概要
前回暗号資産を保有する上場企業についてのレポートを書いたのは1年2ヶ月前であるが、この間に暗号資産市場は下げ相場になった。
ロシアによるウクライナ侵攻を発端としたエネルギー資源価格の高騰により西側各国はコスト・プッシュ・インフレに見舞われ、インフレを抑えるために西側主要国の中央銀行は金融引き締め策に転じ金利上昇局面となった。
一方日本は西側主要国として唯一金融緩和を継続している。円安と金融緩和継続、上海のロックダウン解除からサプライチェーンの改善等により今期も最高益を更新する予定の企業も半導体関連銘柄を中心に多く、日本株のパフォーマンスは諸外国に比べて堅調である。
年初来騰落率を見てみると、FTSE100を除き主要な株価指数は軒並み二桁下落している。
主要な株価指数の年初来騰落率
TOPIX | ▲3.09% |
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SP500(米国) | ▲14.16% |
Nasdaq(米国) | ▲21.07% |
DAX(ドイツ) | ▲14.46% |
FTSE100(英国) | 0.83% |
EURO STOXX50(ユーロ圏) | ▲13.16% |
CAC40(フランス) | ▲9.52% |
*TOPIXは2022/8/3まで。その他株価指数は2022/8/2まで。
出所:countryeconomy.comより
昨年6月以降のビットコインの価格を見ると、2021年11月9日に市場最高値の777万円をつけた後に下落を始め2022年1月下旬に一旦412万円をつけてから再び上昇し、3月末に584万円と今年の高値をつけた後に下落し5月中旬には300万円台に下落、6月半ばには255万円をつけ直近一カ月は200万円台後半から300万円台前半の間を行ったり来たりしている状況であるが、2021年につけた市場最高値から60%以上も下落し、冬の時代に突入したと言ってよい状況である。
BTC/JPY
BTC/JPYの価格チャート
(チャート出所:クリプタクト-マーケット情報より)
様々なメディアで報じられているが、2022年5月初頭にステーブルコインのテラUSDの暴落の後にテラUSD等に投資をしていた米国の暗号資産ヘッジファンド、スリーアローズキャピタルが7月に破綻した。スリーアローズに多額の暗号資産を貸し付けていた暗号資産取引代行業者のボイジャー・デジタルが同月に破産法に申請した。テラUSDの暴落をきっかけとした連鎖倒産のような流れである。暗号資産冬の時代にこのような負の連鎖はこれからも起きてくるだろう。日本国内においては今年に入ってから暗号資産関連業者の倒産というのは今のところない。
弊社で暗号資産を保有している上場日本企業のレポートを書くのは二回目であるが、暗号資産を保有している企業の直近の決算時のB/S、P/Lを調べてみて一部の暗号資産関連企業の自己保有の暗号資産残高の大きさと業績不振企業がブロックチェーン事業に活路を見出し、事業開発目的で暗号資産を保有している企業が多い印象を受けた。日本株は相対的に主要国の株式より堅調に推移しているが、暗号資産を保有している企業で保有残高が純資産、営業利益に比べて大きい企業は暗号資産の下げ相場の中でリスクが高まっていると考えて良いだろう。
企業会計基準委員会(ASBJ)の「資金決済法における暗号資産の会計処理等に関する当面の取扱い」(実務対応報告38号)によると、「保有する暗号資産(顧客からの預かり資産は除く)に活発な市場が存在する場合は、暗号資産を期末時点で時価評価して貸借対照表価額とし、帳簿価額との差額は当期の損益とします。」としている。上場企業は保有する暗号資産に関して四半期毎に時価評価をする必要がある。
つまり現在のような暗号資産の下げ相場の場合に保有する暗号資産の下落幅が大きければ大きい程、期末に損失として計上する金額が大きくなり、財務的なリスクが高まる状況になる可能性がある。
このレポートで暗号資産を保有の3銘柄について取り上げる。なお、暗号資産を保有していると思われる上場企業のリストも用意したので他銘柄については<表1>暗号資産保有上場企業リストに記載する。
暗号資産保有銘柄3選
スクウェア・エニックス・ホールディングス(9684)
株価 | 時価総額 | 予想PER | PBR |
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5,750円(2022/8/3) | 6,879億円 | N/A* | 2.4倍 |
*注:スクエニはEmbracer Group AB(スウェーデンのゲーム会社)に海外のスタジオ及び一部IPを売却予定のために業績への影響を精査する必要があることから、未定とし業績予想は発表していない。
企業概要
「ドラゴンクエスト」シリーズ、「ファイナルファンタジー」シリーズを軸にゲーム事業・コンテンツ事業・出版事業を手掛ける。傘下にタイトーも保有。ブロックチェーン・エンターテインメント領域に正式に進出。
暗号資産残高 | N/A(コンテンツ資産勘定として計上している可能性) |
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純資産 | 2,844億2,900万円 |
(2022年3月期末時点)
2022年3月期通期決算で売上高3,653億円、営業利益593億円、当期純利益510億円と売上高、全ての利益段階で過去最高の通期業績を達成した。営業外収益で暗号資産売却益を29億円計上した。
正式にブロックチェーン領域に進出を発表しているために暗号資産残高はあるはずだが、B/S上では暗号資産残高の項目での計上はなく、コンテンツ資産勘定として計上している可能性が高いと思われる。2022年2月にブロックチェーン・エンタテインメント事業部を新設した。2021年10月にブロックチェーン技術を活用したNFTデジタルシール『資産性(しさんせい)ミリオンアーサー』第一弾を発売し、直近では先月末に第四弾を発売した。
ブロックチェーン領域に関しては独自トークンの発行、運用、管理を目的とし海外法人の設立を検討している。中期経営計画の事業方針に基づき、事業ポートフォリオの見直しをし、海外のスタジオ(北米のHDゲーム開発スタジオ、カナダのHDゲーム開発スタジオ、モバイルゲーム開発スタジオ)、主要IP(「TOMB RAIDER」シリーズ、「Deus Ex」シリーズ、「Thief」シリーズ、 「Legacy of Kain」シリーズ等)をEmbracer Group ABに3億米ドル(約391億円)で売却と2022年5月に発表した。
スクエニの純資産(2,844億円)と営業利益(593億円)の規模を考えると暗号資産の保有がリスクになるとは考えづらく、既にNFTデジタルシールの販売で実績を積んでおり、ブロックチェーン領域の新たな事業展開が期待される。
ガーラ(4777)
株価 | 時価総額 | 予想PER | PBR |
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661円(2022/8/4) | 165億円 | N/A | ▲1.53倍 |
企業概要
欧米向けPCオンラインゲームがガーラ・グループの中核企業である。gPotatoのブランド名でゲームポータルサービスを各国の子会社が運営している。
スマホアプリの開発、ツリーハウス事業も手掛けている。2011年3月期よりずっと最終赤字が続いており、2012年3月期より継続事業の前提に関する事項の注記が付けられており、2022年3月期は債務超過である。
暗号資産残高 | 345万6,000円 |
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純資産 | 4億3,800万円(自己資本は▲2,900万円) |
(2022年3月期末時点)
2012年3月期から4期連続して営業キャッシュフローがマイナスになり上場廃止基準に猶予期間に入った事があったが、2017年3月期に営業キャッシュフローがプラスになった事から解除された。
その後も最終損益の黒字転換に至っていないが、資金調達はガーラの社長と業務提携相手の韓国のメガゾーン・クラウド社を引受先として第三者割当増資、また新株予約権で行いメタバースやNFT/ブロックチェーンゲームへの投資に充当している。
ガーラの主力ゲーム「Rappelz(ラペルズモバイル)」は売上が低調なため収益に貢献はしていない。
今後の市場規模の拡大が期待されているNFTゲーム/ブロックチェーンゲームを経営戦略上の主力の事業と捉え既存のゲームタイトルを順次、NFTゲーム/ブロックチェーンゲーム化していくことにより NFTゲーム/ブロックチェーンゲームの収益化に向けて注力する計画である。
長引く業績不振から株価は低調であったが、NFT/BTCゲームへの期待から2022年3月期の決算発表があった5月から上昇している。暗号資産の自己保有分は新規事業開発の為であると思うが、債務超過であるために既存のゲームタイトルのNFT/BTCゲーム化からの利益貢献が期待される。
gumi(3903)
株価 | 時価総額 | 予想PER | PBR |
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686円(2022/8/4) | 214億円 | N/A | 2.17倍 |
企業概要
gumiはモバイルオンラインゲームの開発、運営及びXR(VR、AR等)領域の投資、開発 を行っている企業である。開発は韓国、シンガポール、アメリカ、フランスの子会社でも行っている。
2014年セガ・ネットワークスと資本業務提携。gumiは東証マザーズやJASDAQを経由せずに2014年に東証一部(現東証プライム)に上場した。子会社のベンチャー投資企業で暗号資産関連、ブロックチェーン事業に投資している。
暗号資産残高 | 5億9,563万円 |
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純資産 | 100億8,400万円 |
(2022年4月期末時点)
2022年4月期は最終損益は▲62億円であった。
モバイルオンラインゲーム事業は、既存タイトルは軒並み売上減も、「乃木フラ」「ラグナド」の収益貢献により増収は達成した。
しかし、版権元への支払手数料の増加や新作における大型プロモーションの実施によりコストが増大した。
一部タイトルの回収可能性を保守的に再検討した結果、減損損失約19億円を計上した。
メタバース事業は、IPホルダーとの事業連携によるNFTの提供やブロックチェーンゲームの開発、新ファンドの組成、新たなノード運営の獲得等、将来の収益基盤構築に向け積極的に事業展開をした。
暗号資産市場の下落等に伴い、暗号資産評価損約8.5億円、持分法による投資損失約5.7億円を計上した。
gumiの場合は財務状況は悪い訳ではなく前期はモバイルオンラインゲーム事業、メタバース事業の両方で損失を計上した事により利益剰余金が前々期の43億円から▲22億円へと減少した。
今期の業績予想は会社側は発表をしていないが、業績的にはモバイルゲームが既存タイトルが失速し、新作もヒットタイトルが出にくい状況でメタバース事業のポテンシャルは大きいものの開発費負担が大きく黒字転換するのはまだ先のようである。
今期も暗号資産の下落が続けば今期も評価損、投資損失を計上する事になると思うが2022年4月期時点で自己資本比率が50%、時価ベースの自己資本比率が85.9%と財務は比較的しっかりしておりネガティブインパクトも吸収できる余地がある。
しかし財務の悪化を回避する為に今期モバイルオンライン事業からヒットタイトルが生まれる事が期待される。
<表1>暗号資産保有上場企業リスト
※暗号資産評価損益+売却益、純資産、営業利益の単位は「千円」
※2022年7月pafin調べ