執筆:西村 麻美


 


 

基本情報


 

 

企業概要

2009年に業界12位のセンチュリー・リーシングシステムと業界7位の東京リースが合併し誕生。伊藤忠商事の持分法適用会社。リース業界第四位。

パソコンやサーバー等の情報通信機器の取り扱いに強みを持ち、この分野のシェアは業界一位。

株式関連情報

株価5,490円(2020/6/29)
発行済株式数123,028,320株(うち自己株式984,151株)
上場市場東証一部
時価総額6,700億円


 

従業員数

7,365名 (連結、2020年6月時点)

財務データ

 2016/32017/32018/32019/32020/3
売上高(百万円)940,460976,1071,012,2001,067,6121,166,599
営業利益(百万円)65,90471,99973,74477,72188,346
当期利益(百万円)40,03343,64851,32452,27156,303
EPS(円)379.34413.51486.09494.93524.96
純資産(百万円)374,872404,818456,036524,372660,145
BPS(円)3,033.613,360.273,750.354,039.684,543.43
総資産(百万円)3,317,8623,579,8823,755,1274,086,5135,608,556

当期純利益は9期連続で過去最高益を更新。


 

 

事業別の概要

東京センチュリー(TC)では大きく四つの事業セグメントがある。

①国内リース事業 ― 情報通信機器、事務用機器、産業工作機械、輸送用機器、商業・サービス業用設備等を対象としたリース・ファイナンス(貸付・出資)及びその附帯サービス、各種事業等 
②国内オート事業 ― 法人・個人向けのオートリース、レンタカー、カーシェア事業等 
③スペシャルティ事業 ― 船舶、航空機、不動産、環境・エネルギーなどのプロダクツを対象とした、 国内・海外におけるリース・ファイナンス(貸付・出資)及びその附帯サービス、各種事業等 
④国際事業 ― 東アジア・アセアン、北米・中南米を中心としたリース・ファイナンス(貸付・出資)及びその附帯サービス、オート事業等


 

事業セグメント別営業利益

事業セグメント別の売上、利益、資産は以下になる。

(単位:百万円)国内リース事業国内オート事業スペシャルティ事業国際事業
セグメント売上504,077351,808218,76093,376
セグメント利益28,18421,92844,4497,738
セグメント利益1,471,097631,2142,147,881510,578

売上レベルでは国内リース事業が一番大きいが、利益ベース、資産ベースではスペシャルティ事業が一番大きい。 
2009年に国内リース事業のセグメント資産が全体の81%を占めていたが、資産効率を 重視した、高収益ビジネスモデルへの変革を推進してきた結果スペシャルティ事業が 大きくなった。


 

航空機リース事業

TCが航空機ビジネスを本格化させたのは2010年代に入ってからである。主力の国内 リース事業が飽和状態となりリース料率が低下してきた中、成長分野として海外事業や空機事業への投資を加速させた。

2019年10月にTCは米航空機リース大手アビエーション・キャピタル・グループ(ACG)の株式を3,200億円で取得。

2017年12月にACG株の20%を親会社の米生命保険会社パシフィック・ライフ・インシュランスから取得し、持分法適用会社としたが2019年10月のACG株の追加取得で完全子会社とした。当初の出資を含めACG買収には合計で約4,000億円を投資した。

ACGは世界11位のカリフォルニア州本拠地の航空機リース会社で1989年の設立以来 一貫して黒字を維持

ACGはナローボディ(狭胴)機(機内の通路が1本のタイプで座席数100~200の中型機)を中心に世界45か国を超える90社以上の航空会社に対してリース事業を展開している。

ACGの2020年12月期第一四半期の売上高は3億ドル(約321億円)、四半期純利益は6,633万ドル(約70億円)、純資産は36億8,000万ドル(約3,937億円)だった。

オペレーティング・リースのフル・プラットフォームを持つACGを完全子会社化する事により航空機ビジネスのバリューチェーンを全て提供する事が可能になった。航空機部品・サービス事業を手掛ける持分法適用会社のGAテレシス、エンジンリースを手掛けるGateway Engine Leasingと合わせてバリューチェーンの最大化を図るためにACGの買収は必要であった。

新型コロナウィルスの世界的な蔓延により、世界中の航空会社は経営危機の状況にあり、ACGの業績は悪化が見込まれる。

TCは2020年6月にACGに対して6億ドル(642億円)の無担保リボルビング信用枠を与える契約を結んだ。ACG支援のための資金調達のためにTCはハイブリッド社債(劣後特約付き)を発行すると発表。

負債であることから、株式の希薄化は発生しない一方で、利息の任意繰延、超長期の償還期限、清算手続および倒産手続における劣後性等の特徴がある。ハイブリッド社債発行の時期、金額については会社側からの発表はまだない。

航空機事業に関しては数年間厳しい環境が続くと思われるが、TCの業績を危うくさせるほどのリスクはないと思われる。


 

NTTとの資本業務提携

2020年2月にTCはNTTと資本業務提携をした。TCの総額約938億円の第三者割当増資のうち700億円をNTTが引き受け、第三位の株主となった。

NTTはグループのリース事業を分社化して、両社とNTTファイナンスが出資する共同運営の新会社NTT・TCリース株式会社を設立した。

TCが有する金融、サービスソリューションのノウハウとNTTグループが有する信用 力、研究開発力の融合により新たなソリューションを提供し、不動産、環境、エネルギーといった成長分野で協業するとのこと。

また、NTTグループの資産の証券化をするのではないかと推測する。NTTグループは全国に電話局、通信網、データセンターを所有している。2020年3月時点で有形固定資産が9兆円、投資不動産が1兆円とあるので、これら合わせて10兆円が証券化の対象の資産であると考えている。

NTTグループは資産証券化に対して前向きな姿勢でいるが、具体的な話がTCからもNTTからも発表されていない。しかし、TCにとってはリスクが限りなく低く安定的な事業になると考えている。


 

財務状況と経営指標


 

 

過去3年のキャッシュフロー状況

(単位:百万円)2018/32019/32020/3
営業キャッシュフロー26,428▲59,154▲50,664
投資キャッシュフロー▲107,908▲123,947▲315,177
財務キャッシュフロー81,649189,035523,062
現金及び現金同等物期末残高86,44989,727250,096

営業活動によるキャッシュ・フローは、2019年3月期、2020年3月期と二年連続でマイナスになったが、2019年は営業資産の取得によるもので、2020年は賃貸資産の取得によるものであった。

2020年3月期の財務活動によるキャッシュ・フローは、借入の増加に加え、NTT及び伊藤忠商事株式会社を割当先とする第三者割当増資等の直接調達により5,230億62百万円の収入となった。


 

 

有利子負債とEBITDA、EBITDA有利子負債倍率

TCの過去3年間の有利子負債、EBITDA、EBITDA有利子負債倍率は以下である。

 2018/32019/32020/3
有利子負債(百万円)2,757,6422,974,5114,214,048
EBITDA(百万円)194,709208,401255,493
EBITDA有利子負債倍率14.16倍14.27倍16.49倍

過去3年間有利子負債が増加し、EBITDA有利子有利子負債倍率が上昇しているが、現預金が2020年3月末で2,500億円と前年の2.5倍位増加している。また、格付けに関しては日系格付け会社2社から安定的の格付けを付与されている。


 

第四次中期経営計画

第四次中期経営計画目標として、2022年度(2023年3月期)に

経常利益 1,300億円 
当期利益 800億円 
自己資本比率 12% 
ROE 12% 

の目標を掲げている。

経常利益、当期利益ともに2020年3月期のレベルから42%増の目標である。

伊藤忠建機、NTTグループとの新会社からの利益貢献を考えると目標達成は可能であると思われる。特にNTTグループの資産証券化に本格的に取り組めばかなりの利益の上乗せになると推測する。


 

主な経営指標

 2018/32019/32020/3
自己資本比率10.5%10.4%9.9%
配当性向38.3%43.9%60.7%
営業利益率7.28%7.28%7.57%
総資産回転率0.3回0.3回0.2回
EBITDA(百万円)194,709208,401255,493
ROA2.2%2.2%1.9%
ROE13.7%12.7%11.5%
ROIC1.6%1.5%1.2%

過去3年間、TCは積極的なM&Aを行ってきたため、バランスシートが拡大した為に総資産回転率、ROAは低下した。しかし、営業利益率も改善し、EBITDAも伸びた。また、配当性向もかなり上昇した。


 


 

 

投資判断

株価は3月半ばに一旦下落したものの、すぐに回復して上昇しているが、予想PERが14.94倍、PBRが1.21倍と割安である。航空機関連の事業はマイナス要因になるが、NTTグループとの資本業務提携は中長期的にプラスであり、資産証券化に本格的に取り組めば新たな利益成長の段階に入ったと言えるだろう。


 

 

プロフィール

マーケットアナリスト西村麻実 / Market analyst Mami Nishimura株式会社クリプタクト
マーケットアナリスト 西村 麻美

新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。 
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。


 

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