基本情報
企業概要
2015年創業。AOSテクノロジーズ(1995年創業)から分社化する形で設立。
旧社名AOSモバイル。東京都港区に本社を置くビジネスコミュニケーションプラットフォーム事業などを行っている企業。テクノロジーで企業業務と働くヒトの生活をスマートにするため、メッセージングサービス開発・運営、ビジネスチャットサービス企画・開発・運営、AI Analytics サービス企画・開発・運営。2019年10月東証マザーズ上場。
株式関連情報
株価 | 1,802円(2021年3月26日) |
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発行済株式数 | 3,995,050株(自己株式50,080株) |
上場市場 | 東証マザーズ |
時価総額 | 71億円 |
従業員数
50名 (2021年3月時点)
財務データ
2018/12 | 2019/12 | 2020/12 | |
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売上高(百万円) | 1,120 | 1,450 | 1,908 |
営業利益(百万円) | 100 | 190 | 191 |
当期利益(百万円) | 87 | 124 | 135 |
EPS(円) | 26.07 | 35.78 | 34.59 |
純資産(百万円) | 6.8 | 1,007 | 1,184 |
BPS(円) | 101.10 | 258.61 | 300.18 |
市場概要とプロダクト
ビジネス・コミュニケーション・プラットフォーム
AI CROSSはAOSテクノロジーズからSMS双方向サービスとビジネスチャットサービスを事業譲受して設立された。これまで異なるチャネルやアプリケーションのサービス情報はサービス毎に集計・分析されており、全体を俯瞰して業務改善や生産性向上への取り組みや顧客とのエンゲージメント強化に生かす取り組みについては業界では行われてこなかった。
AI CROSSが推進する「Smart AI Engagement」のコンセプトでは、ビジネスチャットのログやSMS(ショート・メッセージ・サービス)、RCS(リッチ・コミュニケーション・サービス)などのメッセージングサービスでのデータの他、勤怠・人事情報、さらにはWeb上に点在するデータなど、様々なテクノロジー・チャネル上にある情報を集約し、AIで多面的に分析・学習・予測することで、今まで実現できなかった企業と従業員、企業とユーザーなど、新たなエンゲージメントの創出を目指している。
商品としては主力商品のメッセージングサービス「絶対リーチ」(全売上高の86%)、ビジネスチャットサービス「InCircle」(同13%)、まだ売り上げは小さいが昨年ローンチした人事関連サービスの「絶対リーチHR」がある。
A2P-SMSの市場規模とプレーヤー
SMSとはショート・メッセージ・サービスのことで、個人間では携帯端末間で日常的に利用されており、モバイルマーケティング領域においてはP2P(Person to Person)-SMSと称している。それに対してA2P-SMSはApplication to Person-SMSで、Application(法人)から個人ユーザーにメッセージを配信するものである。
市場調査会社のミック経済研究所の調査によると法人から個人に送るA2P-SMSは2017年度に2.8億通、2018年度に4.7億通、2019年度に9.2億通と伸びていて、2019年度から2024年度までの年平均成長率は48.9%と高成長が見込まれている市場である。この調査によると、2024年度配信数80億通以上になると予想されている。
今後の高成長要因として、黎明期から成長期に入ったばかりの市場で利用法人数がまだ少なく、普及率が4.1%(2020年3月末時点)と低いためポテンシャルがあること、 A2P-SMSの利用量が、2019年度で1端末当り配信数3.9通/年と極めて少ないこと、 用途が本人認証、業務連絡、事前通知、督促、プロモーション、決済と幅広く、ニーズや必要性も高まっている。DMやEメールと比べて到達率と開封・閲覧率が高く、情報認知効果が高いこと、郵便料金やコールセンターからの電話料金(人件費も含む)と比べてコストが格段に安いことからA2P-SMSは大きく成長する事が予想される。
A2P-SMS配信事業者は4社でほぼ寡占状況となっており、 アクリート(4395)、 AI CROSS、 NTTコムオンラインマーケティングソリューション、メディア4uで占められている。高成長が予想される市場であるが、各携帯キャリアへの支払いがあるために顧客数がある一定まで達しないと赤字になるために新規参入の配信事業者が爆発的に増加するとは考えづらい。この四社のうちにNTTコムオンラインマーケティングソリューションが全体の50%以上のマーケットシェアを確保して四年連続トップである。
SMS関連領域でAIを活用しシェアNo.1を目指す
AI CROSSは日本で初めて、顧客と企業の双方向でのやり取りができる送受信SMSを提供しており、特許も取得済みである。通常SMS送信するためには担当者が考えなくてはならないターゲット抽出、文章の内容、タイミングなどをAIにより自動最適化するサービスを提供している。AIを活用し、SMS送受信履歴や協力会社からのデータ分析などにより利用企業、受信者双方に取りwin-winになるよう差別化している。
上述したようにA2P-SMS配信事業者のトップはNTTコムオンラインマーケティングソリューションであるが、普及率がまだ4.1%と低い段階でのトップシェアを取っているNTTコムオンラインマーケティングソリューションが圧倒的であり続けるとは言えないと考えている。
NTT系列であるので、高セキュリティ、高品質をベースとした信頼性が高いというのは当然であると言える。AI CROSSが現時点でA2P-SMS市場でどの位のマーケットを取っているかは開示がないので不明であるが、中長期的にAI CROSSがトップになる可能性は十分にあると考えている。
以下、AI CROSSのA2P-SMS商品の「絶対リーチ」が競合他社と比較して優れており、 今後シェアを大きく伸ばすのではと考える理由について述べる。
①双方向SMS特許技術により、国内全てのキャリアで双方向のやり取りが可能。また、AIによる最適化で企業側担当者の負担を軽減しつつ結果を出す事が出来る。
②デジタル・フォレンジック技術(法廷提出用データの復旧技術)を活かした高度なセキュリティ技術。 不正アクセスや機密情報の漏洩など、IT犯罪の捜査にも採用される解析技術を基礎に設計されたセキュリティは四社の中でダントツに安心である。
③常に付加サービスを開発し、ローンチしている。
「絶対リーチ!CONNECT」は独自開発のiPaaS(Integration Platform as a Service、 複数のシステムを連携して業務自動化を実現するサービス)プラットフォームを活用し、大規模システム開発不要で、低コスト、短期間でサービスの構築が可能になった。また、最新のオプション・サービスであるのオプションとして、チャットボット機能「Smart X Chat(スマートクロスチャット)」をリリースした。既存顧客からのリーチ後に顧客に求めるリアクションとして自動化や効率化を図りたいという声に基づき開発、ローンチされた。
上述したようにAI CROSSでは常にユーザーの利便性を改善するためにAIで多面的に 分析・学習・予測して高付加価値な新規サービスを開発し、ローンチをしているという点は四社の中で最も評価が出来、これがAI CROSSの成長の源泉であると考えている。今はA2P-SMS商品の普及率が低い段階なので、価格に訴求されるユーザーが多い段階かもしれないが、今後普及の拡大局面においてはAIを利用した高付加価値な新規サービスを開発、ローンチする力は他社には真似をする事が出来ない可能性が高いと考えている。
ビジネスチャットサービス
主力のSMS商品の次に売上が大きいのがビジネスチャットの「InCircle」である。InCircle はLINEのようにシンプルで説明書なしにすぐに使えるAI機能搭載のビジネスチャットである。シンプルでありながら、AIで文書管理ボット、スケジュールボット、Q&Aボット、1対Nでの対応など業務効率を向上させる機能は他の大手ビジネスチャットサービスにはない魅力である。
InCircleはAPIに、政府も採用する高度なセキュリティ技術を使用している。3段階で暗号化されている。端末の紛失、盗難の際にデータを復元できないように暗号化している。データを送信する際は、SSL暗号化通信を行い、データベースは世界第一級の高いセキュリティのAWS(Amazon Web Service)に保管される。サーバー上のデータも暗号化している。また、端末のキャッシュも定期的に削除する仕様になっている。こうした高いセキュリティ技術は分社化する前のAOSテクノロジー時代から長年警察や弁護士の為のデータの仕事を行って来た事で蓄積され、プライバシーマークも取得している。
絶対リーチHR
適性検査「CUBIC」と AI による分析を掛け合わせて、表面的な評価だけでは計ることができない個人の特性や組織力を可視化し、情報提供するサービス。絶対リーチHRでは、適性検査で得られた情報を AI 分析にかけることで、フル活用することができる。
また、従業員同士の類似性をあぶり出してチーム編成に活かすほか、どの従業員がどの配属先に適しているか AI が学習によって導くこともできる。
直近の決算と財務状況、経営指標
2020年12月期決算
AI CROSSの2020年12月期通期決算結果は
売上高 | 19億円 (前期比 131.5%) |
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営業利益 | 1.9億円 (同 100.3%) |
当期利益 | 1.35億円 (同 108.8%) |
であった。 コロナ禍でも大幅増収、広告費等の大規模投資を吸収しなお増益を実現した。
商品別の売上の内訳は
メッセージングサービス | 16億円 (前期比 137.5%) |
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ビジネスチャットサービス | 2.43億円(同 109.9%) |
HR関連サービスなど | 1800万円(同 58.3%) |
販管費は広告宣伝費増、オフィス移転費用、人件費増などで前期比36.6%増であったが、
それを吸収して増益を確保した。また、四半期ベースでも売上、利益とも2020年12月期第四四半期は過去最高を達成した。また、取引会社数は、2020年12月期は2019年12月期の2914社から31.1%増の3,821社となった。
2021年度の戦略と業績予想
今年度はメッセージングサービス領域で以下の戦略の実施を予定している。
代理店販路の強化
代理店売上比率目標:35%から53%へ
特定業界・アカウントへの訴求
ニーズの深堀及びSmart Messaging Serviceにつなげるためのデータの獲得
データ分析基盤新プラットフォームの開発
Smart Messaging Serviceへの移行を見越したシステムの強化
M&A
顧客(シェア)獲得のために競合他社の買収を考えている。
また、HR関連領域ではHRクラウド(仮称)を今春リリース予定とHR新規サービスを年内にリリース予定でいる。
2021年12月期の業績は
売上高 | 25億円 (前期比 132.6%) |
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営業利益 | 2.5億円 (同 133.9%) |
当期利益 | 1.7億円 (同 12.4%) |
EPS | 44.09円 |
を予想している。
過去3年のキャッシュフロー状況
(単位:千円) | 2018/12 | 2019/12 | 2020/12 |
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営業キャッシュフロー | 105,514 | 198,717 | 130,847 |
投資キャッシュフロー | ▲90,424 | ▲78,903 | ▲8,689 |
財務キャッシュフロー | ▲26,134 | 453,544 | 98,971 |
現金及び現金同等物期末残高 | 261,775 | 835,133 | 1,056,262 |
2020年12月期に営業キャッシュフローが前期に比べて減少しているのは売上債権の増加と未払金の減少によるものである。また、同期に投資キャッシュフローのマイナス幅が大幅に減少しているのは差入保証金の回収によるものである。2019年12月期に財務キャッシュフローがプラスになったのは、新規上場に伴う株式の発行による収入によるものである。業績拡大とともに現金残高は順調に増加している。
主な経営指標
2018/12 | 2019/12 | 2020/12 | |
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自己資本比率 | 61.8% | 79.5% | 78.6% |
配当性向 | N/A | N/A | N/A |
営業利益率 | 10.01% | 13.10% | 8.93% |
総資産回転率 | 2.0回 | 1.1回 | 1.3回 |
EBITDA(百万円) | 109 | 233 | 241 |
ROA | 16.0% | 9.8% | 9.0% |
ROE | 12.32% | 18.44% | 29.54% |
ROIC | 22.6% | 15.3% | 10.8% |
投資評価
コロナ禍によるDX化は前倒しに進行し、海外のSMS市場ではSMSプレイヤー同士のM&Aが進んでいる(3Cinteractive(英国)のIMI Mobile(米国)による買収、Open Market(英国)の Infobip(英国)による買収)。この流れは日本にも来ると思われる。AI CROSSは買収側になる事を計画しているようで、今年度の戦略の一つにM&Aをあげている。NTTコムオンラインマーケティングソリューションは現在シェアを50%以上取っているが、残り2社のどちらか、あるいは両社の買収を狙っているように思える。
当然資金調達を頻繁にする事になるだろう。
株価バリュエーションは予想PERが41.33倍、PBRが6.0倍、EV/EBITDAが20.0倍、PSRが2.8倍と競合のアクリート(4395)の予想PER30.2倍、PBR6.15倍、EV/EBITDA16.6倍、PSR3.5倍よりPERベースで割高に感じるが、単なるSMS配信事業者ではなく、AIをベースにしたSMS、ビジネスチャット、HR商品などを手掛けているためにバリュエーションにプレミアムがつくのは当然であると考える。
一方、AI銘柄のAI認識技術活用したクラウド型OCRサービスのAI Inside(4488)やディープラーニングや深層学習などAIアルゴリズム機能を開発・提供するPKSHA Technology(3993)などの銘柄は予想PERがそれぞれ111.46倍、269.53倍と桁違いに評価されており、これらの銘柄から比べるとAI CROSSはかなり割安に感じる。
AIをベースにした商品である事も評価される要因であるが、ドコモ口座やLINEの情報漏えい問題からセキュリティを強化したサービス、商品が求められる中で、AI CROSSの商品のセキュリティの高さはもう少し評価されても良い印象を受ける。
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プロフィール
株式会社クリプタクト
マーケットアナリスト 西村 麻美
新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。
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