今回から数回に分けて、Jリート投資に際して注意すべき投資口価格の変動要因について解説します。

 

「これが起きたら価格は上がる」とか、「これを見たら売り」のような、投資における「黄金のルール」があれば簡単なのですが、そんなうまい話はありません。

 

ただし、このイベントではこういう値動きになりやすいという傾向は存在するので、それらを理解することは、投資戦略を考える参考になります。

 

最初に紹介するのは、「配当落ち」の影響です。

 

Jリート投資は一般に、ミドルリスク・ミドルリターンの投資と説明されます。

 

これは、事業法人株と比べ価格の変動幅が小さめで、配当収入によるインカムゲインが投資リターンの大きな部分を占める、という特徴から来ているものです。

 

いわゆるテンバガー株のような爆発的な値上がりは期待しづらいということですが、投資初心者にとっては、むしろ手掛けやすい投資対象である、とも言えるでしょう。

 

ただし、通常値動きが穏やかなJリート市場も、リーマン・ショックや、新型コロナのような、いわゆるブラックスワンに襲われた時には、投資口価格が事業法人株以上に急落する場面がありました。

下のチャートの赤丸で示した場面で、東証リート指数(配当込み)の下げ幅は、TOPIX(配当込み)のそれを上回っています。

これは、Jリート市場が株式市場に比べて規模が小さいため、一気に売りが集中する局面では買い手が不足し、相場が大きく崩れがちになるからと考えられます。

(出所:一般社団法人不動産証券化協会HP資料を執筆者が加工、マーケット概況|J-REIT.jp | Jリート(不動産投資信託)の総合情報サイト | ARES J-REIT View )

 

しかし、振り返れば、そうした大きな下げ局面は、常に「絶好の買い場」でした。

 

リートの利益や資産価値に対する悪影響以上に投資口価格が下がった事で、投資口価格が極端に割安な状況が一時的に発生したものの、市場が落ち着きを取り戻すにつれて、投資口価格は適正な水準に回復していったからです。

 

価格が大きく下がった局面で投資することは、投資を成功させる要諦でもあります。

 

例えば、本ジャーナル執筆時点の2022年10月20日現在、東証リート指数は1,860ppt.台と、ほぼ半年ぶりの水準まで下げています。

さまざまな情報を検証し、投資の可否を検討すべき局面が訪れようとしているのかもしれません。

 

ただし、価格が大きく下がる中で相場に飛び込むには勇気と経験が必要です。

まずは、Jリートの投資口価格に影響を与える要因を理解し、小さな下落局面で投資経験を積んで、将来訪れるであろう「絶好の買い場」に備えましょう

 

1. Jリート投資口価格の変動要因

 

Jリート市場には、特徴的な投資口価格の変動要因がいくつかあります。

 

例えば、配当落ち、公募増資、自己投資口買い、金利動向などです。

さらに、投資対象の物件タイプごとにも注意すべき材料あります。

 

多くは株式市場と共通ですが、中にはリートにおいて影響が、より顕著に表れるものもあります。

もちろん、個々の要因が毎回、同じ値動きをもたらす訳ではありません。

 

上昇相場の中で、下げ要因に市場が反応しないケースもあるでしょうし、複数の要因が複合的に発生することで、影響を消しあう場面もあるでしょう。

 

しかし、いずれにせよ価格の変動要因と、変動の傾向を理解しておくことは、Jリート投資を成功させる大きなカギと言えます

 

まずは「配当落ち」(または「権利落ち」)の影響について説明します

 

既にJリート投資を始めている方は、保有するリートの投資口価格が期末直前に大きく下がっているのに気づき、ドキッとした経験があるかもしれません。

それは「配当落ち」の影響で、画面のどこかに「落」の文字が表示されているかもしれません。

 

「配当落ち」は、事業法人株でも発生しますが、Jリートの場合、「配当落ち日」午前の投資口価格は、前日の終値に比べて大きく下げる傾向があります。

言い替えれば、Jリートへの投資を考える方にとって、「配当落ち」はいい投資機会を提供してくれるかもしれません

 

2. 「配当落ち」とは?

 

「配当落ち」とは、その期の配当を受け取る権利がなくなることを言い、Jリート固有の事象ではありません。

 

事業法人株でも本決算が集中する3月末や、中間決算日である9月末の前営業日の「権利落ち日」には、株価への影響が注目されます。

Jリートの場合、分配金(配当)の水準が高く、分配金受領を目的とする投資家も多いことから、「配当落ち」は価格に、より大きな影響を与える傾向があります。

 

ほとんどのJリートは、2月と8月、3月と9月のように半年ごとに決算を行い、期末日に投資主(株主)名簿に記載されている投資主に対して分配金を支払います

 

投資口を購入して、名簿に記載されるまでに2営業日を要するため、その期の分配金を受け取るためには、期末の2営業日前までに投資口を取得する必要があります。

 

2月と8月に決算を行うリートの20228月期を例として説明すると、カレンダーは以下のようになります。

2022年8月29日(期末の2営業日前): 「権利付き売買最終日」

2022年8月30日(期末の前営業日): 「配当落ち日」または「権利落ち日」

2022年8月31日(期末日): 「権利確定日」

 

この例では、8月29日の取引終了時点で投資口を保有する投資主は、権利確定日の名簿に記録されるため、保有期間に拘わらず、2022年8月期の分配金を受け取ることができます。

 

例えば、ある個人投資家が、8月29日に投資口を購入し、翌8月30日にその投資口をすべて売却したとします。

この場合、20228月期における投資口保有期間はわずか1日に過ぎませんが、この投資家は半年分の分配金全額を受け取ることができます。

 

一方、別の個人投資家が、「配当落ち日」である830日に投資口を購入したとします。

この投資家が、投資主名簿に記載されるのは9月1日で、2022年8月期の保有実績がないため、20228月期の分配金を受け取ることはできません

 

株式やJリートの投資口には、債券や預金のような保有期間に応じた経過利息や日割りという概念はないので、注意が必要です。

 

毎月の権利付き売買最終日や配当落ち日は、ネットで簡単に検索できます。

 

もう1点知っておくべきは、期末に配当の権利を取得しても、実際に分配金を受け取れるのは期末の概ね3ヶ月後だという点です。

 

3. 「配当落ち日」の値動きの検証

 

「配当落ち」がJリートの投資口価格に与える影響を、8月と9月に決算期を迎えたリートを使って検証してみます。

 

まず、8月決算の15リート、9月決算の5リートについて、「権利付き売買最終日」の終値と、翌営業日である「配当落ち日」の寄値を比べると、20リートすべての投資口価格が下落しました

投資口価格が確実に下がるのであれば、「権利付き売買最終日」に信用売りをして、「配当落ち日」の朝、買い戻せば儲かると思ったあなた、素晴らしいセンスです!

 

しかし、残念ながら世の中に甘い話はそうそうありません。

 

「権利付き売買最終日」を挟んで信用売りをするには、通常の手数料や貸株料に加え、配当額に見合った「配当落ち調整金」を、信用買いする人に支払う必要があります。

したがって費用や調整金の支払い以上に価格が値下がりしなければ、買い戻した際に損失が発生してしまいます(実際には税金も勘案する必要があります)。

 

では逆に、売りから始めるのではなく、「権利付き売買最終日」に投資口を購入して、「配当落ち日」に売却したらどうでしょう?

この場合、「配当落ち日」の価格の下落幅が分配金の額よりも小さければ、利益を得られるはずです(実際には税金も勘案する必要があります)。

 

Jリート市場では「権利付き売買最終日」にかけて出来高が増加し、ピークを付けた後、数日間は出来高が高止まるというパターンが見受けられます。

この動きは、「権利付き売買最終日」近くで投資口を購入し、配当受領の権利獲得後、売却という戦略を実際に取る投資家が存在することを示していそうです。

 

では、買いから入れば儲かるかを実際のデータを使って検証してみましょう。

4. 8月決算銘柄を使った検証

 

既に述べた通り、8月決算の15リートは、例外なく「配当落ち日」の寄り値が、前日の「権利付き最終日」の終値を下回りました。

ただし、その下げ幅はまちまちでした(下の表の中央「変動額」ご参照)。

 

この中で、黄色でハイライトした5リートは、「落ち日」の寄値が予想配当金以上に下落しています。

これらのリートの投資口を「権利付き最終売買日」の終値で購入し、「配当落ち日」の寄付きで売却する戦略を取ったとすれば、分配金を超える部分の損失が発生したはずです。

 

例えば、GLP投資法人(3281)を173,000円で購入し、169,100円で売却すれば、1口当たり3,900円の譲渡損失が発生します。

後日、予想通りの3,021円の分配金を受け取っても、1口当たり879円の損失が残ります。

 

一方、ハイライトしていない10リートについては、権利落ち日の寄り値の下落幅が、予想配当金を下回りました。

例えば、オリックス不動産投資法人(8954)の場合、3,680円の予想分配金に対し、1,900円の値下がりだったので、権利付き最終日に買って、権利落ち日の寄付きで売れば、予想分配金との差額である1口当たり1,780円の利益を得る事ができたはずです(分配金に対する税金は考慮していません)。

 

きっと、実際に支払われる分配金が、予想分配金を下回らないかを心配される方もいらっしゃるでしょう。

Jリートでは、実際の分配金が予想分配金を下まわるケースは非常にまれです。

 

ちょうど、8月決算リートの決算発表時期なので、発表の終わった8リートについて実際の分配金を確認したところ、6リートについては上方修正、2リートは予想分配金と同額でした。

※9月決算銘柄のケネディクス商業リート投資法人が10月6日付で分配金の引き下げを公表しました。期末後予想配当金の引き下げが発生したまれなケースです。

ただし、同リートは8月25日付で一時的な費用の発生をリリース済だったので、投資家にとってはサプライズとはならなかったでしょう。

 

8月決算銘柄検証の結果は、①投資口価格が予想分配金よりも大きく下がった、②予想分配金程度の値下がりだった、③ 予想配当金に比べ値下がり幅が小さかったの3種類に分類されました。

 

では、どんなリートが①になり、どんなリートが③になったのでしょうか?

どんなリートがどの種類に分類されそうか予想できれば、今後の投資戦略に活かせそうです。

 

①の大きく値下がりしたリートを見ると、2つのパターンが確認できます。

1つは公募増資が絡んだケース、もう1つは時価総額が小さいケースです。

 

例えば、時価総額が7,000億円を超える大型リートである大和ハウスリート(8984)を見ると、「配当落ち日」の寄付きは、予想分配金5,600円を大きく上回り、実に8,000円も値を下げています。

 

このリートでは8月中旬に公募増資を公表したという事情が、「配当落ち日」の投資口価格に影響を与えた可能性があります

 

実は、公募増資も投資口価格に影響を与える要因の1つですので、今後解説します。

 

もう1つの類型である時価総額が小さいケースを見てみます。

8月決算銘柄で時価総額最小のザイマックスリート投資法人(3488)は、3,867円の予想分配金に対して、4,400円価格を下げて寄り付いています。

 

①に分類される他の2つのリートも、ザイマックスリート投資法人に次いで時価総額が小さいリートです。

 

予想分配金以上に投資口価格が下がったということは、分配金を受け取ったら、すぐに投資口を手放したいと考える投資家が多かった、と言えるかもしれません。

 

もっと高い価格で投資口を売却できると考えていた投資家が、想定よりも下の買い注文しか入らなかったことで、ロスカット覚悟で売却に動かざるを得なかったのかもしれません。

 

一般に、時価総額が小さいリートは、分配金利回りが高くなる一方、流動性の観点から機関投資家の保有割合が低く、個人投資家の保有割合が高くなりがちです。

買い注文の量も少なくなる(板が薄い)ため、値動きが大きくなりやすい面がありそうです。

 

言い替えれば、値動きが荒く、大きめのリスクプレミアムを求められるため、投資口価格が抑えられ、結果として分配金利回りが高くなるということでしょう。

 

8月決算銘柄で見られたもう1つの特徴的な動きは、「配当落ち日」の終値が、すべての銘柄で、寄り付きよりも上昇したことです。

 

この検証結果を投資戦略に活かすなら、こうなるでしょうか?

権利落ち前に投資口を買って、分配金の権利獲得後、売却する作戦を取るなら、公募増資をしていない大型銘柄が吉。

さらに、売却は「配当落ち日」の寄付きですぐに実行ではなく、少々様子を見るのが吉。

 

逆に小型の高利回りリートを安く買いたいなら、「配当落ち日」の寄付き近辺が吉。

 

もっとも、公募増資の発表は期末直後にも行われますし(前述の9月決算銘柄のケネディクス商業リートは10月6日に公募増資を公表)、小型リートが常に値動きが大きいとは限りません。

投資の実行は、常に皆様ご自身の判断でお願いします。

 

では、こんどは9月決算銘柄を使って同じ検証をしてみます。

5. 9月決算銘柄の検証

 

既に述べた通り、「配当落ち日」の寄付きにかけて投資口価格が下がるという特徴は、9月決算銘柄でも同様に見受けられます(表の中央部「変動額」ご参照)

 

 

しかし、投資口価格の下げ幅に注目すると、8月銘柄とは異なり、予想配当金以上に下げた銘柄は存在しませんでした

 

例えば、大型オフィスリートであるジャパンリアルエステート投資法人(8952)は、予想分配金11,500円に対して「配当落ち日」の寄付きは、わずかに1,000円下がったのみでした。

この値動きであれば、「権利付き売買最終日」の終値買い、「配当落ち日」の寄付き売り作戦が成功したはずです。

 

一方、「配当落ち日」の寄付きから終値に至る値動きを見ると、青色ハイライトが示す通り、1銘柄を除く4リートが下落しており、8月の値動きとは様相が異なります

 

ジャパンリアルエステート投資法人を見ると、「配当落ち日」の寄付きこそ、あまり下げなかったものの、その後は下落を続け、権利付き売買最終日から10営業日後には、予想配当金を超える値下がり幅に達しました。

 

結局、8月、9月決算銘柄の比較では、「配当落ち日」にかけて下がるという点を除き、明確な共通パターンを見出せませんでした。

 

ただし、配当落ち前に投資口を購入し、権利落ち日に売却という戦略は、相応の確率で効果を得られそうで、こうした取引が行われている背景が垣間見えたようです。

 

このコラムでは、Jリートを使った長期投資をお薦めしているので、検証結果を新規投資、追加投資の機会を探る手掛かりにしていただけると幸いです。

6. 東証リート指数との関係

 

以上のように、配当落ちが決算月を迎えたJリートの投資口価格に対して与える影響は、必ずしも一定ではありません。

 

値動きが一定にならない要因として考慮すべきは、Jリート市場全体を示す東証リート指数の動きです。

 

8月と9月を比べると、8月は「配当落ち日」にかけてリート指数が下落した一方、9月は逆にリート指数が上昇しています。

 

8月のように期末を迎えるリートが多い場合、配当落ち銘柄の値下がりは東証リート指数に対しても、値下がり要因として働きやすいでしょう。

 

一方、9月のように、決算を迎えるリートが少ない場合、Jリート市場に対してポジティブな材料があれば、配当落ちによる下落方向の圧力を跳ね返して相場全体は上昇することもあります。

その結果、配当落ち銘柄についても下げ幅が抑えられた可能性もあるでしょう。

 

7. まとめ

 

今回はJリートの投資口価格に影響を与える「配当落ち」について解説しました。

 

結論として、「配当落ち」を迎える銘柄には値下がり圧力がかかるため、前営業日に比べて値下がりして始まる可能性は高いと言えそうです。

もし、投資したい銘柄があれば、期末前後は投資の実行を検討する1つの機会になりそうです。

 

しかし、その下げ幅と予想配当金の間に決まった関係があるわけではありませんでした

したがって、権利落ちを待つのではなく、あえて権利付き最終日前に分配金受領の権利を取りに行くという作戦もありそうです。

 

配当落ちの値動きの傾向を理解しておくことは、Jリート投資をする上で参考になりそうです。

 

10月には以下の8つのリートが決算期を迎えます。

今回はアイデアブックを使って、値動きを検証してみようと考えておりますので、ご期待ください。

次回(第8回)は、Jリートの投資口価格に影響を与える要因の1つである「公募増資」について考えてみます。

 

前回(第6回)はこちら

第1回はこちら


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執筆

J-REITウォッチャー

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リート資産運用会社で10年超の勤務経験を有する業界通。 
自身も知見を活かしてリート投資家として活動中。

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