基本情報
企業概要
1881年創業。大阪鉄工所として創立され、造船事業を手掛ける。1943年に社名変更をし、日立造船になる。
かつて日立製作所傘下であったが、日立グループからは離脱。2002年に造船事業は切り離し、2013年にJFEエンジニアリングとの合弁でジャパンマリンユナイテッドを設立。現在の主力事業は環境・プラント事業のごみ焼却発電事業と水処理事業である。
株式関連情報
株価 | 864円(2021年3月12日) |
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発行済株式数 | 170,214,843株(うち自己株式1,677,442株) |
上場市場 | 東証一部 |
時価総額 | 1,447億円 |
従業員数
10,707名(連結ベース、2020年3月末時点)
財務データ
2016/3 | 2017/3 | 2018/3 | 2019/3 | 2020/3 | |
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売上高(百万円) | 387,043 | 399,331 | 376,437 | 378,140 | 402,450 |
営業利益(百万円) | 15,112 | 14,947 | 5,907 | 7,358 | 13,891 |
当期利益(百万円) | 5,848 | 5,864 | 2,171 | 5,445 | 2,197 |
EPS(円) | 34.96 | 34.79 | 12.88 | 32.31 | 13.04 |
純資産(百万円) | 120,666 | 117,810 | 119,014 | 120,410 | 119,500 |
BPS(円) | 677.24 | 685.83 | 693.53 | 708.89 | 700.15 |
ビジネスモデルと市場状況
造船事業撤退からごみ焼却発電施設へ
歴史の長い日立造船の造船事業は高度成長期には順風満帆であった。しかし、造船不況や韓国企業などの台頭から価格競争が激化し、2002年には本業の造船事業の切り離しをした。
造船事業に代わって社運を託したのがごみ焼却発電施設であった。ごみ焼却発電施設の歴史は長い。日立造船の地元の大阪市では1960年代、ごみ処理施設が十分に機能せず、粉塵対策が問題であった。この問題を解決できる企業は国内にはなく、大阪市はスイスのフォンロール社に依頼。同社は技術供与を了承し、そのパートナーに日立造船を指名した。造船技術は、無数の配管や電線、ポンプ、タンクなどを抱える複雑な構築物を取り扱うため、ごみ焼却発電施設にも通じる技術として高く評価されていた。
1965年に西淀工場の施設を完成させ、その後も国内事情に合わせて技術を改良し、着実に納入実績を増やした。現在の日立造船は世界最大のごみ焼却発電企業であり、全世界にごみ焼却・発電施設を納入している。国内508施設、海外486施設(ライセンシー実績を含む)、合わせて994施設の納入実績がある。
日立造船の事業セグメント
日立造船の手掛ける事業セグメントは1)環境・プラント、2)機械、3)インフラ、4)その他であるが、「クリーンなエネルギー」「クリーンな水」「環境保全、災害に強く豊かな街づくり」を軸に事業を展開している。
2020年3月期は、売上高ベースでは環境・プラントが63%、機械が26%、インフラが8%、その他が3%だったが、機械、インフラのセグメント損益が赤字だったために営業利益ベースでは環境・プラント事業が90%以上を占めた。
事業別セグメント
1)環境・プラント
環境・プラント事業では上記のごみ焼却発電施設のEPC(設計・調達・建設)や継続的事業を主力とし、バイオマスプラントなどエネルギー関連施設、汚泥再生処理センターや海水淡水化プラントなど各種水関連施設を国内外で建設。発電効率や処理能力、環境性能などで付加価値を高め、差別化を図っている。継続的事業では、24時間365日の遠隔監視および最適な運転管理に取り組むとともに、設備・機器の長期利用・延命化のための技術開発を進めている。焼却施設、リサイクル施設を合わせ140施設以上のアフターサービス業務、50件以上の運転業務、30件以上の包括運営業務を請け負っている。
2)機械
舶用エンジン、自動車向けプレス、石油・化学プラント向け圧力容器などのプロセス機器、半導体関連や食品・医療関連機器等の各種精密機械、水素発生装置などの幅広い製品群を取り揃え、開発からアフターサービスまで一貫してサポートしている。
3)インフラ
橋梁やダム・河川用水門の製作では、100 年の歴史と実績があり、モニタリングや メンテナンス、補修、耐震補強など延命化にも取り組んでいる。また、地下自動車 道路や地下鉄線路の建設を担うシールド掘進機、津波や高潮に伴う浸水を防ぐフラップゲート式水害対策設備などを手掛けている。
クリーンなエネルギーに対する取り組み
主力のごみ焼却発電施設の他にも日立造船は以下のような様々なクリーンエネルギーに対する取り組みを行っている。
■バイオガス変換
生ごみ・し尿・廃食用油などの有機性廃棄物をバイオガス変換し、エネルギー(水素ガス、電気)として利活用
■バイオマス発電
焼却してもCO2量の増減に影響を与えないバイオバイオマス発電の利用を拡大
■廃棄物発電
国内事業の更なる展開、海外PPP事業の積極展開
■洋上風力発電
日本の再生可能エネルギーの主力として期待されている洋上風力発電を推進
■Power to Gas
風力や太陽光などから生み出された電力の余剰分を水素やメタンへ変換
直近の決算と財務状況、主な経営指標
2020年3月期決算結果と問題点
前期の2020年3月期決算は、営業利益は前期比88.8%増の138億円だったが、特別損失として投資有価証券評価損を98億円、海外事業関連損失を64億円及び減損損失を5億円計上したこと等により、当期純利益は、前期比59.7%減の21億円だった。
プラント建設業は典型的な個別受注産業であり、プラント建設期間は長いものだと3~5年になる。その期間のグローバルな経済予測を行い、インフレ時とデフレ時のコスト予想をし、見積もり時には約90%のコストが確定するのが普通のようだが、日立造船の決算結果を過去に遡って見てみると、新規建設(EPC)のプロジェクトは赤字になる傾向が高く、一方継続事業は黒字である。という事はプロジェクト・マネージメントに問題があるのではと推測される。
海外企業のM&A
日立造船は近年海外企業のM&Aを活発に行ってきた。2010年に長年のパートナー企業だったごみ焼却発電メーカーA&E Inova A.G.(旧フォンロール社)を買収。この買収により世界最大のごみ焼却発電企業となった。2013年に使用済み燃料・高レベル放射性廃棄物の輸送・貯蔵容器等の設計や輸送、コンサルティング業務を行うNAC International Inc.を買収。2014年には2英国や中東にて水処理事業を展開するCumberlandグループ4社の株式を取得し、子会社化した。2017年には海水淡水化・産業用水処理事業を手がけるOsmoflo Holdings Pty Ltdの株式の70%を取得し、2018年には残りの30%の株式を取得し、完全子会社化した。
近年、積極的に海外企業のM&Aを行ってきたものの、利益貢献しているとは言い難い状況である。買収した海外子会社の多くは赤字続きだったようだ。上述しているように2020年3月期には特別損失として投資有価証券評価損、海外事業関連損失、減損損失を計167億円計上した。これらはほぼ近年買収した海外企業関連だと推測される。
また、海外子会社の損益の開示が全くない事も不安要因の一つである。2021年3月期第三四半期に入りやっとInova社は黒字化したとの事だが、インドに設立した子会社とOsmoflo Holdingsは赤字が継続しているようである。
中計、KPI、今後の拡大戦略
中期経営計画
2020年5月に発表した三年にわたる中期経営計画では2022年度(2023年3月期)に4000億円レベルの受注、売上高、営業利益率5%を目標とする収益力の強化をする予定である。
過去3か年の営業利益率は2018年3月期は1.56%、2019年3月期は1.94%、2020年3月期は3.45%と上昇傾向にある。2010年に買収したInnova社が今期黒字化した事により2021年3月期は少なくとも前期より営業利益率は高くなると思われる。
2017年度から2019年度(2020年3月期)までの三年の中期経営計画では受注目標は達成、売上目標はほぼ達成したが、利益面では大幅に未達であった。営業利益の目標の達成率は55%、当期利益の目標の達成率は40%と極端に低く、これは上述したようにプロジェクト・マネージメントに問題があった結果として利益が出せなかったと推測される。
2023年3月期までの中期経営計画に関しても定性的な物が殆どであり、具体的な数値目標達成の為のKPIなどの開示もない事、また、足を引っ張っている買収した海外企業の損益の開示が全くない事はブラックボックスに近い印象がある。
全固体電池
日立造船は2021年3月3日に世界最大級の容量の全固体電池を開発したとの報道がされた。もともと全固体リチウム電池の開発をしていたが、容量は1000㍉㌂時で従来品から約7倍に増えた。高温下など特殊な環境で動作するのが特徴で、人工衛星や産業機械など活用の幅が広がりそうとの事。年初から大阪市の工場で試作品の少量生産を開始したが、来期(2022年3月期)に販売スタートができるかは今のところ不透明である。
しかし、EV、人工衛星、産業機械など用途が広く、富士経済の予測によると2035年の全固体電池の市場規模は2兆1014億円に達するとの事であり、中長期的に新たな事業ポートフォリオとして大きく成長する事が期待される。
過去3年のキャッシュフロー状況
(単位:百万円) | 2018/3 | 2019/3 | 2020/3 |
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営業キャッシュフロー | ▲3,373 | ▲5,428 | 32,804 |
投資キャッシュフロー | ▲10,725 | ▲7,574 | 6,179 |
財務キャッシュフロー | ▲4,018 | ▲339 | ▲31,364 |
現金及び現金同等物期末残高 | 32,743 | 34,394 | 41,595 |
営業キャッシュフローは2020年3月期に売上債権の回収増と減価償却費の増加のために黒字転換した。同じ期の投資キャッシュフローは有形固定資産の売却により黒字転換した。また同じ期の財務キャッシュフローの大幅減は借入金の返済によるものである。
主な経営指標
2018/3 | 2019/3 | 2020/3 | |
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自己資本比率 | 29.8% | 27.8% | 28.8% |
配当性向 | 93.2% | 37.1% | 92.0% |
営業利益率 | 1.56% | 1.94% | 3.45% |
総資産回転率 | 1.0回 | 0.9回 | 1.0回 |
EBITDA(百万円) | 15,648 | 16,926 | 24,574 |
ROA | 0.55% | 1.33% | 0.52% |
ROE | 1.87% | 4.61% | 1.85% |
ROIC | 2.10% | 2.46% | 5.76% |
投資評価
昨年秋に就任後の所信表明演説で菅首相が2050年までに温暖化ガスをゼロにすると表明して以降「脱炭素」が国策として株式市場において人気のテーマの一つになり、ごみ焼却発電施設以外にも洋上風力発電も手掛ける日立造船は人気の銘柄になった。また、今年3月に入り、容量が世界最大級の全固体電池の開発に成功したとの報道で再び注目を集めている。
しかし、近年は海外の同業他社を積極的に買収したが、コンサルティング会社は黒字だと推測されるが、環境エンジニアリング2社は赤字続きだった。今期にInova社は買収して10年を経てやっと黒字化する事が出来たが、インドに設立した子会社とOsmoflo Holdingsはまだ赤字が続いている。
また、ディスクロージャーが良くない事もリスク要因に感じる。海外子会社の損益の開示が全くなく、既に海外売上比率が30%近くもあるが、各社の損益状況が気になる。脱炭素という人気テーマで期待先行で株価は買われている部分が大きく、通期決算の発表で失望売りとならないで欲しいと思う。
株価バリュエーションは予想PERが32.32倍、PBRが1.23倍、EV/EBITDAが8.7倍,PSRが0.5倍とPBR、PSRでは割安である。日経新聞の調べによると株価が3万円台をつけた2月15日から3月8日までで日立造船の株価は30.91%上昇しており、上昇率は全企業でトップだった。
世界最大容量の全固体電池の開発に成功した事には新たな成長事業として大きな期待が持てるが、既存の事業の採算性の改善を今期通期決算で確認してから買いを入れても遅くはない印象がある。
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プロフィール
株式会社クリプタクト
マーケットアナリスト 西村 麻美
新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。
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