目次

  1. はじめに
  2. 注目する投資テーマと投資戦略
  3. 投資戦略の背景
  4. 投資戦略の検証
  5. 銘柄の選定
  6. 最後に

 

1. はじめに

2024年が明けて約1ヶ月、日経平均は33年ぶりの高値を更新し続ける好調ぶりで、いよいよ史上最高値(38,915円)も視野に入ってきました。

そんな相場上昇要因の1つは、1月に始まった新NISAでしょう。合計1,800万円まで非課税で投資できる新制度のインパクトは大きく、投資への関心も急速に高まっています。   
「2024年オリコン顧客調査満足度調査」によれば、66.2%の回答者が「利用予定あり」、53.5%の人が「つみたて投資枠」、「成長投資枠」を「併用する」と回答しています。

相場上昇の波に乗って、多くの人が新NISAの好スタートを切れたのではないでしょうか?一方、何をすべきか分からず、見ているうちに相場が上昇したことに対して「出遅れた」と焦っている人もいらっしゃるかもしれません。

投資に焦りは禁物です。投資を始めるタイミングは、相場が上がっている時ではなく、「安心して投資できる銘柄」を見つけた時であるべきです。

ここで言う「安心して投資」とは、その銘柄への投資理由が明確であり、投資戦略をイメージできることです。また、想定が違った場合に大ケガしないことも重要な要素と言えるでしょう。

この記事では、個別銘柄への投資が可能な「新NISA成長投資枠」を使った投資案を紹介します。投資のはじめ方が分からない人のために、投資案の背景から投資対象となる銘柄の選定までの流れについて解説します。これから成長投資枠を使ってみようと考えている方の参考になれば幸いです。

2. 注目する投資テーマと投資戦略

投資テーマ:「賃貸マンションの家賃上昇に注目した住宅系(レジ)リートへの投資」   
- 住宅価格の高騰を背景に、大都市のファミリー向けマンションの賃料が上昇中   
- インフレの定着、所得増加の流れもあり、マンション賃料の上昇継続を予想   
- 東京23区のファミリー向けマンション保有比率が高い住宅系リートに投資を行い、3%台半ばの配当(分配)に加え、株価(投資口価格)上昇による利益を狙う   
- ダウンサイド(株価下落)リスクは、想定を超える金利の上昇

主な候補銘柄: 

名称略称証券コード投資口価格予想利回り決算期
日本アコモデーションファンドNAF3226608,000円3.58%2/8月
アドバンス・レジデンスADR3269331,000円3.55%1/7月
コンフォリア・レジデンシャルCRR3282316,000円3.58%1/7月

※投資口価格、予想利回り ともに2024/1/26終値時点 
(出所: JAPAN REIT の2024/1/26付情報を転記)

3. 投資戦略の背景

地価上昇、建設コストの上昇などの影響を受けて、マンション価格が都市部を中心に高騰しています。2023年には東京23区の新築マンション平均分譲価格が初めて1億円を超えました。値上がりを受けてマンション購入を諦め、賃貸マンションへの居住を選択する人が増加しています。この結果、賃貸マンションの家賃上昇が発生しているようです。

マンションの家賃は、これまで安定的に推移していました。法律上の制約に加え、所得が上がらない中で、テナント(借り手)は部屋を借りる予算を容易に引き上げませんでした。そのため、テナントの退去を懸念する大家サイドは、値上げを我慢せざるを得ない状況だったと思われます。

また、新しい物件が次々と建てられるため、物件間の競争は激しく、テナントがより新しい物件を好む賃貸マンション市場では、既存物件は値上げしづらい面もあったでしょう。

一方、分譲マンション市場では、新たな現象も発生しています。例えば、将来の相続を見据えて都心物件を購入していた富裕層に加え、円安を背景に急速に購買力を高めた外国人も積極的な買い手です。需要の拡大は、分譲マンション価格を押し上げる要因になりました。

こうした動きは、職場に近接する都市部の分譲マンションの主な買い手であった「パワーカップル」と呼ばれる高所得の共働き家庭の動きに影響を与えています。物件価格の高騰は、「パワーカップル」にすら物件購入をためらわせ、賃貸マンションでの居住を選択させているようです。

今回の投資戦略は、まさにこうした層が都心部のファミリータイプを借りることによる、賃料の上昇継続に期待するものです。

建材の値上がり、人手不足など、マンションの建設コストには今後更なる上昇圧力がかかる見込みです。

さらに、総務省によれば、2023年には東京圏への転入者は12万人の超過となり、一極集中再開の傾向が見られます。

こうしたことから、マンションの価格低下は当面見込みづらく、マンション購入を手控え、賃貸マンションを選択する人は、今後も増加が期待できそうです。

そもそも単身者向けと比べて戸数が少ない都心ファミリー向け物件では、賃貸需要が強い状況は、大家をより優位にすると見られます。消費者が値上げに慣れ始めていることも、大家にとって有利な材料です。

「新NISA成長投資枠」を使って賃貸マンションに投資する方法の1つは、住宅系(レジ)リートの購入です。住宅系リートとは、賃貸マンションに特化して投資活動を行う投資法人で、東証に上場しています。株式(投資口という)を1口単位で売買することができます。(Jリートに関する説明は、「過去の記事」をご覧ください)

資産規模最大手の住宅系リートは、合計280棟、22,000戸超、時価にして約7,000億円の巨大な賃貸マンションポートフォリオを保有しています。住宅系リートが保有する物件の競争力は高く、保有物件のうち賃貸中物件の割合を示す物件稼働率は95%を超える高水準で安定しているケースが大半です。

また、リート各社は古い物件を売却して新しい物件に買い替える、「物件の入れ替え」にも積極的です。多くの場合、過去に取得した物件の簿価は低く、売却に際して譲渡益が発生します。その場合、リートの株主(投資主)は、物件売却益からの分配も期待することができます。

Jリート(日本に上場する投資法人をいう)58法人の配当(分配金という)利回りは、現在3.5%~5.5%です。住宅系リートの配当利回りは、賃料収入の安定性を反映してレンジの下限方向です。但し、Jリートの平均よりも低めの3%台半ばの配当利回りも、事業法人と比べれば、十分に高配当の部類です。

新NISA成長投資枠を使って、住宅系リートに300,000円程度投資すれば、1年間で10,000円を超える配当を受け取ることができます。さらに、予想通りに物件の賃料が上昇し、保有物件の価値の上昇や配当の増加へとつながれば、株価の上昇も期待できることでしょう。

一方、主な株価下落リスクとしては、想定を超える金利の上昇が考えられます。日銀のマイナス金利解除など、今後引き締め方向の金融政策が予想される点は、Jリートにとってマイナス材料です。

ただし、長期金利で1%程度への上昇は、既に株価に織り込まれていると思われます。また、住宅系リートの時価ベースの負債比率は30%台と低く、借入の固定金利化が進んでいることも併せて考えれば、株価の下値リスクは限定的だと思われます。

仮に日銀が想定以上に金利を引き締める局面が訪れるとすれば、インフレ率も大きく上昇しているはずです。その場合、不動産価格も上昇することで、Jリートへの投資は一定のインフレヘッジ効果を発揮するでしょう。

また、現在賃貸住宅に住んでいる人にとっては、住宅系リートへの投資は自らが抱える賃料上昇や、マンション価格上昇のリスクを和らげる効果も期待できるかもしれません。

次に、市場データを使って投資戦略を検証します。

4. 投資戦略の検証

以下はアットホームグループのathomeLabがweb上で公表しているデータで、どなたでもご覧になれます。

まずは、「募集家賃動向(2023年12月)」で足もとの状況を確認します。   
 

 

物件のサイズが大きくなるほど、賃料の上昇率が大きくなっており、福岡市、大阪市の50~70㎡(ファミリー向け)以上の物件は、2ケタの上昇率を示しています。東京23区についても1ケタ後半の上昇率でした。

次に、ファミリー向けに絞って、「マンション賃料インデックス(四半期)」で、長期的な賃料の推移を確認します。

多くの地域が長期的な上昇傾向で推移していますが、騰勢が強いのは東京23区、横浜・川崎市、千葉西部、札幌市、大阪市、福岡市といった地域です。


念のため、別のデータも検証します。住宅系リートで資産規模最大のアドバンス・レジデンス投資法人の決算説明資料(2023年7月期)を見ると、全物件タイプで賃料が上昇局面に転換したことが確認できます。但し、過去2年半一貫して賃料が上昇しているのは、ファミリー向け以上の物件のみです。

各種データから、都市部のファミリー向けマンションの賃料が、大きく上昇している状況が確認できました。したがって、賃料の上昇が期待通りに継続するか否かという点が、今回の投資案の結果を左右することになります。

個人的には消費者が値上げに目が慣れ、個人所得の増加も期待できる現在の経済環境から、賃料上昇の継続に対して強気の見方をしています。

仮に賃料の上昇基調が途切れて、株価の上昇が起こらなかったとしても、3.5%程度の配当利回りを確保できるのであれば、悪い運用ではないとも考えます。

データ確認が終了したら、いよいよ銘柄選びです。

5. 銘柄の選定

現在、東証には賃貸住宅を主体に投資を行うリートが6法人上場しています。各リートの特徴や投資戦略については、ホームページに掲載されているIR情報等でご確認ください。リート各社の情報開示は充実しており、状況の変化をすぐに確認できる点は安心です。

今回の投資テーマに沿って、賃料上昇率の高い大都市のファミリー向け住宅を多く保有するリートを探します。各リートのIR資料から、東京23区への物件の集中度、ファミリー以上の大型住宅の保有比率の観点で候補銘柄を抽出しました。  


 スクリーニングの結果、メインの候補を住宅系リート3法人に絞りました。配当利回り、物件評価額に対する株価の割高/割安を示すNAV倍率(事業法人のPBRに相当)共に大きな差はありません。

強いて言えば、ポートフォリオのサイズが大きく、より広範な種類の物件を保有するのがADR(3269)、東京23区の中でも都心5区への投資比率が高いのが、NAF(3226)CRR(3282)です。

それぞれ、伊藤忠グループ、三井不動産、東急不動産という日本の大企業をスポンサーとする投資法人です。

名称略称証券コード投資口価格予想利回りNAV倍率
日本アコモデーションファンドNAF3226608,000円3.58%0.99
アドバンス・レジデンスADR3269331,000円3.55%1.01
コンフォリア・レジデンシャルCRR3282316,000円3.58%0.97
住宅系リート3銘柄

※投資口価格、予想利回り ともに2024/1/26終値時点 
(出所: JAPAN REIT の2024/1/26付情報を転記)

これらから、実際に投資する銘柄を選ぶのは個人の好みです。もちろん、複数の銘柄に投資をするという方法もあります。

投資を実行するタイミングは自由ですが、判断が難しければ、各リートが公表している予想配当(2期分の合計)を株価で割った期待投資利回りを使う方法もあります。

例えば、CRRの2024年1月と7月の2期分の予想配当は11,310円と公表されているので、株価が316,000円の場合、期待利回りは3.58%です。期待利回りの目標を3.8%とするなら、投資すべきタイミングは、株価が297,631円以下に下落した局面になります。

Jリートの場合、配当の権利落ち日の朝、投資口価格が下がる傾向があるので、そのタイミングで投資をはじめるという考え方もあるでしょう。

例えば、1月決算リートの権利落ち日であった2024年1月30日の午前の終値を見ると、権利落ちとなるリートの投資口価格は、前日終わりに比べて軒並み2~3%下落しました。

また、少し違った視点を加えると、投資の選択肢を広げることができます。例えば、今後は賃料上昇が遅かったシングル/コンパクトタイプマンションの賃料の上昇率が大きくなるとか、東京23区よりもむしろ地方のマンションの賃料上昇率が大きいなどの仮説を立てることも可能です。

その場合、シングル/コンパクトタイプの物件保有比率が高いリートや、東京23区比率が低いリートを選ぶことになります。人口が多く、賃貸需要の強い東京の物件が安定していると考える人が多いことから、こうしたリートでは、より高い配当利回りを得られます。

名称略称証券コード投資口価格予想利回りNAV倍率
スターツ・プロシードSPR8979203,700円4.57%0.85
サムティ・レジデンシャルSMR3459110,900円4.80%0.91
大和証券リビングDLR8986106,700円4.31%0.93
その他住宅系リート

※投資口価格、予想利回り ともに2024/1/26終値時点 
(出所: JAPAN REIT の2024/1/26付情報を転記)

さらに、賃貸マンション以外のタイプの物件が混ざってもいいと考えるのであれば、総合型リートも投資対象にできるでしょう。賃貸マンションの割合が50%程度で、賃貸オフィス等にも投資を行う以下の2投資法人なども面白い選択肢となるかもしれません。

名称略称証券コード投資口価格予想利回りNAV倍率
平和不動産リートHFR8966138,400円4.82%0.96
トーセイ・リートTRR3451140,300円5.21%0.92

※投資口価格、予想利回り ともに2024/1/26終値時点 
(出所: JAPAN REIT の2024/1/26付情報を転記)

ここまで説明した内容を基に、「アイデアブック」に投資アイデアを投稿しましたので、チェックしてみてください。

投資資金が限られる場合や、特定のリートを選びきれない場合も投資を諦める必要はありません。

賃貸マンションを保有するリートを広く組み込んだETFを購入すると言う方法があります。

リートと同様、1口から投資可能で、現在の株価は1,000円程度なので、リスクを抑えて手軽に住宅系リートへの投資を始めることができます。

ETFは新NISAの空き枠消化にも使い勝手がいいので、面白い選択肢になるでしょう。 

名称証券コード株価分配時期
グローバルXレジデンシャル・J-REIT ETF20971,002円隔月

6. 最後に

今回は賃貸マンションの賃料値上げが続いているとの情報から、投資戦略を考え、データを確認し、投資する銘柄を選択するという一連の流れについて解説しました。

新NISAは恒久的な制度に変わり、保有銘柄を売却すれば、その空き枠を再利用することができます。したがって、仮に失敗してもやり直すことができます。

「習うより慣れろ」、まずは投資戦略を考え、無理のない範囲で投資を始めてみませんか?気になる銘柄が見つかったら、実戦の前に完全無料の投資シミュレーション「アイデアブック」で試してみるといいかもしれません。

住宅リートよりもさらに値動きが穏やかな「種類株式」への投資を紹介する記事を用意しました。

「新NISA成長投資枠」を使って年率2.5%の配当を狙う投資です。ご興味があれば。