すっかり前置きが長くなりましたが、ここからリートについて解説します。

 

少額で優良不動産に投資できるリート市場は、日本のみならず、北米、アジア・オセアニア、ヨーロッパなど世界40ヶ国以上に拡がっています。

 

これは、投資対象として優れた性質を持つ賃貸不動産に対して、少額投資できる商品へのニーズが、世界中に広く存在することの証左とも言えます。

 

日本のリートはJリートと呼ばれ、2023年12月末現在、58投資法人が東京証券取引所に上場しています。時価総額の合計は15.4兆円で、市場規模は米国に次ぐ世界2位です。

 

また、リートと似た性格を持つ、主に太陽光発電施設に投資を行うインフラ・ファンドも5法人が東証に上場しています。

 

リートの最大の特徴は配当利回りの高さにあり、2023年12月末日時点のJリートの平均配当利回りは約4.3%で、東証プライム市場の平均利回り約2.2%を大きく上回っています

ちなみに米国のS&P500の平均利回りは1.5%程度なので、Jリートの配当利回りの高さは明らかです。

 

投資初心者がデビューの次の一歩を考えるうえで、高い配当利回りと安定的な業績を期待できるJリート適した商品だと言えそうです。


1. リートの基本スキーム

リートの基本スキームは、下の図の通りです。

図の中の不動産投資法人がリートで、賃貸不動産の保有に特化しており、従業員はいません。

 

リートのバランスシートの左側の大部分は、保有する賃貸不動産が占めており、それ以外には現預金がある程度の単純な構造です。

Jリートで資産規模が最大の日本ビルファンド投資法人(8981)の場合、合計67物件、約1.5兆円の賃貸不動産を保有しています。

 

バランスシートの右側は、投資口と呼ばれる株式と、銀行借入や投資法人債(=社債)などの負債で構成されており、これらは不動産取得のための資金調達手段です。

 


2. リートの投資口とは

リートの投資口は東京証券取引所に上場しており、市場の取引時間内であれば、いつでも1口単位で売買することが可能です。

 

一般の上場株式の売買単位は100口なので、リートの方が少額で投資できるケースが多いでしょう。個人では手の届かない大型不動産ポートフォリオに、少額投資できるのは、リート投資の大きな魅力です。

 

ちなみに、2023年12月末時点で1口あたりの投資口価格が最も低かったのは、投資法人みらい(3476)43,450円、最も高かったのは、大和証券オフィス投資法人(8976)の665,000円でした。

 

58リートのうち、投資口価格10万円未満が9リート、10万円~20万円が31リートだったので、Jリートの約7割が20万円未満で投資可能な状態でした

 

また、ETFを通じてリート投資を行う場合、1,000円程度から投資することがが可能です。

 

複数の投信会社が計21のリートETFを上場しており、最も取引量が多いのは「NEXT FUNDS東証リート指数(1343)」です。会社HPによると、2024年1月26日現在の分配金利回りは約3.8%とされています。

 

このETFの株価は東証リート指数に連動しており、3ヶ月毎に配当を受け取る事ができます。

個別のリートを調べなくても投資を始められるので、最初のお試しにはいいかもしれません。

 

リートの投資主(=株主)は、いわゆる「サラリーマン大家」と違い、賃貸不動産の所有権を直接保有せず、代わりに所有権を持つリートの株式を保有することで、不動産の疑似オーナーになります

 

先に挙げた日本ビルファンド投資法人の投資口(=株式)を取得した場合、同リートが保有する68物件からなる不動産の疑似オーナーになり、賃料などを原資とする分配金を受け取る権利を獲得することができます。

 

リートは大勢の人からお金を集めて不動産に投資する法人と説明されることがありますが、物件取得の都度、新たに投資家から資金を集めるわけではありません。

借入金のみで物件を取得する場合もあれば、公募増資により、株式の追加発行を併せて複数物件の取得資金を賄うケースもあります。

 

賃貸不動産を保有するリートは、テナントから賃料を受け取り、物件保有や借入などにかかる費用を支払った後、投資主に配当を行います。また、保有物件の売却により譲渡益が発生した場合も、一般的には投資主に分配を行います。

 

ほとんどのリートは、半年間を1期として運営を行い、半年毎に分配を行います。例えば、2月と8月を決算期とするリートであれば、配当を受けとれるのは、2月と8月の配当権利確定日(期末の2営業日前)に投資口を保有していた人で、実際の入金は決算の約3ヶ月後です。

 

株式と同様、リートの分配金にも、預金や債券のような保有期間による日割りの概念はありません。したがって、権利付売買最終日に1日だけ投資口を持っていれば、1期分の分配金を受け取る事ができます。但し、翌日は配当権利落ちにより価格が下がるケースが多いため、1日持っていれば儲かるという単純な話ではありませんので、ご注意ください。

 

 

様々な魅力を持った不動産投資ですが、投資を行うには、①物件の発掘能力(ソーシング力)、②テナントへの賃貸能力(リーシング力)、③資金調達能力(ファイナンス力)、④物件の管理能力(アセット・マネジメント力)など、多様な能力が必要です

 

Jリートはこうした業務を、資産運用会社に委託しているため、投資主に不動産投資の知識がなくても、専門家である資産運用会社に任せきりで不動産投資を行えます

 

例えば、福岡リート投資法人は資産運用業務を株式会社福岡リアルティに委託しており、福岡リアルティの役職員は、投資主のために資産運用業務を行っています。

 

また、リートの説明に出てくるスポンサーとは、資産運用会社の筆頭株主を言い、58リートのスポンサーは、不動産会社、鉄道会社、商社、投資ファンドなど様々です。


3. 世界のリート市場

リート市場は、1960年にアメリカで誕生しました。日本では2001年に最初のリートが上場しており、すでに20年の歴史があります。

 

一般社団法人不動産証券化協会(以下ARES)によれば、2023年12月末のリートの保有物件数は4,697件、取得価格の総額は22.8兆円、投資口の時価総額の合計は15.4兆円です。

 

東京証券取引所が2023年8月に行った調査によれば、Jリートの投資主数は約93.6万人で、このうち89.4万人が個人投資家です。投資主数では個人投資家が圧倒的ですが、投資口の保有割合では、投資信託が約36%、海外投資家が約24%であり、個人投資家の割合は7%程度に過ぎません。

 

もちろん個人投資家が投資信託を通してJリートに投資を行うことも多いので、間接的な保有を含めれば、個人投資家の関与は単純な保有割合よりも大きくなります。

 

売買割合が最も大きいのは、外国人投資家です。世界の主要機関投資家もJリートを投資対象としており、Jリートが世界中の投資家のお金を集めている点は安心感があります。

 

リート市場があるのは日本だけではなく、世界41ヶ国に拡がっており、2023年6月時点の時価総額は204兆円です。時価総額の大きい順に並べると、①アメリカ、②日本、③オーストラリア、④イギリス、⑤シンガポールで、アメリカの市場規模は世界全体の70%以上を占める圧倒的な存在です。

 

ニッセイアセットマネジメントのマーケットレポートによれば、2023年12月の各国リートの配当利回りは、米国:4.0%, 豪州: 4.0%, シンガポール: 5.7%, フランス: 6.3%と、水準はまちまちです。

 

リートの利回りの高低は、配当利回りとリスク・フリー・アセットである10年物国債利回りの差であるイールド・スプレッドで比べるのが一般的です。各国のイールド・スプレッドは米国:0.2%, 豪州: 0.0%, シンガポール: 3.0%, フランス: 3.7%でした。

Jリートのイールド・スプレッドは3.5%で、世界的にみても高い水準でした。

 

特に日本在住者がJリートに投資する場合、為替リスクを取る必要がないことを考えると、Jリートへの投資には依然妙味がある状況と言えそうです。


4. Jリートの特徴

Jリートは配当可能利益の90%以上を配当するなど一定の条件を充たした場合、法人税が課税されません

 

実際には、ほとんどのJリートは、配当可能利益の100%を分配しています。これは、一般上場企業の配当性向が30%程度であるのに比べて極めて高い値であり、Jリート分配利回りが高い理由の1です。

 

また、法人税の支払いが発生しないため、配当の二重課税も避けられます。二重課税とは、上場企業が法人税を支払った上で行った配当を受け取った個人が、配当所得に対して再び課税されることを指します。

 

配当利回りが高いことは、投資を行う上でとても有利な条件です

 

下のチャートは、過去10年間のJリートの分配金利回りの推移を示しています。

 

Jリートの配当利回りが、ほぼ一貫して株式の配当利回りを1%以上上回っていること、及び分配金利回りから長期金利を引いたイールド・スプレッドが3%から4%のレンジで推移していることが確認できます。

 

過去10年間でイールド・スプレッドが4%を大きく上振れたのは、東日本大震災後の20123月にかけての時期と、20203月前後の第1次コロナ禍の時期です。

 

いずれもJリートの投資口価格が大きく下がったため、スプレッドが大きく拡がりました。

但し、大きく拡がったスプレッドは投資魅力を引き上げるため、時間の経過により、投資口価格が回復し、イールドスプレッドは通常レンジに戻りました。

Jリートと一般事業法人の株式の値動きを比べてみましょう。

 

下のチャートは、東証リート指数とTOPIXの値動きを比べたものです。2015年くらいまでは値動きが概ね連動していましたが、その後ばらつきが目立ちはじめました。2023年は、TOPIXの上昇に対して、東証リート指数は低下し、大きく負けている(アンダーパフォームしている)状態です。

 

リートは、短期的な変動の小さい家賃を主な分配原資としており、安定的な分配金の受け取りを目的とする中長期目線の投資が多いことから、一般にミドルリスク、ミドルリターンの商品と説明されます。

 

しかし、2008年の世界金融危機や、2020年春のコロナ禍のような極めて大きなイベントが発生したケースでは、下落幅がTOPIXを上回っています。

 

これは、市場規模がTOPIXに比べて小さいことに要因があると考えられます。

TOPIXの構成銘柄は2,170Jリートの35倍、時価総額はJリートの25倍以上の規模です。つまり、Jリートはまだまだ市場規模が小さいため、参加者の売買が一方向に極端に傾くようなケースでは、値動きが一時的に増幅されてしまう傾向があると言えます。

 

足もとの出遅れは、オフィスを中心に市場回復の遅れや、日銀の金融政策の変更が原因していると考えられます。

投資口価格の動きだけで見ると、TOPIXに対してアンダーパフォームに見える東証リート指数ですが、配当の再投資を考慮した配当込み指数で比べると、様相が全く異なります。

 

下のチャートは、東証リート指数とTOPIXの配当込み指数の比較です。ご覧の通り、2010年以降、青の線のリート指数がTOPIXを一貫してアウトパフォームしています。

 

2つのチャートの差は、Jリートの分配金が、一般事業法人よりも大きいことによると考えられます。Jリートの分配金は、相場の下落局面での緩衝材となると共に、大きな複利効果をもたらします。

 

そのため、複利効果の大きいJリートがTOPIXをアウトパフォームするわけです。


5. Jリートの分配金

投資初心者にJリート投資が適していると考える理由の1つは、この配当利回りの高さにあります。

 

例えば、トーセイ・リート投資法人(3470)の予想配当利回りは、足もとの投資口価格で計算すると約5.1%です(同リートが公表する2024年4月期、2024年10月期の予想分配金を、2024年1月26日の終値で計算)。

 

ということは、仮に新NISA成長投資枠で投資口を取得し、投資口価格が動かなかったとすれば、分配金の受け取りだけで、年利5%を達成することができることになります。

 

Jリートでは足もと予想分配金利回りが5%以上ある投資法人が10前後あります。

こうしたリートでは受け取った配当を再投資することで、大きな複利効果を得られます。

 

また、リートの平均分配金利回りは4.3%なので、年間投資元本の1%強の投資口価格の上昇があれば、年利5%を達成することができます。

 

今回はリート市場とリートの仕組み、その特徴について解説しました。

 

次回(第6回)はリートに対する具体的な投資方法を解説します。

前回(第4回)はこちら


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執筆

J-REITウォッチャー

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リート資産運用会社で10年超の勤務経験を有する業界通。 
自身も知見を活かしてリート投資家として活動中。

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