執筆:西村 麻美

フルヤ金属の株価情報


 

 

基本情報

 

企業概要

1951年設立。東京都豊島区に本拠地を置く白金族元素(Platinum Group Metal、イリジウム、ルテニウムなど)を中心とする工業用貴金属製品の製錬加工及び販売を主業務とする企業。田中貴金属工業と資本業務提携を結んでいる。

2006年ジャスダック証券取引所に上場。2010年ジャスダック証券取引所と大阪証券取引所の合併に伴い、大阪証券取引所JASDAQ市場(現大阪証券取引所JASDAQ(スタンダード))に上場。

 

株式関連情報

株価9,220円(2021年4月22日)
発行済株式数7,265,212株(うち自己株式297,642株)
上場市場JASDAQ(スタンダード)
時価総額642億円

 

従業員数

331名(連結ベース、2021年4月時点)

 

財務データ

 2018/62019/62020/6
売上高(百万円)21,20121,45122,826
営業利益(百万円)3,4374,3143,473
当期利益(百万円)2,3752,7092,534
EPS(円)330.81402.61435.27
純資産(百万円)17,33414,03714,429
BPS(円)2,404.982,255.992,499.44

※連結決算を2018年6月期から始めたためにそれ以前の連結データはなし。

 

ビジネスモデルと市場状況

 

有機ELディスプレーの発光材料として世界シェア9割

フルヤ金属は創業当初よりプラチナ・グループ・メタル(PGM)の研究開発及び用途開発を進めているが、有機ELの発光材料としてほぼ独占的なシェアを持っている。

ディスプレーは電気を流すと特定の有機化合物を使った材料が発光するディスプレーで、液晶と違ってバックライトの必要がない。そのために薄くて軽く、曲げられ、高画質でもある。フルヤ金属は有機ELの発光材料として採用されている燐光(りんこう)材向けの1次材料の「高純度イリジウム化合物」を手掛けており、

世界シェアは約9割である。

 

PGM加工品が成長セクターから幅広い需要

上述の有機EL向け材料の他にも、HDDや半導体、スマートフォン、タッチパネルなどの電子デバイス向けから化学触媒など多種多様な分野で使用されている。これらの用途に加えて今後は、5G・AI・IoT・自動運転・EV・燃料電池などの成長セクターからの需要が拡大される事が予想される。

フルヤ金属の代表的商品にイリジウムルツボがある。イリジウムは酸にもアルカリにも溶けない上、融点は約2500度と超高温であり、加工がとても大変な金属であるが、他の物質を溶かしたり、高温にしたりする容器には適している。必要な周波数の電波だけを送受信し、ノイズの原因となる不要な周波数をカットするスマートフォンの主要デバイス「弾性表面波(SAW)フィルター」を作るための結晶(リチウムタンタレート)の育成に欠かせない。

また、LED基板で使用されるサファイアの育成にも欠かせない。イリジウムは1g当たり2万円台の高価な金属だが、ルツボは過酷な環境下で使われるため、1~2年もするとぼろぼろになる。フルヤ金属はひしゃげたり、摩耗したりした顧客のルツボを預かり、新品同様によみがえらせる技術も確立している。国産初のイリジウムルツボの開発を成功させてから40年で、「結晶育成用イリジウムルツボ」において世界シェア8割を占めるとこちらも圧倒的シェアである。

イリジウムルツボ(出典:フルヤ金属HP

 

スパッタリングターゲットは売上構成比率では全売上高の約40%を占めるが、フルヤ金属では様々な種類の貴金属のスパッタリングターゲットを製造している。スマートフォンや液晶テレビなどのディスプレイ、太陽電池やリチウム電池などのエネルギー、DVDやハードディスクなどの記録メディアなど、様々な製品には特徴的な機能を持った薄膜が使われている。この薄膜を作るための手法として大面積を均一に成膜できるために薄膜作製の主流となっている。HDD、FPD、半導体のMRAM(次世代不揮発性メモリ)、EMS(Micro Electro Mechanical Systems)などに使われている。また、受託成膜サービスも行っている。

スパッタリングターゲット(出典:フルヤ金属HP

 

また、ガラス溶解用プラチナム製品は液晶用・光学用を中心に、白金、白金合金製ガラス溶解器具を全世界のガラスメーカーに提供している。

温度センサーは産業界では様々な分野において幅広く使われている温度計だが、近年は半導体業界からの需要が大きい。

 

安定的な地金調達

南アフリカ共和国に貴金属鉱山を持つLonmin Plc(Sibanye Still Waterの子会社)から直接地金を調達。プラチナグループメタルを中心に、安定した質・量・価格で顧客に提供を可能にしている。PGMの調達のために資本業務提携関係にある田中貴金属工業、また三菱商事とも協力関係にある。

供給体制(出典:フルヤ金属HP

 

製造技術

加工が困難なPGMに長年取り組み技術を育んだが、約5,000℃の火焔を用いたプラズマ溶解炉において、高温・減圧の環境下で素材を溶解。これにより通常数カ月かかるイリジウムの液化が一週間程度に短縮され、その後の作業も効率化される。この製造技術はどこも真似できないものである。

 

事業別セグメント

フルヤ金属の事業別セグメントは1)電子、2)薄膜、3)センサー、4)ケミカルに分かれる。それぞれの事業セグメントの主要製品、主要用途、業績変動の要因、売上、セグメント利益の内訳は以下の通りである。

1)電子 
ルツボ:単結晶育成用ルツボ
ガラス向け溶解装置:光学ガラス向け溶解炉
海外シンチレーター結晶向け受注は堅調、 SAWフィルター向けイリジウムツボは5Gサービス開始に伴い受注回復

売上高40億円(前期比13.0%増⤴
セグメント利益9億円(前期比18.4%減⤵

2)薄膜(主力セグメント) 
ターゲット材:HDの薄膜形成、タッチパネル向け配線材
データセンター投資に伴いサーバー向けHD需要回復、銀合金(APC)ターゲットはタッチパネル向け堅調

売上高92億円(前期比0.4%増⤴
セグメント利益26億円(前期比11.4%減⤵

3)センサー 
温度センサー:半導体製造装置に付属する温度計
半導体市況回復に伴い装置メーカー受注増、半導体製造メーカーの稼働率も改善し受注増

売上高24億円(前期比11%増⤴
セグメント利益9億円(前期比50.3%増⤴

4)ケミカル 
貴金属化合物:貴金属化合物、化学触媒、精製・回収
OLED燐光材向け化合物は受注堅調、電極向け化合物は安定、化学プラント向け触媒は受注好調

売上高68億円(前期比10.5%増⤴
セグメント利益15億円(前期比21.1%減⤵

5)海外売上高 
海外売上高:130億円(総売上高の57.7%)
アジア向け輸出:79億円(海外売上高の60.3%)
北米向け輸出:27億円(同21.0%)
欧州向け輸出:24億円(同18.7%)

 

合弁会社設立および上方修正

 

新規合弁会社設立

フルヤ金属は2014年より京都大学の北川教授との共同研究を開始し、ナノ合金の量産技術を確立した。開発した技術は、白金触媒を活用した鮮度維持、防臭、防カビ、抗菌等の環境製品である。南アフリカのPGM大手のアングロ・プラチナムとの合弁会社Furuya Eco-Front Technologyを2021年に設立した。出資比率はフルヤ金属が60%、APMLが40%である。

新会社設立の背景には中国ならびに東南アジア諸国では都市部の経済発展とともに人口流入が続き、日本のみならず、安心、安全な食、生活ゴミの削減、公衆衛生の向上などが大きな課題となりつつある。

鮮度劣化による食品ロスの削減や、防臭、防カビ、抗菌による健康生活向上に貢献することを目的として合弁会社を設立。 海外を含む販路拡大や技術開発を目指す。

 

2021年6月期業績の上方修正

2021年4月15日にフルヤ金属は2021年6月期通期業績に関して2020年8月6日に 公表した業績予想を大幅に修正した。

 従前予想修正後予想2020年6月期実績
売上高(億円)233320228
営業利益(億円)4579.536.79
当期利益(億円)2950.425.34
EPS(円)449.12760.79435.27

上方修正の理由は2020年11月より一部貴金属価格が想定を大きく上回り推移していることから製品価格を上げた事、また、電子セグメントでは単結晶育成ルツボをはじめとするイリジウム製品の受注が、ケミカルセグメントでは有機EL向け化合物及び電極向け貴金属化合物の受注が好調に推移していることが要因である。

 

財務状況、主な経営指標

 

過去3年のキャッシュフロー状況

(単位:百万円)2018/62019/62020/6
営業キャッシュフロー3,053▲2,465664
投資キャッシュフロー▲458▲748▲987
財務キャッシュフロー▲7431,889623
現金及び現金同等物期末残高3,0681,7482,050

営業キャッシュフローが2019年6月期にマイナスになったのは棚卸資産が85億円増加した事が大きな要因であった。投資キャッシュフローは有形固定資産の取得(設備投資)のための支出が増加しているためにマイナス幅が拡大している。財務キャッシュフローは2019年6月期に大幅にプラスになったが、これは設備投資のために短期借入金を80億円増加した事が主な要因であった。

 

設備投資、研究開発、減価償却費

(単位:億円)2019年6月期2020年6月期2021年6月期(予)
設備投資費6.679.6921.33
研究開発費3.984.596.62
減価償却費4.294.615.64

 

主な経営指標

 2018/62019/62020/6
自己資本比率77.2%46.8%※45.0%
配当性向30.2%16.0%18.1%
営業利益率16.2%20.8%16.1%
総資産回転率0.9回0.7回0.7回
EBITDA(百万円)3,8624,8914,140
ROA10.61%10.38%8.22%
ROE13.75%17.36%17.92%
ROIC12.2%11.2%9.0%

※ 自己資本比率が大幅に低下したのは自己株式を約53億円分増加させた事による。

 

投資評価

フルヤ金属は時価総額も小さく株式市場ではあまり名前の知れている企業ではないが、有機ELディスプレーの発光材料の燐光材の1次材料の高純度イリジウム化合物の世界シェア9割、また、結晶育成用イリジウムルツボにおいて世界シェア8割を誇っている。工業用貴金属製品の製錬加工メーカーとして顧客は半導体関連のみに偏っておらず、化学メーカー、ガラスメーカーと幅広い

5G、IoT、AI、データセンターなど主導の半導体業界の高成長、液晶から有機ELへの移行、またHDD市場に関してはHDDドライブの出荷数は低下するが、ドライブ一台当たりのディスク枚数は増加しており、フルヤ金属のPGM加工技術や製品の需要は益々伸びてくるものと思われる。

また、PGM自体の生産量が少ない為に価格がここのところ高騰しているが、強い競合企業は特になくフルヤ金属にしかない技術力、製品が求められており価格転嫁をし易い。特に通常数カ月かかるイリジウムの液化が一週間程度で行える技術は他企業が絶対に真似をする事が出来なく、技術流出防止の為に関係技術者達のみにしか開示していない。供給能力に関しては次世代半導体関連需要を見越して生産能力を増強しており、今のところ問題はないと思われる。

業績上方修正後に株価は20%以上上昇したが、株価バリュエーションは予想PERが11.89倍、PBRが2.87倍、EV/EBITDAが14.2倍、PSRが2.1倍とPERベースでは割安な印象を受ける。半導体市場の成長、有機ELの今後の高い需要を支える圧倒的な技術力を持った川上企業としての評価はまだ十分に織り込まれていないと考える。

 

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プロフィール

株式会社クリプタクト
マーケットアナリスト 西村 麻美

新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。 
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。

 

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