全世界的に生成AIの普及率が高まっているが、最大の問題が莫大な電力消費である。AIデータセンターではサーバーを冷やすための冷却技術、特に液体冷却の需要が今後も高まり続けることが予想される。そんな中、NTTの次世代情報基盤「IOWN」(Innovative Optical and Wireless Network)は、この問題を解決する可能性を持つ革新的な技術として期待されている。

 

その「IOWN」が2024年6月25日のCNBC.comで紹介された。記事のタイトルは「Tech giants bet next-generation optical networks will reduce AI’s climate impact, aid 6G transition(巨大テック企業がベットする次世代の光ネットワークはAIの環境への影響を減らし、6Gへの移行を助ける)」元記事はこちら

 

内容の要約は「マイクロソフト、グーグル、インテル、エリクソン、ノキア、SKハイニックス、ソニー等がNTTのIOWN Global Forumに参加している。IOWNは電気信号ではなく光技術を使う事でエネルギー効率と大容量化をインターネット通信と比較して100倍以上改善し、高速で低遅延の通信ネットワークである。次世代の通信ネットワークの標準化を目指しており、2030年までにグローバルにサービス・ローンチを目指している。IOWNは消費電力とデータ通信量の多いAIのエネルギー効率の改善と大容量化、また6Gへの移行の大きな助けになると期待されている。」

 

この記事では紹介されていないが、2024年2月にエヌビディアもIOWNを郊外型データセンターを活用した省電力リアルタイムAI分析の実証実験に富士通、Red Hatと共に参加した。実証実験ではNvidiaのA100 Tensor Core GPUやConnectX-6 NICがAI推論のために使用された。IOWN技術の活用によりリモート拠点上のAI分析で従来の方式に比べて遅延時間を最大60%削減、郊外型データセンターの消費電力を最大40%削減する事に成功した。(出所:NTT プレスリリース 2024年2月20日)同様の実証実験をイギリス、アメリカ各国で行い1ミリ秒以下の低遅延通信の実現と分散型リアルタイムAI分析等への適用可能性を確認した。(出所:NTTデータ プレスリリース 2024年4月12日

 

IOWNの技術を使った「APN IOWN 1.0」は、2023年3月に日本国内で最初に商用サービスとしてリリースされ、NTT東日本、NTT西日本を通じて提供されている。また、秘密計算技術の標準規格「ISO/IEC 4922-1:2023」が国際標準化機構 (ISO) から発行された。

 

IOWNはもともと2019年にNTT、インテル、ソニーの3社による次世代情報ネットワーク構想として始まった。今は名だたるハイパースケーラー、半導体企業も参加しており、既に国内でサービスのローンチがされている事を考えるとグローバルでの標準化は現実的であると考えている。NTTの競合のクアルコム、AT&T、Verizonはそれぞれ次世代ネットワークの開発に取り組んでいるが、IOWNほど省電力、大容量通信、高速、低遅延のものではないと思われる。そうなると現時点でNTTのIOWNが国際的に標準化される可能性はかなり高いと考えてよいだろう。

 

NTTの株価へのインパクトであるが、次世代情報ネットワークの国際標準になれば、中長期的に大幅に上昇すると考えている。過去の例では1990年代にクアルコムの携帯電話通信のCDMA技術が国際標準として採用された例を取り上げる。1990年代初頭から半ばにかけてクアルコムはCDMA技術の商業化と普及に取り組んだ。この間のクアルコムの株価は10ドル以下だった。CDMA技術が1995年に国際標準として認められ、商用サービスが展開されると、株価は急激に上昇し、1999年には、同社の株価は700ドルを超える水準に達した。2000年代初頭のITバブルの影響で一時的に株価が下落したが、その後もCDMA技術の拡大と3Gの普及により、株価は再び上昇した。クアルコムは5G技術のリーダーとしても知られており、6月28日日中取引の終値は199.18ドル、時価総額は2,228億ドルであった。

 

NTTの株価は2024年6月28日の終値が151.8円、時価総額が12.72兆円、予想PERは11.6倍、PBRは1.3倍、EV/EBITDAは3.7倍である。NTTの株価は今年の1月下旬以降下げ基調であったが、5月の決算発表以降下落幅は加速し、年初来騰落率は▲11.9%である。下げの理由は今期の業績予想が減益である事と外国人投資家の売り、また今年3月に閣議決定されたNTT法改正案で政府の保有分のNTT株の売却が可能になった事で大規模な売り出しが可能になり、実際に売り出しがあるとすれば需給の悪化が見込まれる事等が要因であると推測している。しかし、IOWNが次世代の情報ネットワークの国際標準になれば中長期的な収益の大幅な増加が見込まれる。短期的なキャピタルゲインは望みづらいが、中長期的には株価の軟調局面は絶好の買い場になると考えている。