ウクライナへの侵攻を受けて、ロシアへの経済制裁が始まってる。マーケットアナリストとして日本株への影響を考察。影響のありそうな銘柄をピックアップしてご紹介します。
三菱商事の基本情報
株価 (2022/3/11) |
時価総額 | 自己資本比率 | ROE | ROIC |
---|---|---|---|---|
4,142円 | 6.2兆円 | 30.1% | 2.8% | N/A |
PER (実績) |
PER (予想) |
PBR | 配当利回り | EV / EBITDA |
35.5倍 | 7.5倍 | 1.0倍 | 3.43% | N/A |
三菱商事は三井物産と共にロシアのLNGプロジェクト「サハリン2」に出資している影響で2月24日にロシアのウクライナ侵攻が始まると同日に株価が4%近く下落した。その後は大分戻しているがロシアリスクの影響は小さくない。
総事業費用2兆円を超えるサハリン2の事業主体のサハリンエナジー社には、ロシア最大の政府系ガス会社ガスプロムが50%、シェルが27.5%、三井物産が12.5%、三菱商事が10%出資をしている。
シェルのサハリン2撤退の後に英石油大手BPロシア事業から撤退、独自動車大手のダイムラートラックのロシア企業との合弁事業を解消、スウェーデンの自動車大手ボルボのロシア市場撤退等の動きが続いているが、三井物産は3月4日にプレスリリースを出してロシア向けの投融資が4,600億円、うち4,300億円がLNG関連と発表をした。
三菱商事はまだサハリン2に関してのコメントを発表していない。国のエネルギー安全保障問題に係る問題であり民間企業のみで決定するのが難しく、生産されるLNGのおよそ6割は日本の電力会社とガス会社が長期契約で購入している事もあり簡単に決定はできない。
シェルがサハリン2のオペレーターだったが、シェル撤退後にサハリン2は継続が可能なのか、または三菱商事、三井物産が撤退を決定したとしたら日本の電力会社とガス会社の長期契約はどうなるのか等、どちらの決定をしても問題は大きい。
ここで三菱商事の抱えるロシアリスクについて見ていきたい。
三菱商事のロシア関連事業であるが、サハリン2への出資の他に子会社のロシア三菱商事会社を通じて様々な事業を手掛けている。火力発電所へ部品供給、原油、石炭、アルミニウム、ニッケル、化学製品、肥料、機能性材料等の取引、ユニクロとの合弁事業展開(三菱商事が25%出資)、三菱自動車の販売、自動車販売金融など多岐にわたっている。
また、三菱商事はウクライナの首都キエフにキエフ事務所を構えており、三菱自動車の輸入販売をしている。
三菱商事がサハリン2、及びロシア事業から撤退を決定した場合にどの位の損失を計上するのかについてIR資料を基に推測してみる。
三菱商事のIR資料に国別リスクマネーのエクスポージャーの2021年3月末時点での数字を発表している。
三菱商事はロシアでは出資が2,143億円、保証が352億円の計2,495億円であった。三菱商事の全世界のリスクマネーのポートフォリオの総残高が2兆7,499億円であったので約9%である。三菱商事の3Q時点の総資産20.5兆円の1.2%である。またIR資料のみでは分からないのが簿外債務やロシア三菱商事あるいはロシア三菱商事が手掛ける事業で固定資産を保有している可能性もある。
三菱商事の2008年6月16日付のプレスリリースで、サハリンエナジー社融資契約調印のお知らせの文中でプロジェクト完工までの保証を他の株主であるシェル、三井物産とともに差し入れたとあるので、仮にサハリン2が継続不可能となった場合に損失発生する可能性がある。
分からない部分については更なる損失の可能性があると一応頭に入れておき、ここでは現在入手できる情報に基づいての損失の推測になる。
三菱商事がサハリン2及びロシアの事業から撤退する場合に損失として計上される数字は投融資関連では最大2,495億円位になるであろう。この金額は3Q累計税引前利益9,066億円の27.5%、3Qの累計営業収益キャシュフロー(リース負債支払い後)8,482億円の29.4%である。
サハリン2からの受取配当金の金額であるが、サハリン2単独の受取配当金の金額は開示していないために不明であるが、今期3Q時点で既に生産開始しているLNGプロジェクト6件からで累計851億円であった。
仮に三菱商事がサハリン2から撤退するとしてどの位受取配当金が減少するのかを計算すると、四半期毎の配当金としてざっくり計算すると約40億円位の減少と推測する。
サハリン2以外の三菱商事のロシアのエクスポージャーで現時点で判明している情報は、三菱自動車がロシアとウクライナ向けの完成車輸出、ロシア向けの部品出荷はすでに停止し、ウクライナでの販売、車両供給はすべて停止した。
モスクワ近郊にステランティス(多国籍自動車製造企業)と合弁の工場を操業しており、パジェロスポーツ等を生産しているが、供給網と制裁の状況により生産中止になる予定である。ユニクロとの合弁事業については当面変わらず営業の予定である。
ユニクロとのロシア国内の合弁会社については、三菱商事は25%の出資をしている。ユニクロはロシアのウクライナ侵攻後も営業を継続するとの意向だったが、一転して3月10日に営業を一時停止すると発表した。ロシア国内の店舗数は48店舗で、ロシア国内単独の売上は開示されていないが、営業停止の影響は大きくないと思われる。
他の事業については情報がないために判断しかねるが、おそらく事業活動は継続するがルーブル安に加えて日本へ送金するのが難しく、収益として本社の決算に計上されるのか、また資金繰りとして還元できるのか等不透明である。
三菱商事の株価を見ると、ロシアのウクライナ侵攻が始まった2月24日に株価は4%近く下落したが、その後は売り買い拮抗し、3月8日は日経平均株価が24,000円台まで下落したなかで年初来高値を更新した。
戦争が始まってからエネルギー価格、貴金属価格、非鉄金属価格等が高騰しており、三菱商事の事業ポートフォリオ別の当期利益は天然ガス、石油化学、金属資源を合わせて連結純利益の56%と高く、ロシア関連の損失額2,495億円を補ってあまりあるほど資源価格等の高騰による増益幅が大きいと見られているのではと推測する。
しかし、戦争が長期化し、今は継続しているロシアでの事業を停止しなければいけない可能性もあり慎重になった方が良いだろう。
投資アイデア
他の投資家が何に注目しているか、アイデアブックでご確認いただけます。
プロフィール
新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。
当社は、本記事の内容につき、その正確性や完全性について意見を表明し、また保証するものではございません。記載した情報、予想および判断は有価証券の購入、売却、デリバティブ取引、その他の取引を推奨し、勧誘するものではございません。過去の実績や予想・意見は、将来の結果を保証するものではございません。
提供する情報等は作成時現在のものであり、今後予告なしに変更または削除されることがございます。当社は本記事の内容に依拠してお客様が取った行動の結果に対し責任を負うものではございません。投資にかかる最終決定は、お客様ご自身の判断と責任でなさるようお願いいたします。
本記事の内容に関する一切の権利は当社に帰属し、当社の事前の書面による了承なしに転用・複製・配布することはできません。