執筆:西村 麻美

ソニーの株価情報


【銘柄注目ポイント!】

全事業が上手くいっている状況で下落局面は長期保有者には魅力的な買い場!

株価
(2022/5/11)
時価総額 自己資本比率 ROE ROIC
10,720円 13.5兆円 23.4% 12.8% 10.7%
PER
(実績)
PER
(予想)
PBR 配当利回り EV / EBITDA
15倍 15.98倍 1.86倍 N/A 6.7倍


2022年3月期通期決算

ソニーの2022年3月期通期決算の結果は

売上高9兆9,215億円(前年同期比10%増
営業利益1兆23億円(同26%増
当期純利益8,822億円(同14%増
希薄化後EPS705.16円
一株当たり65円

営業利益が初の1兆円を超えとなる最高益を更新した。
しかし前期の法人税減税の一時的要因が無くなり当期純利益は前期比14%の減少となった。
資本市場に運用益が左右される金融事業を除く全事業で増収増益となり、特に円安メリットがゲーム&ネットワーク事業(G&NS)、エレクトロニクス事業(EP&S)、イメージ、センサー事業(I&SS)で大きかった。


ゲーム & ネットワークサービス分野(G&NS分野)

売上高2兆7,398億円(前年同期比3%増
営業利益3,461億円(同1%増
ROIC41.9%(前期ROIC47.5%

為替の影響は売上高に1,245億円、営業利益に157億円のプラスの影響があった。
この事業セグメントは円安メリットがなかったら減収減益であっただろう。
ハードの売上増加や為替の影響がプラス要因として働いた一方、アドオンコンテンツ(追加ダウンロードコンテンツ)を含む自社制作以外のタイトルを中心としたソフトの販売減がマイナス要因であった。

戦略的にPS5の売価を製造コストより低く設定していたが、収益性が改善された事の貢献も大きかった。
2021年度はPS5を約1,150万台(累計約1,930万台)販売、PS4は約100万台を販売した。
PS5の販売台数は第3四半期決算発表時に下方修正した台数を達成した。
PlayStationPlusの加入者数は2021年度期末時点で4,740万人(前期末4,760万人と)、PS Networkでの月間アクティブユーザー数は1億600万人(同1億900万人)だった。
2022年度のこの事業セグメントの売上見通しは前期比34%増の3兆6,600億円の予定である。

大幅増収は2022年1月に発表した米ゲーム会社のBungieの買収が第3四半期に完了する前提でBungieの売上が上乗せされる為である。
Bungieに続きカナダのゲーム開発スタジオのHaven Entertainment Studiosの買収契約を3月に締結した。
二社の買収費用は約440億円で、営業利益見通しは前期比12%減の3,050億円の予定である。

買収費用を除いた営業利益は前期比並みの計画である。
PS5の販売予想台数は現時点でデバイス調達の目途がたっている1,800万台の予定である。


音楽分野

売上高1兆7,710億円(前期比19%増
営業利益2,109億円(同14%増
ROIC12.9%(前期ROIC14.2%

為替の影響は売上高に428億円のプラスの影響があった。
映像メディア・プラットフォームの減収はあったものの、主にストリーミングサービスの増収により前期⽐19%増の1兆7,710億円となった。

営業利益は、増収の影響により前期比14%増の2,109億円だった。
2021年度第4四半期のストリーミング売上は、前年同期⽐で、⾳楽制作で32%増、⾳楽出版で36%増と依然高い成長を維持している。

アーティストの発掘・育成の強化やレパートリーの拡充、Alamo Recordsをはじめとしたレーベル買収などを進めている。
これらの取組みの結果、ヒットを継続して創出する⼒が着実に向上しており、2021年度では、Spotify週次グローバル楽曲ランキングの上位100曲にも、平均して36曲がランクインした結果となった。
TikTokやMeta、Roblox(ゲーム・プラットフォーム)などのデジタルパートナーとの新たなビジネス機会も着実に増えており、収益基盤の拡⼤につながっている。

2022年度通期の⾒通しについては、売上⾼を前期⽐11%増の1兆2,400億円、営業利益を9%増の2,300億円としている。


映画分野

売上高1兆2,389億円(前期比64%増
営業利益2,174億円(同2.7%増
ROIC15.5%(前期ROIC7.1%

『スパイダーマン:ノーウェイ・ホーム』の⼤ヒットや、テレビ番組制作において、⽶国⼈気テレビ番組Seinfeldシリーズの⼤型ライセンス収⼊等があった事、またCrunchyrollの買収によるメディアネットワークの増収もあり売上高は前期比64%増の1兆2,389億円となった。

営業利益については、増収の影響に加え、GSNGamesの事業譲渡にともなう利益700億円の計上もあり、前期から1,375億円と⼤幅増の2,174億円となった。

2022年度通期の売上⾼⾒通しについては、映画製作において、前年度の⼤ヒット作売上の剥落などはあるものの、主に為替の影響やメディアネットワークでの増収により、前年度⽐7%増の1兆3,300億円としている。
営業利益⾒通しについては、前期のような⼀時的な利益計上を⾒込んでいないことにより、1,174億円と⼤幅減の1,000億円としている。

ソニーはIP戦略を最重要視しているが、マーベル・コミック原作の映画化は柱であり、スパイダーマンキャラクターのスピンオフ作品『クレイヴン ザ・ハンター』の製作が進んでいる。
またゲームIPの展開については、プレイステーションの⼈気ゲームタイトルとして初の映画化作品『アンチャーテッド』の成功に続き、『ゴースト・オブ・ツシマ』や『ザ・ラスト・オブ・アス』などの映像化が進⾏中である。
テレビ番組制作においては、⼈気テレビ番組「アメリカン・アイドル」など、バラエティやドキュメンタリー制作に定評があるIndustrial Mediaや、英国有数のドラマ制作スタジオBad Wolfの買収などの戦略投資も進めている。


エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション分野(EP&S)

売上高2兆3,392億円(前期比13%増
営業利益2,229億円(同67%増
ROIC27.6%(前期ROIC21.7%

為替の影響は売上高に1,038億円、営業利益に272億円のプラスの影響があった。

2021年度の売上⾼は、主に製品ミックス改善によるテレビ及びデジタルカメラの増収により前期⽐13%増の2兆3,392億円となった。
コロナ禍による⽣産・物流の混乱や、半導体を中⼼とした部材不⾜など、供給側でさまざまな制約を受けたが、きめ細かいサプライチェーンマネジメントなどで克服し、9%を超えるセグメント営業利益率を実現した。

2022年度通期の売上⾼⾒通しは、テレビの販売台数減はあるものの、主に為替の影響により、前年度から3%増の2兆4,000億円としている。

営業利益⾒通しは、前年度から329億円減の1,800億円としている。
この⾒通しには、中国におけるコロナ感染拡⼤により、既に顕在化している、そしてさらに今後想定している供給影響の合計額▲約300億円を織り込んでいる。


イメージング&センシング・ソリューション分野(I&SS分野)

売上高1兆764億円(前年同期比6%増
営業利益1,556億円(同7%増
ROIC11.9%(前期ROICは算定方法が違う為に比較不能)

為替の影響は売上高に555億円、営業利益に185億円のプラスの影響があった。

2021年度の売上⾼は、主に為替の影響や、デジタルカメラ及び産業機器向けセンサーの増収により、前期比6%増の1兆764億円となった。

2022年度通期の⾒通しについては、売上⾼を前年度から37%と⼤幅増の、1兆4,700億円、営業利益を444億円増の2,000億円とした。

前年度は、⽬標に掲げていた顧客基盤の拡⼤・多様化と、数量シェアの回復には⼀定の成果をあげることができたものの、中国スマートフォン市場の停滞などにより、厳しい事業環境となった。
⼀⽅で、2022年度以降に発売されるハイエンドスマートフォンを中⼼に、各メーカーが、イメージセンサーの⼤型化や⾼画質・⾼付加価値化に再び注⼒する傾向が顕著になっており、モバイルセンサー市場の成⻑が、再度加速することを期待している。
また、ミッドレンジでも画質を追求する動きが出てきており、さらにシェアを拡⼤できる余地があると⾒込んでいる。

モバイル向けセンサーの成⻑に加え、デジタルカメラ・産業機器向けセンサーの安定した市場成⻑や、⾞載向けセンサー市場の⼤幅な伸⻑なども踏まえ、本中期経営計画期間におけるI&SSの売上成⻑率⾒通しを、年平均で約20%に上⽅修正した。
より旺盛となる需要に対応し、設備投資も、約7,000億円から、約9,000億円に増額する計画である。


金融分野

金融ビジネス収入1兆5,338億円(前期比▲8%
営業利益1,501億円(同▲3%
ROIC27.6%(前期ROIC21.7%

⾦融ビジネス収⼊は、保険料収入は増加したものの特別勘定における運用益減により減収となった。
営業利益は、ソニー⽣命における保険料収⼊増加の影響はあったものの、同社⼦会社での不正送⾦による⼀時的な損失計上などにより、前年度から47億円減の1,501億円となった。

2021年度におけるソニー⽣命の新契約⾼は、好調な法⼈向けビジネスが牽引し、前年度⽐30%増となった。

2022年度通期の⾒通しについては、⾦融ビジネス収⼊を前年度⽐6%減の1兆4,400億円、営業利益を699億円増の2,200億円とした。
営業利益⾒通しには、ソニー⽣命において、先⽉取引が完了した不動産の売却益と、昨年度損失計上した不正送⾦に関する資⾦回収の影響額の合計、約430億円が含まれている。


第4次中期経営計画(FY2021~FY2023)の進捗状況であるが、重点投資領域であるG&NS、⾳楽、映画、I&SSの4分野が成⻑を牽引し、売上⾼は当初計画に⽐べて⾼い成⻑カーブ上にある。
グループ連結KPIである3年間累計の調整後EBITDAは、FY2021の好決算を受けて従前⽬標である4.3兆円に対し14%上方修正し4.9兆円とした。


2023年3月期予想

2023年3月期業績の会社予想は

売上高11兆4,000億円(前期比15%増
営業利益1兆1,600億円(同▲4%
当期純利益8,300億円(同▲6%

前提となる為替レートは1米ドル=113円前後、1ユーロ=128円前後を想定している。
為替変動による年間の営業利益への影響は、1円の円安で、ドルが約10億円のプラス、ユーロが約70億円のプラスと会社側では試算している。


アナリストによる投資スタンス

円安メリットに救われた部分も大きかったが、半導体不足、サプライチェーンの混乱の中で営業利益が前期比26%増とこれ以上望めない程の好決算であったが、決算発表翌日の本日(5/11/2022)は前場は小幅安とあまり決算に反応していなかったが、後場に買われて前日比2.1%高で引けた。

祖業のエレクトロニクス企業からテクノロジーやコンテンツを柱とする企業へと変身したソニーであるが、IPの価値を最大化できるグループ力が最大の強みであり、日本で一番競争力の高い企業であると言って過言でないだろう。

現在の世界的な株安状況の中、株価が大きく下落した際には魅力的な買い場であると考える。


投資アイデア

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プロフィール

西村麻実 / MamiNishimura
株式会社クリプタクト
マーケットアナリスト 西村 麻美

新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。


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