執筆:西村 麻美

ソニーの株価情報


【銘柄注目ポイント!】

今期は映画事業と音楽事業に下支えされる期になりそう。

株価
(2022/8/1)
時価総額 自己資本比率 ROE ROIC
1,1320円 14兆円 22.8% 12.8% 11.0%
PER
(実績)
PER
(予想)
PBR 配当利回り EV / EBITDA
16.3倍 17.5倍 2.0倍 N/A* 7.1倍

*配当金額は未定のためにN/A。


2023年3月期1Q決算

ソニーの2023年3月期1Q決算の結果は

売上高2兆3,115億円(前年同期比2%増
営業利益3,070億円(同10%増
四半期純利益2,182億円(同3%増
希薄化後EPS175.21円
平均為替レート1米ドル=129.4円
1ユーロ=138.0円

売上高及び営業利益は1Qとしては過去最高を更新した。
映画、音楽分野は大幅増収増益だったものの、ゲーム&ネットワークサービス(G&NS)、エンタテインメント・テクノロジー&サービス(ET&S)の大幅減益が目立った決算だった。好調な2事業が減益の2事業を補い前年同期比ほぼフラットな決算結果となった。
また5月の通期業績見通し時よりインフレの進行、各国の金融政策により、世界経済のさらなる減速が懸念されるために通期の業績予想に関して営業利益及び当期純利益を共に4%下方修正した。


ゲーム & ネットワークサービス分野(G&NS分野)

売上高6,041億円(前年同期比▲2%
営業利益528億円(同▲37%
ROIC23.5%

為替の影響は売上高に579億円のプラス、営業利益に▲48億円のプラスの影響があった。
円安による増収効果はあったものの、営業レベルではアドオンコンテンツを含むソフトウェアの販売減(前年同期比▲10.8%減)やソフトウェアの開発費の増加等により同▲37%の528億円となった。
PSユーザーの総ゲームプレイ時間は、前年同期から15%低下した。5月に想定していたエンゲージメントの⽔準を⼤幅に下回る結果となった。エンゲージメントの低下は外出機会が増加し、ゲーム市場が足元で減速していると会社側では分析している。下期には⾃社制作ソフトウェアを含めた、⼤型タイトルのリリースが予定されているが、PS5のハードウェア供給台数の増加や、PSプラスの新サービスの訴求など、ユーザーエンゲージメントを⾼める施策に注⼒する方針である。
PS5の通期販売台数⾒通しは、現時点では1,800万台に据え置いているが、上海でのロックダウンの影響からの回復や、部材供給状況の⼤幅な改善が⾒られることから、年末商戦に向けた供給スケジュールの前倒しを進めていく予定である。
7⽉15⽇に、ソニーインタラクティブエンタテインメントによるBungieの買収が完了し、両社の協業がスタートしている。また、3⽉に発表したHaven Entertainment Studiosの買収も、6⽉27⽇に完了している。
既存スタジオでのコンテンツ開発⼒強化に加え、買収したスタジオとのシナジーにより、新規IPの創出とともに、ライブゲームサービスやマルチプラットフォームへの展開を加速し、⾃社制作ソフトウェアの強化を進めて行く方針である。G&NSの通期の業績予想は為替による増収効果はあるものの、1Qの実績を踏まえて年間のソフトウェア販売⾒通しを下方修正し従前より400億円減の3兆6,200億円とした。
営業利益⾒通しについては、ソフトウェアの減収や為替の悪影響に加え、Bungieの買収が想定より早期に完了した事等により、当年度の買収関連費⽤が130億円増加し従前予想より500億円減の2,550億円とした。


音楽分野

売上高3,081億円(前年同期比21%増
営業利益610億円(同10%増
ROIC11.9%

為替の影響は売上高に359億円のプラスの影響があった。
⾳楽制作においては、世界的な⼤ヒットとなったHarry Stylesのアルバム『HarryʼsHouse』をはじめ、数多くのヒット作を⽣み出した。
また1Qのストリーミング売上は、前年同期⽐で、⾳楽制作で27%増、⾳楽出版で42%増、⽶ドルベースでは、それぞれ8%増、20%増と、引き続き力強く伸びている。1Q中のSpotify週次グローバル楽曲ランキングの上位100曲に平均して47曲がランクインし、前期実績の平均36曲から⼤きく伸ばした。
一方映像メディア・プラットフォームにおけるアニメ事業の収⼊は減少した。営業レベルでは映像メディア・プラットフォームの利益貢献は、音楽分野の営業利益の1割強である。
引き続き、ヒットを継続して創出する⼒を強化することに加え、The OrchardやAWALを通じたアーティスト向けサービスの拡充や、新興市場での事業拡⼤、ソーシャル、ゲームなどの新たな領域におけるビジネスパートナーとの連携など、収益基盤の拡⼤、多様化に向けた取り組みを、着実に進めて行く方針である。


映画分野

売上高3,414億円(前年同期比67%増
営業利益507億円(同100%増
ROIC6.4%

1Qの売上高は為替の影響に加え、テレビ番組制作における作品納⼊数の増加や、映画製作における前年度公開作品からの収⼊増などにより、前年同期⽐67%と⼤幅増の3,414億円となった。
営業利益については、分野全体の増収の影響により、前年同期から253億円と倍増の507億円となった。
⽶国における劇場興⾏は、若者向けの⼤型作品だけでなく、コロナ禍で観客動員が⾒込みにくかったファミリー向け作品にもヒットが出始め、2019年の⽔準を超える興⾏収⼊となる週も出るなど回復基調にある。
⽶国で8⽉、日本で9月より公開予定のブラッド・ピット主演の新作『ブレット・トレイン』にも期待している。
世界中でヒットが期待される『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム THE MORE FUN STUFF VERSION』が日米ともに9月に公開予定である。
また、動画配信サービス事業者間の競争激化で優良なコンテンツに対する需要は引き続き強く、独⽴系メジャースタジオとしてあらゆるパートナーに作品を提供できるソニーにとっては成長機会である。
メディアネットワークにおいては、アニメ配信事業のCrunchyrollとFunimationとのサービス統合が順調に進んでおり、海外アニメ市場の成⻑を背景に、有料会員数、業績ともに、期待を上回るペースで伸⻑している。


エンタテインメント・テクノロジー&サービス分野(ET&S)

売上高5,523億円(前年同期比▲4%
営業利益536億円(同▲25%
ROIC18.9%

1Qの売上⾼は、為替による増収効果はあったものの、主に上海でのロックダウンの影響や市況の悪化によるテレビの販売台数減により、前年同期⽐4%減の5,523億円となった。
営業利益は、テレビの減収の影響などにより、同182億円減の536億円となった。製品別にみるとテレビは前年同期に比べて減収であったが、他のAV製品、ビデオカメラ、スマホ等は増収となった。
上海でのロックダウンによるソニーの製造事業所の稼働低下や、デジタルカメラ向けなどの部品供給制約が想定より早く改善したことから、1Qの営業利益は従前見通しの⽔準を⼤きく上回った。
⾜元では、欧州をはじめとしたグローバルな景気減速や、ドル⾼による業績への悪影響など新たなリスクが顕在化している。リスクの拡⼤に備えて、製品ミックスの改善や費⽤抑制などの追加施策も講じて行く方針である。


イメージング&センシング・ソリューション分野(I&SS分野)

売上高2,378億円(前年同期比4%増
営業利益217億円(同▲29%
ROIC12.0%

為替の影響は売上高に261億円、営業利益に110億円のプラスの影響があった。
1Qの売上高は円安により前年同期⽐9%増の2,378億円となり、営業利益は、為替の好影響はあったが研究開発費や減価償却費の増加などにより、前年同期から29%と大幅減の217億円となった。
スマホ市場ではミッドレンジ、ローエンドの製品市場は減速しているが、動画撮影ニーズの⾼まりに対応し、⼤判、⾼画質イメージセンサーを搭載した、スマホ・メーカー各社のハイエンドラインアップの導⼊が順調に進んでおり、カメラ機能の⾼画質化や性能向上のトレンドが明確になってきた。
2Q以降⼤判センサーの顧客展開がさらに加速し、モバイル向けイメージセンサーの売上成⻑を牽引して行くと会社側では予想している。
ロジック半導体の需給バランス緩和を受け、これまで供給制約により⽣産に制限のあった⾼付加価値イメージセンサーの増産も、徐々に可能となってきており、下期以降以降製品ミックスも段階的に改善することを⾒込んでいる。
中⻑期的に⼤きな成⻑を⾒込む⾞載向けセンサーや、AITRIOS(エッジAIセンシング・プラットフォーム)などのソリューション事業の技術開発、事業展開にも引き続き積極的な投資を行う予定である。


金融分野

金融ビジネス収入2.978億円(前年同期比▲28%
営業利益813億円(同239%増

1Qの⾦融ビジネス収⼊は、主にソニー⽣命における特別勘定運⽤益の減少により、前年同期⽐28%と⼤幅減の2,978億円となった。
営業利益については、ソニー⽣命にて4⽉に取引が完了した不動産の売却益計上や、前年同期に不正送⾦による損失計上があったこと等により前年同期から573億円と⼤幅増の813億円となった。
ソニー⽣命より発表した通り、この不正送⾦については、資⾦回収のための裁判⼿続きが7⽉に完了した。


2023年3月期予想

2023年3月期業績の会社予想は

売上高11兆5,000億円(前年同期比15.9%増
営業利益1兆1,100億円(同▲ 7.7%
当期純利益8,000億円(同▲9.3%

通期業績予想は、売上⾼⾒通しを前回から1,000億円増の11兆5,000億円、営業利益⾒通しを500億円減の1兆1,100億円と修正した。
前提となる為替レートは1米ドル=130円前後、1ユーロ=138円前後を想定している。為替変動による年間の営業利益への影響は、1円の円安で、ドルが約10億円のプラス、ユーロが約70億円のプラスと会社側では試算している。


投資判断

利益率の高いG&NS事業はコロナの世界的流行より2年半以上続いたPS5、PSネットワークを中心とする拡大の鈍化が感じられる決算であった。
しかし、下期に大型タイトルのリリースを予定しており、部材供給状況の改善からPS5の供給台数を増やす予定であり、上期に比べて増益する可能性もあると思われる。
インフレの加速によりET&SやI&SS事業は下振れリスクが下期に大きくなりそうだが、回復局面にある映画事業と安定的に伸びている音楽事業に下支えされると考えている。
先週金曜日の引け後の決算発表の後本日(2022/8/1)の株価は金曜日の米国市場の強さから思った程売られる事はなく先週金曜日の終値比▲3.2%で引けた。
予想PERは17.5倍、PBRは2.0倍、EV/EBITDAは7.1倍とやや割安であるが、株価はファンダメンタルよりも欧米の金利動向、リセッション入りするかに左右されると考えている。


投資アイデア

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プロフィール

西村麻実 / MamiNishimura
株式会社クリプタクト
マーケットアナリスト 西村 麻美

新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。


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