今週の注目投資トピックは「トランプ氏、電子機器への課税再表明-今後1週間に税率を発表と示唆」元記事はこちら。
以下、4月14日のブルームバーグの記事より引用。
トランプ米大統領は13日、スマートフォンやコンピューターといった電子機器に対して引き続き関税を課すと改めて表明した。前週末に発表した上乗せ関税の除外措置については、米国の貿易を再構築するという包括的な取り組みにおける手続き上のステップに過ぎないと強調した。
11日遅くに発表された今回の上乗せ関税の除外措置では、中国からの輸入品への125%の関税およびほぼ全ての国・地域に対する基本税率10%の関税の対象から一部の電子機器が外れた。
トランプ氏は13日夜(日本時間14日午前)、大統領専用機で記者団に対し、近いうちに決定を下す方針を示し、半導体への関税率の詳細を今後1週間に発表することを示唆した。他方で、半導体やアップル製スマートフォン「iPhone」など半導体を使用する製品の関税の範囲について、企業との協議にオープンな姿勢を表明し、「一定の柔軟を示さなければならない」とも語った。
ゴルフを終えたトランプ氏はこれに先立ち、不公正な貿易を巡り「誰一人として責任を免れることはない」と、自身のソーシャルメディア・プラットフォーム「トゥルース・ソーシャル」に投稿。除外された製品は「単に別の関税カテゴリーに移行するだけだ」とし、これから行われる国家安全保障に関する調査で、「半導体や電子機器のサプライチェーン全体を精査する」と説明した。
これよりも早い段階でラトニック米商務長官は、トランプ政権が上乗せ関税の対象から除外したスマートフォンやコンピューター、その他電子機器について、今後予定している半導体に関する関税の対象になるとの認識を示していた。
ラトニック長官は13日、米ABCの番組で「これらの製品全ては半導体として分類され、生産を確実に米国内へと戻すために特別な関税をかけることになる」と説明。トランプ氏がかねて主張しているセクター別の関税の対象になるとの認識を示した。その上で「必要とする基本的な物品を中国に依存したままではいられない」と述べた。
トランプ氏は既にこれまで、鉄鋼・アルミニウムと自動車について、セクター別の関税措置を発動。今後、自動車部品や銅、半導体、医薬品、木材などにも課税を賦課する方針を示している。
ラトニック長官は半導体関税について「恐らく1、2カ月後に発動される」と発言。半導体に関する通知は、週内に連邦官報に掲載されると述べたが、詳細は明らかにしなかった。
次の措置として、米政権は通商拡大法232条に基づく調査を開始する可能性がある。この調査では270日以内に報告書を提出することが義務付けられており、その後に関税の導入が可能となる。
米政権が半導体やその対象製品にどのような関税率を適用するかは不明だが、他の産業に対してはこれまで25%が課されている。232条に基づく関税はトランプ氏による国別の関税よりも法的根拠が強固とされ、より恒久的な措置になる可能性がある。
ラトニック氏の発言が伝わる前の段階で、中国政府は除外措置について米国が過ちを正すための小さな一歩だとして、関税をさらに撤回するよう促していた。米中の貿易戦争を巡って緩和の兆候も出ていただけに、同氏の発言は楽観論に水を差した格好となった。
除外措置は、米税関・国境取締局(CBP)が11日の遅い時間に発表していた。同措置は今月5日にさかのぼって適用される。中国からの輸入品への125%の関税およびほぼ全ての国に対する基本税率10%の関税の対象からこれら製品を外すことで適用範囲を狭める。
除外されるのはスマートフォンやノートパソコン、ハードディスク、コンピューター用プロセッサー、メモリーチップ、平面ディスプレーなど。これらの一般消費者向け電子機器は通常、米国内では製造されておらず、国内生産体制の構築には数年を要するとされる。
新たな関税の対象外となる製品には、半導体製造装置も含まれる。これは米国での大規模な新規投資を発表した台湾積体電路製造(TSMC)などの半導体メーカーにとって大きな意味を持つ。
ここ数カ月の間にトランプ大統領に対し巨額の米国投資を申し出た主要ハイテク企業にとっては、一時的にせよ大きな勝利だ。
トランプ氏の関税をきっかけに世界市場は大混乱に陥り、株価は急落。貿易戦争も急速にエスカレートした。
中国商務省は13日、「これは米国が『報復関税』という一方的な誤った行為を正すための小さな一歩だ」と、微信(ウィーチャット)の公式アカウントに声明を投稿。さらに米国に対して「この誤った行為を完全撤回する大きな一歩を踏み出し、相互尊重に基づいた対等な対話を通じて意見の相違を解決する正しい道に立ち戻る」よう求めた。
これに対し、ラトニック長官や他の政権当局者は13日、今回の措置は一時的なものに過ぎず、今後別の関税を賦課すると述べた。ただ、中国製品に追加で課した125%の関税率より低くなるのは、ほぼ確実とみられる。
中国関連で最大の分野はスマートフォンだ。米国が中国からの輸入したスマートフォンは24年時点で約410億ドル相当と、中国からの輸入総額の約9%に当たる。また、コンピューターや同類の機器も除外対象で、輸入額は360億ドル超に上る。
除外対象となる家電製品と半導体は中国からの輸入総額の約22%を占めていたという。
4月14日午前中の東京株式市場は先週金曜日のアメリカ株式市場の大幅反発とスマートフォンが関税から除外との報道を受けて一時2%程上昇した。しかし、スマートフォンを含む半導体への関税率を1週間内に発表するとの事である。
実際アメリカ国内ではiPhoneの駆け込み需要が急増していると報じられている。Apple StoreではiPhoneの価格上昇を懸念する消費者が殺到し、店舗は新型iPhoneの発売日やホリデーシーズンに匹敵するほどの混雑となっているそうである。Appleは関税の影響を緩和するため、インドや中国からiPhoneを積んだ貨物機をアメリカへ緊急輸送し、在庫を確保するなどの対応を行っている。
Appleは初代iPhoneが発売される2007年から中国生産を始めた。Foxconn(フォックスコン/鴻海精密工業)の中国・深センの工場で製造されていた。Appleは、iPhoneの組み立てにおいて、スピード・コスト・スケーラビリティの面で優位性がある中国を主要な製造拠点とする戦略を採っていた。
数十万人単位の労働力を動員できる中国の大規模な工場群は、Appleの厳しい製造スケジュールに対応可能で、部品メーカーが中国国内に集中しており、部品調達から組み立てまでを効率的に行え、工場インフラの整備が進んでおり、短期間での製品立ち上げが可能だった事から中国を主要な製造拠点としていたが、米中関税合戦の影響を受けて脱中国の流れが加速するのではと思われる。
Appleは地政学的リスクの高まりにより既にチャイナ・プラスワン戦略を進めており、特にベトナムやインドが重要な代替拠点として台頭している。ベトナムは中国に近い地理的条件で物流やサプライチェーンの再構築がしやすく、労働コストが低く、製造インフラも発展途上ながら整備が進んでいる。Appleの主要サプライヤーであるLuxshare(立訊精密)やGoerTek(歌爾声学)がベトナムに工場を建設している。AirPodsやApple Watch、MacBookの一部モデルの生産がすでにベトナムに移行している。
インドに関してはAppleはインドでのiPhone生産を急拡大中で、2027年までに全iPhoneの25%をインドで生産するという見通しも報じられている。FoxconnやPegatronがすでに現地に大規模な製造工場を構えており、サプライチェーンの現地化も進行中である。
DellやHPは中国国内を主要製造拠点としてきたが、Dellは2023年から「中国製コンポーネント完全排除計画」に着手し、特に米国向けPCやモニター製品については、ベトナムや台湾への生産拠点移管を進行中である。ロイター報道では「最終組立はすべて中国外に出す」方針を固めたとの事である。HPも同様に、ノートPCやプリンターなどの米国向け製品については、タイ・メキシコ・インドネシアなどへの移管を加速中である。
このようにアメリカのテック企業が中国国内から製造拠点を移す動きが加速している。Appleは中国国内でサプライヤーや製造パートナーを含めると約300万人の雇用を創出していたと言われているが、今後数年間で最大50%(150万人)の雇用減少も有り得るとの見方もある。DellやHPはサプライヤーや製造パートナーを通じて、数十万人規模の雇用を支えていると推定されるが、Appleと同じく大幅な雇用の減少になると推測され、中国経済へのインパクトは大きい。
中国は1990年代後半から「世界の工場」として経済成長を遂げてきたが、米中間の関税戦争の影響を受け、こうした経済構造も転換を迫られる状況にある。今後は、雇用の縮小や失業率の上昇、さらには社会不安の拡大も懸念される。