【銘柄注目ポイント】SiCパワーデバイス、車載向けビジネスを柱に中長期的な成長を期待!
企業概要
京都府京都市右京区に本社を置く電子部品メーカー。1954年に東洋電具製作所として創業。炭素皮膜固定抵抗器の開発と販売を開始した。社名のROHMは「R:抵抗 Ohm:抵抗を示す単位」に由来する。1967年にトランジスタやダイオード、1969年に半導体のICに進出。家電向け半導体のカスタムIC(集積回路)に参入すると1990年代にかけて急成長した。2000年初頭のITバブル崩壊後、日本の家電メーカーの衰退とともに需要減となった。2008年に沖電気より半導体事業(半導体事業を分社した子会社・OKIセミコンダクタ(現・ラピスセミコンダクタ)の株式95%)を買収。自動車関連等の新市場開拓のために1990年代よりSiC(炭化ケイ素)パワー半導体の研究に京都大学と取り組んできた。主な製品はパワーデバイス、LSI、トランジスタ、ダイオード、LED、抵抗器等。
連結子会社にラピステクノロジー(日本、ラピスセミコンダクタからLSI事業部分社化)、KIONIX(米国、 加速度センサの大手サプライヤー)、SiCrystal(ドイツ、大手SiC基盤メーカー)がある。
1983年大証二部上場。1986年大証一部に昇格。1989年東証一部上場。現在東証プライム上場。
株式関連情報
株価 | 10,570円(2022年12月7日) |
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発行済株式数 | 103,000,000株(うち自己株式4,856,801株) |
上場市場 | 東証プライム |
時価総額 | 1.04兆円 |
従業員数
連結従業員数:23,401人(2022年3月31日現在)
財務データ
2018年3月期 | 2019年3月期 | 2020年3月期 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | |
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売上高(百万円) | 397,106 | 398,989 | 362,885 | 359,888 | 452,124 |
営業利益(百万円) | 57,004 | 55,909 | 29,489 | 38,488 | 71,479 |
当期利益(百万円) | 37,249 | 45,441 | 25,632 | 37,002 | 66,827 |
EPS(円) | 352.14 | 431.24 | 247.65 | 376.24 | 680.62 |
純資産(百万円) | 751,877 | 766,754 | 715,479 | 769,490 | 840,353 |
BPS(円) | 7,104.04 | 7,332.04 | 7,185.83 | 7,835.49 | 8,557.15 |
ビジネスモデル
ロームは半導体・電子部品メーカーとして60年以上の間設計技術や製造技術、品質保証技術、ソリューション提案能力を積み上げ事業領域を拡大してきた。抵抗器を創業製品として事業を開始したロームは半導体素子、LSI(大規模集積回路)に進出、その後も光デバイスやモジュールの事業領域に拡大し、近年ではSiCを代表するパワーデバイス分野とアナログICに注力している。
ロームが60年以上にわたり追及してきた「品質第一のモノづくり」を支えているのが垂直統合のビジネスモデルである。材料段階から完成品までの生産工程をロームグループ内で完結させることで、一貫した品質保証・安定供給できる体制を構築している。また生産設備の自社開発を含めた高い生産技術による生産効率の改善とコストダウンを推進している。
民生機器向けから自動車向けへ転換
ロームは家電向け半導体のカスタムICに参入すると1990年代にかけて成長し、2001年3月期には4,093億円、営業利益率34.0%を達成した。しかし以降は2000年初頭に中国のハイアール、韓国のLG等の白物家電メーカーが海外進出を始め、日本の家電メーカーの衰退とともに需要減となり長期停滞となった。長年SiCの研究開発を進めていた事もあり、新たに成長する自動車関連市場にフォーカスし、ビジネスポートフォリオの転換をはかった。車載市場向け売上は2011年3月期には売上高の20%だったが2021年3月期には35%となった。2023年3月期中間決算時には車載(=自動車)向け売上は39.6%となった。
(出所:決算業績、中期経営計画説明会資料 2021年5月11日 P.27)
2023年3月期中間決算時の市場別売上高の内訳は以下である。
(出所:ローム、決算説明会補足資料 2022年度上半期決算 P.3)
市場別の売上内訳を見ると自動車市場向け売上が534億円(全売上高の39.6%)、次いで民生機器市場向けが329億円(同24.4%)、産業機械市場向けが224億円(同16.6%)、コンピューター&ストレージ市場向けが197億円(同14.6%)、通信市場向けが65億円(同4.8%)であった。自動車市場向け売上が約40%を占めたが、EV用車載製品に注力しているために自動車市場向け売上は更に伸びていく事だろう。
中期経営計画と成長戦略
2021年5月に発表した中期経営計画(2022年3月期~2026年3月期)によると5年間を成長軌道へと戻す5年とし、車載と海外での成長実現と更なる成長に向けた基盤づくりの期間としている。
- EV市場でグローバルトップシェア商品の確立(SiC、絶縁ゲートドライバ)
- 海外売上比率45%以上
- 2026年3月期に売上高4,700億円以上、営業利益率17%以上、ROE8%以上
を目標としていたが、既に営業利益率17%以上、ROE8%以上は達成した。(2022年3月期通期にROE8.4%、2023年3月期1Qに営業利益率18.0%、2Qに20.7%達成。)また、2023年3月期中間決算発表時点で産業界全体の省エネ化、及び自動車関連市場の成長や想定以上の円安進行により通期の業績予想を上方修正した。
売上高 4,521億円=>5,200億円(+15%)
営業利益 714億円=>900億円(+25.9%)
当期純利益 668億円=>800億円(+19.7%)
中期経営計画の2026年3月期に売上高4,700億円以上は2023年3月期通期に3年前倒しで5,200億円と大幅に計画を上回り達成する予定である。
成長戦略は
「パワーとアナログで車載と海外を中心に大きく伸ばす」
であるが、各事業の成長方針は下図の通りである。
(出所:決算業績、中期経営計画説明会資料 2021年5月11日 P.30)
各事業の成長方針を見るとSiCパワーデバイス、車載向け半導体ソリューションが中心になるようである。また、LSIのカテゴリ―になるが、絶縁ゲートドライバは既に世界トップシェアの60%を取っている。
車載ECU市場
ロームが注力する車載市場であるが、業界的な呼び方は車載ECU(電子制御ユニット)で、世界的なEVシフトで巨大市場になると言われている。富士通キメラ総研が2022年5月に車載ECU市場と関連デバイスの世界市場について調査をし、その結果を発表した。富士通キメラ総研によると2035年には車載ECU市場が21兆198億円になり、ECU構成デバイス市場は24兆7334億円の規模になると予測した。また、イメージセンサー市場は2900億円規模になる見通しとの事である。
(出所:富士通キメラ総研 車載ECUの世界市場予測)
この市場調査は、車載ECUについて「パワートレイン系」と「xEV系」「走行安全系」「ボディー系」「情報系」および、「スマートセンサー/アクチュエーター」の6領域に分けて国/地域別に分析した。6領域の中で、最も高い伸びを予測するのがxEV系(電動車(EV:electric vehicle)の総称。 HEVやPHEV、FCEVなどを総称してxEVと略記する。)である。2035年には4兆7937億円になる。2020年に比べると8倍の規模である。インバーターECUや車載充電器ECUなどが需要をけん引するとみている。(出典:eeTimes Japan 2022年05月24日)
(出所:富士通キメラ総研 ECU構成デバイスの世界市場予測)
ECUの搭載個数が増加することで、システム/モジュールを構成する半導体や部品点数も増える。ECU構成デバイスの世界需要は、2022年見込みの15兆4589億円に対し、2035年は24兆7334億円と予測した。構成要素としては各種センサーの他、SoC/FPGA、MCU、メモリなどの伸びを見込む。また電動車の普及が本格化するにつれ、バッテリー監視用ICやSiCモジュールなどの需要拡大も期待する。(出典:eeTimes Japan 2022年05月24日)
SiCパワーデバイス
パワー半導体の現在の主流はSi(シリコン)であるが、次世代パワー半導体で2030年頃迄はSiC(シリコンカーバイド、炭化ケイ素)が主流になると言われている。ロームは長年SiCの研究を京都大学と共に手掛けてきた。SiCパワーデバイスは高耐圧、低損失で電力変換におけるこれまでのSiデバイスの限界を超える性能を実現すると同時に車輌の小型化、軽量化に貢献すると言われている。ロームは日本企業として初めてSiCパワーデバイスの開発・量産してきた。
2010年4月 日本初、SiC SBD(ショットキーバリアダイオード)の量産開始。
2010年12月 世界初、SiC MOSFET量産開始
2012年3月 世界初、Full SiCパワーモジュール量産開始
2015年6月 世界初、SiC Trench MOSFET量産開始
ロームの車載向けソリューションの主なもの
上記したように車載ECU市場及びECU構成デバイス市場はEVシフトで巨大市場になるとの予測があるが、具体的なロームの車載向けソリューションにどのようなものがあるのか主なものを以下に列挙する。
- オンボード・チャージャー(車載充電器)向けSiC MOSFET、Hybrid IGBT
オンボード・チャージャーは、住宅や民間/公共から提供される交流電圧(100V~240V)を直流電圧に変換し、EVやプラグインハイブリッド自動車(PHV)のバッテリに充電するためのシステムで、ロームは充電時間短縮のニーズによる急速充電に対し、SiC MOSFETが市場で多く採用されている。還流ダイオードに、ロームの低損失SiCショットキーバリアダイオード(SiC SBD)を採用したHybrid型のIGBTは従来品IGBT比ではON時のスイッチング損失を67%低損失化させる事が可能になった。
- 主機インバーター向けSiCパワーモジュール
メインインバータはバッテリに備えられた直流電力を3相交流電力に変換し、モータを駆動する。従来のインバータ用のパワーデバイスはIGBTとダイオードを組み合わせたものが多く使われるが、より導通損失とスイッチング損失を低減させる第四世代SiC MOSFETが注目されている。
- 電動コンプレッサー向けIGBT
電気自動車では、エアコン用のコンプレッサが電動になる。モータの効率を上げるために高電圧が使われ、回転を制御するインバータも高耐圧、高信頼性、高効率が重要になる。ロームの電動コンプレッサ向けIGBTは、短絡耐量に優れ 、さらに低損失を実現した高性能デバイスである。
- ADAS(自動運転システム)向け
①カメラ向けPMIC(power management IC、複合電源IC)
部品点数削減を可能にし、パッケージの小型化、様々なカメラモジュールに安定電源供給する。
②カメラ向け通信インターフェイスIC
膨大な映像情報を高速で伝送する。
③レーダー用PMIC
内部の故障を未然に検出する自己診断機能を搭載し、レーダーモジュールの高信頼化。
④超音波センシングモジュール用ソナーセンサーAFE
自動駐車システム、アクセルの誤踏込防止システム等超音波(ソナー)センサーの重要度は高いが、微弱なセンサ信号を増幅処理する、低ノイズのソナーセンサーAFE(Analog Front End )ICの進化を通じて、ソナーの検出距離向上。
SiC市場におけるロームの戦略
マーケットリサーチ及びIT、戦略コンサルティングのYole Developmentの調査によると、SiCパワーデバイス・メーカーのランキングは以下である。
(出所:Power SiC 2022 report, Yole Development, 2022)
このランキングによるとロームはSiCパワーデバイスのマーケットで世界第四位である。しかし、2022年6月にロームは2025年度(2026年3月)までにSiCパワー半導体の生産能力を2021年度(2022年3月比)6倍に増強してSiCデバイスの売上高を1,000億円にすると発表した。ロームは世界シェア30%の従来目標を堅持し、25年度までの累計投資額は最大で1700億円になる予定である。
ロームはSiCパワーデバイス市場において国内では初めてパワーデバイスを販売したが、世界においては後発であるので、マーケットシェアを拡大するために国内外の多くの企業と協業をしている。
以下にロームの近年の協業パートナーを時系列に列挙する。
2015年 | 中国、United Automotive Electronic Systems Co., Ltd. | SiCパワーデバイスを搭載した車載アプリケーション開発について共同研究 |
2017年 | 独、セミクロン | 販売協力開始 |
2017年 | 中国、Leadrive Technology (Shanghai) Co.,Ltd. | SiC搭載車載インバーター開発について共同研究 |
2018年 | 中国、Sanden Huayu Automotive Air-Conditioning | 車載エアコン及び車載アプリケーション開発について共同研究 |
2021年 | 独、Vitesco Technologies | EV向けパワーエレクトロニクスにおける開発パートナーシップ |
2021年 | 中国、Geely Automobile Group(自動車メーカー) | SiCパワーデバイスを中心とした戦略的パートナーシップ |
2021年 | 中国、正海集団有限公司 | SiCパワーデバイスの合弁会社を設立 |
2021年 | 台湾、デルタ電子 | GaN(窒化ガリウム)パワーデバイスの開発・量産における戦略的パートナーシップを締結 |
2022年 | 独、セミクロン | ロームの第4世代SiC MOSFETがセミクロンの車載用パワーモジュール「eMPack®」正式に採用され、2025年から独大手自動車メーカーに供給。「eMPack」にはSTマイクロエレクトロニクスの第3世代SiC MOSFETが採用されているが、新たにロームも加わった。 |
2022年 | 米、Lucid Motors | ロームのSiC MOSFETがLucid MotorsのハイエンドEV「Lucid Air」の車載充電システムに採用 |
2022年 | 中国、Shenzhen BASiC Semiconductor | 車載SiCパワーデバイスの開発で戦略的パートナーシップ契約 |
2022年 | 日本、マツダ、今仙電機 | SiCパワーモジュールを活用したe-Axle向けインバータの共同開発契約を締結 |
ロームのSiC分野における国内外での協業を見ると中国企業との協業が多いが、中国は世界最大級のEV大国であり、2022年から2027年にCAGR(年平均成長率)30.1%を超え、2027年までに7,990億米ドル(約109兆円)に達すると予測されており(出典:Modor Intelligence)戦略的に正しいと思われる。また、ドイツのセミクロンの車載用パワーモジュール「eMPack®」にロームがSTマイクロエレクトロニクスと共に採用され、2025年からドイツ大手自動車メーカーに供給予定、アメリカのLucid MotorsのハイエンドEV「Lucid Air」の車載充電システムに採用されたとあり着々と海外での実績の布石を打っている。
パワーデバイス事業の売上目標
ロームのパワーデバイス(Si、SiC、GaN)事業の売上目標は以下の図の通りである。FY2021=>FY2025のCAGR25.2%の予想でFY2025のパワーデバイスの売上目標は2,500億円近くとしている。現在の主流はSi(シリコン)であるが、SiCを戦略的に伸ばしていく予定である。パワーデバイスは車載向けが大きく伸びるが、電車、PC、テレビ、冷蔵庫など用途が広い。ちなみに下図にはのっていないが、次世代半導体のGaN事業以外にも酸化ガリウムの研究で世界をリードしているノベルクリスタルテクノロジー(NCT)にも出資をしている。
(出所:ローム株式会社、2022年度上半期資料 2022年11月2日 P.18)
このうちSiC事業の売上予想であるが、FY2025(2026年3月期)に1,100億円以上を目標としている。既にFY2024~FY2026の三年累計で9,000億円のパイプラインがある。
(出所:ローム株式会社、2022年度上半期資料 2022年11月2日 P.20)
主な経営指標
過去3年のキャッシュフロー状況
(単位:百万円) | 2020/3 | 2021/3 | 2022/3 |
営業キャッシュフロー | 79,130 | 45,975 | 92,181 |
投資キャッシュフロー | ▲8,676 | ▲40,844 | ▲55,437 |
財務キャッシュフロー | ▲17,075 | ▲24,840 | ▲16,230 |
現金及び現金同等物期末残高 | 298,296 | 261,292 | 293,144 |
営業キャッシュフローは税金等調整前当期純利益の拡大ともに伸長した。投資キャシュフローは2021/3、2022/3に▲幅が大きくなっているのはSiC事業等の能力増強のための設備投資額が増額した事による。
KPI 主な経営指標
(単位:百万円) | 2020/3 | 2021/3 | 2022/3 |
自己資本比率 | 84.2% | 83.0% | 81.6% |
配当性向 | 58.2% | 39.8% | 27.2% |
営業利益率 | 8.1% | 10.7% | 15.8% |
総資産回転率 | 0.4回 | 0.4回 | 0.4回 |
EBITDA | 73,817 | 78,655 | 113,506 |
ROA | 3.0% | 4.0% | 6.5% |
ROE | 3.6% | 4.8% | 8.0% |
ROIC | 2.3% | 4.3% | 6.2% |
自己資本比率が若干だが低下したのは自社株買いによる。収益性の向上により2020/3に8.1%だった営業利益率が2022/3に15.8%まで上昇した。それと共にROA、ROE、ROICも改善した。
アナリストによる投資判断
ロームというとかつての民生機器向けカスタムICの企業というイメージを持つ人が多いと思うが、実はSiCパワーデバイス、車載向けビジネスで大きくビジネスポートフォリオは変わっている。パワー半導体を手掛ける日本企業は多いが、次世代の主流になると期待が高いSiCビジネスで他のパワーデバイス・メーカーをリードしている事、既に中期的なパイプラインで9,000億円を確保している事、財務的にしっかりした企業である事から第二の成長ステージを迎えるのではないかと期待をしている。
現在の株価で予想PERは12.96倍、PBRは1.14倍、EV/EBITDAは5.6倍と割安で中長期的な成長を織り込んでいないような印象を受ける。
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