基本情報
企業概要
1997年設立。東京都千代田区に本拠地を置く中小企業の事業承継案件主体のM&A仲介会社。M&A市場SMARTの運営。企業価値評価、デューディリジェンス業務など。
2016年6月東証マザーズ上場。2017年6月東証一部へ市場変更。2019年JPX日経中小型株指数選定。
株式関連情報
株価 | 6,050円(2020/10/5) |
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発行済株式数 | 19,354,200株(うち自己株式250,183株) |
上場市場 | 東証一部 |
時価総額 | 1,156億円 |
従業員数
131名(2020年2月時点)
財務データ
2016/2 | 2017/2 | 2018/2 | 2019/2 | 2020/2 | |
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売上高(百万円) | 2,007 | 3,093 | 3,744 | 5,078 | 6,916 |
営業利益(百万円) | 797 | 1,151 | 1,353 | 1,886 | 2,981 |
当期利益(百万円) | 511 | 804 | 920 | 1,342 | 2,202 |
EPS(円) | 30.31 | 43.39 | 47.52 | 69.86 | 115.29 |
純資産(百万円) | 2,258 | 3,745 | 4,514 | 5,162 | 7,091 |
BPS(円) | 126.63 | 193.48 | 233.01 | 270.00 | 370.98 |
市場状況
中小企業M&A市場成長の背景
少子高齢化によるGDPの縮小に関しては様々な予測がされているが、経済産業省の試算では、2025年までに、70歳(平均引退年齢)を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人となり、うち約半数の127万(日本企業全体の1/3)が後継者未定という問題を抱える事になると予想している。
出典:2016年度総務省「個人企業経済調査」、2016年度帝国データバンクの企業概要ファイルから経済産業省推計
現状を放置すると、中小企業・小規模事業者廃業の急増により、2025年までに累計650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性があると指摘している。
こうした問題を回避するために中小企業庁、経済産業省は様々な施策を講じている。事業継承、M&Aに関する経費を最大1200万円までの補助をしたり、M&Aハンドブックを中小企業庁のホームページに載せたり、セミナーを開催し事業継承にM&Aが有効な手段であるとの啓蒙をしている。
このような背景があり、事業継承目的の中小企業・小規模事業者のM&Aの市場が拡大している。2017年以降はM&Aの件数増加が顕著になり、特に日本企業同士のM&Aの件数がM&Aの70%以上を占めるようになった。レコフデータによると、2019年の日本企業同士のM&Aの件数は約3,000件となった。
2019年の日本企業同士のM&A件数3,000件のうちベンチャー企業を買収する案件が999件で約三分の一を占める。事業承継目的のM&A件数は606件で、前年度と比べて14.6%の増加であった。2020年度に入りコロナの蔓延で国内企業同士のM&Aの件数は一時的に減少すると予測されるが、経営者の高齢化に伴い事業継承目的のM&Aはこれからも加速すると思われる。
中小企業向けM&A仲介会社
中小企業向けM&A仲介の最大手は日本M&Aセンター(2127)である。1994年に設立され、全国の地銀、会計事務所等と連携をしている。2006年上場。2020年3月期売上高は320億円、時価総額は1兆70億円。強みは全国規模のネットワーク。665の会計事務所や99の地方銀行、203の信用金庫、証券会社やVC、コンサルなどと提携。
中小企業向けM&A仲介の二番手はM&Aキャピタルパートナー(6080)。2005年設立。調剤薬局の事業継承案件に強い。2013年上場。2016年にM&A仲介老舗のレコフを買収。2019年9月期売上高は125億円、時価総額は1513億円。直接提案型営業の従来の投資銀行型M&Aの営業スタイルを取る。レコフの買収により事業継承型のみならずクロスボーダーのM&Aや上場企業の戦略支援、リストラの支援、企業再生なども手掛けている。
ストライクは3番手である。上位二社と戦略的に大きく違うのはM&Aのマッチング業務の入り口としてウェブ上に案件情報を検索できるサービスM&A市場SMART(Strike M&A Rapid Trading system)を用いている事である。ストライクの2019年9月期の売上高は50億円、時価総額は1,228億円。SMARTの他にオウンドメディア「M&Aオンライン」を運営し、最新ニュースから法律までM&Aに関する情報を無料で発信し、ネット上でのM&Aビジネスの囲い込み戦略を取っている。M&Aオンラインでは自社案件のみならず他社案件の掲載、また買収希望企業による求社広告もあり月間閲覧数は継続的に100万ページビューを超えていたが、2020年5月には400万ページビューを達成した。
事業概要
ストライクのビジネスモデル
ストライクのビジネスモデルは、譲渡企業と買収企業を引き合わせ、企業の売買の仲介を行うというもので、譲渡企業、買収企業の双方からの仲介報酬が収益源となっている。創業者が公認会計士である事もあり、M&Aの案件受託に有利な公認会計士の資格を持つ従業員が多い。
一番の特徴であるM&A市場SMARTは、匿名で譲渡希望会社を掲載し、買い手となる候補企業を探索するマッチングサービスである。買収希望者は登録の必要なく誰でも案件情報を検索する事ができ、時間と空間の制約を受けないネットのメリットを生かしたサービスである。
現在はコロナ対策でwebセミナーに切り替わっているが、ターゲットとしている中小企業経営者にリーチするため会社主催で事業継承やM&Aをテーマとしたセミナーを定期的に開催してきた。
また、ターゲットとする中小企業経営者を読者として多く持つダイヤモンド社、日刊工業新聞、日本経済新聞社などといったメディア主催に、ストライク社協賛という形でもセミナーを実施してきた。
クライアントである譲渡企業は、売上高1,000百万円程度の非上場中小企業であり、特定業種の偏りはない。譲渡企業の6割以上が後継者不在による事業承継のために譲渡を希望している。
2020年8月期決算
2020年8月期通期決算の結果は、売上高が前年比32.2%増の69億1,600万円、営業利益が前年比58%増の29億8,100万円、当期利益は前年比64.1%増の22億200万円となった。
新規受託件数は340件と前期の289件に比べて17%増だった。成約件数は期初計画の143件には届かない134組だったが、前期の104組に比べて28%増だった。成約確率は39%。大型案件(1組あたりの売上が1億円以上の案件)が16組(前期6組)成約した。
新型コロナウィルスの蔓延により、出張などの営業活動が制限され、対面型セミナーの開催も中止となり、売上原価、費用が抑制され営業利益率が前期の37.2%から43.1%へと5.9ppt上昇した。
新聞やテレビ等の年間メディア掲載数は前期比8割増の635件となった。
また、資産効率化のため投資有価証券を売却し、特別利益として投資有価証券売却益を2億2,500万円計上した一方、特別損失として投資有価証券評価損を3,600万円計上した。
主な経営指標
2018/8 | 2019/8 | 2020/8 | |
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自己資本比率 | 83.2% | 80.3% | 78.4% |
配当性向 | 18.9% | 20.6% | 20.8% |
営業利益率 | 36.1% | 37.1% | 43.1% |
総資産回転率 | 0.7回 | 0.8回 | 0.8回 |
EBITDA | 1,365百万円 | 1,904百万円 | 3,016百万円 |
ROA | 17.0% | 20.9% | 24.3% |
ROE | 22.3% | 27.8% | 35.9% |
ROIC | 20.3% | 26.0% | 28.4% |
過去3年間営業利益率は36.1%から43.1%へと7pptも改善したが、2020年8月期の 営業利益率についてはコロナによる営業活動の自粛、対面セミナーの中止などによるもので一時的なものである。EBITDAは利益拡大とともに3年間で120%も伸びている。 また、ROICは3年間で8.1pptも改善した。
財務状況と今後の事業計画
過去3年のキャッシュフロー状況
(単位:百万円) | 2018/8 | 2019/8 | 2020/8 |
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営業キャッシュフロー | 1,025 | 1,367 | 2,888 |
投資キャッシュフロー | ▲115 | ▲197 | ▲133 |
財務キャッシュフロー | ▲150 | ▲694 | ▲277 |
現金及び現金同等物期末残高 | 4,918 | 5,394 | 7,871 |
2019年8月期の財務キャッシュフローの落ち込みは自己株式の取得に5億1,900万円支出した事による。営業キャッシュフローは当期利益の拡大とともに順調に伸び、現預金も増大した。
2021年9月期の計画と戦略
2021年から決算期を8月から9月に変更した事により13か月の変則決算になる予定。上場してから5年が経過し成長の加速のためにコンサルタント増員、人員増加によるオフィス移転等の先行投資負担が大きくなる計画なので、利益率は一時的に低下する予定。
2021年9月期の会社計画の業績予想
売上高 83億6800万円 (13カ月決算のために前年比はなし)
営業利益 30億8100万円
当期利益 20億6900万円
EPS 108.35円
配当見込 27円
新規受託件数は482件、成約組数は191組と大幅に伸びる予定である。
M&Aコンサルタントは27名増員し、138名になる予定である。
2021年9月期も引き続き対面セミナーでなく、webセミナーを開催する予定であるが、開催数を増やす予定である。コロナをきっかけにwebセミナーに切り替えたが、結果として地域、時間の制約が無くなり、参加者層が拡大した。また、開催費用もwebセミナーにより大きく削減できた。
現状としてM&Aの案件は買収希望企業の数と譲渡希望企業の数のアンマッチが大きい。買収希望企業の数は譲渡希望企業の20倍あり、買収を希望していても現実には買収できない会社の数が圧倒的に多い。
このアンマッチの解決のためにストライクは買収希望企業に代わって売り手企業にアプローチするプレマーケティング・サービスを開始した。内容は買収ニーズの条件を詳細にヒアリングし、各種データを元にアプローチ先を選定し、手紙、電話、訪問等でアプローチ先の譲渡意向を確認し、「M&A Online Market」に求社広告を掲載する。その後、M&A仲介依頼契約を締結し、成約までをサポートするという内容のものである。
また、今期からは業務提携を本格化する予定である。銀行、信用金庫、証券会社といった金融機関、会計事務所、税理士事務所、投資ファンド、再生ファンド、企業情報提供会社などとの提携を開始する予定である。
投資評価
ストライクは中小企業向けM&A仲介会社の三番手企業としてウェブをフルに活用した戦略を取り成長してきた。しかし、現実の問題として譲渡希望企業よりも買収希望企業の方が圧倒的に多いというアンマッチの問題があり、これを解消させ成約率を上げる事が更に成長を加速させるだろう。
事業継承目的のM&Aの市場はこれからも拡大する見込みであり、オンライン上で圧倒的な戦略を取って来たストライクがオフライン上での業務提携の強化により更に業績は拡大するものとみられる。
株価バリュエーションは予想PERが55.77倍、PBRが16.28倍、EV/EBITDAは35倍と割高である。しかし、中小企業庁、経済産業省も補助金を出し、M&Aに関するセミナーを開催したり等事業継承の手段としてのM&Aを広める活動をしており、確実に成長する市場であるためにリスクは低いと考える。
プロフィール
株式会社クリプタクト
マーケットアナリスト 西村 麻美
新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。
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