1月下旬に埼玉県八潮市で起きた道路陥没事故で老朽化インフラの深刻な実態が明らかになった。事故の原因として指摘されたのが、水道管の老朽化である。6月に策定される国土強靭化計画に「下水道の老朽化対策」が盛り込まれると報じられており、水道関連株が注目されている。このレポートでは下水道の老朽化更新需要から恩恵を受けると思われる銘柄について解説している。

目次

  1. 国内の水道管・下水道管の老朽化状況
  2. 国交省の緊急点検の結果
  3. 上下水道関係の予算
  4. 水道更新需要関連銘柄5選

国内の水道管・下水道管の老朽化状況

一般的に、水道管(上水道・下水道)の耐用年数は40〜50年とされている。ただし、材質や設置環境によって異なり、以下のような基準がある。

鋳鉄管(ダクタイル鋳鉄管):40〜50年

塩ビ管(ポリ塩化ビニル管):50年以上

コンクリート管(下水道用):50年以上

老朽化が進むと、水漏れ・破損・道路陥没などのリスクが高まり、自治体ごとに計画的な更新が求められている。国土交通省や総務省の報告によると、全国の水道管の約16%が耐用年数(40年)を超えている。特に都市部では、1970〜80年代に敷設された管が多く、50年以上経過しているケースも増えている。

下水道管についても状況は深刻で、日本全体の約22%(約10万km)が法定耐用年数の50年を超えている。特に高度経済成長期に整備された都市部では、老朽化が進み、地震や大雨などの災害時に破損・陥没のリスクが高まっている。

国交省の緊急点検の結果

日刊建設工業新聞、2025年2月17日の記事より引用

国土交通省は八潮市の道路陥没事故を受けて全国で処理水量日量30万立方メートル以上の下水処理場に接続する口径2メートル以上の管路を対象に緊急点検を要請した。
対象は管路約420キロとマンホール約1700カ所に上った。点検の結果、埼玉県内の新河岸川水循環センター(和光市)に接続する下水道管路3カ所で異常が見つかった。マンホールと管路部分の段差が1カ所、マンホール内壁の腐食で鉄筋が露出している部分が2カ所あったという。国は県に対し速やかに対策工事を実施するよう要請した。県は段差部分の修繕工事に着手。マンホール内壁腐食の箇所でも応急措置を準備している。
路面下空洞調査はこれまでに全体約390キロのうち約320キロが完了。下水道が原因と思われる空洞はなかったものの、その他の原因による緊急度の高い空洞が6カ所見つかった。
内訳は埼玉県2カ所、東京都1カ所、神奈川県1カ所、奈良県2カ所で、いずれも緊急補修工事を進める。点検が完了していない埼玉、千葉の両県でも調査を急ぐ。

上下水道関係の予算

国土交通省の上下水道審議官グループが2025年1月に作成した「令和7年度 上下水道関係予算の概要」によると令和6年度の上下水道関係の補正予算の金額は1,115億円、令和7年度の上下水道関係の予算額は1,384億円である。しかし、令和7年度の予算額が策定されたのは埼玉県八潮市の道路陥没事故が起きる前であるので、6月をめどに策定される国土強靭化計画に上下水道の更新計画が盛り込まれて、その内容を基に第一次補正予算が組まれるので水道更新関連の予算額は増額されるのが予想される。

水道更新需要関連銘柄5選

ここからは水道管老朽化の更新需要から恩恵を受ける銘柄5選を紹介する。既に一部の銘柄は急騰しているが、まだ出遅れており、上値余地がありそうな銘柄を中心に選んだ。全銘柄とも株価、バリュエーションは2025/2/21の終値ベースで算出している。

 

①前澤工業(6489)

企業概要:前澤工業は国および地方公共団体の上・下水道用機械設備の設計・製作・据付を一貫して行っている上下水道用機器・水処理装置専業メーカー。販売活動は全国の諸官公庁を対象として行っている。メンテナンス事業も行っている。1987年創業。

株価時価総額自己資本比率ROEROIC
1,320円232億円70.1%12.9%11.7%
予想PERPBREV/EBITDA配当利回りPEGレシオ
8.0倍0.8倍3.6倍2.7%1.2倍

業績推移:業績は景気のサイクルに左右されず着実に成長してきた。2024年5月期はエネルギー価格、原材料価格高騰の中原価低減により最高益を達成した。2024年5月期通期は売上高が前期比12.8%増の365億円、営業利益が同51.1%増の49億円、営業利益率は同3.4pt上昇の13.4%、当期純利益は同34.3%増の35億円であった。今期2025年5月期については前期好調の反動減で受注が若干弱い。中間決算では売上高が前年同期比12.3%増の139億円、営業利益が同27.8%増の4億9,900万円、営業利益率が同0.5pt上昇の3.6%、中間純利益が同18.2%増の3億3,400万円だった。前澤工業は本社が埼玉県川口市であり、官公庁を対象として営業活動をしているので八潮市の陥没事故より受注を確保する可能性が高いのではないかと思われる。

 

②日本鋳鉄管(5612)

企業概要:鋳鉄管業界3位。関東地盤で上下水道向けダクタイル鋳鉄管が主力製品。耐震管に現在は注力している。AIを活用した水道管劣化診断サービスを拡販している。

株価時価総額自己資本比率ROEROIC
1,722円55億円43.9%5.2%4.1%
予想PERPBREV/EBITDA配当利回りPEGレシオ
N/A0.6倍9.2倍1.5%N/A

業績業績推移:2021年3月期に当期純利益6億6,100万円の最高益を達成して以降は原材料価格上昇を価格に転嫁等の努力をしてきたが、最高益更新には至っていない。2024年3月期に関しては経常利益は2021年3月期を超えたが、固定資産除却損を計上した為に当期純利益は2021年3月期を超える事が出来なかった。今期に関してはガス関連向け鋳鉄管は堅調に推移したが、主力の水道管路は更新需要が低調で3Q決算時に業績の下方修正を行い、通期損益を0円とした。下方修正の理由は土地売却損と繰延税金資産を9,800万円取り崩し法人税等調整額として計上した事による。

 

③応用地質(9755)

企業概要:地質調査会社の最大手。建設コンサルタント会社としても売上は上位。路面下空洞探査サービス等自治体での道路の維持管理・補修業務の生産性を高めるサービスを提供している。国内外で計測機器を展開している。洋上風力発電の拡大をにらみ海底探査を強化している。

株価時価総額自己資本比率ROEROIC
2,920円681億円72.8%5.2%3.4%
予想PERPBREV/EBITDA配当利回りPEGレシオ
19.2倍0.9倍8.9倍2.9%▲2.6倍

業績推移:2024年12月期通期は能登半島関連の特需もあり最高益を達成した。売上高は前期比12.9%増の741億円、営業利益は同54.1%増の44億円、営業利益率は同1.6pt上昇の5.9%、当期純利益は0.1%増の40億円であった。水道管の更新需要の他に道路の空洞の調査需要は全国であり、これからも増益が期待できる。

 

④日水コン(261A)

企業概要:上下水道中心の建設コンサルティング企業。下水道コンサルティングの割合が売上の52.3%と比率が高い。1959年創業、2024年10月東証スタンダード上場。

株価時価総額自己資本比率ROEROIC
2,200円261億円62.0%10.5%10.7%
予想PERPBREV/EBITDA配当利回りPEGレシオ
17.3倍1.8倍6.5倍2.9%1.0倍

業績推移:2024年10月に上場したので2024年12月決算が初めての決算であったが、売上高は前期比7.5%増の235億円、営業利益は同16.5%増の21億7,600万円、営業利益率は同0.7pt増の9.2%、当期純利益は同35.2%増の14億9,100万円であった。上水道・下水道は国土強靭化計画関連の調査・設計が堅調であるが、これからも需要は増加するものと思われる。

 

⑤栗本鐵工所(5602)

企業概要:鋳鉄管2位。上下水道等の公共工事比率が高い。鋳鉄管が主力製品ではあるが、繊維強化プラスチック製の配管も販売している。また、建材事業部で国内トップクラスの空調・設備資材の製造販売を行っている。

株価時価総額自己資本比率ROEROIC
4,820円585億円53.6%6.5%4.8%
予想PERPBREV/EBITDA配当利回りPEGレシオ
10.6倍0.7倍5.8倍4.8%1.3倍

業績推移:2024年3月期に最高益を達成した。産業設備(民需)は売上が前期に集中した反動で減少となったが、インフラ(官需)価格改定の貢献もあり増収となった。売上高は前期比0.9%増の1,259億円、営業利益が同9.1%増の75億円、営業利益率が同0.4pt増の5.9%、当期純利益が同15.7%増の54億7,000万円であった。今期は前期の反動で微減収微増益で3Qまで推移しており、通期計画は売上高が前期比▲1.5%の1,240億円、営業利益は同▲6.2%の70億円、当期純利益は同3.5%増の51億6,200万円の予定である。