11月に行われるアメリカ大統領選挙は、世界経済と金融市場に大きな影響を与える重要なイベントであり、特にドル円の為替相場はその結果に大きく左右される。このレポートでは、アメリカ大統領選挙の結果によってドル円相場が変動する可能性を分析し、それに伴う日本株市場への影響について考察する。具体的には、トランプ候補が当選した場合の円高・ドル安、ハリス候補が当選した場合のドル高・円安というシナリオを想定し、それぞれの為替変動により恩恵を受ける可能性のある日本株のセクターや銘柄を考える。

目次

  1. トランプ候補とハリス候補の経済政策の違い
  2. 両候補の為替市場への影響
  3. 直近の為替市場の状況
  4. トランプ候補が当選の場合の投資シナリオ
  5. ハリス候補が当選の場合の投資シナリオ

トランプ候補とハリス候補の経済政策の違い

トランプ候補とハリス候補の経済政策の違いを以下に記す。

【ドナルド・トランプ候補の経済政策】

トランプ元大統領の経済政策は2016年から2020年の任期中に掲げた経済政策を基本に再び推進すると予想される。彼の政策は、減税や規制緩和を中心に、ビジネスや富裕層に有利な経済方針が特徴である。

減税政策

トランプ氏は、法人税の大幅減税を通じて企業の成長を促す政策を推進した。再選されれば、さらなる減税や中小企業に対する税制優遇策を継続する可能性がある。

貿易政策(保護主義)

トランプ氏の経済政策は「アメリカ第一主義」が中心で、貿易に対する保護主義的なアプローチが特徴であった。中国や他の貿易相手国に対する関税を引き上げ、国内産業を保護する姿勢を強化していた。再選時にも同様の政策を推進し、海外製品よりも国内製品の消費を奨励すると考えられる。

規制緩和

トランプ氏は、特にエネルギー分野を中心に多くの規制を撤廃し、国内の石油・ガス産業を後押した。再び政権を取った場合、さらに規制緩和の方向に動くと推測される。

金融政策

金融緩和を支持し、低金利政策を好む傾向があった。特に株式市場の成長を重視し、FRBへの圧力を強めて経済の拡大を目指す可能性が高いと考えられる。

【カマラ・ハリス候補の経済政策】

カマラ・ハリス氏は、現在のバイデン政権で副大統領を務めており、バイデン大統領の政策を支持している。彼女が大統領になった場合、バイデン政権の経済政策を引き継ぐ可能性が高い。

増税政策(特に富裕層への課税強化)

ハリス氏は、富裕層や大企業に対する課税を強化し、中間層や低所得者層への経済支援を拡大することを重視している。バイデン政権で提案された富裕層への増税や、企業の法人税引き上げが続けられると考えられる。

グリーンニューディール(環境重視)

ハリス氏は、気候変動対策を重視しており、クリーンエネルギーへの投資や環境規制の強化を推進する政策を掲げています。再生可能エネルギー分野での雇用創出や、新技術開発への投資が重要な政策となると考えられる。

社会福祉・インフラ投資

ハリス氏は、バイデン政権の一環として進められた大規模なインフラ投資や、医療、教育分野への政府支出の拡大を支持している。特に、気候変動対策に関連するインフラ整備や、低所得者層向けの医療支援が強調されると推測される。

最低賃金の引き上げ

ハリス氏は、連邦最低賃金の引き上げを支持しており、労働者の権利向上に向けた政策を推進する可能性が高い。労働者への支援や、雇用機会の拡大を目指す経済政策が予想される。

両候補の為替市場への影響

トランプ候補が再選した場合、円高ドル安が進むと想定している。その論拠は以下の通り。

「アメリカ第一主義」を掲げ貿易において保護主義的な立場を再び取る事が予想され、アメリカの輸出は促進されるものの、貿易相手国との摩擦や関税の引き上げが米国経済に悪影響を与える懸念がある。トランプ候補は大規模な減税やインフラ投資を再び実施する可能性が高く、財政赤字の拡大が予想される。また、金融緩和を支持し、FRBへの圧力を強めて経済の拡大を目指す可能性が高い。これらの結果として円高ドル安が進むと予想している。

ハリス候補が当選した場合はバイデン大統領と同じ路線を踏襲すると思われる。バイデン政権ではインフラ投資や社会福祉政策によりインフレを助長した部分があり、FRBが2022年から急速に金利を引き上げる状況になりドル高となった。ハリス候補が当選する場合にはクリーンエネルギーやインフラ投資に大きな予算を投じる可能性が高く、これらの政策は米国経済に対する期待を高め、相対的にドル高円安になると考えている。

直近の為替市場の状況

2024年9月11日の東京外国為替市場は日本銀行の中川順子審議委員の今後の利上げを示唆した発言から円買いが加速し、一時約8か月ぶりとなる1ドル=140円台をつけた。その後はニューヨーク時間に発表された米8月の消費者物価指数(CPI)は、ほぼ予想通りではあったが、米国のインフレ高止まりを示唆する結果だった事から9月でのFOMCでの50bpの利下げ期待が後退し、ドル/円は142円台半ばまで買い戻された。翌12日に発表された米8月の卸売物価指数(PPI)は、伸びは市場予想を上回ったものの利下げ軌道は変わらずの見方が大半を占め、ドル/円は142円78銭まで買われた。しかし、13日にウォール・ストリート・ジャーナルが大幅利下げの可能性を報じるとドル/円は141円73銭まで反落した。その後16日の外国為替市場ではFOMCでの利下げ幅が50bpの予想が盛り返し、アジア市場では一時1USD=139円台まで円高が進んだが、それ以降は140円台半ばで推移している。

トランプ候補が当選の場合の投資シナリオ

ドナルド・トランプ前大統領が再選する場合には円高ドル安になると想定し、円高メリットを享受する日本株がアウトパフォームすると考えている。円高メリットを享受するセクターは主に輸入に依存する業種や国内向けのビジネス・モデルを展開する企業で、具体的には小売り、食品・飲料、紙パルプ、空運、電力・ガス等のセクターである。これらセクターから選んだ4銘柄は以下の通り。

①ニトリ(3923)

企業概要:全国トップの家具及びインテリア用品の製造物流IT小売業。ニトリはベトナム、インドネシア、中国、マレーシア、タイに委託工場を持っており商品の企画から製造、物流、販売までを自社で行なっている。ニトリは海外生産の製品をどの通貨建てにしているかの開示はないが、少なくともベトナム、インドネシアに関しては国際貿易の標準であるドル建てであると推測され、円高ドル安により仕入れコストの削減、利益率の向上につながると考えられる。

業績動向:2024年3月期より2月決算から3月決算に変更した。前期は決算期変更の経過期間にが13か月と期間が変則的であった為に売上高は前期比▲5.5%の8,958億円、営業利益は同▲8.8%の1,277億円となった。人件費、原材料費の上昇等により営業利益率は同0.5pt低下の14.3%となり、当期純利益は同▲9.0%の86億円となった。2025年3月期1Q決算は、売上高が前年同期比6.6%増の2,328億円、営業利益は同4.6%増の345億円、営業利益率は同0.3pt低下の14.8%となり、四半期純利益は同5.7%増の360億円であった。2025年3月期通期の為替の想定レートは1USD=150円、商品開発については1USD=160円を前提にしており、円高ドル安になった際の業績の上振れはかなり大きいと推測される。

②神戸物産(3038)

企業概要:業務スーパーや、ビュッフェレストラン、焼肉店、惣菜店などを直営及びフランチャイズ本部、エリアフランチャイズ本部として運営。海外での商品開発やその自社輸入、及び国内自社グループ工場での商品開発。また、それら商品の加盟店への供給。再生可能エネルギーを活用した発電所の運営。海外約50か国から1,680アイテムを輸入しており、大部分が米ドル建てであり、一部ユーロ、円も使われている。業務スーパーの店舗数は2024年7月時点で1,071店舗、2024年10月には1,083店舗になる予定である。

業績動向:前期の2023年10月期は売上高は前期比13.5%増の4,615億円、営業利益は10.4%増の307億円、営業利益率は同0.1pt低下の6.7%、為替予約関連の時価評価損により当期純利益は同▲1.3%の205.6億円であった。2024年10月期3Q決算(累計)は売上高が前年同期比11.4%増の3,773億円、営業利益が同14.4%の266億円、営業利益率が同0.2pt増の7.1%、四半期純利益が同▲4.8%の148億円であった。神戸物産は社内の想定レート等の開示をしていないが、多くのアイテムをドル建てで輸入している事もあり、円高ドル安になるとかなりの業績改善インパクトがあると思われる。

③トーモク(3946)

企業概要:段ボール加工首位。他に輸入住宅スウェーデンハウス、運輸倉庫事業も手掛ける。段ボール加工事業では国内での段ボールの加工販売、米国での段ボールの加工販売、ベトナムでの段ボールの加工販売、スウェーデンハウス事業ではスウェーデン国内の子会社で生産された住宅部材を輸入し、国内で戸建住宅の設計、施工、販売、運輸倉庫事業では国内での輸送物流及び保管事業を行っている。事業毎の売上比率は2024年3月期時点で総売上高2,115億円のうち段ボール加工が55.8%の1,180億円、スウェーデンハウス事業が25.6%の540億円、運輸倉庫事業が18.7%の395億円であった。

業績動向:2024年3月期は段ボール事業は増収増益であったが、スウェーデンハウス事業、運輸倉庫事業が減収減益であったために売上高は前期比▲0.6%の2,115億円であった。しかし段ボール事業では値上げにより利益率は改善し、営業利益は同8.1%増の80億5,700万円、営業利益率は同0.3pt改善の3.8%、当期純利益は同1.1%増の53億円であった。2025年3月期1Q決算は前年同期比1.6%増の493億7,200万円、営業利益は33.1%増の8億1,800万円、四半期純利益は同13.3%増の6億7,000万円であった。トーモクでは段ボールの原材料の輸入、スウェーデンハウスの部材の輸入、運輸倉庫事業ではガソリン価格はドル建てで取引されており、円高ドル安になるとコスト面でかなりの改善が予想される。また、株価バリュエーションが予想PERが5.6倍、PBRが0.4倍、PSRが0.2倍とかなり割安である事も上値余地の大きさも期待できると考えている。

④フィードワン(2060)

企業概要:配合飼料を中心に養鶏用飼料で国内トップ、養豚用飼料、養魚用飼料でも高いシェアを持つ配合飼料の製造販売事業。2014年に日本配合飼料と協同飼料が合併してできた企業で、三井物産の持分法適用会社。飼料原料であるとうもろこしや魚粉などの約50%以上が輸入されており、特にとうもろこしは飼料の中心的な原料である。

業績動向:2024年3月期通期は売上高が前期比1.9%増の3,139億円、営業利益は同5.4倍増の77億4,800万円、営業利益率は2.0pt改善の2.5%、当期純利益は5倍増の50億8,400万円と売上、各利益段階共に過去最高を達成した。2025年3月期1Q決算は売上高は前年同期比▲6.9%の742億8,800万円、営業利益は同9.3%増の12億9,700万円、営業利益率は同0.2pt増の1.7%、四半期純利益は同41.6%増の13億円であった。飼料原料はドル建てで取引されており、円高になると輸入コストが低下するために業績へのインパクトは大きい。また、株価バリュエーションは予想PERが7倍、PBRが0.6倍、PSRが0.1倍と割安であり、かなりの上値余地があると考えている。

 

ハリス候補が当選の場合の投資シナリオ

カマラ・ハリス副大統領が当選する場合には円安ドル高になると想定し、輸出企業にとって大きなメリットが見込まれる。具体的には自動車、機械、電子機器、半導体、輸送機器、重工業、化学、素材等のセクターである。これらセクターから選んだ4銘柄は以下の通り。

①三井金属鉱業(5706)

企業概要:金属精錬、電子材料製造、自動車部品製造が主な事業の三井グループの非鉄金属メーカー。銅箔は世界首位級。三井金属鉱業は、銅箔や非鉄金属を中心とした製品をグローバル市場で販売しており、特に電子材料や自動車向け製品が海外市場に多く依存している。三井金属鉱業は、銅、鉛、亜鉛などの非鉄金属の精錬も行っており、これら製品はドル建てで取引されている。三井金属鉱業は資源開発を自社で行っており原材料を自社で調達できる事から競合他社に比べて円安時の輸入コストの増加は低く抑える事ができる。輸出比率は約50%。

業績推移:2024年3月期は機能材料及びモビリティセグメントの主要製品の販売量は増加したが、金属価格、貴金属価格が下回って推移した事などにより売上高は前期比▲0.8%の6,467億円となったが、営業利益は退職金費用の減少、在庫要因の改善等により同153%増の317億円、営業利益率は同3.0pt改善の4.9%、当期純利益は同205.3%増の260億円であった。2025年3月期1Q決算は機能材料セグメントの主要製品の販売量増加や円安、金属価格が上回って推移した事から大幅増益となった。売上高は前年同期比15.2%増の1,699億円、営業利益は黒字転換し235億円、四半期純利益は同8.7倍増の221億円となった。三井金属鉱業は円安ドル高によるメリットが大きく、かつ株価バリュエーションが予想PERが5.8倍、PBRが0.8倍、PSRが0.4倍と割安であり円安ドル高が進行した時の上値余地は大きいと考えている。

②牧野フライス製作所(6135)

企業概要: マシニングセンタ・NC放電加工機、NCフライス盤・フライス盤・レーザ加工機等の製造、販売、輸出を手掛ける工作機械メーカー。牧野フライスの製品である工作機械は、特に自動車や航空機産業に広く使用されている。グローバルに展開しており、海外での需要が大きいため、円安になると価格競争力が向上し、海外需要がさらに増加することが期待される。輸出比率は約80%と高い。

業績推移:2024年3月期の決算は売上高が前期比▲1.2%の2,254億円、営業利益は同▲6.4%の164億円、営業利益率は同▲0.4ptの7.3%、当期純利益は同▲0.6ptの159.8億円であった。2025年3月期1Q決算は売上高が前年同期比▲3.7%の519億円、営業利益は同▲30.6%の29.5億円、営業利益率は同▲2.2ptの5.7%、四半期純利益は同▲29.6%の32億円であった。牧野フライスは輸出比率が80%と高く円安ドル高によるメリットが大きく、かつ株価バリュエーションが予想PERが9.7倍、PBRが0.98倍、PSRが0.6倍と割安であり、円安ドル高が進行した時の上値余地は大きいと考えている。               

③日本金銭機械(6418)

企業概要:紙幣識鑑別機や硬貨計数機等の貨幣処理機及び遊戯場向け機器の開発、製造、販売。欧米市場が主力で米国カジノ向けはシェアが大きい。輸出比率は約70%。

業績推移:2024年3月期通期は売上高が前期比25.1%増の316億円、営業利益は同4.5倍増の28億円、営業利益率は同6.5pt改善の9%、当期純利益は同4.3%増の33億円であった。2025年3月期1Q決算は売上高が前年同期比58.2%増の101億円、営業利益は同約7倍増の19億円、営業利益率は14.7pt改善の19%、四半期純利益は同167.1%増の20億円であった。大幅増益の要因は国内で新紙幣の改刷対応に伴う国内コマーシャル及び遊戯場向機器セグメントにおいて収益性の高い製品の販売が増加した事によるものであった。今通期の為替レートの予想は1USD=147.04円、1ユーロ=158.11円としている。日本金銭機械は輸出比率が約70%と高いために円安ドル高によるメリットが大きく、かつ株価バリュエーションが予想PER8倍、PBRが0.8倍、PSRが0.7倍と割安であり、円安ドル高が進行した時の上値余地は大きいと考えている。

④トヨタ自動車(7203)

企業概要:世界最大の自動車メーカー。四年連続販売台数世界一。傘下に日野自動車、ダイハツ自動車、SUBARUの筆頭株主、マツダ、スズキとは提携関係にある。売上の約70%を海外市場で稼いでおり、円安ドル高によるメリットが大きい。

業績推移:2024年3月期通期決算は売上高が前期比21.4%増の45兆円、営業利益が同96.4%増の5兆3,529億円、営業利益率が4.6pt増の11.9%、当期純利益が101.7%増の4兆9,449億円と過去最高益を達成した。ハイブリッド車の販売台数増、高収益車種の販売台数増、及び北米、欧州での価格改定により大幅増益となった。2025年3月期1Q決算は売上高が前年同期比12.2%増の11.8兆円、営業利益は同16.7%増の1兆3,084億円、営業利益率は同0.5pt増の11.1%、四半期純利益は同1.7%増の1兆3,333億円となった。トヨタは1円の円安で対ドルで通期の営業利益に+500億円、対ユーロで+100億円のインパクトがあり、円安ドル高による業績改善幅が大きい。

 

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