2023年は米国金融政策と株式市場にとって、FRBの利上げ縮小から始まり、シリコンバレーバンクの経営破綻による市場への衝撃、テスラやエヌビディアの好決算による株価の上昇とまさに波乱万丈の一年だった。
この記事では、そんな一年間の重要な出来事を簡潔に振り、独自の基準で選んだ来年のテンバガー5選を紹介する。
目次 |
2023年の米国の金融政策と株式市場
2022年末のFOMCでFRBは利上げ幅を4会合続いた0.75%から0.50%に縮小した。年明け1月の米国株式市場はインフレのピークアウト観測から米長期金利が低下し、NYダウは34,000ドルに上昇した。テスラの好決算等が支えとなりNasdaqは1月に10.6%上昇した。3月に入るとシリコンバレーバンク(SVB)、シグネチャー・バンクの経営破綻を受け、金融システム全体へのリスク懸念からダウ平均は四日連続値下がりし、値下がり幅は1,500ドルを超えた。3月のFOMCでは金融不安の高まりはあったもののFRBはインフレ抑制を優先し、0.25%の利上げを実施した。
5月には米銀行の経営不安が再燃し、また債務上限問題に関してイエレン財務長官が6月1日までに米国が債務不履行に陥る可能性があると警告した事もあり、NYダウは下落した。しかし、5月の下旬に発表されたエヌビディアの市場予想を上回る好決算に半導体企業が買われS&P500は上昇した。6月のFOMCでは利上げは見送られたが、7月のFOMCではFRBは0.25%の利上げを実施し、今後1~2回程度の利上げを示唆した。政策金利は2001年3月以来22年ぶりの5.25~5.50%の高水準となった。米国株は早期の利上げ停止、利下げ開始を想定してテック株を中心に上昇してきたが、金融引き締め長期化観測からテック株は調整局面を迎えた。
10月の7日にパレスチナ暫定自治区のガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスがイスラエルへの攻撃を開始した。中東情勢の緊迫化と米長期金利の高止まり観測から米株式市場は下落した。11月のFOMCではFRBは2会合連続で政策金利を5.25~5.50%に据え置く事を決定した。10月の金融引き締め長期化観測から一転し、11月に米国で発表された経済指標はインフレが鈍化している事を示すものであり、年内の追加利上げ観測が後退し、米国株式は3週連続して上昇し、割高感が薄れたテック株、半導体関連株を中心に買われた。12月に入るとパウエルFRB議長の「引き締め過ぎと緩め過ぎのリスクはバランスが取れている」との発言から米国の利上げは事実上終了したとの見方が優勢になり、S&P500とNasdaqは連日最高値を更新した。
11月のPPI(生産者物価指数)は前月比変わらず、前年比は+0.9%と予想を下回った。12月のFOMCでは3会合連続で政策金利は据え置かれ、2年間の金融引き締め局面は事実上終了した。2024年FF金利予測中央値が4.6%に下方修正され、来年0.75%の利下げが示唆され、経済予測表では2023年コアPCE(個人消費支出)インフレ率が2.4%に下方修正され、10年債利回りが大きく低下となり、NYダウは37090.24ドルと最高値を更新した。為替は来年3回の利下げを見込んでいる事からドルが急落し、1USD=142円台後半となった。
2023年の日本株式市場
日本株の2023年1月4日の大発会は、前日3日のニューヨーク株式市場で景気減速の懸念から大幅下落した事を受けて日経平均株価も下落し、新年最初の株価は前年末より377円64銭安い2万5716円86銭と厳しい滑り出しとなった。その後はインフレのピークアウト観測を背景にFRBが利上げペースを緩めるとの見方から、米長期金利は低下し、日本株も上昇した。2月に入ると円安が進んだ事から企業業績の回復への期待から日本株は小幅高となり、年度末にかけてコロナの規制が春に解除になる事からインバウンド需要の回復への期待等から上昇した。
4月の半ばにウォーレン・バフェット氏の日本株への追加投資コメント、また日銀の大規模緩和策の維持等から外国人投資家が日本株を大きく買い越した。5月は米国株、欧州株が景気引き締めの長期化懸念から下落、中国株は経済の減速懸念から下落する中、唯一日本株は堅調で7%上昇し、翌6月も東証のPBR一倍割れ企業への改善要請への期待感等から日本株は続伸し、7月上旬に33年振りの高値の3万3753円33銭を付けた。
その後は中国経済への懸念から日本株は下落したが、中国当局が不動産市場の問題の対応策に本腰を入れ始めたとの見方から安心感が広がり日経平均株価は9月5日に終値で3万3千円台を回復した。その後は米金融引き締めの長期化懸念に加えて政府機関の閉鎖懸念により長期金利が大幅に上昇し、日本株も下落した。10月末の日銀金融政策決定会合では長期金利の変動幅の上限を現在の1.0%から、一定程度超えることを容認するYCCの再修正はあったが、金融緩和は継続とした。これを受けて1USD=151円70銭まで円安が進行し、10年債利回りは0.97%まで上昇した。
11月初めのFOMCでは二会合連続で政策金利は据え置きの決定をし、その後に発表された米国の経済指標はインフレの鈍化を示しており、年内の追加利上げ観測が後退し、米国株式は3週連続して上昇し、割高感が薄れたテック株、半導体関連株を中心に買われた。日本株も米国の金利低下、株高、特にナスダックに連動した動きを取り11月20日の取引時間中に日経平均株価は3万3853円をつけ、1990年3月以来、約33年8カ月ぶりの高値となった。12月の日銀金融政策決定会合では大規模金融緩和の維持を決定した。
主な株価指数のパフォーマンス(12/22までの年初来騰落率)
日経平均株価 | 27.58% |
Topix | 23.75% |
東証グロース250 | ▲7.7% |
NYダウ | 12.79% |
ナスダック | 43.25% |
SP500 | 23.83% |
FTSE100(英国) | 3.3% |
DAX(ドイツ) | 19.98% |
CAC40 (フランス) | 16.92% |
FTSEMIB(イタリア) | 28.04% |
2023年に人気だった投資テーマ
2023年に人気だった日本株の投資テーマであるが、ChatGPTの爆発的普及で半導体、半導体製造装置、生成AI等が年間を通じて人気の投資テーマであった。パワー半導体も中期的に人気のテーマである。コロナの規制の完全解除からインバウンドも人気であった。防衛費増額から防衛銘柄も注目を浴びた。6月にトヨタが早ければ2027年にEVで全固体電池を実用化するとの発表があり、全固体電池が数年ぶりに注目された。また人手不足解消は常に大きなテーマで物流の2024年問題から自動配送ロボット、無人搬送車関連銘柄等も一時人気であった。年末になり円高メリットの銘柄も注目されている。
2024年の各国の経済成長予測
2024年の各国の経済成長の予測であるが、OECD(経済協力開発機構)が2023年11月29日に最新の「世界経済見通し」を発表し、世界の経済成長率(実質GDP伸び率)を2023年に2.9%、2024年には2.7%と予測した。前回の9月予測と比較して、2023年は0.1ポイントの下方修正、2024年は据え置いた。
OECDの予測によると、2024年の経済成長率は日本1.0%、米国1.5%、カナダ0.8%、英国0.7%、フランス0.8%、ドイツ0.6%、イタリア0.7%とG7のなかで米国に続き二番目の経済成長が予測されている。世界経済は、インフレと低成長見通しという課題に引き続き直面しており、2023年のGDP成長率はこれまでのところ予想を上回っているが、金融環境の引き締まり、貿易の伸びの鈍化、企業と消費者の信頼感の低下を背景に、現在は減速しているとの見解である。短期的な見通しに対するリスクは引き続き下振れに傾いており、例えば、ハマスのイスラエルに対するテロ攻撃後の紛争の進展などによる地政学的緊張の高まりが含まれるとの見解を発表した。
また、12月13日に発表された日銀短観(企業短期経済観測調査)によると、「大企業・製造業」の業況判断指数(DI)は前回の9月調査から3ポイント上昇してプラス12となり、3四半期連続で改善した。「大企業・非製造業」は3ポイント上昇のプラス30で、約32年ぶりの高水準だった。「中小企業・製造業」は6ポイント上昇のプラス1、「中小企業・非製造業」は2ポイント上昇してプラス14だった。
2023年度の設備投資計画は全規模合計で前年度比12.8%増、ソフトウェア投資は全規模合計で前年度比13.6%増、中小企業の製造業は前年度比30.0%増、中小企業の非製造業は前年度比18.5%増とDXは中小企業まで及んでいるのが伺える。また、2024年は円高が進む事が予想されるが、インバウンド需要は引き続き堅調に推移すると思われる。
2023年度の上場企業の業績見通し
大和証券は12月8日までにまとめた主要上場企業の業績見通しで、金融と投資損益の影響が大きいソフトバンクグループを除く約200社の2023年度の経常利益が前年度比10.2%増を見込み、前回の8月から4.9%引き上げた。半導体不足の緩和による生産回復や円安効果で自動車が伸びているほか、燃料費の減少で電力・ガス、インバウンド需要回復で旅客輸送などが好調だとの事である。
また12月22日に総務省から発表された11月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)は前年同月比2.5%の上昇であった。上昇率は前の月から0.4ポイント下がり、3か月連続で2%台となった。政府の負担軽減策や燃料価格の低下で「電気代」や「都市ガス代」の下落幅が拡大したことなどが上昇率低下の要因となった。
2023年にテンバガーを達成した銘柄
2024年のテンバガー銘柄候補の前に2023年に実際テンバガーを達成した銘柄をあげてみる。2023年の一年間にテンバガーを達成した銘柄はプログリット(9560)だけであった。プログリットは英語コーチングサービスを手掛ける企業で、2022年9月に東証グロースに上場。2023年1月4日に234円だった株価が2023年6月20日に2,500円と半年でテンバガーを達成した。しかし、その後株価は急速に下げ、現在は900円台で取引されている。プログリットの株価情報
2024年テンバガー候補の銘柄を選ぶ基準を変更
昨年のテンバガー候補の銘柄を選ぶ基準は「IPOをして5年以内の新興企業で利益率が高く成長をしており、これからも業績が伸びそうな企業、または利益成長が正当に評価されず割安に放置されている銘柄で時価総額が1,000億円以下の企業」としていた。しかし、この基準で選んだテンバガー候補銘柄は業績が良かった銘柄でも株価に反映されないパターンが多かった。その要因として2023年は外国人投資家の日本株買いが本格化したが、外国人投資家は流動性が低い中小型銘柄に投資する事は少なく、時価総額が大きい銘柄を主な投資対象としている事が多い事が第一に挙げられる。
中小型銘柄に関してはセルサイドのアナリストがカバーする事が近年は減り、業績の情報がごく一部の市場参加者にしか伝わらず、業績は堅調でも株価に反映されづらい傾向にある。実際に東証グロース250の指数の年初来(12月22日まで)の騰落率は▲7.7%で、日経225の騰落率は27.58%、Topixは23.75%と大型株の指数に大きく負けた。こういった要因からテンバガー候補の銘柄を選ぶのに必ずしも時価総額に拘る必要もないのではないかと考えている。
また、IPOをして5年以内という事に拘るのをやめる事にした。日本株の場合IPO後に高値をつけその後大きく下落する所謂「初値天井銘柄」の割合も多い。特に株主や役員・従業員、ベンチャーキャピタル等の制限株主のロックアップピリオド(180日が多い)が解除された後に株式を売却し、需給が悪化するパターンも多々ある。流動性が低く、外国人投資家の投資対象になりづらく、アナリストのカバレージが減り、たとえ好業績でも株価に反映されづらい等のリスクが大きい。
長い間上場している企業であっても利益が伸びている、また今は赤字でも黒字に転換するという銘柄の方が株価は上昇しやすい。株価が大きく上昇する要因として、人気の投資テーマで割安の銘柄、あるいはリストラ等を経て赤字から黒字転換する銘柄も株価が上昇しやすい。また、外国人投資家は東証によるPBR1倍割れの改善要請による経営改善から株価上昇というストーリーに多いに期待しているので、PBR1倍割れ銘柄の中から選ぶのは良いかもしれない。また、同様にアクティビストが買い進めているPBR1倍割れ銘柄も良いかもしれない。
2024年テンバガー候補の銘柄5選
①物語コーポレーション(3097)
株価(12/25/23) | 時価総額 | 自己資本比率 | ROE | ROIC |
4,415円 | 1,580億円 | 47.5% | 18.6 % | 13.4% |
予想PER | PBR | EV/EBITDA | PEGレシオ | 配当利回り |
29.8倍 | 6.2倍 | 12.6倍 | 1.5倍 | 0.68% |
企業概要:「焼肉きんぐ」を中心とした外食チェーン。「焼肉きんぐ」の他に「丸源ラーメン」、「お好み焼き本舗」、「寿司・しゃぶしゃぶ ゆず庵」等のブランドの飲食店を運営している。2023年6月期末時点で店舗数は国内・直営店405店、FC店239店、海外21店、合計665店。このうち「焼肉きんぐ」の店舗数は直営189店、FC116店、合計305店である。「焼肉きんぐ」の売上は焼肉大手四社(牛角、あみやき亭、安楽亭、焼肉きんぐ)の中で唯一コロナ禍も売上は伸び続け、2022年に牛角を抜き業界トップになった。
焼肉メニューに関しては米国産牛肉を主に使用しており、カットやスライスなど提供する肉の加工は提携の食肉加工場で実施しており、省力化と品質の安定につなげている。食べ放題は、「きんぐコース」(税抜き3,180円。以下、全て税抜き)、「58品コース」(2,780円)、「プレミアムコース」(3,980円)の3コース。一番人気は「きんぐコース」で、来店客の7割が注文する。同コースには6年前に目玉となる「きんぐカルビ」「炙りすき焼きカルビ」「壺漬けドラゴンハラミ」など4品を“4大名物”として導入した。「焼肉きんぐ」でしか味わえない、豪快な熟成厚切り肉が支持を集め、競合他社の出店攻勢から一時落ち込んでいた既存店売上高の拡大につながっている。食べ放題業態においては、接客は通常重視されないが、“おせっかい”を中心に強化しようと2016年に「焼肉ポリス」というポジションを導入した。焼肉ポリスが返しの回数・時間など焼き方指導で各テーブルを回っており、満足度の向上につなげている。また、店長には大きな権限が与えられ、個店毎に違うカラーで運営されている。
円安によるエネルギー価格や原材料価格の高騰があるが、価格改定に加えて店舗増で業績は2023年6月期通期は最高益を更新した。営業利益率は前年同期比二倍の7.8%、ROE18.6%と外食チェーンとしては収益性が高い。競合の上場焼肉チェーンの2023年3月期の営業利益率はあみやき亭(2753)は1.5%、安楽亭(7562)は営業赤字、焼肉坂井(2694)も営業赤字であった。業績は2020年6月期はコロナ禍にあり、休業、営業時間短縮により当期純利益は前年同期比▲84.4%の4億5,600万円に落ち込んだが翌期からは業績は回復し、2021年6月期の当期純利益は前年同期比約6倍増の27億2,700万円、2022年6月期の当期純利益は前年同期比25.9%増の46億9,300万円であった。今期も最高益更新の予定であるが、月次の数字は好調に推移している。上半期の累計で既存店売上高は110.3%、客数は107.1%、全店売上高は117.0%、客数115.3%であった。
「焼肉きんぐ」以外のブランドであるが、「丸源ラーメン」や、寿司・しゃぶしゃぶ食べ放題の「ゆず庵」も、100~200店規模の収益源まで成長した。物語コーポレーションは郊外型の大型店舗が多いが、新業態の「焼きたてのかるび」は中小型店で7万~8万人程度の小商圏にも出店できるのが特長である。2024年は円高が進むと予想されるが、粗利率の改善、利益増が期待される。海外店舗に関しては中国とインドネシアに出店している。焼肉、ハンバーグ、カニ料理等を手掛けている。
②大和工業(5444)
株価(12/25/23) | 時価総額 | 自己資本比率 | ROE | ROIC |
7,382円 | 4,728億円 | 86.3% | 13.0% | N/A |
予想PER | PBR | EV/EBITDA | PEGレシオ | 配当利回り |
7.5倍 | 0.9倍 | 13.0倍 | 0.3倍 | 4.06% |
企業概要:独立系大手電気炉メーカー。建設用鋼材を中心とした鉄鋼製品の製造・販売を世界8ヵ国で展開する企業グループである。主力製品はH形鋼であるが、H形鋼はビルや工場の建設に使われる。2023年8月にインドネシアの大手民営鉄鋼メーカーPT Gunung Raja Paksi Tbkの形鋼事業鉄鋼事業の取得を発表した。買収する企業は連結子会社となる。米国に子会社及び持分法適用会社を、タイと韓国に子会社を持つ。タイと韓国の事業規模は国内の事業規模とほぼ同規模である。ベトナム、バーレーン、サウジアラビアに持分法適用会社を保有。子会社と持分法適用会社を含めた米国での事業規模は、国内の事業規模よりも遙かに大きい。持分法適用会社に関しては持分法による投資損益という形で営業外損益を計上している。2023年3月期時点で経常利益の85%は海外からであった。
大和工業は鉄鋼製品の製造販売という地味でローテクな印象を与える企業であるが、国内の電炉メーカーとしては1987年にアメリカに進出し、以降海外事業を拡大し利益を伸ばしてきた企業である。進出している海外は米国、タイ、ベトナム、インドネシア、バーレーン、サウジアラビア等人口が増加し、高い経済成長が期待され、建築需要が高い国々が多く、利益率が高い事に着目している。マニアックな銘柄ではあるが、高収益体質で高配当の大和工業は株式市場では一定の人気がある。2024年3月期中間決算時点で自己資本比率は86.3%と高いが、ROEは13.0%、ROAは11.2%と高い。競合の上場電炉メーカーを見てみると東京鐵鋼(5445)は自己資本比率71.5%、ROE7.6%、ROA5.4%、ROIC5.1%、大阪製鐵(5449)は自己資本比率68.4%、ROE1.9%、ROA1.3%、山陽特殊製鋼(5481)は自己資本比率55.1%、ROE9.3%、ROA5.1%、ROIC6.6%、中山製鋼所(5408)は自己資本比率65.3%、ROE10.2%、ROA6.6%、ROIC9.3%であった。同業他社と比較すると大和工業は断トツに稼ぐ力が高い企業であるとはっきり分かる。
電炉法と高炉法の違いであるが、電炉法の原材料は鉄スクラップ(廃自動車や建築物の解体現場から出たリサイクルの鉄)である。鉄スクラップを電気を利用し、製鋼・圧延し、製品とする。原材料の9割以上は再利用されている。一方高炉法の原材料は鉄鋼石であり、日本はオーストラリア等からの輸入で需要量の100%を賄っている。鉄を作る時のCO2排出量であるが、一般的な電炉の製造時のCO2排出量は高炉と比較し約4分の1であるが、大和工業は約6分の1まで低減する事を実現した。電炉法は時間単位で稼働を調整できるので、需給状況に応じて柔軟な対応が可能である。設備投資については、新しく製鉄所をつくる場合、高炉では数千億円から1兆円レベルの投資資金がかかる一方、電炉は数百億円程の投資となり、新規設備投資を行う場合も投資資金が少なくすむ。電炉メーカーは高炉メーカーに比べて環境に優しく、投資回収しやすいと言える。
③レゾナック・ホールディングス(4004)
株価(12/25/22) | 時価総額 | 自己資本比率 | ROE | ROIC |
2,853.5円 | 5,142億円 | 27.2% | 5.4% | 3.0% |
予想PER | PBR | EV/EBITDA | PEGレシオ | 配当利回り |
N/A | 0.9倍 | N/A | N/A | 2.28% |
企業概要:旧昭和電工。昭和電工と昭和電工マテリアルズ(旧・日立化成)の統合により2023年1月1日に発足した総合化学メーカー。2023年12月期3Q時点での事業毎の売上比率は半導体・電子材料事業26%、モビリティ事業(自動運転、電動車関連)14%、イノベーション材料事業(機能性化学品、樹脂材料等)10%、ケミカル事業(石油化学、黒鉛電極等)41%、その他9%。レゾナックはSiC(シリコンカーバイド)エピウェハーの世界最大手である。また、電炉用黒鉛電極で世界首位である。
SiCエピウェハーは近年データセンターのサーバー用電源や鉄道車両、EVなどに使うSiCデバイスへの採用が急ピッチで進んでいる。SiCデバイスは従来のSi製デバイスに比べてより高い電圧や電流、動作温度に耐えられる、エネルギー損失が少ない為に省エネである等の特徴があり、Siの次に普及すると言われているが、ローム(6963)は世界シェアトップを目指して増産中である。そのロームやドイツのインフィニオン・テクノロジーズもレゾナックからSiCエピウェハーを買っている。レゾナックは昭和電工時代から約20年間研究開発をして培った高品質に定評がある。レゾナックはウエハー専業に徹することで、基板やウエハーを内製する企業を含む世界中の有力SiCデバイスメーカーを顧客とすることにも成功した。レゾナックはSiCエピウェハーの売上高を2027年までに2022年比5倍に引き上げると発表した。レゾナックは半導体・電子材料事業をコア成長事業と位置づけしているが、その中でもSiCエピウェハーを戦略商品と考えている。SiCエピウェハーは現在の市場規模は約500億円と推定されるが、この市場をレゾナックとアメリカのWolfspeedがほぼ占めている。
レゾナックは昭和電工時代の2019年に日立化成を買収した。日立化成は日立の上場子会社で電子材料とモビリティに強みがあった。この買収以降事業ポートフォリオを大幅に入れ替えた。アルミ缶事業をはじめ、食品包装用ラップフィルム事業、セラミック事業など9つの事業、計2,000億円規模の事業を売却した。半導体・電子材料事業をコア成長事業としているが、この事業の中でも近年需要が低下していた台湾のHD(ハードディスク)事業から撤退すると2023年9月に発表した。このように着々と企業価値を向上させる施策を取っている。
直近の業績であるが、2023年12月期3Q決算(累計)は売上高が前年同期比▲8.9%の9,423億円、営業損益は赤字転落し、▲43億円、四半期純損益は▲63億円となった。赤字に転落した要因であるが、半導体生産調整やデータセンターの需要低迷による影響を受けた半導体・電子材料セグメントが減収となり、特にHDメディアの棚卸資産において、低価法による簿価切り下げや廃棄損を計上したこともあり、営業赤字となった。しかし、SiCエピウェハーは出荷数量増で増収であった。レゾナックの半導体・電子材料事業では半導体前工程、半導体後工程、ハードディスク、SiCを扱っているが、シリコンサイクルの影響を受けるのはどうしても避けられない。今期は需要低迷により減収となったが、来期は回復が予想され、おそらく黒字転換が期待される。また、SiCパワー半導体の市場規模は2030年には9,700億円と2022年の約8倍まで成長すると言われているが、この市場でSiCエピウェハーのトップメーカーとして大きく利益を伸ばす事が期待される。また、現CEOの高橋氏は所謂プロ経営者で2019年以降事業ポートフォリオの再構築にコミットしており、企業価値の増大に長期的視点で取り組んでいる。
④野村マイクロ・サイエンス(6254)
株価(12/25/23) | 時価総額 | 自己資本比率 | ROE | ROIC |
14,730円 | 1,314億円 | 44.6% | 23.0% | 12.2% |
予想PER | PBR | EV/EBITDA | PEGレシオ | 配当利回り |
20.5倍 | 5.5倍 | 12.0倍 | 0.5倍 | 1.09% |
企業概要:超純水製造装置専業メーカー。超純水とは、水中に溶解しているイオン類、有機物、生菌、微粒子等を含まない極めて純度の高い水のことで、半導体の製造過程では洗浄工程は必須であり、使用される水の純度は歩留りに影響するため、水中に溶解している不純物を徹底的に除去した超純水が必要となる。顧客の大半は半導体メーカーで、最大顧客はサムスン電子である。また、半導体メーカーの他に製薬メーカーも顧客である。ウエハーと呼ぶ基盤上に超微細な回路を形成していく工程で、使用する薬品の洗浄を繰り返すが、その時に回路上に不純物が残らないように、超純水を使用する。半導体の集積度が上がるにつれてより多くの純水が求められるために基本需要は右肩上がりである。ビジネスモデルは水処理装置を納入後に定期メンテナンス、水質アップ工事を行う。原水中の不純物は、イオン交換樹脂、逆浸透膜、紫外線酸化装置、脱酸素膜など、複数の技術で取り除く。
業績は右肩上がりに成長している。2019年3月期通期から2023年3月期通期の5年間で売上高は約2倍伸び、251億円から496億円までに成長し、経常利益は5.3倍伸び12億円から64億円になり、当期純利益は5.8倍伸び10億円から58億円となった。栗田工業は総合水処理企業として最大手であるが、半導体向けに特化している訳ではなく、幅広い業種に水処理サービスを提供しており、半導体向けはその一部である。
中期経営計画として2027年3月期の売上高が1,010億円、営業利益が146億円、営業利益率が14.5%、ROEが25%以上、ROICが22%以上という目標を持っている。今期の売上高予想が720億円で、その後3年間で年間約100億円ずつの増収という予想になる。半導体の微細化により必要とされる純水の量は増加するので、この中期経営計画の数値は現実的であると考えている。
⑤東京エレクトロンデバイス(2760)
株価(12/25/23) | 時価総額 | 自己資本比率 | ROE | ROIC |
5,130円 | 1,546億円 | 28.2% | 21.3% | 12.2% |
予想PER | PBR | EV/EBITDA | PEGレシオ | 配当利回り |
15.7倍 | 3.7倍 | 13.3倍 | 1.2倍 | 2.55% |
企業概要:東京エレクトロングループの半導体商社。取り扱い製品は米国製が多い。産業用に強み。製品開発、設計、製造のPB事業も行っている。2024年3月期中間決算時点で半導体及び電子事業(EC事業)が売上の88%、コンピューターネットワーク関連事業(CN事業)が売上の12%を占めていた。今期期初時点の会社計画は減益予想であったが、中間決算時に上方修正を行い、今期は過去最高益を更新する予定である。
東京エレクトロンデバイスは成長戦略としてサービス事業の強化を図っている。顧客のシステム構築、運用支援といったSIer的なサービスに注力している。具体的にはクラウド導入・運用支援、ネットワーク運用・監視、セキュリティ運用支援等である。2023年7月より生成AIと社内情報を安全に連携する方法を学べる企業向けトレーニングサービス「Try it! Azure OpenAI Service」を開始した。今後、年間100社に同サービスの導入を目指している。今後はサービス事業ではリカーリング型ビジネスの拡大により利益率の上昇が期待される。
東京エレクトロンデバイスはメーカー機能の強化の一環として継続的な利益成長の柱になる事が期待されるウェーハ検査装置事業を日本エレクトロセンサリデバイス株式会社より2023年10月に事業譲渡を受けた。2020年よりウェーハ検査装置の「RAYSENS」を販売しているが、目視による検査に代えて、ウェーハの傷、欠け、ムラなどの製造不良の自動検査が可能で、半透明な化合物半導体を高速で処理できることが特徴である。今後は、パワー半導体向けに成長が期待されるSiCやGaNなどに対応できるよう開発を進める予定である。現在は、ヨーロッパやアジアへの営業活動に注力している。