今週の注目投資トピックは「自動車関税、最大200% 「金利下げる」―トランプ氏」を取り上げてみたい。元記事はこちら。暗殺未遂事件、またバイデン現大統領の大統領選挙からの撤退でトランプ氏のホワイトハウス返り咲きの確率が上がっており、トランプ氏のこの演説内容は日本車メーカーまた為替市場にも大きな影響を与えると思われる。

 

7月20日の時事ドットコムニュースによると

【ミルウォーキー時事】トランプ前米大統領は指名受諾演説で、米国外で生産された自動車に最大200%の関税をかける方針を打ち出した。減税に取り組む一方、「インフレ危機」を終わらせ、金利を低下させる意向も表明した。これら政策には矛盾する要素もあり、大統領選後の経済政策を巡る不透明感を強めそうだ。

高関税の「脅し」には、自動車生産の国内回帰を推し進め、雇用を創出する狙いがある。トランプ氏は、メキシコや中国など国外に建設された大規模工場を「取り戻す」と強調。「同意しなければ100~200%の関税を課し、米国で自動車を売れないようにする」と主張した。

 トランプ氏は飲食店店員へのチップの非課税化など「労働者への大幅な減税」にも意欲を示した。ただ、やみくもな減税は需要をさらに押し上げ、インフレ圧力を高める恐れがある。税収減により財政が一段と悪化すれば、中長期的な金利上昇を招く公算が大きい。

 こうした中、金利を下げるため、大統領在任時のように連邦準備制度理事会(FRB)への露骨な利下げ要求を繰り返せば、物価安定の要である金融政策の信任をかえって損なう恐れがある。

 バイデン政権から大きな転換を目指しているのが気候変動対策だ。トランプ氏はこれら対策を「緑の新たな詐欺」と非難。電気自動車(EV)の推進は、充電網の整備などに多額のコストがかかるとし、「就任初日に終わらせる」と明言した。

 さらに、石油など化石燃料の生産促進によりエネルギー価格安を促し、物価抑制を図る姿勢を明示した。政策の急激な変更は、企業の投資方針に大きく影響する。トランプ氏の言動を、関係者は今後も固唾をのんで見守ることになりそうだ。

このトランプ氏の演説でのポイントは3つ。

①輸入自動車に最大200%の関税

②インフレ危機を終わらせ、金利を低下させる

③EV推進の終了

 

①米国以外で生産された自動車に最大200%の関税をかけるとのトランプ発言で日本の自動車メーカーへの影響が危惧されるが、以下に日本の各自動車メーカーの2023年の米国での販売台数と日本から米国への輸出台数をあげる。

 

会社名米国販売台数米国への輸出台数輸出比率*
トヨタ(7203)2,816,000598,97021.3%
日産(7201)915,712221,67224.2%
ホンダ(7267)1,358,0004,0000.3%
マツダ(7261)514,000249,64848.6%
SUBARU(7270)632,086254,60040.3%
三菱自動車(7211)99,000114,401115.6%

                 *ここでの輸出比率の定義は米国販売台数における輸出の割合。

三菱自動車の輸出比率は高いが米国での販売台数が他社に比べて極端に低く業績への影響はさほど大きくない。マツダ、SUBARUの輸出比率が高く、輸出関税が極端に高くなると業績への影響が多いと判断される。両社のアメリカ国内での製造拠点はマツダがトヨタとの合弁工場をアラバマ州に所有、SUBARUがインディアナ州に製造工場を保有している。マツダに関しては自社のみの製造工場ではないために、トヨタの製造状況も考慮しなければいけなく、輸出分をアメリカ国内の生産にシフトするとしても完全にまかないきれるか不透明であり影響が一番大きいと思われる。

 

②実際にトランプ氏の暗殺未遂事件が7月13日に起こって以降週明けのドル/円相場(東京市場)は7月15日に1USD=157.85円から本日(7月29日)に1USD=153.51円と円高方向にずっと進んでいる。明日30日、31日と日銀の金融政策決定会合があるが、追加利上げをする可能性はブルームバーグの調査では29%であった。今回の金融政策決定会合で追加利上げをしなくともトランプ氏が当選する可能性が高い以上、1USD=160円台の極端な円安に戻る確率は低くなっていると考えている。

 

③EV推進の終了に関してであるが、トランプ氏は民主党下でのEV推進政策、補助金、インフラ設備が莫大なコストがかかる事から反対をしていた。EV販売自体が伸びていて市場に支持をされているのであればトランプ氏も考えを修正する可能性もあると思うが、実際アメリカのみならず全世界でEV販売の成長率が鈍化しており、アメリカ国内ではハイブリッド車の方が売れているという状況を考えるとアメリカ国内でのEV販売の補助金が打ち切られる可能性はあると思われる。

ここで日本の自動車メーカーへのインパクトであるが、トヨタは「マルチパスウェイ」戦略で有名であり、EVに必要以上にコミットしていない事は知られているが、他の自動車メーカーはどうであろうか?ホンダと日産が以下のように熱心にEV政策を進めている。

ホンダ
EVシフト計画: ホンダは、2040年までに全ての新車販売をEVおよび燃料電池車(FCV)にする計画を発表している。ホンダは「Honda e」というEVプラットフォームを開発し、2025年からこのプラットフォームを基にしたモデルを展開予定である。

設備投資
製造施設への投資: ホンダは、北米でのEV生産拠点を強化するため、オハイオ州メアリーズビル工場に約7億ドルを投資した。また、バッテリー生産のための設備投資も進めている。

研究開発費用: ホンダは、EVおよびFCVの研究開発に年間約5,000億円(約45億ドル)を投じている。これは、全体の研究開発予算の約5割に相当する。

日産 
EV政策
Nissan Ambition 2030: 日産は2030年までに全世界で販売する新車の50%をEVとする目標を掲げている。また、2030年までに15車種の新しいEVを投入する計画である。

AriyaとLeaf: 日産は、電動化のリーダーとしての地位を維持するため、AriyaとLeafの販売に注力している。特に、Ariyaは日産の新しいEVプラットフォーム「CMF-EV」を使用しており、高い評価を得ている。

設備投資
バッテリー製造への投資: 日産は、2028年までに全固体電池の生産を開始する計画を立てており、バッテリー技術の開発に巨額の投資を行っている。日産は、全固体電池を使ったEVを市場に投入することを目指している。

グローバルなEV生産拠点: 日産は、イギリスのサンダーランド工場に約10億ポンドを投資し、EVとバッテリーの生産拠点を拡大している。この投資には、バッテリー工場の建設も含まれており、EVの生産能力を大幅に向上させる予定である。

ホンダと日産では日産の方がEVでのプレゼンスが高く、ホンダは後発として挽回すべく2040年までに全ての新車をEVかFCVにする計画と研究開発費用の約半分の5,000億円をEVおよびFCVの研究に投じているとの事でEVシフトが極端な印象がある。トランプが再選すればEV政策に変化がある可能性は高くホンダは極端なEV政策の修正を迫られる可能性があると考えている。