今回は、投資利回り目標について考えてみます。
いきなり身も蓋もない言い方になってしまいますが、目標利回りに正解はないと思います。
投資環境やタイミングに左右されるため、目標を決めること自体がそもそも無意味という人もいらっしゃるでしょう。
ただ、初心者がモチベーションを保つためには、目標を決めて取り組むのがいいのかもしれません。
例えば、ジョギングを始める時、まずは10分走ってみようとか、3kmを20分で走ろうなど、一定の目標を決めて挑戦を始める人は多いことでしょう。
投資だって同じかもしれません。
投資で得られるリターンは、高いに越したことはありませんが、高い利回りを求める場合、それに見合った銘柄選択を行う必要があります。
値動きが激しい銘柄に投資して予想が外れれば、投資元本を大きく棄損させることになり、投資に対する意欲自体を失いかねません。
目標を決めるなら、相場環境や自らの投資力、リスク耐性等に応じて、無理のない目標を設定することが重要です。
できれば転んだ時、骨折ではなく、擦りむくくらいの軽傷で済むようにしたいものです。
例えば、年利5%を目標としてみるなんてどうでしょうかか?
決して大きな数字ではなく、個別株式なら、たった1日で5%以上値上がりすることもあります。
あえて例えるなら、年利5%とは、フルマラソンに挑戦する人が最初に目指すとされる5kmを30分で走るくらいのスピードなのかもしれません。
今回は、仮に年利5%を目標とする場合のスピード感と、リート投資による目標達成のがいぜん性について考えてみます。
1. 投資利回りって何?
投資利回りは、配当、譲渡益など投資で得た利益を、投資元本で割って求め、通常年率で表します。
例えば、100万円の投資元本が、1年後に105万円になったなら、5万円÷100万円で投資利回り5%です。
100万円の投資元本が1年後に99万円になってしまったら、投資利回りは△1%になります。
1年後に99万円になった投資元本が、2年後には105万円に増えたなら、投資利回りは、5万円÷2年÷100万円で2.5%/年と計算できます(説明の簡略化のため単利を使用)。
ちなみに銀行の定期預金だって資産の運用です。銀行の1年物の定期預金金利が0.002%なら、100万円預けると1年後に20円の利息が付きます。
利息を元本で割ると、利回りは利率と同じく0.002%です。
また、配当や譲渡益など、投資による利益をリターンと呼びます。
リターンには株式等の値上がりから得られるキャピタル・ゲイン、及び配当から得られるインカム・ゲインがあります。
さらに、両方を足して、それらの再投資をも勘案するトータル・リターンという考え方もあります。
先に書いた年利5%とは、再投資を含むトータル・リターンを意味しています。
では、年利5%のスピード感を考えてみましょう。
2. まずはインフレ率を超えよう
投資の目標を考える上で、まず上回る必要があるのはインフレ率です。
インフレとはモノの値段が上がって、お金の価値が目減りすることなので、投資元本がインフレ率並みに増加してはじめて、投資結果がトントンになったと言えます。
したがって、投資でお金を増やすとは、インフレ率を超える利回りを確保することを意味します。
これまで長く続いたデフレの世界では、モノの価格は下がっていたため、今日の100万円は1年後の100万円よりも大きな価値を持っていたはずです。
つまり、あえて投資をしなくても、お金を置いておくだけで、実質的な価値は上がっていたという訳です。
デフレ下の日本で、ほぼゼロ金利の銀行預金が積みあがった背景には、とにかく損をするのが嫌という感情以外に、このような合理的な理由もあったと考えられます。
しかし、社会の状況は世界中で大きく変化し、日本もついにインフレに突入しました。
生鮮食品を除くコア消費者物価指数(CPI)は、3ヶ月連続で前年比+2%を上回っており、公共料金や食料品価格など、今後さらなる価格上昇が予想されます。
数字だけを見れば、日本銀行が長年目標としてきたインフレ率2%をついに達成したわけです。
インフレ下では、お金の価値が目減りするため、投資の必然性は高まります。
今後のインフレ率の推移は不明ですが、まずは日銀が目標とする2%のインフレ率を超える投資利回りを確保する必要があるでしょう。
アメリカやイギリスなど、インフレ率が高い他先進国に比べれば、はるかに低い目標であるものの、銀行預金や円建債券投資で2%の目標達成は困難です。
ちなみに、ダイヤモンドZAi ONLINEの調査では、8月2日時点で金利が最も高かった新生銀行の1年物預金金利は0.3%だったそうです。
また、日本国債の利回りは5年物でもマイナスですし、5年物の投資適格社債でも、利回りはせいぜい0.4%程度でしょう。
2年物米国債を買えば、3%を超える金利収入を得られますが、代わりに為替リスクを取ることになります。
一方、日本株式投資対象とするなら、2%はそれほど高い目標とは言えません。
例えば、日経ウェブサイト上の8月17日時点の東証プライム市場全銘柄の予想配当利回りの平均値は2.3%、日本取引所グループ(JPX)が示す7月末時点の全リートの予想分配金(配当)
利回りの平均値は3.6%とされており、いずれも2%を上回っています。
したがって、株式投資であれば、配当を受け取るだけでも2%の利回りを達成できる可能性は相応に高そうです。
もちろん、配当は確約されたものではなく、株価が下がることもありますが、インフレ率を上回る投資には、リートを含む株式が有力な選択肢となる得ることをご理解いただけると思います。
3. 「72の法則」をご存じですか?
「72の法則」とは、一定の投資利回りで複利運用を続けた場合、何年で元本を2倍にできるかを簡便的に計算できる計算式です。
例えば、72÷7.2%=10年なので、年利7.2%で運用すれば、元本は10年で2倍になると計算できます。
年利5%の場合、72÷5%=14.4年なので、5%の運用を15年弱続けられれば、元本を2倍にできます。
また、年利5%で10年間複利運用を続けた場合、投資元本は1.5倍程度に育ちます。
つまり、年利5%のスピード感とは、投資元本を10年かけて1.5倍に増やす、というスピードです。
このスピードを速いと感じるか、遅いと感じるかは人によります。ただ、幸運なことに、投資にはフルマラソンのようなチェックポイントでの時間制限はありません。
チェックポイントまで何分かかろうが、誰に止められることもなく、走り続けることができます。
途中で遅れる場面があったとしても、10年かけて投資元本を1.5倍にできれば、それは目標を達成できたということです。
4. GPIFの運用目標は、名目賃金上昇率+1.7%
年利5%のスピード感をもう少し考えてみます。
皆様の生活にも関係する公的年金の管理・運用を行う年金積立金管理運用独立法人(GPIF)は、長期的な積立金の運用目標を賃金上昇率+1.7%としています。
200兆円近い資金を運用する巨大なクジラに比べれば、メダカ以下のサイズの個人投資は、はるかに柔軟に動けるため、より高い投資利回りを目指すことができるでしょう。
日本経済新聞は5月23日付の朝刊で、2022年の賃金動向調査における平均賃上げ率を2.28%と報じており、日本政府は長期に亘り3%を賃上げ目標としています。
これらの賃上げ率にGPIFの目標である1.7%を足すと4.0%~4.7%ですので、メダカが5%を目標とすることには一定の合理性がありそうです。
5. ピケティのr>g, r=経済成長率+3%
フランスの経済学者ピケティは、2013年に発行され世界でベストセラーとなった「21世紀の資本」で、「r (資本収益率)>g(経済成長率)」が成立する結果、金持ちはより金持ちになることを証明しました。
簡単に説明すると、資本家が資産運用する際のリターンであるrは、一般人が享受できるリターンである経済成長率gよりも高い状態が常態化している。
この結果、資本家は、一般人よりも資産を大きく増やすことができるため、資本家と一般人の貧富の差は、拡大し続けるというものです。
ピケティは、過去データの検証の結果、資本収益率は経済成長率よりも歴史的に2%-3%高かったと結論づけています。
投資とは一般に資本家サイドの行動なので、目指すべき投資リターンは、経済成長率を2-3%上回る水準が自然でしょう。
内閣府が7月25日に発表した2022年度の実質GDPの年央試算値は2%、IMFが予測する2022年の日本の実質GDP成長率は1.7%です。
経済成長率に対する上乗せを3%とすれば、目標リターンは4.7%-5%となり、やはり5%の利回りに一定の合理性を与えます。
6. リート投資で、年利5%を達成できるか?
このコラムでは、不動産投資信託であるリート投資を紹介するので、リート投資による年利5%確保のがいぜん性を検証してみます。
リートの平均分配金(配当)利回りは、足もと3.6%です。つまり、平均的なリートの投資口(株式)を持っているだけで、3.6%のインカム・ゲインを受け取れます。
したがって、5%から3.6%を引いた1.4%の追加リターンを配当以外から得られれば、年利5%を達成することができます。
100万円の投資の場合、配当の再投資又は保有リートの投資口価格の値上がりにより、14,000円以上のリターンを得られれば、目標を達成できることになります。
ちなみに3.6%の配当利回りはあくまで平均値なので、リートにより配当利回りは異なります。
例えば、足もと日本プロロジスリート投資法人の予想分配金利回りは2.8%程度、福岡リート投資法人は4.0%程度、エスコンジャパンリート投資法人は5.5%程度です。
さらに、リートと似た商品であるインフラファンドの場合、分配金利回りが6%を超えるものもあります。
つまり、リートによっては、分配金の受け取りだけで年利5%を達成できる可能性があります。
もちろん、投資口価格(株価)が下がって、元本が棄損するケースもあるため、東証リート指数(配当込み)の過去データを使って検証してみます。
株式指数には株価の値動きによるキャピタル・ゲインのみを示すものと、配当及び再投資を勘案したトータル・リターンを示す配当込み指数があります。
テレビや新聞でよく出てくる日経平均株価やTOPIXは、通常株価の値動きのみを示しており、配当を勘案していません。
リートの代表的指数である東証リート指数も、ことわりがない限り配当抜きの指数を指しており、配当抜きの数字の方がよく使われます。
下の図の青い線は、2003年以降の配当込み東証リート指数、オレンジの線は配当込みTOPIXの動きを示しています。
表の見方は、2003年3月にリート指数の構成割合通りに1,000(円)の投資を行い、受け取った配当をその時点のリート指数の構成割合で再投資する、という動きを続けた場合、
当初の1,000(円)がいくらになったかを示しています。2022年3月の指数は4,536ポイントなので、2003年に投資した1,000(円)は、19年間で4.5倍に増加したということです。
同じことをTOPIXでやった場合、約3,300ポイントなので、リートの方が運用成績が良かったことが分かります。
4.5倍は、あくまで19年間の投資元本の絶対額の増加を示したものなので、3つのシナリオに分けて、毎年3月の指数を使ってCAGR(複利での年利回り)を計算しました。
(出所:ARES 一般社団法人不動産証券化協会 https://j-reit.jp/market/02.html)
3パターンで検証した結果は、以下の通りです。
Case 1:2003年3月に投資を開始した後、各投資期間毎の年利回りを計算しました。
最長期間である19年間の投資における年利回りは8.3%で、5%を大きく上回っています。
また、他の投資期間でも19年のうち16年は、年利5%を上回っているため、仮に2003年3月に投資を始めた場合、何年で投資を止めても、高い確率で目標を達成したはずです。
目標を下回ったのは、いわゆる「リーマンショック」と呼ばれた世界金融危機以降の投資口価格暴落局面の3年間のみです。
但し、5%を下回った3年についても、そのうち2年は4%の利回りを確保しています。
Case 2: 投資期間の終期を2022年3月に固定し、投資のスタート時点を変えました。
次に投資の開始時点を固定せず、任意のタイミングで開始し、2022年3月まで保有し続けた場合の投資利回りを計算しました。
例えば2012年3月に投資を始めた場合、10年間の投資の年利は11.5%、2013年3月に投資を始めた場合、年利6.1%でした。
10回の投資開始年のうち、5%の目標を下回るのは、2021年3月に投資を始めた場合のみです(2015年、2016年は、ほぼ5%を達成)。
2021年は投資期間がわずか1年のため、分配金の再投資による複利効果が乏しいことが大きな要因でしょう。
Case 3: 条件をより厳しく、世界金融危機前の高値水準での投資開始を想定しました。
最後に、前半のすっ天井の高値である2007年3月に投資してしまった状態を想定しました。いわゆる高値掴みを「やっちゃった」状態です。
この条件では、さすがに5%の目標利回りを達成した年はありませんでした。
しかし、このケースにおいても投資開始8年後以降は、プラスリターンを回復しており、投資に不慣れな方が嫌がる、お金を損するという状態にはなりませんでした。
分配金の受け取り及びその再投資が、「やっちゃった」傷を時間をかけて癒してくれるため、投資成績は時間の経過に連れて回復しています。
このデータ検証からは、投資の開始時点を大きく間違えない限り、リート投資では相応の確率で、5%の目標利回りを達成できそうなことが分かります。
リートは配当が高いため、受け取った分配金の再運用が、投資利回りの向上に大きく貢献しています。
今回のシナリオでは最初に元本の投資を行い、後は配当の再投資のみを想定しています。
実際の投資では、何回かに時期を分けて投資を行うことが多いでしょうから、3つのシナリオの中ではCase2に近い状態が想定されます。
また、指数に沿って購入した銘柄を持ち続けるだけではなく、上がりそうな銘柄を多く買ったり、上がった銘柄を売却して利益確定する、下がった銘柄を買い増すなどの入れ替えを行うことで、
もう少しアクティブに利回りの向上に励むことができるでしょう。
今回は投資における目標の意味、仮に年利目標を5%とする場合のスピード感、及び配当込みリート指数を使った検証結果を紹介しました。
次回(第4回)は不動産投資について考えてみます。
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執筆
J-REITウォッチャー
リート資産運用会社で10年超の勤務経験を有する業界通。
自身も知見を活かしてリート投資家として活動中。
当社は、本記事の内容につき、その正確性や完全性について意見を表明し、また保証するものではございません。記載した情報、予想および判断は有価証券の購入、売却、デリバティブ取引、その他の取引を推奨し、勧誘するものではございません。過去の実績や予想・意見は、将来の結果を保証するものではございません。
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