執筆:西村 麻美


 


 

基本情報


 

 

企業概要

1964年創業。東京都新宿区拠点で医薬品、食品、化学等の業界向け造粒・コーティ ング装置およびプラントエンジニアリングと医薬品添加剤、食品品質保持剤、栄養補 助食品等の開発・製造販売を手掛ける機械メーカー。コーティング装置メーカー世界 第3位。


 

株式関連情報

株価675円(2020/7/17)
発行済株式数18,400,000株(うち自己株式1,655,480株)
上場市場東証JASDAQスタンダード
時価総額113億円


 

従業員数

383名(連結)、他に平均臨時雇用者60人(2020年2月時点)

財務データ

 2016/22017/22018/22019/22020/2
売上高(百万円)19,02721,16419,80118,40816,772
営業利益(百万円)1,3462,0411,9711,223558
当期利益(百万円)9611,0641,477843361
EPS(円)55.7461.7285.6950.1522.79
純資産(百万円)11,52912,18513,24213,25013,243
BPS(円)668.57706.62767.91791.34790.94


 

事業別の概要


 

フロイト産業の事業

フロイント産業は創業当初より機械と化成品を同時に事業化してきた。ユーザー企業との共同開発・製品化によるフィードバックを基に継続的な技術開発を行い、造粒・コーティングなどの製剤技術をコアコンピタンスに、製剤装置・化成品群「ハード」と製剤技術「ソフト」をより融合してきた。


 

機械部門

医薬品、食品、ファインケミカルなどのさまざまな分野向けに、造粒、コーティング装置などを製造・販売している。コーティング装置の販売シェアは、国内で約70%

アジア市場に加え、米国子会社による欧米展開も加速し、製剤技術をベースに装置開発をしているのは、フロイント産業一社のみ。造粒・コーティング技術に、粉砕・分級技術を融合させることで、産業向け装置の拡販にも注力している。製剤機械はかなりニッチな分野であり、その中でフロイント産業は知的財産権を300件ほど所有している。

同業他社はドイツのGLATT(未上場)、同じくドイツのGEA(上場)がある。


 

化成品部門

医薬品添加剤、食品品質保持剤、栄養補助食品などを製造・販売している。

医薬品添加剤は、GMP(Good Manufacturing Practice)対応の設備で生産。医薬品の添加剤の市場ではフロイント産業は顆粒製剤(カプセル剤の中身)の核となる「球形粒」に強く、同分野では業界トップである。

食品品質保持剤は、さまざまな食品の品質保持に利用されている。造粒・コーティング技術を用い、ユーザー企業と共同開発で、栄養補助食品やシームレスミニカプセルを商品化している。


 

事業セグメント別売上・利益

(単位:百万円)機械部門化成品部門
セグメント売上11,1195,654
セグメント利益311782

売上レベルは機械部門の方が化成品部門の倍近く高いが、利益は化成品部門の方が倍以上高い。減価償却費負担が機械部門の方がはるかに高いのも機械部門の利益率が低い原因の一つであるだろう。


 

過去数年の業績動向

フロイント産業の主要顧客は製薬業界であるために売上動向は製薬業界の動向に左右される。

2017年末に厚生労働省により薬価制度の抜本的改革の内容が決められた。薬価を段階的に後発医薬品(ジェネリック医薬品)まで引き下げる事が決まり、2020年度に改定される事が決定した。薬価改定の内容が決まると製薬会社の設備投資動向は停滞気味になった。

この影響を受けてフロイント産業の造粒、コーティング装置の受注が伸び悩み、業績は2018年2月期に当期利益14億7,700万円を計上して以降は業績が下降していた。

しかし、2021年2月期第一四半期に業績は底打ちしたようだ。

新薬の特許切れに伴いジェネリックに移行し、ジェネリック医薬品メーカーからの機械受注が増加してきている。2021年2月期の業績予想は営業利益が前年比79.1%増の10億円、当期利益が前年比83.5%増の7億円と会社側は発表している。


 

全個体電池

次世代の電池として注目される全個体電池をフロイント産業は山形大学とジルコニウム化合物メーカーの第一稀元素化学工業とともに研究開発をして来た。

可燃性の液体を使わない全固体電池は安全性の高い次世代電池として各社が開発を競ってきた。ただ、既存のリチウムイオン電池の正極を使うと電池寿命が短くなるという課題があった。

長年の研究努力の結果、全固体電池の正極をコーティングする技術開発に成功した。 
新技術は第一稀元素化学工業が開発した酸化ジルコニウムをナノ(ナノは10億分の1)メートル単位で微細化した溶液をフロイント産業のコーティング装置で正極の表面に覆った。 固体電解質が正極を分解することを防ぎ、長寿命化が可能になった。

この新技術については二年以内に商品化する事を目指している。全個体電池に関してはトヨタ自動車を始めとして各社が開発をしているが、まだどの会社も商品化にはこぎつけていない

仮にフロイント産業がコーティング技術を提供している全個体電池が商品化されるとなると、用途は幅広いため新たな事業として中長期的に大きく育つと予想される。


 

財務状況と経営指標


 

過去3年のキャッシュフロー状況

(単位:百万円)2018/22019/22020/2
営業キャッシュフロー594436▲28
投資キャッシュフロー▲493▲566▲852
財務キャッシュフロー▲499▲922▲326
現金及び現金同等物期末残高6,5685,5344,314

2020年2月期の営業キャッシュフローがマイナスなのは、当期純利益が前年比約55%減 と落ち込みが大きかったこと、また売上債権が前年比11億円増加の要因が大きい。


 

有利子負債、設備投資額、減価償却費、研究開発費

フロイント産業の過去3年間の有利子負債、設備投資額、減価償却費、研究開発費は以下である。

(単位:百万円)2018/22019/22020/2
有利子負債N / AN / A33
設備投資額524627951
減価償却費344344386
研究開発費862832725

2020年2月期は約3,300万円の短期借入金をしたが、基本は借入をせずに設備投資、研究開発をしている。


 

主な経営指標

 2018/22019/22020/2
自己資本比率69.2%75.9%71.6%
配当性向23.3%39.7%87.8%
営業利益率9.95%6.64%3.32%
総資産回転率1.0回1.1回0.9回
EBITDA2,157百万円1,575百万円951百万円
ROA7.7%4.8%2.1%
ROE11.2%6.4%2.9%
ROIC10.2%6.1%2.8%

過去3期は業績の下降局面であったために利益が低下し、全ての指標が悪化している。 2021年2月期第一四半期を底として業績は回復軌道にのせると予想されるので指標も改善されるだろう。


 

投資判断

フロイント産業は製薬業界を主要顧客とする機械メーカーなので、業績は製薬業界の動向に左右されてきた。

しかし、フロイント産業がコーティング技術を提供している全個体電池が商品化されると新たな事業として中長期的に大きく成長すると思われる。

現在の株価バリュエーションは予想PERが16.17倍、PBRが0.89倍、EV/EBITDAが4.9倍と割安である。

地味な銘柄のため株価バリュエーションは割安に放置される事が多いが、全個体電池の商品化が実現したら、株価バリュエーションは大きく跳ね上がると思われる。


 

プロフィール

マーケットアナリスト西村麻実 / Market analyst Mami Nishimura株式会社クリプタクト
マーケットアナリスト 西村 麻美

新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。 
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。


 

当社は、本記事の内容につき、その正確性や完全性について意見を表明し、また保証するものではございません。記載した情報、予想および判断は有価証券の購入、売却、デリバティブ取引、その他の取引を推奨し、勧誘するものではございません。過去の実績や予想・意見は、将来の結果を保証するものではございません。 
提供する情報等は作成時現在のものであり、今後予告なしに変更または削除されることがございます。当社は本記事の内容に依拠してお客様が取った行動の結果に対し責任を負うものではございません。投資にかかる最終決定は、お客様ご自身の判断と責任でなさるようお願いいたします。 
本記事の内容に関する一切の権利は当社に帰属し、当社の事前の書面による了承なしに転用・複製・配布することはできません。