現在、AIの主流はビッグデータをデータセンターで処理する「クラウドAI」であるが、「エッジAI」が注目されている。エッジAIとはエッジコンピューティングとAIを統合したものであるが、エッジAIはクラウドを介さずにエッジ(端末機器)でリアルタイムでデータ処理が可能であり、ニーズが拡大している。このレポートではエッジAIが注目される理由、市場規模の予測、関連銘柄を解説する。

目次

  1. エッジAIとは?
  2. エッジAIが注目される理由
  3. エッジAIの市場予測
  4. エッジAIの活用例
  5. エッジAI事業を手掛ける大型銘柄
  6. エッジAI事業を手掛ける中小型銘柄

エッジAIとは?

エッジAIとはエッジコンピューティングとAIを統合したものである。端末やその近くにサーバーを配置するコンピューティングモデルを「エッジコンピューティング」といい、エッジAIはこの仕組みを応用したものであり、端末機器がデータの処理をする。

エッジAIの最大の利点はリアルタイムでデータを処理できることである。デバイスがクラウドにデータを送信して返答を待つのではなく、デバイス自体でAI推論を行うことで、遅延を大幅に減らすことができる。自動運転車、監視カメラ、スマートデバイスなどでは、このリアルタイム性が非常に重要である。

エッジAIが注目される理由

IoTデバイスやセンサーが生成するデータ量が急速に増加しているため、すべてのデータをクラウドに送信することは非現実的になってきている。エッジAIは、デバイス自体でデータを分析し、重要なデータのみをクラウドに送信することで、帯域幅の使用量を削減し、クラウドへの負荷を軽減する事から注目されている。

エッジAIは、自動車産業やスマートシティ構築における革新技術の中心的存在であり、自動運転や製造業におけるロボティクスといった分野でエッジAIの導入が進んでいる。5Gネットワークの普及に伴い、エッジデバイスの活用が加速しており、日本国内ではスマートファクトリーや次世代モビリティ、さらには医療分野での応用が期待されている。

エッジAIはデータをローカルで処理するため、クラウドに送信する必要がなくなり、個人データの漏洩リスクが低減する。特に、医療データや個人情報が含まれる分野では、プライバシー保護の観点からもエッジAIが重要視されている。

エッジAIの市場予測

アメリカの市場調査会社のSpherical Insightsの調査によると2022年の日本のエッジAI市場は1.7兆円であったと推測され、2032年には14.8兆円になるとの予測をしている。 2022年から2032年のCAGR(年間平均成長率)は24.3%である。日本の「Society 5.0」計画は、AI や IoT を含むデジタル変革が基礎となる超スマート社会の確立を目指しているが、エッジAIは重要な要素になるとしている。

エッジAIの活用例

スマートファクトリー、機械やロボットの遠隔操作、高精細映像伝送、AR/VRによる仮想空間サービス、自動運転、ゲームやメタバースなどが想定される。日本では自動車、製造、ヘルスケア、小売などの主要産業がエッジAI技術の研究や導入を進めている。自動車業界では、自動運転車のリアルタイム処理にエッジAIを活用している。工業製造業では、運用効率の向上やメンテナンスの予測にエッジAIを活用している。

エッジAI事業を手掛ける大型銘柄

ここからはエッジAIの関連銘柄について取り上げる。まずはプライム上場の大型銘柄でエッジAI関連事業を紹介する。

①ルネサスエレクトロニクス(6723)

エッジAI関連事業:①RAシリーズやRZシリーズといった高性能なマイクロコントローラーを提供しており、エッジデバイスでのAI処理を可能にしている。特に、RZシリーズはエッジAI向けに最適化されており、リアルタイムでの画像認識やデータ解析が求められるアプリケーションに対応している。このマイクロコントローラーは、組み込みシステムにAIを実装するためのソリューションとして広く利用されている。②TinyML(軽量な機械学習)技術にも注力している。TinyMLは、限られたリソースしか持たないエッジデバイスでのAI処理を可能にする技術で、ルネサスの低消費電力マイクロコントローラーと組み合わせることで、バッテリー駆動のIoTデバイスでもAI処理が実現される。これにより、スマートホームやヘルスケア、産業用センサーなど、多様な分野でのエッジAIの活用が進んでいる。③自動車産業におけるエッジAI技術にも積極的に取り組んでいる。特に、自動運転やADAS(先進運転支援システム)向けのソリューションとして、センサーのデータをリアルタイムで処理する半導体を提供している。これにより、車両の安全性や快適性が向上し、自動車メーカーにとって不可欠な技術となっている。④エッジAIにおける推論(AIモデルの実行)を高速化するためのソリューションも展開している。特に、AI推論専用のハードウェアアクセラレータを開発し、これを利用することで、エッジデバイスでのAI処理を高速かつ効率的に行うことができる。この技術は、工場の自動化、スマートシティ、さらには医療分野など、幅広い産業に応用されている。⑤AIソリューションを強化するために、他のAI企業やソフトウェア開発者と提携している。これにより、エッジAIの開発をよりスムーズに進めるためのエコシステムが構築されている。例えば、AIフレームワークやソフトウェアツールとの連携を強化し、開発者がルネサスのハードウェアを使用して効率的にAIアプリケーションを構築できる環境を提供している。

 

②ソニーグループ(6758)

エッジAI関連事業:①高性能なイメージセンサーとエッジAIを組み合わせ画像処理をリアルタイムで行う。ソニーのイメージセンサーはカメラ自体でAIを使い画像認識や解析を行う事ができクラウドにデータを送信する必要がないため低遅延とプライバシーの保護という利点がある。スマートフォンのカメラや監視システム、自動車のADAS(先進運転支援システム)に活用されている。②イメージセンサーに組み込む事ができるAIプロセッサを開発しておりカメラやデバイス自体でAI処理が可能である。このAIプロセッサは高性能で省電力な設計となっており、バッテリー駆動のデバイスでも効率的にAI処理を可能にし、スマートフォンやIoTデバイスに適しており、リアルタイムの画像処理や音声認識など、様々な用途で活用されている。③Aitriosと呼ばれるエッジAIプラットフォームも展開している。このプラットフォームは、イメージセンサーやカメラに搭載されたエッジAI技術を活用して、様々なデバイスと連携し、映像解析や物体認識などを行う。Aitriosは、開発者や企業がエッジAI技術を活用したアプリケーションを簡単に構築できる環境を提供し、スマートシティや産業分野での応用が期待されている。

 

キーエンス(6861)

エッジAI関連事業:①製造業向けにエッジAIを活用したソリューションを提供しており、特に工場の自動化やスマートファクトリー分野での利用が進んでいる。キーエンスのセンサーや計測機器は、製造ラインでリアルタイムのデータ収集と解析を行い、異常検知や生産ラインの最適化に寄与している。②エッジAI機能を搭載したビジョンセンサーやレーザーセンサーを開発している。これらのセンサーは、製品の寸法測定や外観検査など、リアルタイムでのデータ処理を必要とする用途に使用され、AIによる自動解析が可能である。特に、工場の自動検査システムにおいては、画像処理技術とAIを組み合わせて、検査工程の効率化が図られている。③エッジデバイスで取得したデータを活用し、リアルタイムでのデータ解析を行うソフトウェアソリューションも提供している。これにより、工場や生産ラインで発生するデータを即座に分析し、必要な調整や改善が迅速に行われるため、ダウンタイムの削減やコスト削減に貢献している。④キーエンスのエッジAI技術は、自動車産業や医療分野でも応用されている。例えば、自動車部品の製造工程での検査や、医療機器の製造における品質管理にエッジAIが活用されており、これにより精度の高い検査や分析が実現されている。

 

④NEC(5701)

エッジAI関連事業:①エッジAIを活用して、スマートシティの実現に貢献している。交通管理や防犯カメラの監視、インフラ管理など、都市インフラの最適化を目指したソリューションを提供している。これにより、リアルタイムでのデータ処理が可能となり、効率的な運用や安全性の向上が期待されている。②製造業向けに、エッジAIを使ったスマートファクトリーの構築を推進している。生産ラインに配置されたエッジデバイスがリアルタイムでデータを処理し、異常検知や品質管理の最適化を行うことができる。これにより、工場の効率化やコスト削減が実現される。③5G技術を活用し、エッジAIのパフォーマンスを最大化している。5Gの低遅延と高帯域幅を利用することで、エッジデバイスでのリアルタイムなAI処理が可能になり、自動車、医療、産業ロボティクスなどの分野で革新的なソリューションを提供している。④エッジAI技術を活用した高度な顔認識システムを開発している。特に防犯やセキュリティ向けのシステムとして、空港や公共施設などで導入が進んでおり、エッジデバイスでリアルタイムに処理を行うことで、プライバシーを保護しつつ高速な認証が可能である。⑤AI解析を分散処理できるプラットフォームも提供しており、エッジデバイスとクラウドを組み合わせたハイブリッドなデータ解析ソリューションを展開している。このプラットフォームは、デバイスに近い場所でのデータ処理と、クラウドでの大規模データ解析を組み合わせることで、効率的なデータ運用を可能にしている。

 

⑤ファナック(6954)

エッジAI関連事業:①ファナックのFIELDシステムは、エッジAIを活用した製造業向けのオープンプラットフォームである。このシステムは、工場内の様々な機械やロボットからリアルタイムでデータを収集・解析し、その場でAIによる最適な判断を下すことが可能である。これにより、ダウンタイムの削減、機械の故障予測、メンテナンスの最適化などが実現され、生産性が向上する。②AIを搭載したロボットによる自律学習技術も開発している。これにより、ロボットは初期設定後、エッジデバイス上で自らの動作を学習し、効率的な作業方法を導き出すことができる。たとえば、物体の持ち上げや配置といった作業を、試行錯誤を繰り返しながら最適化することが可能である。③協働ロボット(コボット)にもエッジAIを活用している。協働ロボットは人間と共同で作業を行うため、高い安全性と柔軟性が求められるが、エッジAIを用いることで、ロボットがリアルタイムで環境を認識し、適切に動作を調整することが可能である。これにより、人とロボットが同じ作業空間で効率的に作業を進めることができ、安全性も向上する。④工場の自動化においてIoTとエッジAIを連携させたシステムも展開している。IoTデバイスが工場内の機械やロボットの動作データを収集し、そのデータをエッジAIがリアルタイムで解析することで、工場全体の効率を最適化する。この技術により、工場の稼働状況を可視化し、効率的な運用が可能である。

エッジAI事業を手掛ける中小型銘柄

最後にエッジAI事業を手掛ける中小型銘柄を紹介する。株価、バリュエーションは2024/10/16の終値をベースにしている。

①ジーデップ・アドバンス (5885)

企業概要:NVIDIAをはじめとする主要な技術パートナーと提携し、エッジAI用のハードウェアやソフトウェアを開発している。ディープラーニングや推論用デバイスの販売でも国内で高いシェアを持ち、エッジAI市場での成長が期待されている。

 

株価時価総額自己資本比率ROEROIC
11,070円148億円59.3%17.9%18.3%
予想PERPBREV/EBITDAPEGレシオ配当利回り
33.5倍6.1倍19.8倍13.8倍0.2%

 

②フィックスターズ (3687)

企業概要:高速コンピューティングとエッジAIのソフトウェア開発で強みを持つ企業。特に、エッジAIアプリケーション向けのクラウドプラットフォーム「GENESIS」を展開し、自動車や製造業など多くの分野で利用されている。

株価時価総額自己資本比率ROEROIC
1,542円497億円75.7%22.9%20.7%
予想PERPBREV/EBITDAPEGレシオ配当利回り
25.4倍7.9倍17.3倍1.6倍0.9%

 

③ヘッドウォータース (4011)

企業概要:企業のデジタルトランスフォーメーションを支援し、エッジAIを活用したソリューションを提供している。特に、ソニーグループとの提携により、エッジAI分野での事業展開を強化している。

株価時価総額自己資本比率ROEROIC
9,660円183億円71.2%6.5%6.3%
予想PERPBREV/EBITDAPEGレシオ配当利回り
117.6倍17倍71.5倍2.7倍0.0%

 

④ニューラルグループ (4056)

企業概要:画像解析とエッジAI技術を駆使したソリューションを提供しており、スマートシティや医療分野での利用が進んでいる。

 

株価時価総額自己資本比率ROEROIC
909円139億円17.1%N/AN/A
予想PERPBREV/EBITDAPEGレシオ配当利回り
N/A27.3倍84.5倍N/A0.0%

注:実績決算、今期会社計画ともに赤字のために算出不能のためN/A。