前回(第1回)はコロナ禍で生活様式が変化する中、20-30歳代の過半が投資を始めていること、及び「つみたてNISA(ニーサ)」を使って海外株式インデックス型投資信託(以下「投信」といいます)に投資する人が多いこと、を紹介しました。
第2回は、投資効率を高めるために重要な、非課税投資制度の利用について解説します。
個人投資家が利用可能な非課税投資制度には、金融商品から得られる利益が非課税となるNISA*と、運用益の非課税に加え、所得控除によるTaxメリットを得られるiDeCo**の2つがあります。
*NISAは、Nippon Individual Saving Accountの略称で、イギリスの非課税投資制度ISAを参考としています。
**iDeCoは、individual-type Defined Contribution pension planの略称(愛称)で、選定理由は親しみやすい響きで、スタイリッシュでおしゃれな印象とか???
両方とも恐ろしくとっつきにくい愛称?ですが、知ってる者だけが得をする制度なので、愛称には目をつぶってしっかり活用しましょう。
特にNISAについては2024年1月より大幅に拡大し、新NISAとしてスタートする予定です。新たな投資枠は、一般の個人投資家にとって十分な大きさであり、新NISA利用の巧拙は、将来の個人の資産形成に大きな差をつける要因になると思われます。
税金や手数料の支払いを極小化減することは、投資成功の要諦です。
国がわざわざ個人の資産形成のために整備してくれた非課税投資制度なので、正しく理解してありがたく利用しましょう。
ちなみに執筆者が考える非課税投資制度利用の優先順位は、① 新NISA「成長投資枠」→➁ iDeCo→③ 新NISA「つみたてNISA枠」です。
もちろん、個人が抱える状況は異なるため、誰にとっても同じ順位とはならないでしょうが、以下に制度の概要と合わせて、優先度の背景を説明します。
1. 非課税投資制度の優位性
投資において重要なことは、税金や手数料などコストの支払いを抑制することです。
投資にかかるコストには、金融所得に対する税金や、商品の売買にかかる手数料、投資信託などの信託報酬や管理手数料などがあげられます。
資産運用は、金融資産と書かれたドラム缶に運用利益という水を溜める行為に例えられるかもしれません。運用利益には利息や配当の受領によるインカムゲインもあれば、譲渡益であるキャピタルゲインもあります。溜まった水をドラム缶から汲みだして再運用することも可能です。
いろいろな手段を使いながら、ある人は老後生活資金2,000万円の確保、ある人はFIRE(Finincially Indedependent Retire Early)を目ざして運用に励むのでしょう。
もし、一生懸命水を注ぎ込んでいるドラム缶に、穴が開いていたらどうでしょう?溜めたそばから水が抜けるので、缶をいっぱいにするのはひどく大変です。
このドラム缶の穴に相当するのが、金融所得に対する税金であり、支払手数料です。当然ながら、穴はないのがよく、あるとしても小さいほど望ましいわけです。
ドラム缶の穴の中で大きなものは税金です。投資で得た配当や譲渡益などの金融所得には、一律20.315%の税金が課され、個人が利用することが多い特定口座では源泉徴収されます。
仮に100万円の投資で3%の配当を受け取った場合、税引き前30,000円の配当から6,000円の税金が徴収され、手取り額は24,000円に減少します(便宜的に税率20%として計算)。
言い換えれば、投資元本に対して0.6%のコストを支払ったことになり、税引き後の投資利回りも3.0%から2.4%に低下します。
100万円で買った株を105万円で売却した場合も、50,000円の譲渡益に対して、その20%である10,000円が徴収され、譲渡益の手取り額は40,000円になります。
言い換えれば、投資元本に対して1%の税金を支払ったことになるので、利回りも5%から4%に低下します(便宜的に税率20%として計算)。
もし、年利回り5%(手取り)を目標とするなら、税引き前で6.25%の投資利回りを確保する必要があります。税金が投資利回りを大きく低下させることをご理解いただけると思います。
また、税金支払の影響は、1度だけに留まりません。売却益に対する課税は1回だけですが、配当に関しては受領する都度課税されます。
投資利回りを向上させるためには、配当や利益の再投資が重要ですが、税金の支払いにより再投資できる金額自体が減ってしまいます。個々に見ると大きなインパクトに見えなかったとしても、長期間に亘り投資を続ける中では、税金支払は投資利回りに大きな影響を及ぼします。
そんな中で国が国民のために用意してくれた穴のないドラム缶が、NISAやiDeCoという非課税投資枠です。税金支払という穴がないため、水が溜まるスピードは早く、2024年にはNISAという名のドラム缶自体が大きくなります。
個人投資家が資産形成を考える上でまず考えるべきは、非課税投資制度を活用して金融所得に対する税金の支払いを避けることです。
そんな有利な制度にもかかわらず、2022年末の証券会社のNISA口座数は1,179万口座(一般NISA58%、つみたてNISA42%)でした(日本証券業協会調査)。せっかくの制度を使ってない方が多いのは、とても残念です。
非課税投資制度を使い切っていない方は、まず制度のフル活用を検討しましょう。
税金に比べれば影響は小さいでしょうが、手数料の支払いだって同じことです。投資には売買手数料や信託報酬、管理手数料などの費用がかかります。投資を行う場合、手数料が少なく済む方法を探すべきでしょう。売買手数料は金融機関によって違います。例えば、同じS&P500を投資対象とする商品でも、投資信託とETFでは信託報酬も手数料も違います。
支払手数料についてもしっかり比較して節約を心がけましょう。
2. 「新NISA」とは?
非課税投資制度の1つであるNISAは、成年1人1口座保有できる個人投資家向けの非課税投資枠で、2023年時点では年間120万円の「一般NISA」または年間40万円の「つみたてNISA」の選択制です。
しかし、岸田政権が進める「資産所得倍増計画」の下、2024年1月より内容を大幅拡充して、新NISAとしてスタートします。
新NISAについて、現行NISAとの大きな違いは以下の3点です。
・制度の恒久化と投資枠の再利用
・投資枠の拡大
・成長投資枠とつみたて投資枠の併用
(Source: 金融庁HP)
現行NISAでは一般NISAが5年間、つみたてNISAが20年間と非課税保有期間が定められており、期間経過後、投資商品は非課税枠から一般の課税枠に移管されます。しかし、新NISAは恒久的な制度となり、保有期間の制限がなくなります。この結果、より長期間に亘る非課税投資が可能となります。
例えば、IPOに参加して新規上場株を購入し、その会社の成長を30年間見守る、とかApple株を購入し、iPhone38の登場を待つ、、、というような長期投資も可能になる訳です。
長期投資が可能になること自体はいいことですが、執筆者は投資期間が長くなることが新NISAの最大の魅力だとは考えておりません。
むしろ、より大きな改善は、投資枠が再利用できることだと考えています。
ネット上では長期投資=いい投資、とか10年、20年持ち続けてこそ投資というような主張をされる経済評論家等が存在しますが、投資期間が長いほどいいと考える理由が執筆者には理解できません。
正直現在の一般NISAの保有期限である5年間は十分に長いと思います。残念なのは、保有株を売却した後、その投資枠を再利用できないことです。
例えば、100万円で購入した株式がその年に50%値上がりしたので売却するという場合、50万円の譲渡益には課税されませんが、100万円のNISA枠が復活することもありません。
この非課税枠を再利用できない点は、個人投資家に利食いやロスカットをためらわせる要因となっている可能性があります。非課税枠の再利用が可能であれば、個人投資家は損益の確定を柔軟に行い、よりフリーハンドで投資に取り組むことができるでしょう。
新NISAでは売却による空き枠を再び使用可能***とされており、うまくいった投資の利益を確定して再投資する、または失敗した投資をロスカットしてやり直すなど、投資の自由度は大きく向上すると思われます。
***空き枠がいつの時点で復活するのか、現時点では詳細不明です。金融庁のサイトに細かい説明はなく、金融機関によっては、翌年以降復活と説明しているものもあります。
もう1つの改善点は、投資枠の拡大です。
新NISAでは「一般NISA」は「成長投資枠」に名を変え、240万円/年、合計1,200万円の投資枠と現行の2倍に拡大します。つみたてNISAは「つみたてNISA枠」となり、120万円/年、最大1,800万円までの投資が可能となります。ただし、成長投資枠を使用している場合、使用額を1,800万円から控除する必要があります。
年間で最大360万円、投資総額で1,800万円の投資枠は、一般的な個人投資家にとっては十分に大きな投資枠であり、投資のすべてが非課税枠内で完結するケースも多いと思われます。
また、2023年末まで適用される現行NISAの下で投資した商品は新NISAとは別枠となり、現行制度の下で運用を継続できます。
3. 新NISA「 成長投資枠」の活用
執筆者は新NISAの中でも、特に「成長投資枠」の活用に関心を持っています。
それは、「成長投資枠」が事業法人株のみならず、J-REITやETF、更には海外株式(ETFを含む)にも投資可能と商品選択の自由度が大きいからです。
また、前述の通り、新NISAでは売却分の空き枠が再利用できるため、未来永劫1,200万円の非課税投資を続けられることになります。
仮に1,200万円をJ-REITに投資した場合、平均分配金利回り4%なら、分配金のみで年間48万円を受け取れる訳です。言い換えれば、お金に働いてもらうことで月4万円の副業収入を得る、ということです。
もし、48万円の配当収入を4%で再運用すれば、複利効果により更に約2万円/年の再運用益を得ることができます。
副業が話題になる機会が増えましたが、副業を行う主体が、なにもあなた自身である必要はなく、お金に働いてもらうこともできるわけです。
「成長投資枠」の拡大により、より多くの銘柄への分散投資も容易になります。J-REITでは1口単位で投資ができ、1口あたりの投資口価格は45,000~650,000円くらいなので、240万円の年間投資枠を使えば、10銘柄程度への分散投資が十分可能でしょう。もちろん、J-REITのみではなく、事業法人株やETF、海外株などを混ぜて、より幅広い分散投資を行うことも可能です。
日本証券業協会によれば、2022年末時点の「一般NISA」における2022年12月末時点の商品ごとの買付額は、上場株式59.6%、投資信託:34.7%、ETF:4.4%、REIT:1.2%の順となっており、J-REITへの投資は限定的なようです。しかし、投資枠が倍増する新NISAでは、高配当のJ-REITの組入れを検討する意義は大きいと思います。
「成長投資枠」は商品選択の幅が広いため、柔軟な投資戦略が実行でき、さらに総額1,200万円という十分に大きな投資枠が用意されたこと、これが執筆者が個人投資家に、「成長投資枠」の利用を最優先して考えていただきたい理由です。
4. 新NISA「つみたてNISA枠」の活用
執筆時点では「つみたてNISA枠」の対象商品が公表されていないため、現行の「つみたてNISA」向け商品に基づいて説明します。
「つみたてNISA」の投資対象は投資信託が主流で、上場投信であるETFの一部に投資することも可能です(新NISAの「つみたてNISA枠」でも大きな変更はないと思料)。
日経平均など株式インデックスに連動する投信や、複数の種類の資産に分散投資するバランス型投信が多く取り扱われていますが、リートを含む個別株式への投資はできません。
買付は積立方式で、指定した商品を定期的に、指定した金額、自動的に買い続けるのが大きな特徴です。最初に内容を指定すれば、あとは自動的に投資が行われるため、簡単に投資を続ける事ができます。
その一方、個人投資家が判断を求められる場面が少ないため、投資に対する経験値や知識の向上が限定的であり、投資力を鍛えづらいのが難点といえるでしょう。
SBI証券を例に売れ筋商品を検証すると、世界株式やS&P500を対象としたパッシブ投信や、バランス型商品が人気のようです。
(Source: SBI証券)
最長保有期間20年という極めて長期間の資産運用を考えるなら、リスクヘッジの観点からも外国株中心の選択は妥当だと考えます。
20年先の世界や社会の姿を想像することができない以上、日本以外の海外資産の割合を少しづつ増やすことは合理的な判断と言えるでしょう。
実はiDeCoについても取り扱い商品に、つみたてNISAと大きな違いはないようです。
そうすると、「つみたてNISA枠」と「iDeCo」ではどちらを優先すべきか?併用する場合、どう使い分けるか?がポイントになってきます。
こうした問題に頭を悩ませる方も増えていることでしょう。
執筆者の考えは、経済的な状況が許す限り、iDeCoを優先すべきというものです。
最大の理由は、2つの制度を比べた場合、掛け金や将来の受取金について所得控除を適用できるiDeCoの方が、Taxメリットに優れるからです。
「つみたてNISA枠」の非課税投資枠は年間120万円なので、毎月10万円分の積立投資が可能です。毎月10万円を積立投資できる人はそもそも限定的でしょうが、それほどの余裕があるなら、所得控除によるTaxメリットを享受できるiDeCoを優先した上で、つみたてNISA枠使用という選択の方がメリットが大きいように思います。
3. iDeCoの利用
iDeCo**は個人型確定拠出年金で、任意加入の私的年金のような制度です。NISAとは異なり、人によって拠出可能な掛金の金額も異なります。
NISA同様の運用益の免税に加え、掛け金及び将来の給付金においても税務面でのメリットが大きいため、利用可能な方は積極的に利用を検討すべき制度です。
**アメリカの確定拠出型年金制度である401kを参考として創設された制度で、Individual-type Defined Contribution pension planからiDeCoの略称が使われています。
メリットの大きい制度ですが、60歳まで引き出せないので、長期運用可能な余裕資金のみでの利用を考える必要があります。
毎月一定の掛金を(給料等からの天引きで)拠出し、自分が選択した投信を定期購入する制度であり、商品内容はつみたてNISAと大きく変わるものではありません。
運用期間中の配当や譲渡益には課税されません。こうした点も「つみたてNISA」とよく似ています。
NISAと異なる点は、いつでも換金可能なNISAと違い、iDeCoは私的年金の位置づけのため、原則60歳以降でないとお金を受け取ることができないことです。
投信を売却することは可能ですが、お金を引き出せるのは、原則60歳以降です。
もう1つの相違点は、iDeCoの掛金は所得控除の対象となるため、課税所得が減少し、結果として所得税や住民税が少なくなるTaxメリットが得られることです。
また、将来受け取るお金は、退職金所得か年金所得、又は両方の組み合わせで受け取ることができるため、給付金の受領時も所得控除面で税務メリットを得ることができます。
制度は徐々に拡充されており、以前60歳までだった掛金の拠出可能年齢は、一定の条件の下65歳まで引き上げられ、さらなる引き上げも検討されているようです。
そもそも国民の自助努力による老後の生活資金確保のために創設された制度なので、大きなTaxメリットを備えています。
老後に備えて「つみたてNISA」で資産運用をされている方は、積立投資はiDeCoを中心に行い、新NISAは成長投資枠での個別株投資がメインというような方法を検討すべきでしょう。
繰り返しですが、iDeCoに入れたお金は60歳まで引き出せませんので、十分ご留意ください。
4. 非課税投資制度のまとめ
投資効率を上げるためには、税金を含むコストを抑制することが重要です。
特に金融所得に対する税金は影響が大きいことから、個人投資家はNISA、iDeCoといった非課税投資制度を積極的に利用することが極めて重要です。
いずれも、国民が自助努力による資産形成を図るために国が創設した制度であり、存分に活用すべきです。
新NISAは2024年1月に規模を拡大してスタートします。
従来のNISAとは異なり、J-REITを含む幅広い個別株式への投資ができる「成長投資枠」、積立方式で投信に投資できる「つみたてNISA枠」の両方を同時活用することが可能です。
新NISAに加え、所得控除などのTaxメリットの大きいiDeCoも積極的な活用を検討すべき制度です。
今回は非課税投資制度の活用について説明しました。
お得な非課税投資制度を研究して、効率的な資産運用を目指しましょう。
次回は、投資の目標利回りについてとして適当と考えてみます。
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執筆
J-REITウォッチャー
リート資産運用会社で10年超の勤務経験を有する業界通。
自身も知見を活かしてリート投資家として活動中。
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