ドローン(無人航空機)技術の実用化と拡大が新たな社会インフラとして注目されている。経済産業省はドローンの社会実装と産業振興を国策として積極的にサポートしている。物流、農業、警備、インフラ点検、災害対応など、多岐にわたる分野で導入が進んでおり、人手不足の解消や作業の効率化、安全性の向上といった具体的な社会的ニーズに応える存在となっている。

このレポートでは日本国内のドローンの活用事例、市場の概況と関連する銘柄について紹介する。

目次

  1. 災害対応にドローン活用
  2. 物流でのドローン活用は実験段階
  3. 農業での多岐にわたるドローン活用
  4. その他活用事例
  5. 国内ドローン市場の推移
  6. ドローン関連銘柄

災害対応にドローン活用

2024年1月1日に発生した能登半島地震ではドローンは多角的に活用された。地震により孤立した地域への医薬品配送、被害状況の調査、倒壊家屋の調査、また携帯通信エリアの復旧支援のために上空にドローンを浮かべ、半径数キロメートルの通信エリアを提供した。

2025年1月28日に埼玉県八潮市で発生した大規模な道路陥没事故ではドローンによる下水管内調査が実施された。投入された屋内用点検ドローンは地下インフラのようなGPSが届かない環境でも安定した飛行が可能で、搭載したセンサーでリアルタイムで3Dマップを作ったり、測量が可能である。

2025年2月26日に岩手県大船渡市三陸町綾里地区で大規模な山火事が発生した際に東京消防庁の部隊は出動したが、ドローンを使い上空からの映像で延焼状況を確認し、活動場所を選定した。

2025年3月23日に愛媛県今治市長沢地区で大規模な山林火災が発生した。この火災において今治市消防本部はドローンを活用した情報収集を行った。ドローンは最大200倍のズーム機能がある高性能カメラや温度を可視化するサーマルカメラを搭載し、上空から要救助者の確認や火災状況の把握を可能にした。

防災科学技術研究所によると2022年3月時点で、全国の消防本部の約52.9%(383本部)がドローンを導入している。東京消防庁は2025年度、上空から火元に向けて放水する「消火活動用ドローン」の研究開発に乗り出す。首都直下地震も見据え、木造住宅密集地域での延焼リスク低減や、中高層建物での都市型火災に迅速に対応する狙いで、2026年度中の実用化を目指している。昨年11月に文京区のマンションで住人2人が死亡した火災では、住宅密集地の現場に消防車が近づけず、建物の防犯性能も障害になって鎮火に9時間を要した。こうした火災への対応として、同庁は消火活動用ドローンの研究・開発を決定した。

物流でのドローン活用は実験段階

長野県伊那市では、過疎地域への医薬品配送を目的としたドローンの実証実験が行われている。この取り組みでは、医療機関から患者の自宅までドローンで直接医薬品を届けることで、交通手段が限られる地域における医療サービスの向上を目指している。

宮城県石巻市の離島地域では、ドローンを活用した食品配送サービスが試験的に導入されている。このサービスにより、これまで船舶に頼っていた物流が効率化され、住民の利便性が向上している。

東京都奥多摩町の山間部では、ドローンを用いた生活必需品の配送実験が実施されている。これにより、従来の陸路では時間がかかっていた配送が短時間で行えるようになり、高齢者や移動が困難な住民への支援が強化されている。

農業での多岐にわたるドローン活用

日本の農業では多岐にわたりドローンが活用されている。以下のような事例が報告されている。最も一般的なのはドローンを使った農薬散布である。以前は価格が1,000万円を超える無人ヘリコプターが農薬散布に使われていたが、軽量で価格も200~300万円のドローンが使われるようになった。農薬散布以外に肥料散布、種まき、農作物の運搬、受粉作業、圃場センシング(農地の環境データをセンシングして、栽培管理や病害虫の発生状況を把握する)、鳥獣被害対策等ドローンは農業分野において多岐にわたる活用が進んでおり、作業の効率化や省力化、精密農業の推進に大きく寄与している。

その他活用事例

警備でのドローン活用事例

セコム(9735)は2012年に警備業界で初めてドローンを導入し、「セコムドローン」を発売した。不審者の侵入を検知した際に、自動で離陸し、侵入者を追尾・撮影し、主に企業の屋外敷地(工場・研究施設など)の夜間・休日警備として利用された。その後バージョンアップを重ね2024年に「セコムドローンXX(ダブルエックス)」を発売した。AIによる自動巡回と侵入者追跡撮影、飛行時間は最大20分、半径6kmまで警備し、自動格納の機能を持っている。

ALSOK(2331)は、2014年にドローンを活用したソーラー発電設備の点検向け空撮サービスの販売を開始し、2020年7月には、東京スカイツリータウン内でAIを搭載した完全自律飛行ドローンによる巡回警備の実証実験を実施し、現在ではインフラ点検向け空撮サービスと自動巡回ドローンサービス、ドローン外壁調査、ドローンを活用した害獣捕獲支援等のサービスがある。

インフラ点検でのドローン活用事例

ジャパン・インフラ・ウェイマーク (未上場)はNTT西日本の100%子会社として2019年に設立されたが、橋梁、橋梁添架管路、鉄塔をはじめとした社会インフラ管理をドローン、デジタル技術を活用した効率的な点検サービスを提供している。

国土交通省の調査によると河川管理、地下鉄トンネルの点検、JR東日本では線路点検、船舶の倉庫内の点検、港湾の点検等様々なインフラ点検にドローンは活用されている。

国内ドローン市場の推移

市場調査会社のインプレス総合研究所の調査によると2024年度の日本国内のドローン市場は前年比13.4%増の4,371億円と推測され、2024年度~2030年度のCAGR(年間平均成長率)は15.2%で推移し、2030年度には1兆195億円に達すると予測している。

ドローン関連銘柄

ここからはドローン関連銘柄を取り上げる。ACSL(6232)がドローン専業企業であるが、アメリカ企業からの発注があり、24%の関税発動後は価格転嫁しても継続的に発注があるのか不透明なのでここでは除外した。全銘柄とも株価、バリュエーションは2025年4月7日の終値ベースで算出している。

①ブルーイノベーション(5597)

企業概要:複数のドローン・ロボットを遠隔で制御し、統合管理するためのベースプラットフォームであるBlue Earth Platform(BEP)を軸に、点検ソリューション、教育ソリューション(法人の人材育成、パイロット管理システムの提供等)、物流ソリューション、監視、清掃システム提供等を行っている。スイスのFlyability社が開発した屋内点検用ドローン「ELIOS」シリーズの国内販売代理店。2013年創業、2023年12月上場。

株価時価総額自己資本比率ROEROIC
777円31億円47.2%N/AN/A
予想PERPBREV/EBITDA配当利回りPEGレシオ
N/A4.8倍N/A0.0%N/A

業績推移:研究開発費用がかさみ、上場以降営業赤字が継続している。2024年12月期は点検ソリューションと教育ソリューションの売上が減少した事により売上高は前期比▲3.3%減の12億2,300万円、営業損益は▲3億9,800万円、最終損益は▲3億9,400万円であった。2025年12月期の会社計画は売上高が前期比23.7%増の15億1,300万円、営業損益は▲3億3,300万円、最終損益は▲3億3,400万円の予定である。中長期の事業成長の観点から2024年12月期は国家プロジェクト2案件に参画した。

 

②Terra Drone(278A)

企業概要:産業用ドローンで測量・点検ソリューションなど提供。ドローン運航管理(UTM)を欧米で運用している。2023年にサウジアラビアの国営石油会社Aramcoのベンチャーキャピタル部門であるWa'ed Venturesから1,400万ドルの投資を受けTerra DroneはAramcoと覚書を締結し、同社の施設におけるドローンを用いた検査の試験運用を開始する予定。2016年創業、2024年11月上場。世界的なドローン市場調査機関であるDrone Industry Insightsが発表した「ドローンサービス企業 世界ランキング2024」において、産業用ドローンサービス企業として世界1位を獲得。2025年4月4日「災害・緊急時等に活用可能な小型無人機を含めた運航管理技術」 に関する研究開発構想にJAXAと連携して採択された。

株価時価総額自己資本比率ROEROIC
7,290円679億円75.4%N/ANA
予想PERPBREV/EBITDA配当利回りPEGレシオ
N/A10.1倍N/A0.0%N/A

業績推移:2024年1月期通期は売上高が29億6,300万円、営業損益が▲2億4,300万円、最終損益が▲3億5,400万円であった。2025年1月期通期は売上高が前期比49.7%増の44億3,500万円、営業損益は前期比3億8,400万円赤字が拡大し▲6億2,700万円、最終損益は▲4億7,400万円であった。営業赤字が拡大した理由は新製品の投入や海外市場への進出に伴い、販売費および一般管理費が増加した事、また研究開発費の増加であった。測量、点検事業については既に黒字化している。2026年1月期の会社計画は売上高が前期比19.6%増の53億円、営業損益は▲6億1,000万円、最終損益は▲3億9,200万円の予定である。Aramcoのインフラ点検プロジェクトの利益貢献は2027年1月期以降の予定である。

 

③ミライト・ワン(1417)

企業概要:2010年にNTT関連の電気通信工事会社の旧社名大明が同業他社の東電通、コミューチュアと合併し発足した企業。通信工事大手、NTT向けが主体。2022年にゼネコンの西武建設を買収、2023年に国土保全、防災・災害復興、行政支援など社会インフラの整備・構築や民間ビジネスの業務効率化を実現する空間情報コンサルティングの国際航業を買収し、それぞれ子会社化した。子会社の株式会社ミラテクドローンを通じて、ドローンを活用した各種ソリューション(建物壁面点検、水道管点検、インフラ点検、災害調査等)を提供している。2024年12月に買収した西武建設と共同で遠隔監視ドローンと3D点群データの自動作成により、土量管理の省人化・スピード化を国内で初めて実現した。

株価時価総額自己資本比率ROEROIC
1,945.5円1,756億円49.6%5.0%2.8%
予想PERPBREV/EBITDA配当利回りPEGレシオ
9.5倍0.7倍6.4倍3.9%0.7倍

業績推移:2022年3月期に6期連続増収増益で最高益を達成した。売上高が前期比1.4%増の4,704億円、営業利益が同8.9%増、当期純利益が同4%増の252億円であった。NTT事業や大手通信キャリアによる5G基地局工事の需要増加が主な要因での最高益達成であった。その後2023年3月期、2024年3月期は増収だったもののミライト・ホールディングス、ミライト、ミライト・テクノロジーズの3社統合に伴うブランディングや情報システム整備などの費用、2022年に買収した西武建設ののれん償却等により販管費が増加し、減益となった。2024年3月期は売上高は増収だったものの、不採算案件により減益となった。今期に関しては3Q(累計)決算結果は受注高が前年同期比11.7%増の4,620億円、売上高が同15.4%増の3,968億円、営業利益が同144%増の121億円、四半期純利益が同501.7%増の57億円であった。通期の会社計画は当期純利益が180億円の予定で3Qで31.6%しか達成していないが、4Qに政策保有株式の売却、遊休不動産の特別利益を計上する予定である。

 

④オプティム(3694)

企業概要:情報システム・ソフトウェア開発会社で、ネットワークの管理サービスや、IT機器の遠隔サポートを行っている。ビジネスモデルはストック型のライセンス収入を中心とした売上構造となっている。国内MDM(モバイル管理)SaaS市場首位。NTT東日本などと3社共同で「NTTe-Drone Technology」を立ち上げ、農業向け国産ドローンの利用を推進している。ドローンを使った農業向けサービスは国内シェア首位。ドローンによるピンポイント散布(害虫防除)農薬散布、打込条播のサービスを行っている。2000年創業、2014年上場。創業以来24期連続過去最高売上を更新。

株価時価総額自己資本比率ROEROIC
537円296億円83.7%15.1%16.0%
予想PERPBREV/EBITDA配当利回りPEGレシオ
25.7倍3.8倍9.6倍N/AN/A*

*経常利益、当期純利益についてはオプティムが支配していない関連会社の損益について合理的な予想が困難なために具体的な数値の開示を行っていないのでN/A。

業績推移:売上は毎期最高売上を更新しているが、2018年3月期から3年にわたりAI、IoT、ロボティクスに集中的に投資を行い新規事業開発や技術力の強化をした。この投資が実を結び2021年3月期以降収益性が大幅に向上し、2023年3月期、2024年3月期と二期連続最高益を達成した。2025年3月期の3Q(累積)決算結果は売上が前年同期比▲3.1%の68億3,100万円、営業利益は同▲17.3%の10億9,400万円、四半期純利益は同▲24%の5億3,800万円であった。3Qまで減収減益であるが、これは4Qにフロー売上が集中するためである。通期計画の売上高前期比10.3%増の11億3,000万円、営業利益同0.5%増の19億5,000万円は達成見込みである。しかし、持分法による投資損失が前期に比べて拡大しており、当期純利益については最高益を達成するか現時点では不明である。

⑤アイサンテクノロジー(4667)

企業概要:建築・土木測量会社等向けソフト開発・販売。モビリティ分野では自動運転用3D地図など展開している。KDDI(持株比率5%)と幅広く協業している。KDDIが提供するスマートドローンを活用し、ドローンを用いた3次元空間測量ソリューションを提供。高精度GNSS補正情報配信サービスを利用し、従来必要だったGCP(地上基準点)の設置を省略しつつ、高精度な3次元データの取得が可能。2023年長野県塩尻市の中山間地域で、自動運転車からドローンが離着陸し、ラストワンマイルの物流を行う実証実験に成功した。移動する自動運転車の位置に合わせてドローンが離着陸することに成功したのは国内初の事例。1970年創業、1997年上場。

株価時価総額自己資本比率ROEROIC
1,195円63億円75.1%5.7%4.9%
予想PERPBREV/EBITDA配当利回りPEGレシオ
28.5倍1.1倍5.6倍1.7%▲10.8倍

業績推移:2021年3月期はコロナ禍で減収となった事に加えて新規事業投資で減益となったが、以降業績は順調に回復し、2024年3月期は最高益を達成した。売上高は前期比22.7%増の54億7,800万円、営業利益は同35.7%増の4億4,900万円、当期純利益は同41.4%増の3億4,000万円であった。2025年3月期は2027年3月期の過去最高の営業利益8億円を達成するために様々な投資を行っている。3Q(累計)決算結果は売上高は前年同期比22.9%増の38億5,200万円、営業利益は同154.3%増の2億円、四半期純利益は同134.1%増の1億2,800万円であった。通期の会社計画は売上高が前期比9.5%増の60億円、営業利益が同▲22.2%の3億5,000万円、当期純利益が同▲35.1%の2億2,100万円の計画である。