前回(第7回)は、投資口価格の変動要因である「配当落ち」の影響について解説しました。

 

今回は「公募増資」を取り上げる予定でしたが、足もとJリートの投資口価格が大きく下落しており、長期金利の上昇が大きな影響を与えたと見られることから、順番を差し替えて金利の上昇がJリート市場に与える影響について解説します。

 

米国でインフレ率が急上昇し、中央銀行であるFRBが急速な金融引き締めを継続、その結果、長期金利が4%を超える水準まで上昇し、株価の下落を招いているという状況を認識されている勉強家の方もいらっしゃることでしょう。

 

このインフレ率の上昇→中央銀行の金融引き締め→金利上昇→株価下落という状況は、米国だけではなく、欧州、豪州など多くの先進国に共通するものです。

 

一方、日本はと言えば、インフレ率は足もと3%台まで上昇したとはいえ、他主要国と比べはるかに低い水準です。

 

さらに、日本銀行が他の先進国とは真逆の金融緩和政策を続けていることもあり、10年物長期金利は依然日本銀行が上限とする0.25%水準に留まっています。

 

日本の金利が低水準に留まっているにもかかわらず、Jリートの投資口価格が海外の金利上昇を理由として下落するという説明を聞いて、不思議に感じませんか?

 

実は、Jリート投資においては、海外金利、特に米国の金利動向に対しても留意する必要があります。

 

前回も書きましたが、下落局面で投資を行うことは成功の要諦です。

ただし、やみくもに飛び込めばいいという訳ではなく、相場が下げている理由を認識したうえで、投資判断を行う必要があります。

 

今回はリートの投資口価格の変動要因の1つ、「金利上昇」について解説します。

 

1.  Jリート投資口価格の下落

 

9月から10月下旬にかけて、Jリートの投資口価格が大きく下落しました。

東証リート指数(配当除き)は、8月末日の2,033ppt.から1024日の1,854ppt.まで約9%の下落幅した。

(ただし、その後の4営業日で下げ幅の約60%を取り返しています。)

東証リート指数.jpeg

(出所: 株価指数ヒストリカルグラフ -東証REIT指数- | 日本取引所グループ (jpx.co.jp))

 

同期間のTOPIXの下落幅は4%程度であったことから、リート指数としては大きな下落幅だったと言えます。

 

ではこの間、Jリート市場を取り巻く環境の何がどう変化したのでしょうか?

 

各種レポートでは、海外金利の上昇をJリートの価格下落の主要因とする解説が多いようです。

海外金利の上昇が、なぜ日本の不動産に投資するJリートの投資口価格に影響を与えるのでしょうか?

 

2. 円金利上昇の影響

 

海外金利に入る前に、まずは、円金利の上昇がJリート市場に与える影響について考えてみます。

 

収入の原資を短期的な変動の小さい保有不動産の賃料に求めるJリートにとって、金利上昇は投資口価格の下落要因として働きます。

 

金利上昇が投資口価格にマイナスに働くルートは、①短期金利の上昇による資金調達コストの上昇と、②長期金利の上昇がもたらすイールド・スプレッドの縮小による投資魅力の低下2つと考えられます。

 

①の短期金利の上昇による資金調達コストの上昇は、比較的理解しやすいと思います。

 

Jリートは、投資口の発行である増資(エクイティ)と、銀行借入、投資法人債の発行などの負債(デット)の組み合わせで資金調達を行っています。

 

その割合は様々ですが、負債割合を保有不動産の簿価に対して40%50%程度で維持しているケースが多いでしょう。

 

この負債額(銀行借入+投資法人債)を保有不動産の簿価*で割った比率を、ローン・トゥ・バリュー(LTV)と呼び、各JリートはLTVの上限値を公表しています。

*保有不動産の簿価の代わりに鑑定評価額を使うケースもあり、時価ベースのLTVと呼びます。Jリートの鑑定評価額は、簿価よりも高いケース(保有不動産に含み益が生じている)が多いので、時価ベースのLTVは簿価ベースのLTVを下回るのが一般的です。

 

したがって、金利の上昇は、保有不動産の45%程度にあたる負債に対する支払い利息の上昇により、Jリートの資金調達コストを増加させます。

 

Jリートでは、配当可能利益の全額(100%)を分配するケースが多いため、銀行など債権者に利息を多く払えば、配当可能利益は必然的に減少し、分配金も減少します。

 

資金調達コストの上昇に直接的な影響を与えるのは、短期金利です。

 

Jリートの借入は通常、基準となる短期金利(例えば1ヶ月TIBOR3ヶ月TIBOR)に、各リートの信用力に応じた金利幅(スプレッド)を上乗せする形で行われています。

 

そのため基準金利が上がれば、その分支払金利も上昇します。

では、足もとで短期金利が上昇したかと言うと、そうした事実はありません

日本銀行は長らくゼロ金利政策を続けているため、短期金利はまさにベタ凪状態です。

 

さらに、Jリート各社は短期金利の上昇による資金調達コストの上昇を避けるため、負債の多くについて、金利を固定化しています。

将来の金利を固定化するというのは、固定金利型の住宅ローンを借りることをイメージすると分かりやすいかもしれません。

 

例えば、福岡リート投資法人(8968)では、20228月期末の金利の固定化比率を93.4%と公表しており、仮に短期金利が上昇しても、その影響は限定的です。

 

また、足もとでJリートを取り巻く業況に大きな変化はないため、基準金利に対する上乗せ幅である信用スプレッドの拡大も起こりづらい環境です。

 

つまり、Jリートの資金調達コストは、足もと安定的に推移しており、今回の投資口の下落要因とはなりえません。

 

3. イールド・スプレッドは変化したか?

 

では、②のイールド・スプレッドはどうでしょうか?

 

5のレポートで、10年物国債の利回りと、リートの分配金利回りの差をイールド・スプレッドと呼び、リート投資の魅力度を測る指標として使われていることを説明しました。

 

先進国の発行する国債は、一般に信用力が高く、デフォルトの可能性が低いことから、信用リスクがないという意味で「リスク・フリー・アセット」と呼ばれます。

リート投資は、発行体の信用リスクや業況の変化など、国債投資に比べればリスクを伴うため、投資家はリスクに見合った上乗せ幅であるイールド・スプレッドを要求します

 

Jリートを取り巻く環境が変わらない状況で国債利回りが上昇すれば、投資家が求める配当利回りも同じ幅だけ高くなるはずです。分配金の金額が変わらない中で、分配金利回りが上昇するためには、投資口価格が下がる必要があります。

 

逆に、国債利回りに変化がない中でリートに空室率の低下や、家賃の上昇など分配金の増加が期待できる状況が発生すれば、投資口価格が上昇しても、同じイールド・スプレッドが維持されます。

 

もっとも、相場は既に起こったことではなく、将来起こりそうなことを予想して変動する性格を持つため、イールド・スプレッドは常に変化しています

つまり、Jリートの投資環境が好転しそうであれば、イールド・スプレッドは縮まり、環境の悪化が予想される場合、スプレッドは拡大するでしょう。

 

ただし、歴史的に見ればイールド・スプレッドの拡大には上限があり、J-REITの場合、イールド・スプレッドが4%超に拡大した状態が長く続いたことはないという点も、5で説明した通りです。

(出所: ニッセイAMレポート 221005_tj.pdf (nam.co.jp))

 

言い方を変えれば、イールド・スプレッドが4%に近づく局面は、Jリート投資を検討したい局面ということです。

それでは、東証リート指数が大きく下落した9月以降のイールド・スプレッドを検証してみます。

 

4. Jリートのイールド・スプレッドの検証

 

8月末に2,033ppt.だった東証リート指数(配当除き)は、1024日の1,854ppt.まで、約9%下落しました。

 

ニッセイアセットマネジメント株式会社(以下「ニッセイAM」といいます)によれば、8月末時点のJリートの予想配当利回りは3.58%10年物国債利回りは0.23%、イールド・スプレッドは3.35%でした。

 

一方、1024日時点では、予想配当利回りは3.91%**10年問国債利回りは0.25%だったので、3.66%程度までスプレッドが拡がったと見られます。

**ニッセイAM202210月号レポートの予想配当金を使用して執筆者が計算。

 

この間、長期金利はほぼ動いていないことから、イールド・スプレッドの拡大は、専ら投資口価格の値下がりによりもたらされた、と言えるでしょう。

(出所: Market Watch)

 

日本取引所グループは、Jリートの投資アセット・タイプ別の用途別指数を公表しています。

この指数を比較すると、賃貸マンションを投資対象とするリートの住宅指数と、商業・物流倉庫指数の下げが、リート指数全体を上回っていることを確認できます。

(出所: 日本取引所公表データを基に執筆者が計算)

商業・物流指数は、異なるアセットタイプが混在しているためやや分かりづらいのですが、物流倉庫に投資するリートの下落が大きかったとの印象です。

では、賃貸マンション、物流倉庫2つのアセットタイプのリートの共通点は何かといえば、キャッシュフローの安定性が高く、これまで選好されてきた結果、投資口価格が高く、配当利回りが低水準になっていたことです。

つまり、これらのアセットタイプのリートのイールド・スプレッドは、かなり縮小していたため、特に利食いの動きが激しくなったものと考えられます。

下げ幅の大きかったリート群の戻りが鈍い点からも、今回の下落局面を通じて、イールド・スプレッドの是正が図られたと言えそうです。

 

今回、Jリートの投資口価格の下落をもたらした要因は、米国を中心とする海外での長期金利の上昇、及びそれによりもたらされた円安だったのではないかと考えられています。

5. 海外リートの動向

 

2022年の海外リートの値動きを俯瞰すると、興味深い姿が見えてきます。

それは、海外リート市場はJリート以上に大きく下落しており、Jリートはむしろ大健闘しているということです。

 

ニッセイAMのマーケットレポートの10月号によれば、2022年年初から9月末までのJリート投資口価格の下落率は3%でした。

一方、他主要国のリートは、同期間はるかに大きく値を下げています。

(出所: ニッセイアセットマネジメント マンスリーREPORT 221005_tj.pdf (nam.co.jp))

例えば、米国、オーストラリア、フランスのリートは、25%から28%下げており、前首相が打ち出した減税政策が一時的な大混乱を招いた英国に至っては、34%も下落しています。

(緑色の単月は、9月単月を示しています)

 

8月末から10月24日の動きを見ても、米国のNA(North America) REIT 指数は△16%、オーストラリアのリート指数は△12%の下落となっており、やはりJリートの下げ幅を上回っています。

 

こうした下落の要因は、明確に金利の上昇の影響であると考えられます。

各国中央銀行が政策金利を引き上げた結果、リートの支払利息は増加し、分配金を圧迫しています。

 

また、終わりの見えないインフレとの闘いは、投資家が求めるイールド・スプレッドを拡大させます。

 

下のチャートは、米国とオーストラリアの10年物国債利回りの推移を示したものです。

両国とも今年に入って、2.5%程度利回りが急上昇しています。

(出所: Market Watch)

金利の急上昇は、当然ながら両国のリート価格の大幅な下落を招いています。

青線がオーストラリアのリート指数に連動するETFの値動き、黒線が米国のNA REITのインデックスの推移です。

長期金利の上昇と反比例する値動きは、長期金利の上昇が価格を下落させるという関係を明確に示しています。

(出所: Market Watch VAP | Vanguard Australian Property Securities Index ETF Advanced Charts | MarketWatch)

 

では、長期金利の上昇により発生した海外リートの下落が、どうして金利がベタ凪のJリートに伝わったのでしょうか?

 

6. Jリート市場のメインプレーヤー海外投資家

 

Jリート市場における外国人投資家の存在感は、非常に大きなものです。

 

例えば、20222月時点のJリート投資口の保有比率を見ると、投資信託33%、外国法人等 25%、金融機関 21%の順となっており、外国人投資家は投信に続く第2位の投資主です。

(出所: 大和アセットマネジメントマネジメント    https://www.daiwa-am.co.jp/specialreport/market_letter/20220928_01.pdf

 

ただし、外国法人等の保有比率は大きいものの、株式における30%に比べれば低く、むしろ投資信託の保有比率が高い点に、Jリートの特徴があるようにも見えます。

 

しかし、売買シェアを見ると、外国人による取引は54%と過半を占めており、その存在感の大きさは圧倒的です。

圧倒的な存在感を有するだけに、その取引動向はリート市場に大きな影響を及ぼします。

 

そんな海外投資家が、自国のリート市場が大きく下げた場合にとるであろう行動として2つのことが考えられます。

 

まずは、自国市場の下落で損失が発生した場合、他の市場、例えばJリート市場で投資口を売却することにより、損失を埋めるというパターンです。

実際、2022年の1-4月に海外投資家がJリートを大きく買い越していたというデータからは、相応の蓋然性が感じられます。

 

もう1つは、海外と日本の長期金利の差が大きく拡がった結果、為替の円安が進んだという事情も影響しているかもしれません。

 

海外投資家は自国通貨を日本円に変えて(日本円を買って)Jリートに投資を行うため、円安は自国通貨ベースで考えた場合、為替損失を発生させます。

仮にJリートの投資口価格が動かなかったとしても、円安になれば為替損失が発生してしまいます。

 

それまで健闘していたJリート市場が急落した場合、投資口価格と為替の両方でやられて損失が大きく膨らむ可能性があり、こうした動きはロスカットによる売却につながります。

 

7. 売りの主体を検証

 

誰が売りの主体であったかを検証できる便利なデータが公表されています。

 

それは、日本取引所グループが発表する「投資部門別売買状況」です。

毎週公表される株式市場のデータと比べると精度が粗いですが、Jリートについても毎月第8営業日に前月分が公表されており、投資の参考になります。

 

2022年の主体別の動きを見ると、1-4月においては海外投資家が大幅買い越し、5-8月については投資信託が大幅に買い越していました。

これに対して9月分(9/19/30)のデータを確認すると、海外投資家は9月にJリートをむしろ小幅(50億円)買い越したことが分かります。

9月に大きく売った主体は、実は約318億円を売り越した投資信託だったようです。

 

Jリート市場は6月から7月にかけて相場が上昇したので、この間に投資信託を通じてJリートに投資した個人投資家から、9月に利食い売りが大量に出たということかもしれません。

また、9月を通じて買い越しとなった海外投資家についても、9月中後半は売り越したという可能性もあるでしょう(株式については3-4週大きく売り越し)

 

10月のJリート相場下落を招いた主体については、11月にならないとデータを検証できませんが、毎週公表されている株式のデータを見ると、海外投資家は10月の1週、2週の買い越しから、第3(10/17-10/21)には大きく売り越しに転じているので、Jリートについても類似の動きを取った可能性があります。

 

いずれにせよ、海外投資家はJリート市場のメインプレーヤーでもあるので、Jリート投資に際しては、彼らの行動に影響を与える海外金利や為替にも目を配っておく必要があるでしょう。

 

8. まとめ

インフレが進み、景気後退が懸念される足もとの環境は、投資判断を困難にしています。

高い金利水準から海外債券投資に魅力を感じても、現在の為替相場で円を外貨に換えて投資を行うには、かなりの勇気が必要です。

そんな中で、他国に比べインフレ率が低く、金融緩和が継続し、ビジネス環境も安定的なJリートは、相対的に魅力的な立ち位置にあります。

 

急落した東証リート指数は10/24に底を打った後切り返し、本日(10/28)まで4営業日連続で上昇しました。

わずか4営業日で、8月末からの2ヶ月間の下落幅の約60%を取り返す急上昇となっている背景には、相対的に高い投資魅力が影響していると言えそうです。

 

そんなJリート投資を検討するなら、海外金利への目配りをお忘れなく。

また、インフレ進展を受けた日本銀行の政策変更にも要注意です。

 

次回(第9回)は、Jリートの投資口価格に影響を与える要因の1つである「公募増資」について考えてみます。

 

前回(第7回)はこちら

第1回はこちら


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執筆

J-REITウォッチャー

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リート資産運用会社で10年超の勤務経験を有する業界通。 
自身も知見を活かしてリート投資家として活動中。

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