今年もあと三か月を切ったが、中東地域での地政学的リスクの高まりが、国際情勢を不安定化させる要因の一つとなっている。このレポートでは中東での地政学的リスクの高まりが日本株市場に与える影響を分析し、買われる可能性が高いセクター、銘柄について紹介する。

目次

  1. 中東地域の地政学的リスクの高まり
  2. 企業業績、経済への影響
  3. 各セクターへの影響
  4. 中東地域の地政学的リスク上昇で買われる銘柄は?

中東地域の地政学的リスクの高まり

今回の中東における地政学的リスクの高まりは、2023年10月7日に発生したハマスによるイスラエルへの大規模攻撃が発端であった。この攻撃により、イスラエルとハマスの間で大規模な戦闘が勃発し、それに続いてレバノンのヒズボラやイランも関与する形で緊張がエスカレートした。2024年7月末にテヘランでハマスの政治的リーダーがイスラエルのテロ攻撃で殺されてから、イランはイスラエルに報復攻撃を行うと宣言していた。10月1日にイランはイスラエルに対して200発以上のミサイルを発射した。これをきっかけとして中東地域全体の安全保障に大きな不安を引き起こしている。パレスチナ自治区ガザではハマスとイスラエルの戦闘が続き、西岸地区でも緊張が高まっている。特に、ユダヤ人入植者によるパレスチナ人への攻撃が増加しており、占領地の状況は非常に不安定である。イスラエル政府の右派政権が強硬な姿勢を続けていることも、パレスチナとの対立を一層激化させている。10月7日でガザ地区での戦闘が始まり一年が経ったが紛争は拡大し、戦闘が長期化する懸念が高まっている。

企業業績、経済への影響

中東地域は世界的なエネルギー供給の中心であり、特に原油市場においてその影響力は大きい。この地域における緊張の高まりは、エネルギー供給網の不安定化、原油価格の上昇、さらには国際的な経済の不確実性を引き起こす。直近ではアメリカ時間10月7日にイスラエルがイランの石油インフラを攻撃するとの観測の高まりを受けてWTI原油先物価格の上昇と共にニューヨーク株式市場は下落した。

日本は中東地域より石油の80%以上を輸入しており、中東情勢の緊迫化により石油供給のリスクが高まると、日本の企業業績、経済全体への影響は大きい。具体的な影響であるが、原油価格の上昇は製造業の製造コストを増加させ、利益率の圧迫になる。特に石油を多く使う化学業界やプラスチック、金属製品などの業界は大きな打撃を受ける。輸送、物流業界では燃料コストの増加によりコストの上昇になり、利益が圧迫され、運賃が上昇する可能性がある。日本経済全体への影響であるが、石油価格の上昇によりインフレが加速され、消費者の購買力が低下し、経済成長が鈍化するリスクが高まる。

各セクターへの影響

エネルギーセクター:石油価格が上昇すると、石油・ガス業界は利益を拡大する。特に上流の採掘・探査企業は大きな恩恵を受けるが、精製や販売に関連する企業はコスト増加の影響を受ける可能性がある。

防衛セクター:中東地域の紛争のみならず、日本も近隣諸国の紛争に巻き込まれるリスクは常にある。ロシア、ウクライナ紛争より年間の防衛予算をGDPの1%から2028年までに2%に引き上げる方針となり、防衛関連企業は需要の増加を見込まれる。

金(ゴールド)関連セクター:有事のリスク回避の局面では、金が「安全資産」として買われる傾向があり、金関連の企業が注目される。中東情勢の緊迫化で金の需要は高まっており、金価格は最高値を更新している。

中東地域の地政学的リスク上昇で買われる銘柄は?

ここからは中東地域の地政学的リスクの上昇で買われる可能性が高い銘柄について紹介する。

エネルギー関連銘柄

INPEX (1605)

企業概要:2006年に国際石油開発と帝国石油の経営統合により国際石油開発帝石ホールディングス株式会社。2008年に国際石油開発と帝国石油の両社を吸収合併し、国際石油開発帝石株式会社。2021年に株式会社INPEXに社名変更。日本最大の石油・天然ガス開発企業であり、原油価格上昇時に利益が増加し、株価が上昇しやすい。

ENEOSホールディングス(5020)

企業概要:2010年に新日本石油と新日鉱ホールディングスが合併し、JXホールディングス株式会社設立。2017年東燃ゼネラル石油とJXホールディングスが株式交換をし、東燃ゼネラル石油を完全子会社化しENEOSホールディング株式会社と社名変更。国内シェア5割の石油元売り首位。原油価格上昇時に販売価格が上昇し、株価が上昇しやすい。 

コスモエネルギーホールディングス(5021)

企業概要:ENEOSと並ぶ大手石油精製企業。原油の輸入・生成、販売に加えて原油や天然ガスの開発にも従事。原油価格が上昇すると販売価格が上昇し、株価が少々しやすい。

東京ガス(9531)

企業概要: 日本最大の都市ガス企業。グループ全体で「LNGバリューチェーン」に取り組み、天然ガスを始めする資源の原料の調達から、輸送、都市ガスの製造、供給、販売、電力供給、エネルギーソリューション提供と続く、一連の事業活動を行っている。天然ガスも石油と同様にエネルギー価格の動向に影響されやすい。ガス供給企業は、原油価格の上昇が天然ガス価格にも波及することが多いため、エネルギー価格全体が上昇する局面では、利益が増加する可能性がある。

大阪ガス(9532)

企業概要:都市ガス2位。都市ガスの製造、販売、LNGの供給、販売、電力の発電、供給、販売等を手掛けている。東京ガス同様、原油価格の上昇が天然ガス価格にも波及することが多いため、エネルギー価格全体が上昇する局面では、利益が増加する可能性がある。

防衛関連銘柄

三菱重工(7011)

企業概要: 日本最大の防衛関連企業の一つであり、航空機、艦船、ミサイルシステム、原子力技術など、多岐にわたる製品を提供している。自衛隊向けの戦闘機や護衛艦の建造にも関わっており、防衛分野での存在感が非常に強い。

川崎重工業(7012)

企業概要: 航空機、潜水艦、ヘリコプターなどを製造している川崎重工業も、防衛関連銘柄である。特に航空機エンジンや輸送機、防衛用ヘリコプターなどの製造に携わっており、日本の防衛産業に重要な役割を果たしている。

IHI(7013)

企業概要: IHIは、航空機エンジンやロケットなどの防衛関連製品を製造している。特に航空自衛隊向けのジェットエンジンや宇宙関連技術に強みがあり、軍事技術分野での重要な企業である。

金(ゴールド)関連銘柄

住友金属鉱山(5713):日本を代表する大手非鉄金属メーカーで、特に金や銅、ニッケルなどの資源開発、採掘、精錬を行っている。フィリピン、チリに金鉱山を所有しており、カナダ、アメリカでも金鉱山プロジェクトに出資している。金価格の上昇に連動して株価が上がることが多い。

三菱マテリアル(5711):大手非鉄金属メーカーで、金地金販売、銅精錬、セメント製造、金属加工、アルミ缶製造等を行っている。金価格の上昇に連動して株価が上がることが多い。

DOWAホールディングス(5714):非鉄金属の製錬、加工、環境・リサイクルを主たる業務とするDOWAグループの持株会社。貴金属精錬やリサイクル事業を展開しており、金の精錬も行っている。多様な金属を取り扱っており、金や銀、銅などのリサイクル事業にも強みを持っている。金価格の上昇に連動して株価が上がることが多い。