コロナ禍で生活様式が変化する中、投資を始める20-30歳代が増加しています。
いわゆる「老後2000万円問題」などにより、資産形成に対する社会の関心は高まっていました。そんな中、コロナ禍での在宅勤務の普及や外出自粛などにより、学習や情報収集に使う時間が増えたことが、若年層を投資へと向かわせるきっかけとなったようです。
生活不安解消の道筋が見えない中、自分の未来を守るための投資熱の高まりは、合理的な動きであり、円安やインフレが懸念される足許の状況は、若年層の背中をより強く押す可能性が高いと考えます。
多くの若い人が経験したことがないインフレの社会とは、持っているだけのお金は、インフレ分だけ価値が目減りしてしまうからです。
このコラムでは、投資デビューした、またはこれからデビューする方のために、ジョギングのようにゆっくりと、無理なく続けられる資産運用を紹介します。
それは、上場不動産投資信託であるREIT(以下「リート」といいます)を対象とする長期投資です。
リートって何? 不動産投資って危なくない? 銘柄選びって難しくない?
そんな疑問にこれから答えていこうと思います。
ジョギングだって上り坂があったり、向かい風が吹いたり、一定のスピードで走り続けることは簡単ではないでしょう。時には歩いてしまうこともあるかもしれません。
投資も同じです。うまくいく局面もあれば、時には道を間違えてしまう局面もあるかもしれません。でも、続けていれば確実に、長く安定して走れるようになります。
果たして自分に走れるのか、そもそも走るべきなのか、のヒントを探すために、まずは周りを観察してみましょう。
1. 若年投資家層の拡大
20-30歳代による投資は、コロナ禍で社会が変化する中、急速に拡大しています。
日本証券業協会によれば、個人投資家のための非課税投資制度であるNISA(ニーサ)*の2022年3月末時点の口座数(「一般NISA」と「つみたてNISA」の合計)は、1,120万口座だそうです。
*イギリスの非課税投資制度(Individual Savings Accounts)を参考に創設された投資制度で、頭にニッポンのNを足してNISAの略称が使われています。
この口座数は、コロナ禍前の2019年末時点と比較して、323万口座、率にして約40%の大幅な増加を示しています。
(出所:日本証券業協会 https://www.jsda.or.jp/shiryoshitsu/toukei/files/nisajoukyou/nisaall.pdf )
特筆すべきは、緑色の「つみたてNISA」口座の増加数で、2019年末の95万口座から、2020年末には172万口座、2021年末には339万口座へと、ほぼ倍増を続けました。
2022年3月末には396万に達し、コロナ禍前と比べて実に4倍の規模まで増加しています。
年代別のNISA口座数の推移を見ると、20-30歳代の若年層の増加が、他の年代を圧倒しており、若年層が口座開設をけん引していることが分かります。
また、年代別の「一般NISA」と「つみたてNISA」の口座数を比べると、若年層では、「つみたてNISA」の割合が約2/3で、「つみたてNISA」全体の56%を占めています。
所得額や資産背景を考えると、若者のNISA口座が、少ない投資金額で始められる「つみたてNISA」主体になるのは、自然なことでしょう。
(出所:日本証券業協会 https://www.jsda.or.jp/shiryoshitsu/toukei/files/nisajoukyou/nisaall.pdf )
「つみたてNISA」に関して、もう1つ面白いデータがあります。
日本証券業協会は、「つみたてNISA」口座開設者の88.1%は投資未経験者であった、と説明しています。
つまり、「つみたてNISA」の口座数が222万口座ということは、約200万人の若者が、コロナ禍の生活様式の変化の下、投資デビューを果たしたとも解釈できそうです。
2. 投資デビューの理由
これほど多くの若者が、投資デビューを果たした理由は何でしょうか?
まず、日本経済の国際的地位が、長期的に低下している影響がありそうです。
GDPそのものは、アメリカ、中国に次ぐ第3位の地位を保っている日本経済ですが、GDPを人口で割った1人あたりGDPを見ると、その競争力の低下は明らかです。
一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏は、東洋経済ONLINE(2021年12月26日、「日本が国際的地位を格段に下げている痛切な事実」)で、2000年に世界2位だった1人あたりGDPが、
2021年には24位まで低下したことを示したうえで、その最大の要因は円安と経済成長率の低さであったと解説しています。
長期低迷する経済成長は、個人所得が増加しない要因となり、将来の生活資金確保のための資産運用を考えざるを得ない環境を創り出します。
また、2019年にいわゆる「老後2000万円問題」が大きく話題になったことも、資産形成の必要性を認識づけ、投資への関心を高めたと思われます。
そうして、投資に対する潜在的な関心が高まる中、2020年に発生したコロナ禍は、人々の生活様式を大きく変えました。
在宅勤務の普及や外出自粛は余暇時間を増加させ、人々はより多くの時間を、学習や情報収集に使うようになりました。
2021年6月にMUFG資産形成研究所が発表したレポートは、「老後2000万円問題」と「コロナ禍」をきっかけに投資を実施した若年層の割合が大きいことを示しています。
(出所:MUFG資産形成研究所「コロナ禍における行動変化と投資状況について」kinnyuu_literacy_14.pdf )
同レポートは、コロナ禍が、特に若年層に対して余暇時間の増加や、自己啓発や資産運用等の学習・情報収集時間の増加させる効果をもたらしたと指摘しています。
つまり、もともと将来のための資産形成の必要性を感じていた多くの若者が、コロナ禍での学習や情報収集を経て、実際に投資デビューを果たしたと解釈できそうです。
(出所:MUFG資産形成研究所「コロナ禍における行動変化と投資状況について」kinnyuu_literacy_14.pdf jp )
では、20-30歳代のうち、実際に投資をしている人の割合はどのくらいでしょう?
MUFGのレポートは、20代の51%、30代の60%が「投資経験あり」としています。
つまり、若年層の過半が既に投資経験を有しており、特に投資経験のある30代の割合は、全ての年代の中で最大です。
逆に、「投資をしようと思ったことはない」と回答した20代、30代は、それぞれ20%、15%に過ぎず、他の年代に比べ少数になっています。
投資に対して既に高い関心と積極的な姿勢を示している若者に対し、足もとの社会状況は、その背中をさらに強く押すことになりそうです。
ロシアのウクライナ侵攻以降の世界的なインフレや、他先進国とは真逆の金融緩和政策の影響を受けた大幅な円安は、人々の生活に大きな影響を与えて始めています。
インフレ下では、モノの価格が上昇する、逆に言えば、お金の価値は棄損します。
これまでの長いデフレ局面では、お金の価値が目減りすることはなく、むしろ放っておけば上昇していたはずです。
したがって、とにかく損をするのは嫌、と考える多くの人にとって、利息がほぼゼロであったとしても、銀行預金で元本を確保しておけばいい状況だったと言えます。
日本人が投資に消極的な理由を、金融リテラシーの不足とする説明を時々見かけます。
そういった面もあるにはあるでしょうが、実は預金者は極めて合理的な選択をしていたわけです。
しかし、インフレの社会では、この状況は一変します。
現在100万円の商品の値段は、1年後には値上がりしているでしょう。したがって、100万円のお金を持ち続けるだけでは、この商品を買えなくなってしまいます。
言い方を替えると、お金の価値がインフレ率の分だけ目減りしてしまうため、同じ購買力を維持するためには、行動を起こすしかありません。
日本の足もとのインフレ率は、2%を超えて推移しています。
つまり、現在100万円の商品が、1年後に102万円になっていても何ら不思議ではありません。
メガ銀行の1年物定期預金の金利は0.002%程度なので、預金すると1年後には20円の利息をもらえます。しかし、商品を購入するには19,980円足りません。
一方、100万円を年利5%で投資できれば、資金は105万円に増えるため、商品を購入しても30,000円が手元に残ります。
これが、インフレの社会で起こることです。
余った30,000円は再び投資できるので、1年目の49,980円の差は、2年目、3年目と時間の経過につれて拡がっていきます。
自分の資産の価値を守るためには、インフレ率以上の利回りでお金を運用する、又はインフレ率以上に価格が上昇するモノ(例えば不動産)を購入する、などの行動が重要です。
3. 若年層の投資の特徴
若年層の投資では、「つみたてNISA」の利用が多いことをすでに説明しました。
その結果、投資信託を使って投資デビューする人の比率が高いという特徴が生まれます。
MUFGの調査では20代、30代ともに、国内個別株式で取引を開始した人の割合(下の図の青部分)が最も大きいとされているものの、他の年代に比べ、その比率は低くなっています。
逆に、投資信託で取引を開始した人の割合(下の図のオレンジ部分)は、他の年代と比べて大きくなっています。
(出所:MUFG資産形成研究所「コロナ禍における行動変化と投資状況について」kinnyuu_literacy_14.pdf jp )
では、若者達はどんな投信を購入しているのでしょうか?
ネット証券の「つみたてNISA」の売れ筋商品を調べてみました。
上位にランクされている投信は、S&P500等の米国株式や世界株式、先進国株式といった、海外株式インデックスに連動する投資信託ばかりで、
それ以外の商品は、複数種類の資産に投資するバランス型商品が1つランクインしているだけです。
若年層には、海外株式インデックス投信の人気が圧倒的に高いようです。
SBI証券 2022年7月 つみたてNISA月間積立設定金額
(出所:SBI証券 https://site2.sbisec.co.jp/ETGate )
4. 若年層投資家の今後の課題
日本に居住し、日本で仕事をする若者が、将来のために海外株式インデックス投信に長期投資を行うことは、リスクヘッジの観点からも合理的な判断だと言えます。
また、積立方式で、時期を分けて長く投資していくという方法も理にかなっています。
そんな中、あえて課題を1つ挙げるとすれば、積立型のインデックス投資は、簡単に始められる一方、自ら投資判断を下す場面が限定的なことから、投資力が向上しづらいことでしょう。
積立型投資では、予め決めた金額で予め決めた商品を自動的に購入する方法が多いため、投資のタイミングを自ら判断する必要がありません。
また、購入した投資商品をそのまま保有し続けることが多いため、商品を売却する場面も限定的になりがちです。
さらにインデックス投資では、個別銘柄について調査する必要もありません。
コストを抑えて手軽に投資できるのがインデックス投資のいいところですが、せっかく投資デビューしたのであれば、投資学習をもう一歩進めることも重要でしょう。
例えば、「つみたてNISA」同様、非課税で株式投資ができる「一般NISA」を利用して、リートを含む個別株式や、上場投資信託であるETFに投資をするのはどうでしょう?
「つみたてNISA」でデビューしたからと言って、同じことを続ける必要はありません。
現在、「つみたてNISA」で投資をしている人も、実は来年分を「一般NISA」に変更することも可能です。
また、「一般NISA」は、2024年に制度変更が予定されており、変更後は積立投資と個別株投資の併用が可能となります。
第2回は、投資に際して是非利用していただきたい非課税投資制度と、予定されている制度改正の内容、さらにそれらの利用法について解説します。
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執筆
J-REITウォッチャー
リート資産運用会社で10年超の勤務経験を有する業界通。
自身も知見を活かしてリート投資家として活動中。
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