このレポートでは2007年以来17年ぶりの利上げで日本株市場がどのようになるか、また投資戦略について考えてみる事にする。
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日銀のマイナス金利解除
本日18日、明日19日に開かれている日銀金融政策決定会合でマイナス金利を解除すると15日夜に一部報道では既に決定事項のように報じられていた。15日夕方に発表された春闘の賃上げ回答の第一回集計結果は平均賃上げ率が5.28%(大企業5.3%、中小企業4.42%)であった。平均賃上げ率5.28%は昨年2023年の春闘の平均賃上げ率の3.58%を大きく上回った。また、ブルームバーグが月初に集計したエコノミスト予想中央値4.1%も上回り、最終集計との比較では1991年の5.66%以来の高水準となった。中小企業に対する賃上げの後押しとして補助金や税制優遇を政府が準備した事等で中小企業も昨年の平均賃上げを上回る事ができ、マイナス金利解除の環境は整っているのではないかと思われる。
追加利上げには慎重姿勢か?
植田総裁は1998年から2005年まで日銀審議委員をつとめた経歴がある。日銀審議委員の在任中の2000年8月11日に当時の速水日銀総裁はゼロ金利の解除を行った。2000年3月からナスダックは下落を始めたなかでのゼロ金利解除であった。ITバブル崩壊のなかでのゼロ金利解除は失敗に終わり、2001年10月5日に日銀は再びゼロ金利政策に戻した。植田総裁は日銀総裁就任前から金融正常化が遅過ぎるリスクより早過ぎるリスクの方が大きいと繰り返しコメントしてきたとの事であるが、それは2000年のゼロ金利解除が失敗に終わった事を審議委員として経験したゆえの発言であり、マイナス金利は解除しても追加利上げには慎重姿勢を取るのではと推測している。
2000年と現在の経済状況比較
ここで2000年のアメリカで始まったITバブル崩壊時と現在の状況を比較してみる。2000年の3月時点のナスダックの平均PERは67.8倍であった。光ファイバー事業やブロードバンド事業等に対する需要の伸び悩みやドットコム企業の収益に改善をの兆しがみられなかった事等から、IT企業関連企業に対する期待は急速に収縮し2000年5月の0.5%の大幅利上げもあり、夏以降株価が急落した。日本では2000年8月のTOPIXの平均PERは107.5倍とまさにバブルであった。アメリカのITバブル崩壊の影響を受け2000年10月に景気の山を越え、景気後退局面に入った。 その後、2001年を通じて、生産は大幅に減少するとともに、失業率も既往最高水準を更新し、景気は悪化を続けた。 実質経済成長率は、2001年4~6月期以降マイナスに転じた。
現在の状況であるが、3月15日時点のナスダックの平均PERは28.28倍であった。生成AIブームの筆頭のエヌビディアでさえ予想PERは35.71倍とバリュエーションが極端に高い印象はない。アメリカの2023年10~12月期の実質GDP成長率は前期比年率3.3%と堅調な個人消費に支えられ2四半期連続で高い成長となった。これまでの利上げによる景気抑制効果からこれから緩やかに景気は減速するのではと見られている。雇用の安定、個人消費の底堅さ、企業収益の回復傾向にある事から景気はソフトランディングするのではないかと思われる。一方日本では3月15日時点のTOPIXの平均PERは16.48倍であり、ナスダックに比べて割安感が目立つ。企業業績は2024年3月期は3期連続過去最高を更新する予定である。賃金の上昇、インバウンド消費の増加、好調な企業業績、マイナス金利を解除後も日銀は緩和姿勢を継続する事から景気は底堅く推移するのではと推測している。
上述したように2000年のゼロ金利解除時と現在の経済状況は異なる。マイナス金利を解除しても植田総裁は追加の利上げに慎重な姿勢を取ると思われる事もあり、株式市場は一時的な調整はあっても大きく下落する事はないと考えている。むしろ調整時は押し目買いのチャンスになるのではないだろうか。
外国人投資家の日本株強気は継続
2024年年初から3月までの外国人投資家の売買動向は現物株で3兆2,178億円の買い越しである。外国人投資家は企業業績の3期連続最高益更新に加えて東証のPBR1倍割れ企業への改善要請による利益改善ポテンシャルの高さにベットしており、日本株に対する強気の姿勢は変わっていないと思われる。
18日の日本株市場は既にマイナス金利解除は織り込み済みで、マイナス金利解除後も金融緩和姿勢を継続との観測で日経平均株価は2.1%上昇して3万9521円43銭で前場は引けた。
マイナス金利解除時に上がるセクター
日銀のマイナス金利解除後に上がるセクターは地方銀行、保険、証券を考えている。銀行セクターに関しては2022年12月に日銀がYCCの修正を行って以降ずっと上昇し、銀行株指数は2024年3月15日までに68%も上昇しており、TOPIXのリターン39%を大きくアウトパフォームしており、マイナス金利解除後からの上昇余地はそんなに大きくないと考えている。
一方地方銀行のPER一桁台の銘柄は出遅れており、国内の金融政策正常化から国内事業が殆どの地方銀行は利益改善が大きいと思われるので上昇余地はあるのではと思われる。
また、保険セクターに関しては損保大手四社が政策保有株をゼロにすると表明している。純資産縮小による株価上昇余地は大きいと考えている。しかし、大手損保四社のうち東京海上はアメリカでの事業規模が大きく6月に利下げ観測があるために株価上昇余地は同業他社に比べて大きくないのではないかと思われる。
今回日銀はマイナス金利を解除し、金融政策を正常化するが、アメリカに関してはFRBはおそらく6月に利下げをするのではとの見方が優勢である。そうなると日本株市場も大幅高になり日経平均株価4万円台も現実味があると思われる。ブルマーケット到来で今まで株式投資をした事がない個人投資家の参加も期待でき証券セクターの利益も上がるのではと考えている。
円高メリット銘柄より半導体関連株
本日18日のマーケットを見て為替はむしろ円安方向にふれており、マイナス金利の解除があっても追加利上げ観測が浮上しない限りは円高方向には行きづらいとの印象を持った。円高メリットの銘柄に関しては6月にFRBが利下げを行い、金利差縮小から円高に向かい上昇するとは思うが、株価調整のタイミングで半導体関連株、特に生成AI関連株を押し目買いする方が上値は大きく取れるのではと考えている。特に前回書いたレポートの「高成長のAIデータセンターで恩恵を受ける日本企業11選」中で取り上げたHBM関連銘柄は今期ではなく2025年3月期に本格的に利益貢献が始まるので押し目で拾っておくのは良いのではないかと思っている。
PBR1倍割れ、持合い株解消は中長期的テーマ
マイナス金利解除とは直接関係ないが、これから更に外国人投資家の日本株買いが増えていくと思われるが、PBR1倍割れ企業、持ち合い株(政策保有株)を大量保有する企業に対する外圧は大きくなる一方だと推測される。これら企業を調べて買っておくと長期的なリターンはかなり大きいものになり日本株の中長期的な投資テーマである。