基本情報
企業概要
1946年設立。大阪府大阪市に本社を置く日本の化学メーカー。アクリル酸エステルに強く多品種少量生産が得意な独立系化学企業。紙・塗料・化粧品から液晶などの電子製品まで、様々な用途に使用されている。1987年大阪証券取引所二部に上場。2005年東証二部に上場。2011年東証一部上場。
株式関連情報
株価 | 4,390円(2021年4月9日) |
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発行済株式数 | 22,410,038株(うち自己株式258,309株) |
上場市場 | 東証一部 |
時価総額 | 972億円 |
従業員数
435名(単体ベース、2020年11月時点)
財務データ
2016/11 | 2017/11 | 2018/11 | 2019/11 | 2020/11 | |
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売上高(百万円) | 23,586 | 26,562 | 29,258 | 28,638 | 28,681 |
営業利益(百万円) | 2,441 | 3,208 | 3,660 | 3,663 | 4,442 |
当期利益(百万円) | 2,044 | 2,161 | 2,678 | 3,035 | 3,314 |
EPS(円) | 91.07 | 96.51 | 120.67 | 137.05 | 149.59 |
純資産(百万円) | 26,973 | 29,698 | 30,662 | 32,547 | 35,026 |
BPS(円) | 1193.90 | 1315.71 | 1372.88 | 1455.38 | 1564.57 |
ビジネスモデルと市場状況
特殊アクリル酸エステルを多品種少量生産
アクリル酸エステルとは原油からとれるプロピレンを原料とする「アクリル酸」に「アルコール類」を化学反応させたものである。塗料、粘着剤、合成樹脂、建材などの幅広い産業分野での製品開発に欠かせない中間体原料である。
アクリル酸エステルでも、アクリル繊維、塗料などの主原料として使用される「汎用アクリル酸エステル」と塗料、接着剤等の添加剤的な原料として使用し、その性質や機能を高める「特殊アクリル酸エステル」に分かれるが、大阪有機化学工業は「特殊アクリル酸エステル」のトップ・サプライヤーである。
大阪有機化学工業は豊富なラインアップを持ち、自動車用トップコート、インクジェット原料、ディスプレイ材料、化粧品原料、半導体フォトレジスト材料などさまざまな用途に用いられる原料を提供している。
フォトレジスト原料のアクリル酸エステルのトップ・サプライヤー
半導体製造の重要材料の「フォトレジスト」は半導体製造工程の1つであるリソグラフィープロセスに用いられる材料であり、光に反応してその後のエッチング工程から表面を守る・保護する役割を担っている。半導体産業で重要な「微細化」を推し進めるうえで、露光装置と並ぶコア部材であるが、大阪有機化学工業はフォトレジストのアクリル酸エステルで市場シェア6割以上を持つトップ・サプライヤーである。
ArF(波長193nm)はEUV(波長13.5nm)の一世代前であるが、現状では最も需要が強く、ArFフォトレジスト用モノマーでは、大阪有機化学工業の世界シェアは安藤社長によると7割以上との圧倒的なシェアを誇っているとの事である。
先端半導体の生産ではEUVだけでなくArFも併用されることから、大阪有機化学工業においてはArF向けの収益拡大も大きな成長ドライバーになると期待されている。EUV用モノマーでも試作段階から量産段階に移行したようである。大阪有機化学工業はフォトレジストの世界シェア一位のJSR、二位の東京応化工業に特殊アクリル酸エステルを供給していると言われている。
フォトレジストの市場規模予測
フォトレジスト用モノマーの他に電子材料で今後の成長が期待されるのが光配向材料である。大阪有機化学工業が開発した光配向材料が、有機ELフレキシブルディスプレー(有機ELFD)に用いられる薄型積層フィルムの原材料として採用されて2020年10月より量産・販売を開始した。大阪有機化学工業が開発した材料は、従来の光配向膜と比較して、非常に高い配向力を有しているため,塗布化が困難であった材料をも配向させる事ができ、塗布製造による有機ELFD用薄型積層フィルムの製造が可能となった。
この材料により製造されたフィルムは、その厚みを従来の約50分の1程度にまで薄くする事が可能となり、屈曲耐性の向上や透過率の向上、さらには折り曲げによる光学特性の変化を抑制する事ができるようになるという。この材料は、その高い配向力を活かすことで、有機ELFD用薄型積層フィルム用途だけでなく、自動車・建材等に用いられる調光フィルムや、AR/VR向けホログラフィック光学素子といった、将来有望な新規分野への展開が可能だと期待されている。しかし、足元での売上貢献としては大きなものではない。
有機EL材料市場の市場規模予測
近年、有機ELテクノロジーはディスプレイ市場を席巻しており、スマートフォン、ウェアラブル、ラップトップ、TV他、数多くのデバイスやアプリケーションに採用されている。有機ELは、最高の画質を提供し、効率的で薄型、フレキシブルかつ透明なディスプレイの生産も可能にしている。フレキシブル有機ELディスプレイは近年多くのデバイスメーカーで採用されており、通常のガラスベースのディスプレイよりも軽量で耐久性があることに加え、設計の自由度がある。
2019年、企業は折りたたみ式ディスプレイの出荷を開始し、その素材の特徴からウェアラブル、スマートフォン、ラップトップなどにも使用されている。ディスプレイ関連のリサーチファームであるDSCCの調査によると、有機ELディスプレイ市場は2019年には約5億個が生産され、270億ドルを超える収益を生み出したとの事。
市場は、スマートフォン、ウェアブル、ラップトップ、およびTV用の有機ELディスプレイに対する高い需要に支えられ今後も急速な成長を続けると予想され、2024年までに生産される有機ELパネルは年間約10億を超えるとし、売上高は500億ドル(約5兆4,500億円)に達すると予測している。
直近の決算と財務状況、主な経営指標
2020年11月決算
2020年11月期決算の結果は
売上高 | 286億8,100万円 | (前期比0.1%増⤴) |
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営業利益 | 44億4,200万円 | (同21.3%増⤴) |
当期利益 | 33億1,300万円 | (同9.3%増⤴) |
増収増益の決算だった。化成品の販売が減少したが、利益率の⾼い電⼦材料関連が好調であったこと及び、製造費⽤の減少などにより、原油安などにより原燃料のナフサの価格が下がったことにより営業利益は前期比21.3%増加した。
事業セグメント別の内訳は
1)化成品
⾃動⾞塗料、印刷インキ用モノマー販売が低調で減収減益。
売上高 | 98億4,300万円 | (前期比15.4%減⤵) |
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セグメント利益 | 6億4,800万円 | (同18.3%減⤵) |
2)電子材料
半導体市場の伸びとリモートワーク普及によるディスプレイ関連需要により増収増益だった。
売上高 | 125億6,800万円 | (前期比17.9%増⤴) |
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セグメント利益 | 28億300万円 | (同33.6%増⤴) |
3)機能化学品
ヘアケア商品向けにさまざまなアクリル樹脂を販売。国内を中心に100社以上の化粧品会社に採用されている。在宅勤務増加などで化粧品原料減少、機能材料も販売減で減収だったが、利益率の⾼い製品⽐率の増加により増益。
売上高 | 62億6,800万円 | (前期比1.1%減⤵) |
---|---|---|
セグメント利益 | 10億2,000万円 | (同29.7%増⤴) |
セグメント情報で明らかになっているが、注目すべきは電子材料事業の利益率の高さである。2020年11月期の電子材料事業のセグメント利益率は22.3%であった。化成品事業のセグメント利益率は6.58%、機能化学品事業のセグメント利益率は16.27%であり、電子材料事業の利益率の高さは群を抜いている。今後の半導体市場と有機ELFD市場の拡大を考えると、数量増から更に利益率の高まりが予想される。
三菱ケミカルの樹脂事業買収
2020年8月に三菱ケミカルから頭髪化粧品用アクリル樹脂の製造・販売事業を買収すると発表した。実際の事業譲受は2021年2月である。買収金額は非公表。
商品名は「ユカフォーマー™」「ダイヤフォーマー™」「ダイヤスリーク™」であり、2021年11月期から計上される。 しかし、利益率は高くないので、機能化学品事業全体としての利益率は低下するとみられる。
中計、KPI、今後の拡大戦略
過去3年のキャッシュフロー状況
(単位:百万円) | 2018/11 | 2019/11 | 2020/11 |
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営業キャッシュフロー | 3,479 | 3,506 | 4,799 |
投資キャッシュフロー | ▲1,737 | ▲2,739 | ▲3,976 |
財務キャッシュフロー | ▲1,739 | 433 | ▲648 |
現金及び現金同等物期末残高 | 5,177 | 6,343 | 6,512 |
営業キャッシュフローは2020年11月期に大幅に増加しているのは税金等調整前当期純利益の増加(10%弱)と減価償却費の増加(約18%増)によるものである。2019年11月期の財務キャッシュフローのプラスは長期借入金によるものである。投資キャッシュフローについては、半導体関連の材料設備の増強をしている事によりマイナス幅が拡大してきた。
現金等についてはコロナ後の目安として手元流動性を高める方針であるとの事なので、今期(2021年11月期)は前期末より増加するのではとみられる。しかし、半導体関連の設備の増強をする事になれば手元流動性が前期末より減少する可能性もある。
中期経営計画
2020年11月期から2024年11月期までの5か年にわたる中期経営計画の内容は以下の通りである。
売上高 | 370億円以上 |
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営業利益 | 50億円以上 |
営業利益率 | 13.5%以上 |
ROE | 10%以上 |
基本戦略
■特殊アクリルをベースに化学材料を展開し、収益を確保する。
■川下化戦略により新事業領域を確立する。
■海外市場への拡販強化、グローバル認知度の向上を目指す。
■特殊アクリルをベースに化学材料を展開し、収益を確保する。
■新規事業については、特殊アクリルをベースに新しい価値を創造し、大阪有機の未来を担う新製品の開発に取り組む。センサ・IoT関連分野、ロボティクス分野など、近い未来において急拡大が見込まれる市場に向けた材料開発に特に注力する意向。
直近の半導体需要、他部門の状況
3か月ほど前になるが、2020年11月期決算の機関投資家向け説明会で安藤社長が半導体需要や他事業の状況について話をした。今期(2021年11月期)の需要状況は前年比30%増の状況で、2019年に新設した設備が売上増に貢献しており、2020年増設分に関しては顧客による品質認定を進めており、下期には売上増を予定している。さらなる需要増に向けて、来期に予定していた設備増設を今期前倒しして計画している。さらに需要増が続けば、次の設備投資も検討するとの事である。
半導体需要増の背景としては5G とデータセンターの増強が追い風となっている。微細化にする要求が極端に増えていて ArF が伸びていると認識している。最先端のロジックのほか、NAND や DRAM の技術進展による伸びもあると思うが詳しい内訳は不明との事である。EUV関連については、売上ベースで、一昨年の約1.5億から昨年は約2億円に増えた。モノマーの種類が増えているが、アクリル系がメインである。
化成品事業についてはUV インクジェット関連材料の売上げは、すでに8~9割位戻っているとの事である。自動車塗料関連の主力モノマーについては、国内・中国・アメリカの各地域に販売している。売上に関してはこれら地域での自動車生産台数と連動してしているが、2020年よりも回復している。
2021年11月期予想
2021年11月期の会社発表の業績予想
売上高 | 307億円 | (前期比7.2%増⤴) |
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営業利益 | 45億円 | (同2.4%増⤴) |
当期利益 | 33億円 | (同0.1%増⤴) |
かなり保守的な業績予想である。主力のフォトレジスト用モノマーの需要が前期比30%増と強いのに当期利益ベースでほぼフラットな予想は原材料のナフサ価格昨年に比べてかなり上昇している為ではないかと推測している。
昨年3月以降は国内ナフサ価格が2万円台で推移していたが、2021年に入り3万円台まで上昇し、2月には36,000円台をつけた。化学会社である以上、原材料価格に業績が左右されるのは仕方がない事であるが、保守的な業績予想を出して、期中で上方修正になる可能性は高いと見ている。
主な経営指標
2018/11 | 2019/11 | 2020/11 | |
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自己資本比率 | 75.1% | 73.5% | 76.5% |
配当性向 | 29.8% | 29.2% | 30.8% |
営業利益率 | 12.5% | 12.8% | 15.5% |
総資産回転率 | 0.7回 | 0.7回 | 0.6回 |
EBITDA(百万円) | 5,278 | 5,501 | 6,528 |
ROA | 6.7% | 6.9% | 7.3% |
ROE | 8.9% | 9.7% | 9.9% |
ROIC | 7.9% | 7.4% | 8.6% |
投資評価
大阪有機化学工業はArFフォトレジスト用モノマーでは7割以上の世界シェアを誇っている。先端半導体の生産ではEUVだけでなくArFも併用されることから、ArF向けの収益拡大、またEUV用モノマーについても試作段階から量産に移行したとの事でEUV用モノマーについてもかなりのシェアを取れるのではないかと期待される。また、有機ELFD用光配向材料も競争力があり、市場の拡大と共に需要が拡大する事が予想される。
電子材料事業については、5G、IoT、データセンターなどにけん引されて高い伸びが続くと思われる。一方、化成品事業については利益率は低いものの、経済の正常化と共に自動車関連、印刷関連の需要の回復が期待される。化粧品原料の機能化学品事業についても同様に需要の回復が見込まれると考えている。
株価バリュエーションは予想PERが29.29倍、PBRが2.75倍、EV/EBITDAが14.2倍、PSRが3.1倍と割高感は全くない。電子材料事業の中長期的な利益成長がまだ十分に織り込まれていないと考えている。
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プロフィール
株式会社クリプタクト
マーケットアナリスト 西村 麻美
新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。
当社は、本記事の内容につき、その正確性や完全性について意見を表明し、また保証するものではございません。記載した情報、予想および判断は有価証券の購入、売却、デリバティブ取引、その他の取引を推奨し、勧誘するものではございません。過去の実績や予想・意見は、将来の結果を保証するものではございません。
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