【SBIホールディングスの決算ポイント】
暗号資産市場の下落、海外の投資先銀行の株価下落により大幅減益!
株価 (2022/9/2) | 時価総額 | 自己資本比率 | ROE | ROIC |
2,692円 | 6,601億円 | 5.0% | N/A | N/A |
PER(実績) | PER(予想) | PBR | 配当利回り | EV/EBITDA |
1.8倍 | N/A | 0.71倍 | N/A | N/A |
SBIホールディングス:2023年3月期1Q決算結果
収益 | 2,321億円 | 前年同期比68.9%増 |
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税引前利益 | 235億円 | 同▲28.8% |
四半期純利益 | 167億円 | 同▲49.7% |
親会社の所有者に帰属する四半期利益 | ▲24億円 | 赤字転落 |
売上は1Qとして過去最高を更新したが、税引前利益はベトナムの上場金融機関TPバンク(SBIの持株比率19.9%)の株価下落に伴い約240億円の公正価値評価損を計上した事、また暗号資産事業において、暗号資産市場の大幅下落、ロシアでのマイニング事業の停止、また子会社のB2C2 Limited(英国)の取引先破綻により72億円の損失を計上した事により大幅減益となった。親会社の所有者に帰属する四半期利益が赤字に転落したのは上記したTPバンク関連の損失、B2C2 Limitedでの損失の規模が大きかった事に加えて、両損失とも海外子会社で発生したものであり、税金費用の引き下げ効果が限定的であったことによる。
セグメント別の税引前利益は
金融サービス事業 (証券、保険、銀行等) | 278億円 | 前年同期比5.1%減 |
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資産運用事業(レオスCW、モーニングS、SBI AM等) | 7.2億円 | 同20.4%減 |
投資事業(PE投資等) | 91億円 | 同20.4%増 |
暗号資産事業 | ▲97億円 | 赤字拡大 |
非金融事業(バイオ、Web3.0関連等) | 20億円 | 黒字転換 |
SBI証券の2023年3月期第1四半期連結業績(J-GAAP)は、株式市場が不安定な状況のなか、営業収益は381億円(前年同期比5.7%減)、営業利益は121億円(同11.4%減)となった。SBI証券のマーケットシェアは圧倒的一位を維持した。提携共通ポイントによる買付やクレジットカード積立などを通じて投資信託残高の拡大戦略が功を奏し投資信託の四半期末残高は過去最高の5兆6,113億円となり、投資信託の信託報酬額は同15.8%増の19億7,300万円となった。SBI証券の口座数は2022年6月時点で882万9,000口座となり、2009年3月から2022年6月末迄のCAGR(年平均成長率)は12.4%と高い成長率となった。SMBCグループとの提携により、同グループの個人向けデジタル金融サービスにおける証券関連サービスの提供主体がSBI証券となることで更なる口座数の増加が期待される。2021年6月末に三井住友カードが発行するクレジットカードでSBI証券で投資信託が買える投資信託積立サービス「三井住友カード つみたて投資」を開始したが、1年で積立設定金額は111億円、口座数も30万口座超になった。また2022年5月に三井住友カードの仲介顧客限定で取引状況に応じてポイントが貯まる「SBI証券Vポイントサービス」や、三井住友カードの入会と同時に必要情報の自動連携によるSBI証券口座開設申込を開始した。Vポイントを投資信託の買付に利用できる「Vポイント投資」も5月に開始し、開始から1ヵ月半で1.7億ポイントが投資に利用された。またIPOに関してはSBI証券のIPO関与率は2022年6月末時点で100%と業界トップであった。
持分法適用関連会社の住信SBIネット銀行は、住宅ローン事業を中心に堅調に拡大。J-GAAPでは経常利益が前年同期比増益となったものの、債券評価額の下落の影響を受け、SBIホールディングスにおけるIFRS取り込みベースの持分法による投資利益は前年同期比84.5%減の4億4,000万円であった。世界的な金利上昇に伴う保有債券の公正価値評価額の下落が要因であった。住信SBIネット銀行の業績は住宅ローン事業において貸出が順調に伸長し、J-GAAPベース経常収益、経常利益ともに前年同期比で増加した。2022年6月末時点で口座数は556万口座となり預金残高は7兆3,431億円となった。
韓国のSBI貯蓄銀行は、優良資産拡大に伴い基礎的収支が順調に拡大したものの、市況の悪化に伴い有価証券関連損失を計上したことにより、税引前利益は65億5,400万円(前年同期比19.6%減)であった。一方で、積極的な与信増加を行った結果、利息収益は順調に拡大した。2022年6月末時点で総資産は15兆7,132億ウォン(約1兆6,561億円)、債権全体の延滞率は1.36%(リテール債権のみは1.7%)と過去最低水準となった。
新生銀行に関しては保有する豪ノンバンク大手Latitude株式の減損損失165億円を計上した事が主因で親会社株主に帰属する四半期純損益(J-GAAP)は▲59億8,300万円となった。この減損損失以外は業績は堅調に推移した。IFRSベースの新生銀行の連結P/Lの算出並びにSBIホールディングスの業績への取り込みは、2022年3月期4Qより開始する。
保険事業(SBIインシュアランスグループ、SBI損害保険、SBI生命保険、少額短期保険各社)の1Qの業績は、グループ全体の保有契約件数の堅調な増加により、経常収益は前年同期比8.9%増の247億円、経常利益は同13.5%増の28億円、親会社株主に帰属する四半期純利益は同6.3%増の14億円であった。グループ各社の保有契約合計数は2022年6月末時点で249万口座となり2016年3月末~2022年6月末の年平均成長率(CAGR)は13.9%となった。
資産運用事業(モーニングスター、SBIアセットマネジメント(モーニングスター子会社)、レオス・キャピタルワークス)の1Qの業績は収益は前年同期比5.2%増の41億円、税引前利益は同20.4%減の7億円であった。株式・債券市場の市況悪化により、税引前利益は約2億円減少したものの安定的な収益を維持した。 引き続き、利益の拡大に向けて、顧客数や運用資産残高の伸長を目指している。SBIアセットマネジメント・
グループ傘下の3社の合併を2022年8月1日に実施した。SBIアセットマネジメント・グループは、順調に運用資産を拡大し、2022年6月末時点の運用資産残高は約3.8兆円で、このうち地域金融機関を中心とした機関投資家からの運用受託額は2兆979億円であった。
投資事業(プライベート・エクイティ事業、SBIリーシングサービス)の1Qの業績は、収益は前年同期比46.2%増の216億円、税引前利益は同20.4%増の91億円であった。投資先の公正価値評価の変動による損益及び売却損益は、株式市況の悪化を受け、保有有価証券の一部上場銘柄の評価額が大きく下落したものの複数の未上場銘柄の評価額が上昇したことによる評価益や売却益等により約94億円の評価益を計上した。SBIリーシングサービスは、2022年7月8日に東京証券取引所へ上場申請をした。ベトナムのTPバンクにおいて、 4-6月の株式市場の悪化及び為替市場の急変により1Qに約240億円の評価損を計上したが、TPバンクの業績は順調に拡大中であり、貸出金残高は2022年6月末時点で8,346億円、税引前利益は459億円と過去最高益を更新した。プライベート・エクイティ事業の運用資産残高は2022年6月末時点で7,344億円であった。
暗号資産事業(SBI VC トレード、B2C2、ビットポイントジャパン(2022年7月1日以降)、暗号資産マイニング事業)の1Qの業績は、収益は前年同期比149%増の129億円8,400万円であったが、上述したように暗号資産市場の大幅下落、ロシアでのマイニング事業の停止、子会社のB2C2 Limited(英国)の取引先破綻等により72億円の損失を計上した事等により税引前損益は赤字幅が拡大し▲97億円となった。なおロシアでのマイニング事業は撤退の方針である。ビットポイントジャパンを2022年7月1日付で連結子会社化したことにより、2Qより同社の業績が暗号資産セグメントの業績に寄与する見込みである。
非金融事業(バイオ・ヘルスケア&メディカルインフォマティクス事業、Web3.0を含む将来の種となるその他の事業)の1Qの業績は、収益は前年同期比28.2%増の70億円、税引前利益は黒転し20億円となった。5-ALA関連事業のグローバル展開や、SBIバイオテックのマイルストーン収入などにより黒字化した。このセグメントに関しては長年赤字が続いたが、米クォーク社からの完全撤退により大きく赤字を計上する事業はなくなったと言えるだろう。
SBIホールディングス:2023年3月期予想
業績予想は、投資・証券関連事業は、株式市場等の変動要因による影響が極めて大きいため、SBIは業績予想の開示は行っていない。
アナリストによる投資判断
暗号資産市場の急落、世界的な金利上昇局面にあり株式市況の悪化により約300億円強の損失を計上した事により親会社の所有者に帰属する四半期利益は▲24億円と赤字に転落した。決算結果を受けてサプライズはなかったために株価はあまり反応しておらずPBR0.7倍台で推移している。SBIは5月半ばに暗号資産取引所を運営するビットポイントジャパンの株式の51%を127億円で取得し子会社化すると発表した。暗号資産市場の下落局面でこの事業セグメントの赤字幅が拡大する可能性もあり株価としては上がりづらい状況にあるようである。
執筆日:2022年9月2日
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執筆者プロフィール
株式会社pafin
マーケットアナリスト 西村 麻美
新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。
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