基本情報
企業概要
1999年設立。東京都千代田区に本拠地を置く2出前仲介サイト「出前館」を運営。配達代行業務、飲食店向け酒類の通信販売も展開。LINE子会社。2003年東証JASDAQスタンダード上場。
株式関連情報
株価 | 3,425円(2020/10/21) |
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発行済株式数 | 85,486,500株(うち自己株式3,271,074株) |
上場市場 | 東証JASDAQスタンダード |
時価総額 | 2,815億円 |
従業員数
139名(臨時従業員1,398名、2020年7月時点)
財務データ
2016/3 | 2017/3 | 2018/3 | 2019/3 | 2020/3 | |
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売上高(百万円) | 4,155 | 4,944 | 5,431 | 6,666 | 10,306 |
営業利益(百万円) | 572 | 800 | 837 | ▲39 | ▲2,623 |
当期利益(百万円) | 348 | 433 | 559 | ▲103 | ▲4,112 |
EPS(円) | 8.63 | 10.72 | 13.79 | ▲2.53 | ▲73.86 |
純資産(百万円) | 2,342 | 2,713 | 3,269 | 2,840 | 28,479 |
BPS(円) | 57.42 | 66.65 | 80.38 | 68.87 | 346.37 |
ビジネスモデルと市場状況
最大のフード・デリバリー専門サイト
「出前館」は20年の歴史を持ち、会員数284万人以上、店舗数は3万3000店舗の日本最大のフード・デリバリーサイト。
2000年に出前館サイトを開始してからビジネス・モデルとしては加盟店に代わり注文を受け付けるプラットフォームを提供し続けてきた。注文の仲介が出前館にとっての収益源である。2003年にJASDAQに上場してから様々な企業と提携を結ぶ事により出前館は順調に成長し2018年8月期まで増収増益を達成し、フード・デリバリー市場で圧倒的な強さであった。
しかし、2018年にUber Eatsが日本市場に参入して以降、様々な企業がフード・デリバリー市場に参入し市場の競争が激化。ここ2年間は出前館も注文受付プラットフォーマーからUber Eatsのようなシェアリング・デリバリー事業にも参入し拡大路線を取るようになった。
フード・デリバリー市場
日本国内のフード・デリバリー市場の規模は、少し古いデータだが市場調査会社のNPDグループが2019年4月に発表したデータによると2018年末で前年比5.9%増の4,084億円だった。直近の数字に関しては2020年4月から5月末にかけての緊急事態宣言で市場規模はおそらく5,000億円位に達したのではないと推測する。
フード・デリバリー市場の参入者はUber Eats、出前館などの大手の他にDiDiフード、Chompy、menu、Wolt、楽天デリバリー、ぐるなびデリバリー、ファインダイン、ごちくる等続々と参入してきており過当競争状態である。
提携関係にあるLINEデリマは会員数2,000万人以上と大きいが、出前館のシステムを使っており、第三者割当増資によりLINEが出前館の親会社になったため出前館+LINE連合対Uber Eatsの二大勢力の規模拡大競争が現状であると言える。
直近の決算と財務状況、主な経営指標
2020年8月期決算
2020年8月期通期の決算結果は
売上高 103億円 (前年比54.6%増)
営業損益 ▲26億円 (前期は▲3900万円)
当期損益 ▲41億円 (前期は▲1億円)
拡大路線を取っているために売上は大幅に伸びた。出前館サービス利用料は前年比52.9%増の57億円、配達代行手数料は前年比6倍の23億円となった。
シェアリング・デリバリーは1都1道2府21県まで広がり、シェアリング・デリバリー拠点数は前期比79%増の384拠点となった。戦略的投資のために費用面も大きく膨らんだ。直営拠点の運用費用の増加、事業拡大に伴う人員の増加及び配達員コストの増加、広告宣伝費の増加などにより販売管理費は前年比約2.3倍まで膨らんだ。積極的なTVやYouTubeでの広告宣伝により出前館の認知度は12.4pt上昇し、約70%となった。また、株式会社ショッパーズアイが665名を対象に2020年9月にインターネット上で実施した宅配、フードデリバリーサービスに関する調査で出前館は信頼性、配達員の質、お得に利用できるの3部門において一位を獲得した。
営業損失は前期に比べ大きく拡大し▲26億円となった。営業外費用で新株発行費用を3億円強計上し、当期損益は前期の▲1億円から▲41億円となった。
財務面では元々業務提携関係にあったLINE株式会社とそのグループ会社が出資する未来Fund有限責任事業組合に対してそれぞれ150億円、計300億円の第三者割当増資を行った。
この結果、LINEの出前館株式保有比率が35.87%、未来Fund有限責任事業組合の出前館株式持株比率は25.05%となった。第三者割当増資により資本金、資本剰余金がそれぞれ150億円ずつ増加し、株主資本比率は前期末の39.8%から79.1%となり、財務基盤が増強された。またLINEから2名の役員が取締役に就任した。
過去3年のキャッシュフロー状況
(単位:百万円) | 2018/8 | 2019/8 | 2020/8 |
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営業キャッシュフロー | 433 | 98 | ▲1,499 |
投資キャッシュフロー | ▲353 | ▲501 | ▲449 |
財務キャッシュフロー | 591 | ▲339 | 28,729 |
現金及び現金同等物期末残高 | 2,928 | 2,186 | 28,966 |
営業キャッシュフローは2020年8月期に大幅に減少しているが、税金等調整前当期純損失が前期に比べ十倍以上拡大した事、また売上の大幅増とともに未収入金が前期に比べ3倍ほどに膨らんだ事などが主な要因である。また、同期の財務キャッシュフローの大幅増は第三者割当増資により新株を発行による収入が主な要因である。
主な経営指標
2018/8 | 2019/8 | 2020/8 | |
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自己資本比率 | 50.0% | 39.8% | 79.1% |
配当性向 | 26.1% | ▲142.7% | 0.0% |
営業利益率 | 15.41% | N/A | N/A |
総資産回転率 | 0.8回 | 0.9回 | 0.3回 |
EBITDA(百万円) | 1,082 | N/A | N/A |
ROA | 8.6% | N/A | N/A |
ROE | 17.2% | N/A | N/A |
ROIC | 13.7% | N/A | N/A |
中計、KPI、今後の拡大戦略
KPI
出前館はKPIとして①アクティブ・ユーザー数、②加盟店舗数、③年間オーダー数の推移を重視している。アクティブ・ユーザー数の定義は直近1年間に1回以上オーダーしたユーザー数である。
KPIの推移は以下の通りである。
(単位:万) | 2017/8 | 2018/8 | 2019/8 | 2020/8 |
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アクティブ・ユーザー数 | 235 | 269 | 300 | 392 |
加盟店舗数 | 1.5 | 1.7 | 2.0 | 3.3 |
年間オーダー数 | 1,728 | 2,332 | 2,845 | 3,707 |
中期経営計画
出前館は2020年8月期通期決算の発表とともに中期経営計画を発表した。
2021年8月期は出前館事業拡大のための大規模な投資実行
2022年8月期は出前館サイトの収益化
2023年8月期はシェアリング・デリバリーの黒字化
数字目標
(単位:億円) | 2020/8(実績) | 2021/8(予想) | 2022/8(予想) | 2023/8(予想) |
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出前館流通金額(前年比) | 1,027(131%) | 1,600(156%) | 2,500(156%) | 3,400(136%) |
連結売上高 | 103 | 290 | 600 | 970 |
連結営業利益 | ▲27 | ▲130 | ▲20 | 120 |
上記の経営目標を達成するためにシステム開発スピードを強化し、事業拡大の3軸の強化を行う予定である。
■加盟店舗数拡大
2022年中に10万店舗達成、テイクアウト連携
■ユーザー数拡大
リブランディングによるユーザーコミュニケーションの強化
LINE IDとの連携を通じたマーケティング効果の最大化
■シェアリング・デリバリー拡大
高品質化による差別化
人口カバー率を50%以上に拡大
上述のLINE IDとの連携は2020年11月に開始予定であるが、LINE上に出前館の公式アカウントを開設し、LINEの現在地、デモグラフィック、興味関心などでターゲティングし、新規クーポンを発行し早期に顧客化するという手法を取る。
また既存ユーザーの再購入促進のためには出前館購買ログからおすすめを配信し、既存顧客のロイヤリティ化を図る予定である。
LINE IDとの連携から8,400万人送客の予定である。
また、シェアリング・デリバリーのエリア展開に関しては2020年8月末時点で人口カバー率は約30%の3,300万人であった。これを一年後の2021年8月にはカバー人口を4,300万人に拡大する予定である。中期経営計画最終年度の2023年8月には人口カバー率50%以上の6,300万人以上を予定している。
出前館とUber Eatsの比較
出前館の場合、新規に配達代行を希望する加盟店に出前館は初期費用として20,000円を請求している。出前館サービス利用料として商品代金(税抜き)の10%、配達代行手数料として商品代金(税抜き)の30%、クレジットカード利用の場合は決済手数料として注文金額(税込み)の3%。
一方Uber Eatsの場合は初期費用は無料。タブレットを店側にレンタルする場合の月間の利用料金は1,700円。手数料は売上総額(税込み)の35%。
配達員の雇用形態であるが、出前館は直接雇用のアルバイトであり、時給で支払いをしている。Uber Eatsの場合は業務委託契約を結んだ個人事業主であり、出来高制である。
また、配達に使われる乗り物であるが、出前館は自社でバイクを購入管理し、Uber Eatsは個人所有の自転車かバイクを利用している。
以上を比較してみると出前館の方がUber Eatsよりも配達代行にコストがかかっている事がわかる。コストが高い分新規の加盟店から初期費用として20,000円を徴収しているのだろう。
拡大戦略のリスク
出前館は2021年8月期に大規模な投資実行を予定しているが、この拡大戦略の最大のリスクはライバルのUber Eatsがテストを重ねているドローンの導入である。
出前館は配達拠点、配達人員を増やして拡大する配達代行ビジネスに対応しているがいわば人海戦術的な部分がある。日本の場合規制が厳しいためにドローンの導入がすぐに可能ではないが、ドローンが導入されたら配達員によるデリバリーよりも効率的な配達が可能だろう。そうなった際にUber Eatsに一気にシェアを拡大されるリスクがあると考える。
投資評価
出前館の株は拡大戦略による成長への期待からPBR9.57倍まで買われている。中期計画を達成できるか四半期毎にKPIを確認する必要がある。特に売上高の伸びに対してコストの部分の伸びが大きくなり過ぎていないか、加盟店舗数、アクティブ・ユーザー数、オーダー数の伸びが鈍化していないか等の注視が必要である。
この銘柄に関しては現時点で投資評価はしない。その大きな理由として出前館とUber Eatsはライバル関係にあるように見えるが出前館はLINEの子会社であり、LINEはソフトバンクグループ・ホールディングスの傘下である。
一方 Uber Eatsを展開するUber Technologiesにソフトバンクのヴィジョン・ファンドが出資しており、日本の部分に関しては出前館とUber Eatsの統合という可能性もあるために出前館のみでの投資評価が難しい。
プロフィール
株式会社クリプタクト
マーケットアナリスト 西村 麻美
新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。
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