基本情報
企業概要
ローツェは1985年創業の広島県福山市本拠地の半導体関連装置、FPD(フラット・パネル・ディスプレイ)関連装置、ライフサイエンス関連装置、モータ制御機器の開発設計、製造、販売を手掛ける搬送と自動化システムの専門メーカー。
クリーン搬送に強みがあり、様々な特許を取得している。
株式関連情報
株価 | 5,170円(2020/6/15) |
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発行済株式数 | 17,640,000株(うち自己株式358,222株) |
上場市場 | 東証一部 |
時価総額 | 893億円 |
事業拠点
(国内)広島県福山市、横浜、熊本、つくば
(海外)米国、ベトナム、台湾、韓国、シンガポール、米国、ドイツ
従業員数
(単体)206名 (連結)1,899名 (2020年2月末時点)
財務データ
2016/2 | 2017/2 | 2018/2 | 2019/2 | 2020/2 | |
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売上高(百万円) | 19,942 | 24,738 | 52,248 | 31,368 | 37,103 |
営業利益(百万円) | 2,938 | 4,572 | 4,236 | 5,812 | 7,743 |
当期利益(百万円) | 2,161 | 3,055 | 2,743 | 4,397 | 5,470 |
EPS(円) | 125.09 | 176.78 | 158.73 | 254.48 | 316.57 |
純資産(百万円) | 13,462 | 16,231 | 20,847 | 23,941 | 28,571 |
BPS(円) | 668.80 | 820.34 | 984.06 | 1,190.50 | 1,463.86 |
事業/地域別の概要
事業別の売上の内訳
(2020年2月期時点)
半導体関連装置 | 28,894百万円 | (77.8%) |
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FPD関連装置 | 4,108百万円 | (11.07%) |
ライフサイエンス関連装置 | 817百万円 | (2.2%) |
その他(モーター制御機器、部品・修理など) | 3,283百万円 | (8.8%) |
半導体関連装置
半導体製造工程では真空環境を用いる処理があるため、大気用搬送ロボットと真空用搬送ロボットの2種類がある。半導体ウエハを半導体製造装置と製造装置の間で輸送する時に使われる。空気に触れるだけで品質が変わってしまうため、少しのズレやゴミも歩留まりの低下につながる。
ローツェのクリーン搬送は真空を保つ技術が半導体メーカーから高く評価され、価格は競合商品よりも高いが海外の半導体メーカーからの需要が強い。
半導体デバイスの微細化や5Gに向けメモリーメーカーによる3D NANDフラッシュメモリーやDRAMの生産拡大に向けた設備投資が積極的に行われたために売上は堅調に推移し、2020年2月期で8期連続増収、過去最高売上高を5期連続更新した。
2020年2月期時点の主な顧客はTSMC(売上高55億円)、Applied Materials(売上高54億円)だった。会社によるこのセグメントのみの利益率の公表はないが、利益率は全事業セグメントの中で一番高い。
FPD関連装置
液晶テレビ、パソコン、スマートフォン、タブレットなどの液晶ディスプレイに使用される極薄で大型のガラス基板を製造工程中で搬送する装置。
2020年2月期はサムソンの大型設備投資がなく、売上高は前年比微増だった。しかし、第4四半期に韓国の子会社ローツェ・システムズ・コーポレーション(kosdaqコード071280)が28億円のFPD関連装置の受注をし、また数週間後に追加の30億円の受注をしたが、30億円分は2021年2月期第1四半期に計上される。これらを含め、2021年2月期はサムソンによるQD-OLED(量子ドット-有機EL)パネル量産のための新規設備投資から売上高が前年比約3倍になる見込み。
ライフサイエンス事業
ライフサイエンス事業はクリーン搬送技術を応用したもので、創薬のための研究開発やiPS細胞をはじめとする細胞培養に携わる研究者が手作業で行っている細胞培養処理を自動で行うことを実現するインキュベータ(細胞培養装置)など。
2019年2月期はこのセグメントは赤字だったが、2020年2月期はインキュベータの販売が国内、中国を中心に好調で売上高は前年比ほぼ倍増となり5,000万円強の黒字だった。
地域別売上高内訳
台湾25%、米国23%、中国17%、日本13%、韓国11%、シンガポール5%、ヨーロッパ4%
(2020年2月期時点)
ベトナム新工場の稼働
ベトナム生産子会社はグループの生産拠点として生産効率の改善に努めている。設計・機械加工・組み立てに至るまでの垂直統合型生産体制を整えている。
2020年2月期は、新工場の稼働により生産効率アップし、連結営業利益率は2019年2月期の18.52%から20.86%へと改善した。
財務状況
過去3年のキャッシュフロー状況
(単位:百万円) | 2018/2 | 2019/2 | 2020/2 |
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営業キャッシュフロー | ▲27 | ▲1,494 | 6,659 |
投資キャッシュフロー | ▲1,713 | ▲4,670 | ▲5,703 |
財務キャッシュフロー | 3,858 | 9,262 | 434 |
現金及び現金同等物期末残高 | 8,652 | 11,538 | 12,838 |
営業キャッシュフローは過去2年間赤字だったが、2020年2月期に大幅に改善した。これは税引前当期純利益の前年比30%近い伸び、また減価償却費の前年比61%増によるものが大きい。
投資キャッシュフローは設備投資の拡大とともに支出が拡大した。
財務キャッシュフローが2019年2月期に大きく伸びたのは短期借入金の増額と長期借入による収入によるもので、2020年2月期に新規の長期借入金を減らした事、また長期借入金の返済による支出により縮小した。
有利子負債
2018/2 | 2019/2 | 2020/2 | |
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短期借入金(百万円) | 4,425 | 8,898 | 9,881 |
長期借入金(百万円) | 2,659 | 7,937 | 7,805 |
営業CF対有利子負債比率(年) | N / A | N / A | 2.7 |
インタレスト・カバレッジ・レシオ(倍) | N / A | N / A | 197.7 |
ローツェは過去3年間生産設備の増強や海外拠点設立のために有利子負債を増やしてきた。有利子負債は2018年2月期から2020年2月期までに約2.5倍に膨らんだ。
しかし、2020年2月期に営業キャッシュフロー対有利子負債比率は2.7年分、インタレスト・カバレッジレシオは197.7倍と潤沢な営業キャッシュフローがあるので心配はない。
なお、2018年2月期と2019年2月期は営業キャッシュフローが赤字だったために負債の指標はn/aとした。
経営戦略
ローツェの経営戦略は以下3つの重点項目を念頭に成長基盤を構築している。
①技術力強化
付加価値の高い製品の開発のために積極的に特許の取得に努め、製品技術における他社との差別化を図る。
②グローバルサポート体制の強化
海外拠点に関してはコア・クライアントの近くに子会社を設立してきた。2019年に新規にドイツに子会社を設立。
③生産革新
半導体関連装置の主力工場であるベトナム子会社、FPD関連装置を手掛ける韓国子会社を中心に、効率的な生産体制の構築や効果的な設備投資を進めてきている。ハード面については、特に自動化に取り組み、 リードタイムの短縮、コスト競争力強化及び品質のさらなる向上に努めている。また、ソフト面については、工場の基幹システムの刷新など業務の効率化に取り組んでいる。
主な経営指標
2018/2 | 2019/2 | 2020/2 | |
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自己資本比率 | 50.2% | 43.3% | 46.2% |
配当性向 | 12.6% | 9.8% | 9.5% |
営業利益率 | 8.10% | 18.52% | 20.86% |
総資産回転率 | 1.5回 | 0.7回 | 0.7回 |
ROA | 14.5% | 14.7% | 14.7% |
ROE | 17.6% | 23.4% | 23.9% |
ROIC | 13.6% | 11.6% | 13.4% |
過去3年間、ローツェは有利子負債を増やし、設備投資、海外の拠点を増やし積極的に成長戦略を取ってきた。その結果バランス・シートの拡大により総資産回転率は低下した。
しかし、営業利益率は2018年2月の8.1%から2020年2月の20.86%に大幅に改善し、ROA、ROE、ROICも改善した。
競合他社
ローツェの競合他社はナスダック上場のBrooks Automation (BRKS)、だと言われている。
Brooks Automationの時価総額は30億USドル(約3,222億円)。ローツェ同様に半導体やライフサイエンス事業の自動化システムのメーカーである。
二社のマーケット・シェアは不明であるが、Brooks Automationの時価総額はローツェの三倍以上ある。売上レベルもBrooks Automationが3倍位大きいので時価総額の差は妥当かもしれない。
Brooks Automationについて詳しく分析していないが、営業利益率は2020年12月期第二四半期で6.63%とローツェの営業利益率の三分の一以下である事からローツェの方が収益性が高い。
投資判断
半導体関連装置、FPD関連装置が主力商品であるが、クリーン搬送技術を生かしたライフサイエンス関連装置も有望な事業セグメントである。この事業は2020年2月期に黒字化したばかりで、売上規模は小さいが長期的な成長が見込まれる。
主力の半導体関連装置、FPD関連装置に関しては設計・機械加工・組み立てに至るまでの垂直統合型生産体制により、更なる効率化と利益率の高まりを期待できる。
ベトナムの新工場建設による利益の拡大が2020年2月期から始まったばかりであり、5G関連などを中心にローツェの半導体関連装置の需要はここ数年は続くと思われる。他の半導体関連装置メーカーに比べて株価バリュエーションは予想PERが13.4倍、EV/EBITDAが9.8倍と割安であり、成長株としての評価はまだ織り込まれていない印象がある。
プロフィール
株式会社クリプタクト
マーケットアナリスト 西村 麻美
新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。
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