再びパワー半導体が投資テーマとして注目されている。弊社では2021年1月にパワー半導体のレポート、同年6月に次世代半導体レポートを書いているが、久しぶりにこのセクターのアップデートをしてみる。(パワー半導体のレポートはこちら、次世代半導体のレポートはこちら)初めてパワー半導体についてのリサーチを読む人にも分かりやすいように内容的には重複している部分もある。

 

メモリーを中心とする半導体は2020年に始まったシリコンサイクル(半導体の景気循環サイクル)は2022年夏にマクロ経済悪化から需要が鈍化し、2023年前半までは調整時期という見方が主流である。一方主なパワー半導体メーカーの直近の決算資料を見てみると車載用パワー半導体を中心として需要が強くシリコンサイクルの影響を左程受けていないような印象を受ける。また、各パワー半導体メーカーは相次いで増産を発表している。

 

パワー半導体各社の増産計画

        (出所:エコノミストonline 《まだまだ伸びる半導体》日本パワー半導体が仕掛ける投資の反転大攻勢 2022年6月20日)

上記以外に日立パワーデバイスが2027年までに電気自動車(EV)やエアコン向けなどのパワー半導体の生産能力を1,000億円超投資し、現状比約3倍に増やすとの報道があった。(出所:日刊工業新聞 2022年9月8日)

パワー半導体は国策の重要投資分野

加速するデジタル化社会において電力消費の大幅増加が見込まれているが、省エネ・低消費電力化のコア部品であるパワー半導体は脱炭素に欠かせないものであり、国策として次世代パワー半導体の開発への支援が閣議決定された重要な位置づけとなっている。

(エネルギー基本計画、 ⽇本再興戦略2016、科学技術イノベーション総合戦略2015 出所:NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)、「低炭素社会を実現する次世代パワーエレクトロニクスプロジェクト

 

また、2021年6月に経済産業省が発表した「半導体戦略」では

2030 年までには、省エネ 50%以上の次世代パワー半導体の実用化・普及拡大を進め、日本企業が世界市場シェア 4割(1.7 兆円)を獲得することを目指す。超高効率の次世代パワー半導体(SiC、GaN 、Ga2O3 など)の実用化に向けて、研究開発支援をするとともに、
導入促進のために、半導体サプライチェーンの必要な部分に設備投資支援などを実施。

と明記されている。出所:経済産業省、「半導体戦略(概要)」 p.32 (参考)次世代パワー半導体技術開発 

 

2021年のパワー半導体の世界ランキングTop10の中に日本企業が5社ランクインしており、日本経済で最も競争力がある分野であるとも言えるが、この分野の成長を政府が支援する事により日本の再興を図るという戦略である。

        (出所:Omdia, Power Semiconductor Market Share Database – 2021)

Omdiaの調査によるとパワー半導体の世界ランキングの4位に三菱電機、5位に富士電機、6位に東芝、9位にルネサスエレクトロニクス、10位にロームがランクインしている。

パワー半導体とは?

半導体というとマイコン(CPU)やメモリなどのLSIがよく知られているが、これらは演算や記憶などの働きをする半導体である。一方パワー半導体はパワーデバイスとも呼ばれアナログ半導体に属する電力制御用の半導体素子である。交流を直流にする、電圧を5Vや3Vに降圧するなどし、モーターを駆動したり、バッテリーの充電をしたり、あるいはマイコンやLSIを動作させるなど、電源(電力)の制御や供給を行う。

パワー半導体は様々なものに使われるが、イメージとしては下図のような形である。

 

(出所:サンケン電気HP

パワー半導体の種類は代表的なもので、ダイオード、バイポーラトランジスタ、パワーMOSFET、IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)、サイリスタ等がある。

 

パワー半導体の用途

パワー半導体は、電源回路を持つ全ての電子機器に搭載されている。スマートフォンやパソコン、テレビやエアコン、冷蔵庫といった一般家庭向けの機器の電源回路に使われている。大電力の分野ではEV、5G基地局、電車、産業機器、太陽光発電、風力発電等の電力制御に幅広く使われている。

 

出所:昭和電工マテリアルズ 「【徹底解説】パワー半導体・パワーデバイスとは?その種類や主な用途、発熱・温度上昇と放熱対策

 

パワー半導体の市場規模

2022年5月に発表された富士経済の調査によると2022年のパワー半導体の市場規模は2兆3,386億円になる。パワー半導体市場は、5G関連などの情報通信機器分野や、中国、欧州における自動車・電装分野の需要増加などもあり、2021年は2020年に比べ20.7%も増加した。2022年も拡大基調は続くが、部材の供給不足といった課題もあり、11.8%増の2兆3386億円を見込む。2030年には2022年の倍以上の5兆3,587億円の市場規模になると予想されている。

          (出所:富士経済、パワー半導体の世界市場を調査

パワー半導体の中でも、大きな伸びを見込むのが次世代パワー半導体である。2022年見込みの1,249億円に対し、2030年には1兆円を超える規模となると富士経済は予想している。次世代パワー半導体はシリコンの性能の限界を超えるワイドギャップ半導体である。ワイドギャップ半導体は炭化ケイ素(SiC、シリコンカーバイド)、窒化ガリウム(GaN)、酸化ガリウム(Ga2O3)の三種類である。

 

次世代パワー半導体の世界市場予測は以下である。

           (出所:富士経済、パワー半導体の世界市場を調査

次世代パワー半導体に関しては、2030年まではSiCパワー半導体が主流になりそうである。デンソーやロームの試算によると、EV駆動用インバーターのパワー半導体をSiからSiCに置き換えることで、航続距離を約10%も伸ばせるとの事である。

SiCパワー半導体は2017年に出荷を開始したテスラの「モデル3」が駆動モーター用インバーターに伊仏合弁のSTマイクロエレクトロニクスのSiCパワーデバイスを搭載し、Model 3と内部構造がほぼ同じの兄弟車「Model Y」にも採用された事からSTマイクロエレクトロニクスはSiCパワー半導体の市場では圧倒的な首位(2021年のマーケットシェアは40%)である。SiCパワー半導体市場で二位はドイツのインフィニオンテクノロジーズ(2021年のマーケットシェアは22%)である。フォルクスワーゲン他20種類以上のプラットフォームに採用されている。三位はアメリカのウルフスピードである。(2021年のマーケットシェアは14%)ウルフスピードはSiCパワー半導体とGaNパワー半導体に特化しており、GMと高級EVメーカーのLucidとパートナー契約を結んでいる。四位はローム(2021年のマーケットシェアは10%)である。

車載搭載以外にSiCパワー半導体はサーバー電源、太陽光発電装置、充電インフラ向けなどで需要が拡大すると言われている。

 

SiCパワー半導体世界四位のローム(6963)は世界シェア首位を目指す

ロームは2022年5月にSiCパワー半導体の2025年度売上高目標を1000億円とし、長期的には世界シェア首位を目指すと発表した。約1,500億円を投じ、同半導体の生産能力を2021年度比約6倍にする計画である。ロームはSiC半導体への引き合いが、2022―2025年度の3年間の累計で約8,400億円に達する。(出典:日刊工業新聞 2022年6月9日)

 

トヨタとホンダが量産EVにSiCパワー半導体採用

トヨタは2022年発売予定の「レクサス」ブランドの新型EV「RZ」に、ホンダは2026年以降の発売を計画する中・大型EVにSiCパワー半導体を採用する。いずれもモーターを駆動するインバーターに搭載する。これまで両社はSiCパワー半導体を市販車に採用したことはあったが、対象は燃料電池車(FCV)の昇圧コンバーターと限定的だった。インバーターというパワートレーンの中核部分にSiCパワー半導体を採用するのは初めてである。   (出典:日経クロステックス 2022年10月7日)

 

マツダがSiC搭載EVを2025年以降に投入

マツダとローム、今仙電機製作所は2022年11月22日、SiCパワーモジュールを搭載したインバーターの共同開発契約を結んだと発表した。ロームがSiCモジュールをつくり、今仙電機製作所がそれを載せたインバーターを開発、最終的にマツダのEVの電動駆動ユニットに搭載する。(出典:日経クロステック 2022年11月22日)

トヨタ、ホンダ、マツダのSiCパワー半導体採用によりSiCパワー半導体の市場規模は2030年に9,694億円という富士経済の予想よりも前倒しで1兆円市場になるのではないかと考えている。

 

窒化ガリウムパワー半導体(GaNパワー半導体)

窒化ガリウムは従来は青色LEDやレーザーダイオードの材料として広く用いられてきた。生産における歩留まりの低さなどからSi(シリコン)と比較してコストが非常に高くなり、これがネックとなっていた。ただ、GaNを用いたパワーデバイスはオン抵抗が低いため、高速スイッチング(ON/OFFの切り替え)が可能となり、充電器やアダプターに使われてきたSiダイオードやトランジスタをGaNデバイスに置き換えることで、電力損失が抑えられ、発熱量が減る。機器そのものの小型化や高効率化を図ることができるため、最近ではスマートフォンやタブレット端末向けの急速充電器にGaNを採用するケースが増えている。ASUSの最上位モデルパソコン「ProArt StudioBook One」にはGaNを採用したACアダプターが同梱されており、300ワットのACアダプターとは思えない、手のひらサイズで大きな話題となった。窒化ガリウムに関しては価格が非常に高い事が一番の問題であるだろう。

 

酸化ガリウムパワー半導体(Ga2O3パワー半導体)

2021年6月にタムラ製作所から子会社であるベンチャー企業のノベルクリスタルテクノロジー(NCT)が酸化ガリウム(Ga2O3)の100ミリウエハーの量産に成功した事が株式市場でも大きな話題となったが、酸化ガリウムはSiCやGaNより高耐圧・低損失という特性があり、低コスト化が可能である。中耐圧の民生機器から高耐圧の産業分野へ展開が予想される。信頼性を獲得してからEVへの活用が開始される見込みである。      (以上出典:新電元工業、次世代パワー半導体によるEV革新

NCTは2025年をめどに100ミリメートル(4インチ)酸化ガリウム(Ga2O3)エピウエハーを年2万枚量産できる体制を作るために20億円で本社工場内に設備を増設すると2022年7月に発表した。ノベルクリスタルテクノロジーは2022年9月に酸化ガリウム反転型DI-MOSトランジスタの試作に世界で初めて成功した。この開発の成果により、パワーエレクトロニクスの低価格化や高性能化につながる、中高耐圧(0.6-10 kV)の酸化ガリウムトランジスタの開発が大きく前進する事が期待される。酸化ガリウムの研究ではタムラ製作所、情報通信研究機構(NICT)、東京農工大学がNCTと共に研究開発に取り組んでいる。NCT制作のパワーデバイス用半導体としての β-Ga₂O₃の魅力についての動画はこちら

NCTのグループの他に京都大学発ベンチャーのFLOSFIAもデンソー、三菱重工、フジミインコーポレーテッド等と組んで酸化ガリウムパワー半導体の研究開発をしてきている。FLOSFIAでは、酸化ガリウムを用い、世界最小(FLOSFIA調べ)のオン抵抗である0.1mΩcm2のショットキーバリアダイオード(SBD)の試作に成功している。オン抵抗とは、パワーデバイスの主要な性能指数で、値が小さいほど低損失が期待できる。現在販売されている最新のシリコンカーバイド(SiC)製SBDのオン抵抗0.7mΩcm2と比較すると86%もの低減となる。しかもこのSBDは500V以上の耐圧を有しており、家庭用の電源用途で使用可能な耐圧を有している。(出所:FLOSFIA HP、パワーディバイス事業紹介

 

パワー半導体材料の性能比較

ここで現在の主流のシリコンを含め次世代パワー半導体の材料の性能の比較を下にあげる。

半導体は絶縁体と導体の中間物質であるが、バンドギャップについてはバンドギャップが大きい程電気が流れにくい。パワー半導体に適した材料かどうかを判断する指標としてバリガ性能指数がよく用いられるが、シリコンが1としての比較となるが、炭化ケイ素が340、窒化ガリウムが870に対して、酸化ガリウムはダントツの3,444である。即ち、酸化ガリウムのパワーデバイスにより大きな省エネが実現できる。またコストがSiCやGaNに比べて格段に安い。酸化ガリウムのパワー半導体の研究開発は政府の支援もあり、日本が先行している。

(出所:大阪工業大学 研究支援・社会連携センター シニアURA 北垣氏コラムより)

以上材料別の性能をみてきたが、次世代パワー半導体のうち2030年まではSiCが主流となり、その次は性能とコストを考えると酸化ガリウムが次世代パワー半導体の主流になると考えている。しかし、NCT、FLOSFIAの研究開発の成果次第で世代交代は2030年より前に起こる可能性もあるだろう。

 

パワー半導体銘柄

①三菱電機(6503)

株価(2022/11/25)時価総額予想PER  PBREV/EBITDAROEROIC
   1,428.5円 3.0兆円14.03倍0.98倍    4.9倍 6.6% 6.2%

総合電機大手。FA、自動車機器や昇降機が収益柱。 5つの重点成長事業の1つにパワー半導体を位置づけている。2020年度のパワーデバイス(IGBTモジュール)売上高1,480億円を2025年度に2,400億円以上とする計画を発表している。2022年3月期通期の電子デバイス事業部門の営業利益率は6.95%であった。2022年5月に鉄道事業を広く展開するSiemens MobilityとSiCパワーモジュール技術の分野で協力と発表した。設備投資に関してはSiがメインであり、SiC等の次世代に積極投資とは発表していない。

 

②富士電機(6504)

株価(2022/11/25)時価総額予想PER PBREV/EBITDA ROEROIC
         5,780円8,256億円13.88倍1.69倍     6.6倍12.0%8.2%

重電機器四位。パワーエレクトロニクス機器や自動販売機、パワー半導体に強み。富士電機は2025~2026年のSiC世界シェア2割獲得を目標としている。富士電機は鉄道向けにSiCパワー半導体の納入実績を持つが、2022年度中に松本工場でEV向けSiC金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)を量産する予定である。車載用SiC市場は2024年頃から急拡大するとみられており、富士電機も2024年度以降に供給先が3社に増え、車種も3―4種に拡大する見通しである。

 

③東芝(6502)

株価(2022/11/25)時価総額予想PER PBREV/EBITDAROEROIC
           4,725円   2.0兆円   N/A1.64倍     9.7倍 N/A N/A

総合電機9位。不正会計や米国原発事業の巨額の損失で経営危機になり非公開化を含めた再編案を検討中。パワー半導体事業に関しては、Siパワー半導体のラインアップの拡充やSiC、GaNデバイスの開発を加速し、パワー半導体の研究開発だけで5年間に1000億円を投入する計画である。設備投資(HDD投資も含む)に関しては2025年度までに約2,600億円を投資し、2020年度比でSiパワー半導体は1.7倍にする予定である。パワー半導体売上高を2025年までCAGR9%で成長させ、半導体事業の用途別売上高における車載、産業向けの比率も2021年度の58%から2025年度には65%にまで高める予定である。注力するパワーMOSFETについては、2020年度には市場シェア4位だったが、2025年度にはトップ3入りすることを目指している。

 

④ルネサスエレクトロニクス(6723)

株価(2022/11/25)時価総額予想PER PBREV/EBITDAROEROIC
   1,396円  2.5兆円     N/A1.51倍      5.3倍7.7% 6.5% 

日立、三菱重工、NECの半導体事業が統合した企業。車載半導体世界3位。米英3社を買収した。生産能力を2倍に増やし、世界最大手の独インフィニオンテクノロジーズを追撃する予定。2014年にいったんは閉鎖した甲府工場(山梨県甲斐市)を復活させ、2024年の再稼働を目指して900億円かけて新生産ラインを構築しIGBTやパワーMOSFETを生産すると2022年5月に発表した。ルネサスは開発や投資に巨額費用がかかる演算処理系の先端ロジック半導体などをファウンドリーに生産委託し一方で自前の技術を生かしやすいパワー半導体は、ファウンドリーに生産を任せずに内製化を続けてきた。

 

⑤ローム(6963)

株価(2022/11/25)時価総額予想PER PBREV/EBITDAROEROIC
         11,130円 1.1兆円 13.65倍1.2倍    6.0倍7.3% 5.7%

電子部品メーカー、カスタムLSI首位。2022年5月にSiCパワー半導体の2025年度売上高目標を1000億円とし、長期的には世界シェア首位を目指す。SiCパワー半導体でSiパワー半導体の比べて電力ロスを半分以下に減らす省電力、高電圧対応でEVや医療といった新市場を開拓する予定。SiCパワー半導体については1990年代に京都大学などと共同研究を始め20年以上の研究開発の実績がある。2021年には中国の自動車部品大手の正海集団と合弁会社を設立した。米国の新興EVメーカーLucid Motorsにロームの SiC MOSFETが2022年4月に採用された。年内にもSiCを使った電流の変換部品などの生産を始め、中国自動車メーカーに供給する予定である。2009年に原料であるSiCウエハーを生産する独サイクリスタルを買収し、変換部品や周辺のモジュールまでロームは自社開発している。ロームはドイツのパワーモジュール大手セミクロンとSiCパワーモジュールの開発において、10年以上の協力関係にあるが、セミクロンの車載用パワーモジュール「eMPack®」にロームの第4世代SiC MOSFETが正式に採用された。ロームは東芝に出資を検討中である。

 

⑥サンケン電気(6707)

株価(2022/11/25)時価総額予想PER PBREV/EBITDAROEROIC
   6,990円 1,689億円21.09倍1.54倍   4.9倍2.9%5.7%

独立系パワー半導体大手。EV、白物家電向けアジア市場を強化している。1990年に米国に子会社「アレグロ マイクロシステムズ インク」を設立し、2020年にNASDAQ Global Select Marketに上場した。2020年にSTマイクロエレクトロニクスとの戦略的パートナーシップ関係を発表した。高耐圧・高出力IPM(インテリジェント・パワー・モジュール)を産業機器および自動車市場に投入するための協力関係である。2021年末に中国大連から初出荷したEV用IPMの増産計画を前倒した。また大電流領域の参入製品も生産準備を着々と進めている。

 

⑦タムラ製作所(6768)

株価(2022/11/25)時価総額予想PER PBREV/EBITDAROEROIC
   861円 703億円 26.15倍1.3倍    12倍N/A0.3%

電子部品メーカー。子会社に酸化ガリウムパワー半導体のノベルクリスタルテクノロジー(NCT)がある。産業機械向けトランス・リアクターの大手。トランスは電圧変換、リアクタは電圧制御やノイズ除去のための基幹部品。大型トランス・リアクターは欧州大手企業で採用実績を積み重ねてきたが、米国でも 大規模風力発電設備、データセンター関連市場などから需要が増加している。

 

⑧トレックス・セミコンダクター(6616)

株価(2022/11/25)時価総額予想PER PBREV/EBITDAROEROIC
   3,140円 345億円  9.82倍1.36倍  4.2倍12.4%8.2%

トレックス・セミコンダクターについては2021年7月に個別レポートを書いているので詳しくはこちらをご参照ください。トレックスは省電力、低ノイズの超小型電源ICに特化し、ファブレスで設計と販売を行っている。連結子会社のファウンドリーのフェニテックは特にディスクリートと言われるダイオードやMOSFET、そして、パワー半導体を主力製品としている。受託製造が主力ではあるが、自社開発のオリジナル製品も提供している。NCTと資本提携関係にある。またインドのアナログ半導体製品開発ファブレスメーカーのCirel社と製品開発のために資本提携をしている。

 

⑨新電元工業(6844)

株価(2022/11/25)時価総額予想PER PBREV/EBITDAROEROIC
   3,410円352億円8.17倍0.56倍     4.6倍9.4%4.5%

エネルギーの変換効率をパワーエレクトロニクス・メーカー。ブリッジダイオードや二輪車向け電装品は世界トップクラスのシェアを誇る。車載用、再生可能エネルギー、産業機器用に多種多様なダイオード、低耐圧から高耐圧までの幅広いMOSFET、高耐圧パワーIC、パワー回路部品を集約化したパワーモジュールを提供している。電装品は二輪車用がインドで伸びている。また排ガス規制で需要が高まる電動バイク向けにモーター駆動の制御ユニットの拡販に注力。

 

⑩Mipox (5381)

株価(2022/11/25)時価総額予想PER PBREV/EBITDAROEROIC
   654円94億円13.3倍1.08倍    6.7倍18.1%11.5%

 

微細表面加工の液体研磨剤大手。研磨製品の提供のみならず、研磨品質の測定や受託研磨加工サービス、受託開発、研磨コンサルティング等研磨に関するワンストップソリューション企業である。SiCウェーハ向け次世代研磨フィルムについて2024年度リリースに向けて産業技術総合研究所と共同研究開発を行っている。次世代半導体対応の検査用プローブカードクリーニングシードを今期中にリリース予定。SiC大口径ウェーハの量産加工技術開発においてSiC結晶欠陥評価、検査技術、装置開発に産官学連携で取り組んでいる。

 

⑪タカトリ(6338)

株価(2022/11/28)時価総額予想PER PBREV/EBITDAROEROIC
   8,590円 469億円 28.97倍7.24倍 19.7倍16.1%11.2%

産業機械メーカー。半導体製造機器、高硬度脆性材料の切断加工機など電子機器事業が主力。SiCを切断するワイヤーソーは世界トップシェアである。SiCをインゴットの状態からワイヤーソーで薄くスライス加工する装置をタカトリが製造しており、100%近い世界シェアを獲得している。パワー半導体向けSiC材料切断加工装置の大口受注(26億円)を海外企業より獲得。売上計上は2023年9月期及び2024年9月期に予定している。

 

⑫テセック(6337)

株価(2022/11/28)時価総額予想PERPBREV/EBITDAROEROIC
         3,535円200億円  8.82倍1.63倍     7.4倍14.0%11.4%

半導体検査装置であるハンドラ(半導体の電気的結果をもとに性能毎に分類・選別する装置)、テスタ(半導体の性能を電気的に測定する装置)およびパーツ等(保守部品、コンバージョンキット等)の開発・製造・販売を行うメーカー。テセックの強みである高電圧・大電流なパワー半導体測定技術を継承しつつ、長年蓄積してきた測定技術を活用し、ウェハテスト工程に対応した新しいタイプのテスタにも注力している。

 

アナリストビュー

パワー半導体市場の直近のアップデートをおこなったが、EV化に遅れていた日本車メーカーが次々にSiCパワー半導体をEVに搭載すると発表し、パワー半導体は投資テーマとして重要な位置付けとなった印象がある。このセクターの銘柄の中では競争力の高い超小型電源IC、パワー半導体のファンドリーを子会社として持つトレックス・セミコンダクターに注目してきたが、今回のリサーチを通じて新たにロームにも注目した。SiCパワー半導体の研究開発を20年以上してきており、SiCウエハーを生産する独企業を買収し、変換部品や周辺のモジュールまでロームは自社開発しており、技術的にもコスト的にも競争優位にいるのではないかとの印象を持った。また日本が研究開発において世界をリードしている次世代パワー半導体の酸化ガリウムパワー半導体(Ga2O3パワー半導体)にも引き続き注目している。

 

 

執筆者プロフィール

株式会社pafin 

マーケットアナリスト 西村 麻美

西村麻美/mami.png

新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。

 

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