富士通キメラ総研によると日本のSaaS(software as a service)市場は2023年に1.4兆円になった見込みである。2027年には2兆円を超えると予想されており、2023年からのCAGRは11%と見込まれている。このレポートではAIを活用している高成長のSaaSのグロース銘柄を5銘柄紹介する。

目次

  1. SaaS市場の高成長の要因
  2. SaaSのセグメント
  3. AIの普及がもたらすSaaS市場の変化
  4. グロース市場上場のSaaS銘柄

SaaS市場の高成長の要因

SaaSとはインターネット経由で利用できるクラウド上のソフトウェアやサービス形態を指す。SaaSはクラウドサービスの一形態だが、クラウドとは異なり、SaaSはエンドユーザーが利用するアプリケーションまで運用管理を行う。SaaSのメリットとして、導入が手軽でコストが安価な点と、保守運用の手間が少ない点が挙げられる。

日本のSaaS市場は企業のITインフラがオンプレミス(自社設置型)からクラウド型へ移行する動きが加速しており、これがSaaSの導入を促進している。更に、コロナ禍にリモートワークが定着し、コミュニケーションツールやバックオフィス業務のクラウド化が進んだ。大企業に後れを取っていた中小企業のデジタル化が進んでおり、特に会計や経費精算、顧客管理(CRM)等の業務効率化ツールがSaaSを通じて導入されている。

SaaSのセグメント

現在の日本のSaaS市場は、以下のような複数のセグメントに分かれている。

ERP(Enterprise Resource Planning):企業業務全般を統合管理するシステム。特に会計や人事労務管理の分野での需要が増加している。

CRM(Customer Relationship Management):顧客関係管理システムで、営業支援やマーケティングの効率化を目的としている。SalesforceやSansanのような企業がこの分野で成長している。

コラボレーションツール:リモートワーク普及に伴い、ビジネスチャットやオンライン会議システムの需要が急増した。Slack、ChatworkやZoomなどが代表的である。

セキュリティ:クラウドサービスの利用増加に伴い、セキュリティ対策としてのSaaSの需要も高まっている。HENNGEやサイボウズなどがこの分野で展開している。

AIの普及がもたらすSaaS市場の変化

AIの普及によりSaaS市場は更に成長し、既存の業務を効率化・最適化する新しい機能が加わる事が期待される。

高度な自動化:AIは業務プロセスの自動化をさらに推し進めます。例えば、チャットボットやカスタマーサポートの自動応答、営業プロセスの自動化などが進化し、従来人間が行っていた業務がAIに代わる部分が増加すると予想される。                              


データ分析の強化: AIを活用したビッグデータ解析や予測分析がSaaSに組み込まれ、企業は膨大なデータから有益なインサイトを瞬時に得られるようになる。これにより、マーケティングや営業の戦略立案がより精緻に行えるようになる。


パーソナライズの向上:AIはユーザーの行動データをもとに、個別に最適化された体験を提供する能力を持っている。例えば、CRMシステムや顧客サポートツールにAIを統合することで、ユーザーごとにカスタマイズされた対応が自動的に行われるようになる。  

グロース市場上場のSaaS銘柄

ここからは高成長が期待されるグロース市場上場のAIを活用しているSaaS銘柄5選の解説をする。全銘柄の株価、バリュエーションは2024/10/1の終値をベースにしている。

 

①エコナビスタ(5585)

企業概要:睡眠解析技術を用いた健康状態推移予測AIを開発。それに基づく介護職員向けの高齢者見守りシステムである「ライフリズムナビ+Dr.」をSaaSで提供している。介護人材の不足という課題を抱える高齢者施設向けのD/X支援を行うものでエコナビスタの主力サービスとなっている。睡眠センサーや各種計測機器が睡眠データ、バイタルデータ、環境データ等のビッグデータを収集し、クラウド上に蓄積され、AIで即時に解析処理され、その結果はリアルタイムで施設職員の持つ端末に表示される。このシステムにより施設職員は状態確認業務を減らす事ができ、また他社が提供する介護記録システムとAPI連携する事で入力作業も減らし、業務の効率化を可能にしている。また、蓄積データを基に「認知症予測AI」、「予後/余命予測AI」等で高齢者ケアの精度を上げる事を可能にしている。

業績推移:2023年7月東証グロース市場上場。2016年に「ライフリズムナビ+Dr.」をローンチして以降2018年10月期通期に黒字化し、以降黒字を維持している。2023年10月期通期決算は売上高が前期比21.5%増の10億8,600万円、営業利益は同27.1%増の3億8,500万円、当期純利益は同38%増の2億7,300万円であった。主要KPIは累計導入床数は101.2%、解約率は0.02%と低水準であった。2024年10月期3Q決算(累計)は売上高が前年同期比11.4%増の11億円、営業利益は同1.5%増の4億2,900万円、四半期純利益は同3.1%増の2億9,500万円であった。

エコナビスタは直販と代理店販売をとっている。代理店は大塚商会、キャノンシステムアンドサポート、内田洋行等である。2024年8月にソニー・ライフケアと事業提携を発表した。

株価時価総額自己資本比率ROEROIC
1,822円120億円94.4%8.5%8.9%
予想PERPBREV/EBITDAPEGレシオ配当利回り
39.6倍3.87倍19.8倍9.2倍0.0%

 

②HENNGE(4475)

企業概要:HENNGE の主力サービスの「HENNGE One」は、企業のクラウドサービスへのアクセス管理やセキュリティを提供するSaaSプラットフォームで、AIを活用して不正アクセスや異常な動きをリアルタイムで検知し、セキュリティの脅威を未然に防いでいる。国内シェアNo.1のクラウドセキュリティで約2,800社に導入されている。「HENNGE One」はAIによる自動分析で、ユーザーのログインパターンやアクセス履歴を監視し、不正なログインの兆候を早期に発見する。また、AIが通常とは異なる挙動を検知した場合にアラートを出すことで、迅速な対応が可能になる。AIによる自動化で、クラウドサービスの設定や管理の手間を削減し、効率的な運用を実現している。HENNGEは、SaaSビジネスモデルを基盤とし、クラウド上でのサービスを月額課金や年額課金で提供しており、企業は柔軟にセキュリティやアクセス管理を行えるだけでなく、コスト面でも効率的な運用を可能にしている。

業績推移:2019年10月に東証マザーズ(現東証グロース)上場。2023年9月期通期決算は売上高が前期比20%増の67億7,600万円、営業利益は同53.1%増の7億800万円、当期純利益は同58.4%増の5億900万円であった。2024年9月期3Q決算(累計)は売上高が前年同期比22.8%増の60億6,100万円、営業利益は同64.3%増の9億1,700万円、四半期純利益は同103.4%増の7億2,400万円であった。

株価時価総額自己資本比率ROEROIC
1,142円367億円36%18%17.8%
予想PERPBREV/EBITDAPEGレシオ配当利回り
46.9倍13倍25.5倍1.4倍0.0%

 

③カウリス(153A)

企業概要:銀行や証券会社向けにクラウド型不正アクセス検知サービス「Fraud Alert」を提供している。主力製品「Fraud Alert」は、AIを活用して250以上のパラメータをリアルタイムで分析し、不正なアクセスや不審な活動を検知し、口座開設やログイン、入出金時の不正利用を事前に防ぐことができる。AIや機械学習アルゴリズムを活用し、金融機関間で不正利用者のデータを共有することで、検知精度を継続的に向上させている。これらのサービスをSaaSモデルで提供されており、金融機関の顧客はクラウドベースでこれらのセキュリティソリューションを利用できる。サブスクリプション形式で定期的にサービスが提供されるため、柔軟な運用が可能である。カウリスの主力製品は競合の製品と違い不正利用者情報を共有するプラットフォームを提供しており、顧客の間でシェアできる仕組みがある。

業績推移:2024年3月東証グロース上場。2024年12月期2Qの業績(累計)は売上高が5.8億円、ARR(Annual Recurring Revenue)が11.9億円、ARR成長率(CAGR 21/12期2Q~24/12期2Q )39.5%、営業利益1.9億円、ストック型収益の割合95.4%、契約企業数43社、ARPU231万円/月、営業利益率33.6%であった。解約率は0.8%であった。2023年12月期4Qの解約率は2.0%であったが、カスタマーサクセスによる運用サポートと不正利用者情報のデータベースとしての価値で解約率は低位に抑えられた。

株価時価総額自己資本比率ROEROIC
1,759円111億円63.5%23%19%
予想PERPBREV/EBITDAPEGレシオ配当利回り
35.9倍9.8倍19.9倍▲9.4倍0.0%

 

④弁護士ドットコム(6027)

企業概要:弁護士ドットコムは、法務や税務に関するクラウド型ソリューションを提供することにより、SaaSビジネスを展開している。弁護士ドットコムのサービスは国内の弁護士の四割が利用している。電子契約サービス「クラウドサイン」を提供しており、利益のドライバーである。紙の契約書を電子契約に置き換えることで、契約締結をデジタル化・効率化するサービスであり、企業はサブスクリプションモデルで契約を締結し、クラウド上で契約を管理する。「クラウドサイン」では、AIを使った契約書の自動解析機能を導入している。契約書の内容を自動で解析し、リスクの特定や重要な条項の抽出をサポートしている。契約書内のリスク要因や法的に重要なポイントをAIが自動的にピックアップし、契約締結の迅速化と精度向上を図っている。法律相談サービスでは、ユーザーからの相談内容をAIで解析し、最適な弁護士や関連する過去の事例を提示する機能がある。ユーザーは迅速に自分の問題に対応する弁護士や参考情報にアクセスできるようになっている。

業績推移:2014年12月東証マザーズ(現東証グロース)上場。2024年3月期通期より連結決算を開始した。売上高は前期比30%増の113億円、営業利益は同13.4%増の12億円、当期純利益は同16.8%増の8億3,700万円であった。2025年3月期1Q決算は売上が前年同期比37.9%増の33億円、営業利益は同14.6%増の2億8,200万円、四半期純利益は同21.3%増の1億8,300万円であった。連結のARRは107.6億円、前年同期比40.1%増であった。内訳は弁護士ドットコム等が+60.0%増、クラウドサイン+28.6%増であった。

株価時価総額自己資本比率ROEROIC
3,065円686億円42.6%19.2%10.9%
予想PERPBREV/EBITDAPEGレシオ配当利回り
68.1倍15.7倍32.3倍3.9倍0.0%

 

⑤tripla(5136)

企業概要:宿泊施設向けのクラウドソリューションをSaaSベースで提供している。tripla ChatbotはAIを活用したチャットボットで、宿泊施設のウェブサイトやSNS経由で顧客からの問い合わせに自動応答する機能を持ち、複数言語に対応しており、24時間自動対応が可能である。AIを活用して、顧客の質問に対して精度の高い回答を提供し、予約手続きや問い合わせ対応を効率化している。tripla Book(宿泊予約エンジン)は宿泊施設向けの次世代型の予約システムで、公式サイトからの予約を促進するためのツールである。これにより、OTA(オンライン旅行代理店)に頼らず、直接予約を増やすことが可能になる。カスタマイズが可能で、施設ごとのニーズに合わせた予約ページを作成できる。tripla Connect(CRM/MAシステム)は、宿泊施設向けに顧客管理(CRM)やマーケティング自動化(MA)を行うシステムを提供。顧客の行動データを活用し、ターゲティングされたキャンペーンやプロモーションを自動で実施する。会員ランクに基づいた特典やポイント付与などの機能もあり、施設のリピーター獲得に役立っている。tripla PayはQRコード決済サービスで、宿泊予約やサービス利用時の支払いを簡単に行える機能である。オンライン決済を簡便に提供し、施設の業務効率化をサポートしている。台湾等アジア圏でも事業展開をしている。

業績推移:2022年11月東証グロース上場。2023年10月期決算の売上高は前期比43.8%増の11億7,600万円、営業利益は同111.7%増の1億7,700万円、当期純利益は同121.6%増の1億6,500万円であった。tripla Bookの施設数は前期比861施設増の2,485施設となった。tripla Botの施設数は前期比558施設増の1,666施設となった。GMV(取扱高)は前期比95.5%増の644億円であった。2024年10月期1Q決算より連結決算を開始した。2024年10月期3Q決算(累計)は売上高が12.9億円、営業利益が1.2億円、四半期純利益が6,100万円であった。前年同期は単体決算であったために前年同期比は公表していない。tripla Bookの施設数は前年同期比178施設増の2,836施設、tripla Botの施設数は前年同期比4施設増の1,714施設であった。GMVは前年同期比105.5%増の868億円であった。

 

株価時価総額自己資本比率ROEROIC
1,271円74億円15%11.7%8.1%
予想PERPBREV/EBITDAPEGレシオ配当利回り
41.7倍5.2倍N/A1.4倍0.0%