次世代エネルギーとして注目されるアンモニアとは?
2021年に入り新たな日本株投資テーマとしてアンモニアが注目されている。経済産業省(METI)は2020年10月からエネルギー関連企業が参加する燃料アンモニア導入官民協議会を開いているが、アンモニアは水素のエネルギーキャリア(エネルギーの輸送・貯蔵のための担体となる化学物質の事)の有望な候補である。
アンモニアが次世代エネルギーの有力候補であると聞いてもピンとこない人が沢山だと思われるのでここではアンモニアについて簡単に説明する。
アンモニアは常温常圧では無色透明の気体である。特有の強い刺激臭があって、毒性があるために「劇物」に指定されている。アンモニアの分子式は「NH3」で、水素(H)と窒素(N)で構成されている。
世界全体のアンモニアの生産量は2019年で約2億トンだった。既存用途として、アンモニアは8割以上が肥料の原料として利用されている。残りの約2割は工業用で、メラミン樹脂や合成繊維のナイロンなどの原料となる。
アンモニアはすでにさまざまな用途で利用されており、その中で、安全に運搬する技術が確立された。陸上ではパイプラインやタンクローリーで運ばれ、海上輸送にはタンカーが用いられ、安全性に対するガイドラインも整備されている。
エネルギーとしてのアンモニア
2019年6月にIEAの発表した“The Future of Hydrogen”の分析レポートでも明らかにされたように、アンモニアのCO2フリー燃料、水素のキャリア(輸送媒体)としての可能性が世界的に注目されるようになった。また、日本政府も「統合イノベーション戦略」で、CO2フリーアンモニア導入への期待と目標を掲げている。
アンモニアは原子式でも示されるように水素を含む物質であるので、大量輸送が難しい水素を、輸送技術が確立しているアンモニアのかたちに変換して輸送し、利用する場所で水素に戻すという手法が研究されている。
水素のキャリアとして注目されている他にアンモニアは燃料としての利用も研究されている。アンモニアは燃焼してもCO2を排出しない「カーボンフリー」の物質であるため、アンモニアだけをエネルギー源とした発電を視野に入れた技術開発が進められているが、石炭火力発電に混ぜて燃やす(混焼)ことでも、CO2の排出量を抑えることが可能である。
具体的にはアンモニアは、火力発電所が排出する煤(スス)に含まれる、大気汚染物質「窒素酸化物(NOx)」の対策にも利用されている。NOxにアンモニアを結びつけることで化学反応を起こし、窒素(N2)と水(H2O)に還元する「還元剤」として利用する訳である。
現在、石炭火力にアンモニアを20%混焼する実証実験が進められている。経済産業省の試算によると、仮に国内の大手電力会社が保有するすべての石炭火力発電所で20%混焼をおこなえば、CO2排出削減量は約4,000万トンになるとの事である。資源エネルギー庁によると、日本の総発電量(18年度)に占める石炭火力の割合は32%で、天然ガス火力の38%に次ぐ規模であり、石炭火力がすべてアンモニア専焼の発電所に代わると、CO2排出削減量は約2億トンになると試算されている。
また、コストの面でもアンモニアの混焼は水素に比べて大きく下回っている。
(出典:資源エネルギー庁発表記事「アンモニアが“燃料”になる?!」2021年1月15日より)
資源エネルギー庁の試算によると、水素発電の場合、水素専焼の発電コストは97.3円/kWh、水素を10%混焼の発電コストは20.9円/kWhとなる。一方、アンモニア発電の場合、アンモニア専焼の発電コストは23.5円/kWh、アンモニアを20%混焼の発電コストは12.9円/kWhとなり、アンモニアの発電コストは水素に比べてはるかに低い。
コスト面ではアンモニアは水素と比較してはるかに低いメリットがあるが、アンモニアを燃料として活用するには量の確保の問題がある。国内すべての石炭火力で20%混焼をおこなうには、約2,000万トンのアンモニアが必要となるが、これは現在の世界のアンモニア輸出入量とほぼ同じ量である。世界全体のアンモニアの生産量は約2億トンで、そのうちの約1割が貿易量(輸出入量)、残りの9割は肥料の原料や工業用に地産地消されている。
国内のアンモニア市場は108万トンと小さく、次世代エネルギーとしてアンモニアの需要が増えるためにサプライチェーンの構築が必要で、日本政府が2020年12月に策定した2050年カーボンニュートラルに伴う成長戦略では「燃料アンモニア産業」は重点分野の一つと決定されている。
アンモニア燃料に関する企業の動き
国内最大の火力発電事業者である株式会社JERA(東京電力グループと中部電力が出資する発電会社)は、2020年10月に発表した「JERAゼロエミッション2050」のロードマップの中で、燃料アンモニアの火力発電への混焼、専焼へのリプレースを明記している。以下にロードマップの図を貼り付ける。
(出典:JERA 「JERAゼロエミッション2050」より)
カーボンニュートラルに伴う成長戦略は国策であるが、民間企業で燃料アンモニア産業をリードするのは実質JERAであると言えるだろう。
「JERAゼロエミッション2050」を実現させるためにJERAはマレーシアの国営石油・天然ガス会社であるPetroliam Nasional Berhad(ペトロナス社)との間で、脱炭素分野等での協業に関する覚書を締結した。世界的なLNG需要の増加と脱炭素社会へのニーズを背景に、アジア諸国におけるLNGの利用促進やアンモニア・水素燃料のサプライチェーン構築に関して、両社の連携の可能性を協議することを定めた。ペトロナス社はアジア有数のアンモニア製造事業者でもあり、再生可能エネルギー由来のグリーンアンモニアの製造についても検討を進めている。
アンモニア関連銘柄
以下にアンモニア関連銘柄をあげる。
東京電力ホールディングス(9501)
株価(2021/3/5) | 時価総額 | 予想PER | PBR | EV/EBITDA |
---|---|---|---|---|
351円 | 5,528億円 | N / A | 0.19倍 | N / A |
燃料アンモニアをリードするJERAの株主(50%)
中部電力(9502)
株価(2021/3/5) | 時価総額 | 予想PER | PBR | EV/EBITDA |
---|---|---|---|---|
1,306円 | 9,864億円 | 8.59倍 | 0.49倍 | 11.1倍 |
燃料アンモニアをリードするJERAの株主(50%)
IHI(7013)
株価(2021/3/5) | 時価総額 | 予想PER | PBR | EV/EBITDA |
---|---|---|---|---|
2,108円 | 3,061億円 | 313.37倍 | 0.92倍 | 9.7倍 |
東北大学と共同で液体アンモニア噴霧を安定燃焼させることに成功し、アンモニアを燃料とするガスタービン発電の研究を進めている。また、ガスタービンと石炭火力用バーナにおいて、アンモニア混焼技術の高度化に関する研究開発を実施している。
伊藤忠商事(8001)
株価(2021/3/5) | 時価総額 | 予想PER | PBR | EV/EBITDA |
---|---|---|---|---|
3,303円 | 4.97兆円 | 12.31倍 | 1.61倍 | 8.79倍 |
イルクーツク石油会社、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構、東洋エンジニアリング株式会社と、東シベリア-日本間のアンモニアバリューチェーンに関する共同事業化調査を実施すると発表した。伊藤忠は、物流最適化のための知見に加え、東シベリアでの原油の探鉱・開発・生産でIOCとの協業実績を有している。
宇部興産(4208)
株価(2021/3/5) | 時価総額 | 予想PER | PBR | EV/EBITDA |
---|---|---|---|---|
2,274円 | 2,288億円 | 17.71倍 | 0.68倍 | 6.5倍 |
アンモニアを原料とするナイロン原料で世界大手。2020年10月1日には液体アンモニア製造の100%子会社の宇部アンモニア工業を吸収合併した。2年前に中期経営計画で発表しているが、アンモニア製品で業界トップを目指している。
住友化学(4005)
株価(2021/3/5) | 時価総額 | 予想PER | PBR | EV/EBITDA |
---|---|---|---|---|
549円 | 8,813億円 | 44.89倍 | 0.97倍 | 8.0倍 |
1920年代に硫酸アンモニア事業に進出。水素から作ったアンモニアを石炭火力で燃料に加える「混焼」やガスタービンで直接燃焼する技術開発とともに、海外の供給源から運ぶサプライチェーン構築の実証実験に参加。
三菱重工(7011)
株価(2021/3/5) | 時価総額 | 予想PER | PBR | EV/EBITDA |
---|---|---|---|---|
3,247円 | 1.08兆円 | 54.56倍 | 0.89倍 | 8.0倍 |
子会社の「三菱パワー」でアンモニアをガスタービン発電の燃料として100%直接利用する4万kW級ガスタービンシステムの開発に着手。2025年以降の実用化を目指す。
中外炉工業(1964)
株価(2021/3/5) | 時価総額 | 予想PER | PBR | EV/EBITDA |
---|---|---|---|---|
2,110円 | 170億円 | N / A | 0.81倍 | N / A |
アンモニアのみを燃料に安定燃焼させる技術を開発。二酸化炭素の排出を抑えるアンモニア燃料の熱処理炉を開発し、2025年の実用化を目指す。工業用アンモニアバーナーも大阪大学と共同開発中。
木村化工機(6378)
株価(2021/3/5) | 時価総額 | 予想PER | PBR | EV/EBITDA |
---|---|---|---|---|
636円 | 128億円 | 17.49倍 | 1.04倍 | 6.4倍 |
澤藤電機、岐阜大学との共同開発で、低濃度アンモニア水から燃料電池に使える高純度水素の製造に成功し、さらに製造した高純度水素を燃料電池に供給することで発電できることを確認したと2019年に発表。
澤藤電機(6901)
株価(2021/3/5) | 時価総額 | 予想PER | PBR | EV/EBITDA |
---|---|---|---|---|
2,070円 | 91億円 | 692.24倍 | 1.15倍 | 1.2倍 |
木村化工機、岐阜大学との共同開発で、
低濃度アンモニア水から燃料電池に使える高純度水素の製造に成功し、さらに製造した高純度水素を燃料電池に供給することで発電できることを確認したと2019年に発表。
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プロフィール
新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。
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