今週の注目投資トピックは「セブン&アイ、伊藤忠離脱でMBO頓挫、続く正念場 カナダ企業による買収の可能性は高まったか」元記事はこちら。
以下、2月28日の東洋経済オンラインの記事より引用。
セブン&アイ・ホールディングス買収をめぐる問題で、伊藤順朗副社長らセブン&アイ創業家はMBO(経営陣による買収)を断念した。
セブン&アイに対しては昨年、カナダのコンビニ大手、アリマンタシォン・クシュタールが7兆円規模の買収提案を行った。これに対抗し、伊藤副社長ら創業家陣営は総額9兆円規模の買収を提案していた。
だが、セブン&アイは2月27日、創業家陣営から「買収に関する正式提案に必要となる資金調達の目途が立たなくなったとの連絡を受領した」と発表し、計画は白紙となった。
巨額資金の金策は当初からの課題であり、一時は金融関係者から「壊れたディール」とも評されるほどだった。
中でも難航したのはエクイティ(自己資本)の調達だ。伊藤忠商事のほか、三井物産やNTT、鉄道会社など国内の大手企業、タイでセブン‐イレブンをライセンス展開する財閥のCPグループなどにも水面下で出資を要請していた。
年明けには米アポロ・グローバル・マネジメントなど、プライベートエクイティ(未公開株)ファンドが優先株で資金拠出する方向で調整していることが明らかになるなど、前進したと見る向きもあったが、結局まとめ上げることはできなかった。
MBOが頓挫した直接的な引き金は伊藤忠が断念したことだ。同社は1兆円を超える最大の自己資本提供者となるはずだった。伊藤忠による出資については、商社周辺や市場関係者から「株主にどう説明をつけるのか」、「傘下の伊藤忠食品との取引拡大だけで出せるような金額ではない」といった疑問の声が上がっていた。
実際、伊藤忠の関係者は「(MBO提案撤回の報道や発表の)数日前から、社内では『創業家との交渉がうまくいっていない』という話が広がっていた」と語る。
同社内ではセブン&アイとの協業に向け、プロジェクトチームが組織されていた。各カンパニーから数十人規模の人員が集められ、多角的に協業の検討が進められていた。
しかしその内容は「(伊藤忠傘下の)ファミリーマートとの共同購買などにすぎなかった」(別の関係者)ようで、市場を納得させるシナジーを創出することは難しいとの結論に至った。
破談が明らかになる直前の2月10日には、伊藤忠が鉢村剛副社長兼CFO名義で、セブン&アイ買収提案への参画は「具体的条件は未定で取締役会に付議する状態でもない」、「株主の理解と納得が大前提」とするコメントを発表していた。
議決権比率や取締役の構成をめぐり、両者間で隔たりがあったという見方もある。前出の伊藤忠関係者は「鉢村さんのコメントは交渉中だった創業家陣営への最後通牒だったのでは」と振り返る。
今後の焦点は、引き続き社外取締役からなるセブン&アイの特別委員会の判断だ。創業家の提案が白紙になった今、特別委員会はクシュタールの提案と単独路線のどちらが株主価値向上に資するかを検討することになる。「5月の株主総会までが1つのメド」(丸山好道CFO)だ。
セブン&アイ経営陣や特別委員会のメンバーは、アメリカでシェアトップのセブン‐イレブンと同2位のクシュタールの合併は、現地の独占禁止法上の懸念を払拭できないと強調しており、単独路線を志向しているようだ。
MBO断念が公表された2月27日、セブン&アイの株価は前日終値比で一時12%安の2094.5円まで下落したが、昨年にクシュタールの買収提案が明らかになる前の株価(1700円台)と比べると依然として高い。また、クシュタールの提案は為替変動の影響を受けるものの、1株2700円前後と足元の株価をなお大きく上回る。
提案をはねのければ株価の急落が予想され、既存株主の反発は避けられない。すでに投資ファンドなどのアクティビスト(物言う株主)がセブン&アイ役員陣に接触しているという情報もある。単独路線を選ぶのであれば、市場を納得させる成長戦略を示すことや、割安な株価を放置していた現体制の刷新が不可欠だ。
他方、年明け以降は別の動きもみられる。城内実経済安全保障大臣や武藤容治経済産業大臣など、要人から「社会インフラであるコンビニを外資企業が買収する影響を注視する」旨の発言が相次いでいるのだ。「セブン&アイ経営陣や、資金調達に窮した創業家が陳情へ動いたのではないか」。セブン&アイ内外の関係者からはそうした指摘も聞かれる。
産業界を騒がせてきた、セブン&アイ買収をめぐる問題。創業家の断念で争奪戦から新局面に移るが、先行きの不透明さは変わっていない。
セブン&アイ・ホールディングスの創業家による約9兆円規模のMBO(経営陣買収)提案は、主要出資者である伊藤忠商事の離脱により、資金調達が困難となり、成立が難しい状況になった。MBOが難しくなった状況で投資ファンドが買収提案を行う可能性が浮上した。先月22日にセブン&アイのスーパーマーケット事業(イトーヨーカ堂、ヨークベニマル)を束ねる中間持株会社のヨークホールディングスに対してベインキャピタルが7,000億円以上の買収提案をし、優先交渉権が付与されたと報じられた。ベインキャピタルがセブン&アイ全体の買収を行う可能性もあるし、KKRやアポロ・マネージメントも買収提案をする可能性がある。元々セブン&アイに買収提案をしたクシュタールとも交渉を開始していると報じられている。
MBO断念が公表された2月27日にセブン&アイの株価は一時12%下落した。しかし、伊藤忠にとっては既に傘下にファミリーマートを保有しており、セブン&アイのMBOに参画する事によるメリットがファミリーマートとの共同購買位しかなかったとの事で伊藤忠の株主が納得するシナジーがなかった事から考えると伊藤忠がMBO参画を断念した事はポジティブであった。
そんな中3月3日には井阪隆一社長が退任し、後任に、社外取締役を務めるスティーブン・ヘイズ・デイカス氏を起用する方向で調整に入ったと報じられている。デイカス氏は2011年から西友CEO兼ウォルマート・ジャパン・ホールディングスCEOを務め、厳しい経営環境が続く中、6期連続の増収増益を実現した経験があり、セブン&アイ・ホールディングスの取締役会の議長を2024年から務めてきたので、セブン&アイのトップには相応しい人事と言えると思う。
現実的にはアメリカのコンビニ業界でシェアトップの7-Elevenと二位のクシュタールが合併する事はアメリカの独占禁止法に抵触する可能性があり難しいと思われる。過去に7-Elevenが米国のSpeedwayを買収した際に米国のFTC(連邦取引委員会)から店舗売却を求められた経緯があった。クシュタールが買収すると、7-Elevenブランドと競合ブランドの統合が避けられず、市場寡占と見なされるリスクが高い。また、日本国内でもセブン&アイは重要な流通企業であるので、海外企業による買収が政治的な問題になる可能性がある。
以上を考えると投資ファンド連合等に買収される方がFTCの審査をクリアしやすく、日本国内の規制当局(公正取引委員会)も受け入れやすいと考えられる。