執筆:西村 麻美

トレックス・セミコンダクターの株価情報


 

 

基本情報

 

企業概要

1995年設立。トレックス・セミコンダクターは東京都中央区に本拠地を置くアナログ電源IC(integrated circuit、集積回路)専門メーカー。半導体デバイスの開発、設計、製造販売を手掛ける。2016年に受託製造会社フェニテックセミコンダクターを子会社化。
国内に東京本社を含む8拠点、海外に9つの拠点を設け、世界の需要に対応している。2021年3月期時点で海外売上高比率は70.5%。2014年JASDAQ(スタンダード)に上場。2015年東証二部に市場変更。2018年東証一部に市場変更。

 

株式関連情報

株価2,928円(2021年7月21日)
発行済株式数11,554,200株(自己株式614,259株)
上場市場東証一部
時価総額320億円

 

従業員数

175名(単体、グループ会社1,016名、2021年4月1日現在)

 

財務データ

 2017/32018/32019/32020/32021/3
売上高(百万円)21,55923,99723,89621,50023,712
営業利益(百万円)1,2512,2121,5506781,209
当期利益(百万円)2,9309021,049417933
EPS(円)308.7799.4495.8938.0385.42
純資産(百万円)15,59719,08519,63818,67219,789
BPS(円)1,267.651,338.741,717.901,712.301,808.96

 

ビジネスモデル

 

超小型電源ICに特化した専門企業グループ

省電力、小型化、低ノイズの電源ICに特化したトレックス・セミコンダクター・グループはファブレスで設計と販売を行うトレックス(親会社)と、パワー半導体、バイポーラIC、CMOS ICの受託製造を手掛ける国内唯一のファウンドリー企業のフェニテック(100%連結子会社)で構成されている。トレックスは半導体前工程製造拠点を持たないファブレスのビジネスモデルを展開してきたが、前工程製造を外部委託する中で、フェニテックとは約半数の製品の製造を委託する協力関係にあった。様々な連携は行うが、あくまでトレックスにとってフェニテックは製造委託先の1社であり、それぞれ自立した企業として事業を展開している。トレックス・セミコンダクターはアナログICメーカーの世界ランキング10位のルネサス・エレクトロニクス(6723)の売上の約30分の一であるが、超小型、高放熱の電源ICパッケージ「Ultra small package (USP)」を開発し、どんどん進化させる競争力の高い電源ICメーカーである。

トレックス社製USP

(出典:トレックス・セミコンダクターHP

 

電源ICと様々な用途

電源ICはあらゆる電子機器に必要不可欠な電子部品である。電気を必要とする機器には全て、電源ICが使われている。その役割は電子回路の中の電圧を制御し、安定的に供給する事。いわば電子機器の心臓の役割を担っている。トレックスの電源ICは様々なものに使われている。 

(出典:トレックス・セミコンダクターHP

トレックスの電源ICの用途は、デジタルカメラやゲーム機、ウェアラブル機器、スマートフォンやパソコンなどのポータブル機器から、カーナビやバックモニターカメラのような車載機器や、監視カメラや産業ロボットなどのステイショナリー機器に至るまで幅広く使われている。以下トレックスの電源ICが使われているものの詳細をあげる。

 

民生機器

液晶テレビ 、美容機器、家庭用ゲーム機、生活家電、ホームシアター、LED照明

 

自動車

カーナビゲーション、カーオーディオ、パワーウィンドウ、パワーシート、ETC車載機、ドライブレコーダー用カメラ、バックビューモニター用カメラ

 

産業用

産業用ロボット、POSレジスター、 POS端末、工業用測定器 、スマートメーター、セキュリティ機器

 

医療用

電子体温計、体重計、血圧計、心電計、血糖値計、モニタリング機器

 

コンピューター

スマートフォン、PC周辺機器、デジタルカメ、ICレコーダーノートパソコン、電子辞書、電子書籍端末、携帯ゲーム

 

ウェアラブル機器

スマートウォッチ、スマートグラス、スマートカード、ウェアラブルカメラ、ウェアラブル端末

 

市況、中計、今後の拡大戦略

 

拡大するパワー半導体市場とトレックスの戦略

市場調査会社の富士経済の2021年6月の発表によると、パワー半導体市場は2020年の2兆8043億円に対し、2030年は4兆471億円規模に達すると予測した。パワー半導体の市場拡大を支えるのは5G、EV、自動運転、IoT、再生エネルギー等の高成長が期待される分野からの需要である。拡大するパワー半導体市場において、トレックス・セミコンダクターの製品は世界最小クラスの高効率アナログ電源ICで、省電力、小型のスペックが評価され何度も省エネ大賞やモノ作り部品大賞などを受賞している。

トレックスは元々小型、低消費電力を特長とした電源ICの開発が得意であるが、マーケットに合わせた製品を企画、開発し、事業を成長させてきた。2021年2月に発表した2021年度から2025年度までの中期経営計画では、重点分野として1)ADAS(先進運転支援システム)、自動運転、2)5G/IoT、3)全個体電池、半固体電池を上げており、これらの分野向けの電源ソリューションの開発を戦略的に進める意向である。

 

ADAS、自動運転システムの市場規模予測

富士キメラ総研の2021年4月の発表によると、ADASの世界市場規模は2020年に1兆179億円だったが、2030年には2兆3951億円までに拡大するとの予測である。ADASはカメラやレーダーからの情報をドライバーに警告、または自動で制御を行う安全支援システムである。市場はシステムを制御するECU(エンジン・コントロール・ユニット、電子制御ユニット)とセンシングデバイスを対象とする。2020年は自動車生産台数の減少に伴い、市場は前年比11.1%減が見込まれるものの、2021年以降は拡大が予想される。ADASを構成するセンサーの搭載個数は、エリアや車種によって異なるためシステム単価は上下するが、システム販売数の増加に伴い市場は拡大し、2030年は2019年比2.1倍が予測される。

同じく富士キメラ総研によると、自動運転システムの世界市場規模は、2020年に20億円だったが、2030年には1兆4,881億円までに拡大するとの予測である。自動運転システムは、LIDAR (light detection and ranging(光による検知と測距))をはじめとしたセンサーやHDマップ(高精度3次元地図)などを用いて周辺環境の検知や認識を行い、自動制御を行うシステムである。市場は立ち上がりつつあり、2021年にはレベル3のシステムが搭載された車両が新たに投入される予定である。2025年頃からレベル4の車両が投入され、本格的に市場は拡大していくとみられる。エリア別では、当面は自動運転技術に注力する自動車メーカーの拠点が多い欧州がけん引するが、長期的には官民一体で自動運転技術の開発を進める中国が最大の需要エリアになるとみられる。現状、自動運転システムの単価は、LIDARなど多くのセンサーや高度なAIチップを搭載したECUを採用しているため、ADASの約10倍となっている。今後、LIDARの低価格化は進むが検知精度向上のための複数搭載、また、他センサー類も高機能製品の搭載が増えるとみられ、システム単価が維持されることも市場拡大の要因となる。

車載ECU市場は小型化ニーズが急速に高まっており、トレックスは世界最小車載向け電源ICのDC/DCコンバータXD9267/XD9268シリーズを開発しているが、消費電力と実装スペースも半分に削減でき、放熱も2/3に抑えることができる製品であるが、市場の拡大とともにトレックス製品の需要は益々高まると予想される。

 

5G、IoT市場での電源モジュール

5Gの商用化で、基地局やデータセンターなどのインフラ側で有線通信の高速化が見込まれ、伝送速度100Gビット/秒を超える高速光通信の普及が見込まれる。100G、400Gといった高速光通信を実現するための光トランシーバモジュールでは、これまで以上に小型で、ノイズを抑えられる電源ICを必要としており、トレックスの“micro DC/DC”コンバータに強いニーズが存在する。小型、低消費電力、低ノイズというトレックスの強みを生かすチャンスはさらに増えるとトレックスは予測している。高速光通信光トランシーバ向けの負電圧出力対応“micro DC/DC”コンバータ「XCL303/XCL304シリーズ」は、電源回路サイズを5分の1に縮小でき、ノイズも大幅に抑えられ光トランシーバモジュールに適した特長を持つが、光トランシーバモジュールメーカーの殆どから採用されている。また、5GでIoTは更に進化し、新しいアプリケーションが生まれると思うが、バッテリー駆動になると予想され、小型、省電力、低ノイズのトレックスの製品の需要増加が見込まれる。

 

電池分野でのコラボレーション

次世代の電池として注目を浴びている全固体電池の分野ではトレックスはガイシ(電気を絶縁し、電線を支えるための器具)世界一のメーカーの日本ガイシと既に協業しており、超小型、薄型リチウム二次電池のEnerCeraに超小型、低消費電流の電源ICを組み合わせた「EnerCera電池ソリューション」を販売しており、拡販努力をしているが、他にも次世代バッテリーを手掛ける電池メーカーと協業し、共同開発を進める予定である。

 

フェニテックの戦略

連結子会社のファウンドリーのフェニテックは特にディスクリートと言われるダイオードやMOSFET、そして、パワー半導体を主力製品としている。受託製造が主力ではあるが、自社開発のオリジナル製品も提供している。フェニテックの顧客は車を動かすためのドライバーや、産業用ロボット、それをモーターで動かすための半導体デバイスを作っているところがあり、これら分野がこれから大きく伸びると考えており、大電力のものを中心に展開していく戦略である。具体的にはSiC(シリコンカーバイド)と呼ばれる次世代の化合物材料を用いた、SBD(ショットキーバリアダイオード)というダイオードの一種を、2020年9月にサンプル提供を開始し、今年度中に1200V品をリリース予定でいる。
世界的にまだ数社しかできていない技術で、これをフェニテックはオリジナルで提供できるため、フェニテックの顧客が自社ブランドで販売できるようにサンプルを提供した。

 

中期経営計画

トレックス・セミコンダクターは中期経営計画として2025年度に連結売上高350億円、営業利益40億円、DOE(株主資本配当率)3.0%の目標を持っている。この目標を達成するためにコラボレーションとM&Aを推進する予定である。先月ノベルクリスタルテクノロジーが酸化ガリウムの100ミリウエハーの量産に成功したが、2020年にトレックスはノベルクリスタルテクノロジーと資本提携をし、酸化ガリウムの共同研究を行っている。また、海外では2019年にインドのアナログ半導体製品開発ファブレスメーカーのCirel社と製品開発のために資本提携をしており、中期経営計画の達成は可能であると思われる。

 

主な経営指標

 

過去3年のキャッシュフロー状況

(単位:百万円)2019/32020/32021/3
営業キャッシュフロー2,6701,1451,790
投資キャッシュフロー▲3,257▲1,550▲1,546
財務キャッシュフロー▲928▲1,1772,157
現金及び現金同等物期末残高10,8839,17211,682

2021年3月期に財務キャッシュフローがプラスになったのは長期借入40億円の収入が借入金返済、配当金の支払いを上回ったためによる。

 

KPI 主な経営指標

(単位:百万円)2019/32020/32021/3
自己資本比率69.0%67.1%62.8%
配当性向41.3%104.5%42.2%
営業利益率6.5%3.2%5.1%
総資産回転率0.8回0.8回0.8回
EBITDA2,636百万円1,990百万円2,418百万円
ROA3.7 %1.5%3.0%
ROE5.4%2.2%4.7%
ROIC4.4%2.2%3.6%

 

2022年3月期予想

2022年3月期通期の会社計画の業績予想は売上高が前期比9.6%増の260億円、営業利益が同65.4%増の20億円、当期利益が同50%増の14億円と増収増益を予定している。前期第四四半期にトレックスは上場来最高売上高を計上し、フェニテックは前期通期で最高の売上高を計上したが、好調な受注状況から増益トレンドは今期も継続するだろう。

 

投資評価

EVの普及でパワー半導体は注目される分野であるが、トレックス・セミコンダクターは売上規模はまだ大きくないが、超小型、省エネ、低ノイズの電源ICの開発ではトップレベルの競争力を持っている。トレックスはEVの他に5G、IoT、全固体電池など高成長が期待される分野で製品需要が大きく伸びる事が期待されている。連結子会社のフェニテックはEVに加えて産業用ロボット、鉄道、風力、太陽光などの発電施設などを重点分野としている。親会社と子会社の重点分野が違っていることで事業ポートフォリオの分散ができている状況である。

トレックス・セミコンダクターの株価は年初から128%上昇したが、株価バリュエーションは予想PERが22.88倍、PBRが1.62倍、EV/EBITDAが8.4倍、PSRが1.3倍と割安である。中長期的な業績の成長ポテンシャルはまだ株価に十分織り込まれていない印象がある。

 

トレックス・セミコンダクターに関する投資アイデア

他の投資家がトレックス・セミコンダクターをどのようにみているか、>アイデアブックでご確認いただけます。

 

プロフィール

株式会社クリプタクト
マーケットアナリスト 西村 麻美

新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。 
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。

 

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