全セグメント好調であった。


2022年3月期通期の会社計画の業績予想

売上高57億円(前期は47億円)
営業利益10.4億円(同▲1,200万円)
当期利益7.2億円(同▲8,300万円)
EPS372.99円
配当金予想未定


共栄タンカー(9130)

株価
(2021/8/26)
PER
(予想)
PBR EV/EBITDA 配当利回り
1,003円 8.52倍 0.55倍 10.3倍 1.99%

日本郵船系の外航海運会社。大型原油タンカー(VLCC)の長期貸船契約を主体。コスモ石油向け過半。原油船の他に製品船、LPG船、ばら積み船も所有。


2022年3月期1Q決算結果

売上高30億円(前年同期比3.1%増
営業利益2.39億円(同23.9%減
四半期純利益1.06億円(同15%減

大型原油船(VLCC)については5月からOPECプラスが減産幅を徐々に縮小したが、船腹需給は緩み、市況は低迷した。 石油製品船も石油製品需要の大幅な減退により市況は低迷した。 バラ積み船については鉄鉱石価格の上昇、北米や南米からの穀物輸送が活発となり、また運賃先物価格の上昇も追い風となり市況は右肩上がりで上昇した。VLCC一隻を取得した事により増収であったが、海運業費用の増加と石油製品船の収益性の低下により減益であった。


2022年3月期通期の会社計画の業績予想

売上高118億円(前期比1.1%増
営業利益5億円(同36.1%減
当期純利益9億円(同457.1%増)
EPS117.68円
配当金予想期末20.00円計20.00円

主力のVLCCや石油船の市況は回復しない前提で営業減益を予想しているが、固定資産の売却(パナマ籍油槽船)の売却益9億円の計上により当期利益レベルでは前期比大幅増益の予定である。


乾汽船(9308)

株価
(2021/8/26)
PER
(予想)
PBR EV/EBITDA 配当利回り
2,078円 7.2倍 2.6倍 5.9倍 6.35%

外航海運は中小型バラ積み船の不定期航路事業と船舶貸渡事業を行っている。穀物、石炭、材木、セメント等の海上輸送を行っている。海運事業の他に倉庫・運送事業、不動産事業を行っている。


2022年3月期1Q決算結果

売上高79億円(前年同期比84.8%)
営業利益24億円(黒字転換、前年同期は▲8.1億円)
四半期純利益22億円(黒字転換、同▲8億円)

海運事業は外航海運事業におけるハンディ船市況の大幅な上昇等により、大幅増収増益だった。倉庫・運送事業に関しては、貨物保管残高は前年同期をやや下回ったものの、事務所移転の取扱高増により増収増益だった。不動産事業は既存賃貸物件は安定して高稼働であったものの、シェア型企業寮の稼働率の若干の低下により微減収微減益だった。全事業を合わせると大幅増収増益の好決算だった。


2022年3月期通期の会社計画の業績予想

売上高330億円(前期比75%増
営業利益89億円(黒字転換、前期は▲12億円)
当期純利益72億円(黒字転換、前期は▲12億円)
EPS288.75円
配当金予想第二四半期末6.00円
期末126.00円
計132.00円


アナリストによる市場ビュー

以上が海運各社の2022年3月期1Q決算の概要だが、ファンダメンタルで考えた場合に投資先として妙味がありそうなのは大手三社のようである。ただし川崎汽船は今期無配の予定なので、配当の事も考えると日本郵船、商船三井の二社に絞られるかと思う。

ここからどの位まで海運株は上がるのかという目安に東証海運業指数の長期チャートを見てみると昨年からの大幅に上昇して来たが、まだ上昇余地がありそうに見える。


東証海運業指数(1971年9月~2021年8月)

(出典:日本取引所グループHP、株価指数値一覧より


年初からの海運株高がどこまで続くのかを予測する事は難しいが、下落リスクにつながる要因について考えてみたい。

6月半ばに海運株が急落した場面があったが、この時のきっかけは商品相場の下落だった。中国政府の資源高に対するけん制発言であった。中国は鉄鉱石や銅、穀物など主要な資源・農産品の最大消費国であるが、再び当局の介入により商品相場が一時的ではなく下落トレンドになるとすれば大きなリスクである。コンテナ運賃の上昇が続いているが、特に中国~米国間の上昇が激しい。コンテナ運賃の極端な上昇は中国の輸出関連企業の資金繰りを逼迫しかねない状況であり、長期化すればサプライチェーンも変化せざるを得ない。

また、米中関係、また中国と諸外国との関係悪化による船舶貿易の低迷も考えられるリスクである。


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プロフィール

西村麻実 / MamiNishimura
株式会社クリプタクト
マーケットアナリスト 西村 麻美

新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。


当社は、本記事の内容につき、その正確性や完全性について意見を表明し、また保証するものではございません。記載した情報、予想および判断は有価証券の購入、売却、デリバティブ取引、その他の取引を推奨し、勧誘するものではございません。過去の実績や予想・意見は、将来の結果を保証するものではございません。
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