今回は不動産投資について解説します。

 

かつてお金持ちがやるものというイメージの強かった不動産投資が、ずいぶん一般的になったと感じます。

不動産投資に携わってきた人間として喜ばしいことです。

多くの投資商品を選択可能な富裕層が不動産投資を好むということは、不動産が優れた投資対象であることを示しているとも言えます。

 

不動産はその名の通り動かすことができず、同じものが存在しない、つまり、それぞれが唯一無二の資産である点に大きな特徴があります。

 

そのため、誰もが知るオフィスビルや、地域を代表する商業ビル、高級住宅地の賃貸マンションなどは希少性が高く、資産価値を長期に亘り維持できる可能性が高いと言えます。

但し、注意すべきことは、希少性のある不動産は価値の維持が期待できるということであり、どんな不動産にでも希少性があるわけではないことです。

 

多くの方はたとえ大型オフィスビルや、有名商業ビルが持つ希少性を認めたとしても、そうした物件に自分が関わりを持つことに、現実味を感じられないかもしれません。

 

しかし、わずか数万円から数十万円の資金で、優良不動産に投資できる商品が存在します

それが不動産投資信託のREIT(Real Estate Investment Trust, 以下「リート」)です。

 

例えば、六本木ヒルズ森タワーや東急プラザ表参道原宿、グランフロント大阪やキャナルシティ博多のような有名物件に投資をして、配当を受け取れるとしたらどうでしょう?

なんだかお金持ちになったような気分を味わえるかもしれません。

 

実はこれらの物件(の全部又は一部)は、リートが保有しています。

 

そのため、物件を保有するリートの投資主(=株主)となることで、物件の賃料収入などを原資とする分配金(=配当)を受け取ることができます

つまり、あなたもこうした誰もが知るような大型物件の疑似オーナーになれるというわけです。

 

いかがでしょう、不動産投資について少し興味が湧いてきましたか?

不動産投資を始めるのに、お金持ちになるのを待つ必要はありません。

リートを使えば、すぐにでも手軽に不動産投資を始められます。

 

リートの詳しい説明に入る前に、まずは不動産投資について考えてみましょう。

なお、ここでいう不動産投資とは賃料などが発生する収益不動産への投資を意味しており、更地などへの投資を意味するものではありません。


1. 不動産の希少性とインフレ耐性

不動産の大きな特徴は、希少性にあると言えるでしょう。

 

不動産物件はそれぞれが一点ものの資産です。そのため、一等地のオフィスビルや商業ビルなどは高い希少価値を有しています。

 

例えば、東京駅前にある通称「丸ビル」は、昔から最高の立地にあるオフィスビルと認識されてきました。

東京駅の移転や、東京駅が日本の中心的地位を失う可能性は低いことから、将来においても、その希少性は大きくは変わらないと思われます。

 

最高の立地にあるオフィスビルを所有したいと考える投資家は数多く存在するため、このような物件は高い流動性をも有しており、価値が下がりにくいと言えそうです。

 

希少性については、絵画などに置き換えると分かりやすいかもしれません。

 

有名な絵画が、オークションで高額落札されたというニュースを時々見かけます。

確認したわけではありませんが、売買の度に価格が値上がりしている印象を受けます。

 

世の中に1点しかない絵画を手に入れたければ、売主の希望を充たし、他の買い手を上回る対価を支払う以外に方法がない、というのが価格上昇の大きな理由でしょう。

 

逆に、無名の画家が描いた絵に希少性を感じる人は少ないため、価格が付かないケースも多いと思われます。

 

日本では例外的に長期にわたるデフレが続きましたが、世の中ではむしろインフレが常態です。

そのため、モノの値段は時間の経過とともに上昇するのが自然であり、1点ものの絵画であれば、価格上昇率がインフレ率を上回るのは、当然かもしれません。

 

つまり、希少性の高いモノは、インフレ耐性を有しているということであり、優良不動産についても同様の効果を期待できそうです。

 

慣れないインフレリスクに備える必要が出てきた現在、インフレ耐性を持つ優良不動産への投資を考える意味は、より大きくなったと言えるでしょう。


2. 不動産のキャッシュフローと物件評価

不動産には絵画と大きく異なる点もあります。

 

絵画は単に個人が保有しているだけでは収入が発生しませんが、不動産では保有期間中、賃料収入などを原資とするキャッシュフローが発生します。

 

不動産のキャッシュフローとは、テナントから得る賃料等の収入から、物件の管理費用や保険料、税金など、物件保有にかかる費用を控除したものです。

投資の世界では、NOI(Net Operating Income)などが、指標としてよく利用されます。

 

キャッシュフローは、不動産の長期保有を容易にしてくれます。

キャッシュフローがプラスであれば、物件保有者はインカム・ゲインを得られるので、売却の機会を気長に待つことができます。

 

不動産投資が近年、一般の個人に浸透した大きな理由は、不動産投資を通じて長期安定した不労所得を得たいとの願望の表われだと考えられます。

 

ここで気を付けないといけないのは、現在のキャッシュフローが将来も続く保証は一切ない、ということです。

 

物件が位置するマーケットの環境や物件の競争力は、時間の経過とともに変化します。

東京駅前や大阪駅前の光景は10年後も大きく変わってなさそうですが、郊外の賃貸マンションでは事情が異なります。

 

隣の駅が急行停車駅になったとか、周辺への競合物件の新規供給により需給バランスが崩れるなど、キャッシュフローに影響を与える環境の変化は、容易に発生します。

 

不動産は動かせないので、希少性が乏しい物件では環境変化の結果、負け組になってしまうリスクも相応にあるでしょう。

これこそが、希少性のある物件に投資すべき理由であり、富裕層は実際にそうしていると思われます。

 

また、キャッシュフローは、不動産価格に合理的な根拠を与えてくれます。

 

絵画オークションでは、基本的に需給要因で価格が動くため、買いたい人が多ければ高騰、買い手が少なければ上昇は限定的になるでしょう。

そこでついた値段を合理的に説明することは困難です。

 

かつての日本では、不動産も需給で価格が大きく動いていました。

しかし、キャッシュフローを使った評価手法が定着したことで、状況はすっかり変わりました。

 

NOIを期待利回りで割り戻して計算する収益価格が、不動産の評価方法として定着したことで、物件価値について投資家が共通の尺度で判断できるようになったほか、物件同士を比較するのも容易になりました。

 

これは不動産の評価が、株式など金融商品の評価に近づいたということでもあります。

 

例えば、理論株価は、1株あたり利益(EPS)に株価収益率(PER)をかけて算出します。これは、株価が何年分の利益に相当するかという計算式です。

 

また、EPSPERの逆数である株式益利回りで割っても、同様の結果を得られます。

株式の益利回りとは株主が得る期待利回りなので、ある株式に投資する人が5%の期待利回りを得たいなら、

EPS5%で割り戻した価格以下で株式を取得する必要があります。

 

不動産評価も似たような考え方に基づいて計算されます。

将来も安定したキャッシュフローを期待できる希少性が高い物件を買いたい投資家は多いため、期待利回りは低くなり、結果として不動産の評価額は高くなります。

一方、将来キャッシュフローの悪化が懸念される物件では、買い手から高い期待利回りを求められるため、評価額は低くならざるを得ません。

不動産投資の世界では、このキャッシュフローを割り戻す利回りのことを、キャップレート(Cap Rate)と呼びます

 

不動産NOIをキャップレートで割り戻して計算する収益評価は、金融と不動産の親和性を高めましたが、希少性のある物件とそうではない物件の価格差を拡げる作用も起こしました。

 

今や世界中の投資家が日本の不動産に投資を行っています。豊富な資金力を持つ投資家が投資対象とすることで、不動産市場は拡大し、価格の安定性も増しました。

但し、その恩恵を得られるのは、一定規模以上の物件である点は重要です。



3. 賃料収入の安定性

不動産投資の魅力として、キャッシュフローが安定的なことが挙げられます。

 

一般の売上高にあたる賃料収入は、テナントから受け取る賃料です。そのため、テナントが多く入居し、空室率が低く維持されることが重要です。

 

例えば、マンションの1区画や、賃貸オフィスの一部のみを所有し、1テナントしかいない場合、稼働率は0%100%にしかならず、キャッシュフローは極めて不安定です。

 

これに対し、多くの物件や多くの貸室を保有していれば、1テナントが退去したところで、キャッシュフローが大きく変化することは少ないでしょう。

 

オフィスビルや賃貸マンションの場合、テナントと2年間の賃貸借契約を結ぶのが一般的です。物流倉庫では、はるかに長い期間の賃貸借契約が結ばれます。

契約期間中は基本的に同額の賃料を受け取り続けるため、賃料収入は景気など外的環境の変化の影響を短期的には受けづらいと言えます。

 

また、契約期間が2年であるからと言って、すべてのテナントが2年で退去するわけではありません。

入居にあたっては内装工事や引っ越しなど、テナント側に多額の費用が発生するため、契約の延長や再契約はごく一般的です。

 

さらに、賃料相場が短期間で大きく変化することも限定的です。中長期的には景気やインフレ、地域の市況などの影響を受けますが、賃料は日々変化するようなものではなく、

例えば、企業業績などと比べれば、その変化幅は小さいと言えそうです。

 

不動産投資の魅力である安定したキャッシュフローを確保するためには、競争力の高い物件を複数保有し、分散効果を得るとともに空室率を低く維持することが重要です。


4. 借入によるレバレッジ効果

キャッシュフローに基づく物件評価額で物件の売買が行われるようになったことで、資金調達も容易になりました。

 

不動産投資では、借入のことをレバレッジと呼びます。

レバレッジとは梃子の意味で、梃子を使えば、小さい力で大きなものを動かすことができることに、呼び名の由来があります。

 

不動産投資を行う場合、原資を投資家の手元資金(弁済期限のないエクイティ)と、弁済期限のある借入金の組み合わせで賄うのが一般的です。

 

投資における借入の利用は、2つのメリットを生み出します。それは手元資金よりも大きい規模の物件に投資ができること、及びエクイティの利回りを向上できることです。

 

物件の利回りよりも低い金利でお金を借りられれば、投資した自己資金であるエクイティの利回りは向上します。

また、借入の金利が低ければ低いほど、借り入れる金額が多ければ多いほど、エクイティの利回りは向上します。

 

不動産が収益評価に基づいた価格で取引されることは、金融機関の融資のハードルを下げ、不動産投資では借入の利用がごく一般的になりました。

 

但し、借入には返済期限の他、種々の契約条件が定められます。条件を履行できない場合、期限の利益を喪失し、一括弁済を求められることになります。

 

通常、投資家は一括弁済できるだけの資力を持たないことから、不動産投資に際して、過度に借入に依存するのは危険な行為と言えます。

 


5. 不動産の税務メリット

詳しくは触れませんが、不動産は税金面でのメリットも多い商品です。

 

個人の投資においても、タワーマンションや賃貸不動産を利用した節税が話題になった時期がありました。現在は、相続税対策としての小口不動産投資が話題のようです。

 

また、建物等の減価償却費は経費となり、課税所得を減少させますが、実際に現金が流出するわけではありません。

 

同様に借入金の利息なども費用計上できることから、資金調達手法や投資スキームを工夫することで、税金を減少させる余地が生まれます。

 

リート投資では不動産の所有権を取得しないため、こうした相続税や所得税の面での直接的な節税効果を得ることは困難です。

但し、リート自体が一定の条件下で法人税を免除される他、リート投資の利益は金融商品課税のため税率は低めです。

 

 

長く富裕層の資産運用手段と見なされてきた不動産投資は、金融商品と類似の考え方が定着したことで、一般の個人へとすそ野を拡げてきました。

 

但し、不動産投資を成功させるためには、希少性のある物件を見つけるソーシング力、有利な条件での資金調達力、テナントを誘致し、適正な賃料を確保するリーシング力、

物件を管理するマネジメント力など多様な能力が必要です。

 

富裕層はこうした能力を持った専門人材を雇うことができるからこそ、不動産投資で成功できるわけです。

 

それでは一般的な個人はどうでしょう?

 

自分には十分な知識がなく、まとまった資金もない。でも、大丈夫です。不動産投資を行う方法はあります。

リート投資であれば運営を専門家に任せられるため、少額でも希少性のある物件に投資を行い、適正な管理の下で安定したキャッシュフローを受け取る、

という不動産投資のメリットを得るチャンスがあります。

 

次回(第5回)より、リートの具体的な解説を始めます。

前回(第3回)はこちら

 


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執筆

J-REITウォッチャー

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リート資産運用会社で10年超の勤務経験を有する業界通。 
自身も知見を活かしてリート投資家として活動中。

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