【銘柄注目ポイント!】
ヘルスケア企業として中長期的にアジアで利益成長が期待される企業。
基本情報
企業概要
大阪府大阪市に本社を置くヘルスケア企業。前身の「信天堂山田安民薬房」は1899年(明治32年)創業。1909年に社名由来の「ロート目薬」を販売。
1975年に米メンソレータム社より商標専用使用権を取得。1988年メンソレータム社を買収し、海外進出。2001年ドクター化粧品「ドクターObagi」発売。
主力商品は化粧品、目薬、内服薬など。世界110か国で商品を発売しているが、アジアの比率が高い。1961年大証二部上場、1962年東証二部上場。1964年東証一部に市場変更。
株式関連情報
株価 | 3,500円(2021年9月27日) |
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発行済株式数 | 118,089,155株(うち自己株式4,019,044株) |
上場市場 | 東証一部 |
時価総額 | 3,992億円 |
従業員数
1,595名(単体)、6,596名(連結)(2021年3月現在)
財務データ
2017/3 | 2018/3 | 2019/3 | 2020/3 | 2021/3 | |
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売上高(百万円) | 154,599 | 171,742 | 183,582 | 188,327 | 181,287 |
営業利益(百万円) | 15,451 | 19,087 | 20,812 | 23,085 | 22,990 |
当期利益(百万円) | 10,011 | 9,289 | 9,799 | 15,410 | 16,743 |
EPS(円) | 87.95 | 81.55 | 86.00 | 135.13 | 146.78 |
純資産(百万円) | 118,436 | 128,440 | 132,189 | 140,032 | 156,612 |
BPS(円) | 1,030.96 | 1,115.94 | 1,147.42 | 1,217.67 | 1,363.42 |
ビジネスモデル
製薬会社からヘルスケア企業へ
ロート製薬の前身は胃腸薬の製造販売で創業し、現在も多くのOTC医薬品を製造販売しているが、売上高ベースではスキンケア商品の構成比が一番大きい。
ロングセラーを中心に豊富なラインナップのOTC医薬品
1962年に胃薬の「パンシロン」を発売し、以降「パンシロン」ブランドは今日に至るまで胃腸薬のロングセラー・シリーズである。仕様やターゲット年齢などを細かく変えて今でも人気の商品である。
【パンシロン】
目薬に関しては、1909年に当時流行していた眼病治療のために「ロート目薬」を発売。1931年には、目薬瓶と点眼器を一体化した日本初の画期的な容器「滴下式両口点眼瓶」を開発し、目薬のトップブランドとなった。市場調査会社のインテージSRIによると、ロート製薬は2019年度の国内目薬カテゴリーでマーケット・シェア約40%の圧倒的なトップ・シェアを持っている。総売上高に占める比率は2021年3月期時点で23.2%である。
【目薬のフルラインナップ】
胃腸薬、目薬がロート製薬のロングセラー商品であるが、OTC医薬品のカテゴリーで大きな売上のブランドは和漢箋シリーズがある。
【和漢箋シリーズ】
2006年に日本人の身体に合った漢方、生薬をベースにしたブランド「和漢箋」を発売。ブランド売上は2009年度には45億円を突破した、現在も伸びているブランドである。
(商品数12種類)
【メンソレータムの外皮薬等】
1988年に買収したメンソレータムブランドも豊富なラインナップを抱えるブランドである。このブランドの売上高は開示されていないが、海外売上比率も高く、数十億円はあると推測する。
これらロングセラー商品の他に花粉症対策の「アルガード」(目薬、内服薬、鼻炎スプレー)や、便秘薬の「スラ―リア」、妊娠検査薬、排卵検査薬の「ドゥ―テスト」等多岐にわたる商品ラインナップがある。
スキンケア商品が稼ぎ頭
2021年3月期時点で総売上高の61.3%はスキンケア商品が占めている。メンソレータムブランドでスキンケア商品も発売していたが、2001年に国内競合他社に先駆けてドクターズコスメの「ドクターObagi」を発売し、ドクターズコスメブームを作った。ロート製薬がアメリカの皮膚科医オバジ氏と共同開発し大成功した。ブランドのローンチから20年経った今も人気が高いブランドである。価格は5,000円以上の高価格帯商品である。少し古い数字になるが、会社側開示によるとオバジは2018年3月期でブランド売上は58億円だった。
「ドクターObagi」の発売の3年後に「肌ラボ」を発売した。「肌ラボ」シリーズはヒアルロン酸ベースの化粧水等を中心とするドラッグストア・コスメのシリーズである。価格は1,000円弱の商品が多い。インテージSRIの調査によると「肌ラボ」は化粧水カテゴリーで13年連続売上個数日本一の商品である。(2007年4月~2020年3月販売個数)肌ラボシリーズは日本国内のみならず、アジア各国でも大人気の商品である。肌ラボシリーズのブランド売上は2018年3月期で117億円だった。
上記2ブランドの他に「メラノCC」シリーズ、「50の恵み」シリーズ、男性用スキンケア「OXY」、男性用ニオイ対策シリーズの「デオウ」など豊富な商品ラインナップを有している。
コロナ禍での決算
ロート製薬はインバウンド、特にアジア域からの観光客からの需要が大きかった。2019年3月期のピーク時にインバウンド売上は36億円であった。インバウンド需要が大幅減にも関わらず、2021年3月期決算の結果は減収だったものの当期純利益は過去最高益を更新した。
2021年3月期通期決算結果は以下の通り。
売上高 | 1,813億円 | (前期比3.7%減) |
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営業利益 | 229億円 | (同0.4%減) |
当期利益 | 167億円 | (同8.6%増) |
コロナ感染の拡大の影響で全世界的に減収であったが、アメリカ、ヨーロッパでは広告宣伝費の削減により営業利益は増益となった。また、2019年に買収した日本点眼薬研究所(眼科領域を専門とする、医療用医薬品メーカー)、2007年に買収したクオリテックファーマ(医薬品等の開発・製造受託メーカー)の寄与、また受取配当金増等により当期利益は前期比増となった。
M&Aの歴史
ロート製薬は1988年に米国のメンソレータム社を買収して以来、活発にM&Aを行い事業ポートフォリオを拡充してきた。
2002年 エムジーファーマ(脂質代謝領域をコア事業とする製薬会社)を買収。
2007年 目黒化工(現クオリテックファーマ)を買収。
2015年 摩耶堂製薬(和漢薬の製造販売の製薬会社)を買収。
2020年 日本点眼薬研究所(眼科領域の医療用医薬品)を買収。
直近では今年6月に痔治療薬のボラギノールの製造販売で知られる天藤製薬の株式67.19%を取得すると発表した。金額は非公表であるが、約90億円と言われている。2021年3月期時点でのロート製薬の現預金は529億円、前期比76億円増と高い水準にあるためにこの買収に関する資金調達は必要がなかった。
天藤製薬の直近(2021年3月期)の決算結果は純利益が6億5,700万円(前期比66.33%増)、利益剰余金145億5,500万円、総資産236億1,300万円だった。(出典は官報決算データベース)
天藤製薬買収の経緯
天藤製薬買収の経緯について、東洋経済オンライン2021年7月9日号の記事が以下のように報じている。
ロート製薬が天藤製薬を子会社化した経緯であるが、杉本社長は元武田薬品でOTC医薬品を手掛ける武田コンシューマーヘルスケア(現アリナミン製薬)で社長をしていた。杉本氏の前任者として武田コンシューマーヘルスケアの社長を務めていたのが、現在天藤製薬の会長を務めている大槻氏であった。大槻氏は天藤製薬の創業家の三代目で武田コンシューマーヘルスケアのトップに抜擢されていた。
武田薬品は2018年に希少疾患治療の医薬品の製造販売を手掛けるシャイアーを6.2兆円で買収を発表し、翌年買収が完了した。シャイアー買収により借入金が2019年3月期には5.4兆円を超えた。借入金を減らすために武田は資産売却を始め、2020年に子会社の武田コンシューマーヘルスケアを米投資ファンドに2420億円で売却した。武田コンシューマーヘルスケアの売却により、新たなパートナーを求めていた天藤製薬の現会長より杉本社長に話が持ち込まれ、ロート製薬による買収となった。
天藤製薬と武田の間柄であるが、天藤製薬は武田薬品の持分法適用会社である。(所有比率は30%)ボラギノールの販売を武田薬品はずっと委託されていたが、2017年に武田コンシューマーヘルスケアに移管された。
ロートのボラギノール戦略
日本国内の痔治療薬の市場規模は約130億円とあまり大きくないが、ボラギノールはマーケット・シェアが60%超と圧倒的なマーケット・シェアを持っている。ロート製薬もメンソレータムブランドで痔治療薬(リシーナ軟膏)を持っているが、シェアは2%ほどである。ロート製薬の杉本社長はボラギノールについて営業利益率が20%もあり、売上も安定しているとコメントをしている。
ロートが天藤買収に至ったメリットについて、収集した情報を基に3つの理由を以下にあげる。
1)痔の治療薬はナショナル・ブランドが圧倒的に強く、風邪薬やドリンク剤のようにドラッグストアがプライベート・ブランド展開する事が難しい為に圧倒的な優位性を保つ事が可能である。2)痔は受診率や治療率が低く、潜在患者が多い。成長が頭打ちの国内OTC市場において、疾患啓発次第では、市場の拡大が見込める数少ない疾患領域である事。3)ロート製薬はアジアでの売上規模が大きく(2021年3月期時点でアジアでの売上は総売上の約26%)、座薬という形状に抵抗がなく、かつ人口が増加するアジア市場で勝算が高い商品であるとの見方をしていると思われる。ボラギノールは今までは海外は台湾でのみ販売されていたが、ロート製薬は中国を始めとしてアジア域で広く販売する予定だと思われる。
ロート製薬にとり圧倒的なマーケット・シェアで利益率も高いボラギノールを妥当な価格で手に入れた事はアジア地域での事業拡大に貢献する賢明な経営判断であったと考える。
中長期の成長戦略
ロート製薬の杉本社長は2019年に就任して以降国内OTC医薬品市場でトップになると公言してきた。現在のOTC医薬品市場のトップ企業は大正製薬である。大正製薬の2021年3月期の売上高は2,819億円だった。大正製薬を抜いてトップ企業になるためにロート製薬はこれからも既存の事業ポートフォリオとのシナジーがあるM&Aを続けると予想している。しかし、あまりに巨額の買収であるとリスクの方がメリットを上回ってしまうので、大規模な借入を伴わないM&Aが望ましいと思う。
武田薬品によるシャイアー買収以降の大型買収は、大日本住友製薬によるロイバントの買収(買収金額約3,200億円)、アステラス製薬によるオーデンテス買収(買収金額約3,200億円)がある。OTC医薬品会社では、大正製薬ホールディングスは米製薬大手ブリストル・マイヤーズスクイブ傘下で、OTC医薬品を製造・販売するフランスUPSAを2018年に1,823億円で買収した。これら巨額の買収をした四社は、トップラインは伸びてはいるもののボトムラインは伸びていない。買収のシナジーは数年の単位では全く出ていなく、有利子負債が大きく膨らみ、リストラに追い込まれている。
ロート製薬の事業領域ビジョン2030によると、機能性食品を第三の柱に育てる、再生医療を事業化するとあったのでこの領域での買収になるのではと推測する。
過去3年のキャッシュフロー状況
2019/3 | 2020/3 | 2021/3 | |
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営業キャッシュフロー | 21,745百万円 | 19,040百万円 | 20,008百万円 |
投資キャッシュフロー | ▲10,245百万円 | ▲9,405百万円 | ▲10,237百万円 |
財務キャッシュフロー | ▲3,386百万円 | ▲1,603百万円 | ▲2,347百万円 |
現金及び現金同等物期末残高 | 37,345百万円 | 44,665百万円 | 52,254百万円 |
主な経営指標
2019/3 | 2020/3 | 2021/3 | |
---|---|---|---|
自己資本比率 | 65.1% | 64.4% | 68.9% |
配当性向 | 59.2% | 42.5% | 35.8% |
営業利益率 | 11.3% | 12.3% | 12.7% |
総資産回転率 | 0.9回 | 0.9回 | 0.8回 |
EBITDA | 27,216百万円 | 30,022百万円 | 29,738百万円 |
ROA | 4.9% | 7.1% | 7.4% |
ROE | 7.5% | 11.1% | 10.8% |
ROIC | 10.5% | 11.4% | 10.2% |
投資判断
ロート製薬はOTC医薬品、化粧品をコア商品とするヘルスケア事業である。OTC医薬品企業として大正製薬を抜いてトップを目指すと公言しているためにこれからもM&Aにより拡大していく戦略であると思われる。
今期(2022年3月期)の業績予想については第一四半期決算発表時は天藤製薬買収発表の前であったために業績予想には含まれておらず、第二四半期決算発表時に業績予想修正をする可能性がある。
天藤製薬の今期の当期利益を6億円と仮定し、(2021年3月期は6億5,700万円)、その67.19%がロート製薬の業績に上乗せされると計算すると約4億円である。4億円を自己株式を除く発行済み株式数で割るとEPSは3.51円上乗せされる。直近の会社予想のEPSは149.91円で3.51円上乗せすると修正EPSは153.42円になる。
現在の株価3,500円を153.42円で割ると予想PERは22.8倍となる。同業他社の大正製薬ホールディングスの予想PER50.86倍、小林製薬36.2倍と比べると大幅に割安な印象である。中長期のアジア域での利益成長と景気に左右されづらいビジネスポートフォリオを考えると割安な時に安心して買っておいてもよい銘柄に思われる。
ロート製薬に関する投資アイデア
他の投資家がロート製薬をどのようにみているか、アイデアブックでご確認いただけます。
プロフィール
株式会社クリプタクト
マーケットアナリスト 西村 麻美
新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。
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