今週の注目投資トピックは「ホンダとの統合は破談へ、日産「自主再建」の茨道」元記事はこちら

以下、2月7日の東洋経済オンラインの記事より引用。

世紀の経営統合は協議開始からわずか1カ月半で瓦解した。

日産自動車の内田誠社長は、2月6日午前、ホンダ本社を訪れ三部敏宏社長に「子会社化案」への反対意見を伝えた。事実上、経営統合協議は打ち切られることになる。

複数の関係者によると、従来の持ち株会社傘下に2社が入る形ではなく、日産を子会社化する案をホンダが日産に打診。ホンダ主導がより明確になることで、経営の自主性が失われることに対して、日産側の反発が高まったことが決定打になった。

その前日、2月5日午後に開かれた日産の臨時取締役会に、経営統合の協議打ち切りが提案された。この日の取締役会では正式決定はなされなかったものの、ホンダとの経営統合を白紙に戻す方針を確認したという。

数日前から「ホンダによる日産への子会社化提案」といった観測報道が出るようになり、5日未明からは「統合破談へ」といった速報が相次いでいた。5日16時半には日産、ホンダが「報道の事実も含めてさまざまな議論を進めている段階であり、2月中旬をメドに方向性を定めて発表する」とコメントを出した。

両社は昨年12月23日、持ち株会社を新たに立ち上げ、2社が傘下に入る形での経営統合の協議を始めると発表した。最終契約書締結は2025年6月、統合に向けて協議を継続するかの判断を2025年1月末までに行うとしていた。

ただし、ホンダは日産の経営再建を統合の条件としていた。主力の北米、中国事業の苦戦で日産の業績は急悪化。12月の会見でホンダの三部社長は「日産とホンダが自立した会社として成り立たなければ、経営統合は成就しない」と念を押していた。

日産は昨年11月、世界で生産能力を20%削減し、9000人の人員削減を行う「ターンアラウンド」計画を公表。その具体策として、アメリカやタイでの人員削減などが俎上に上がった。しかし、日産の経営陣は国内を含む生産工場や人員の抜本合理化には慎重で、年が明けると社内でも「改革は足踏みしている」という声が聞こえるようになっていた。

さらにホンダと日産の間で、統合比率をめぐる議論もまとまらなかった。両社は1月末をメドとした協議継続の判断を2月中旬まで後ろ倒しにすると明らかにしていた。

「日産の意思決定はどうなっているんだ」。ホンダ幹部は2025年の早い時期から日産への不満を表に出していた。一方、日産幹部も「ウチしか相手がいないのになぜホンダは上から目線なのか」と憤っていた。

日産の動きの遅さに業を煮やしたホンダが示したのが子会社化案だった。「そもそも(合理化策を)決められない。なら、いつまでも対等をうたうことはできない」。前述とは別のホンダ幹部は厳しい口調で話す。

「どちらが上、どちらが下ではなく、共に未来を切り開く仲間」。昨年12月の会見で内田社長は持ち株会社方式での経営統合について「対等の精神」を強調していた。上下関係がより明確な子会社化へとホンダが提案を変えたことが、日産経営陣の気持ちを逆なでしたことになる。

とはいえ、前述したように不協和音はそれ以前から隠せなくなっていた。関係者からは「(破談は)予想通りだ」との声が聞こえる。一方、ある日産有力OBは「ホンダとの統合を断って日産単独で再建ができるのか。経営陣に危機感がまったくない」と苦言を呈する。

経営統合がなくなった場合、真っ先に問題となるのは日産再建の行方だ。

日産の2024年4~9月期は営業利益が前年同期比9割減、本業である自動車事業のフリーキャッシュフローは4483億円のマイナスに転落。とくに足を引っ張ったのは、グローバル販売台数の4割弱を占める北米。商品力の弱さをインセンティブ(販売奨励金)の大量投下でカバーする戦略が破綻。北米事業の2024年4~9月期は41億円の営業損失になった。

世界最大市場である中国での販売の落ち込みも止まらない。中国市場では急速なEV(電気自動車)普及と中国メーカーの躍進によって、欧米大手や日本勢も軒並み苦戦している。

日産の苦境の背景には、グローバルで340万台の販売に対して生産能力が500万台ある「能力過剰」と、電動車の中で需要が拡大しているHV(ハイブリッド車)を含めた「商品ラインナップの競争力欠如」という根深い問題がある。

日産内部では「自主再建」を目指す声も上がるが、単独での経営再建は困難な状況だ。しかも、将来に向けてEVやソフトウェアへの巨額投資を行っていかなくてはならない。自力での復活が難しければ、支援者を探して漂流することになる。

「日産内ではホンハイを推す声も複数あるようだ」(日産関係者)。昨年来、日産買収に意欲を見せていた台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が再び動き出す可能性がある。ホンハイ以外でもホンダに代わるパートナー探しは急務となるだろう。

ホンダにとっても日産との物別れは今後の成長戦略に影を落とすことになる。EVに加えて、ソフトウェア領域でも巨額の資金が必要になるのはホンダも同様。開発リソースの確保や投資負担の軽減のためにもパートナー探しは欠かせない。

アメリカのゼネラル・モーターズ(GM)との量販価格帯の中小型EV開発は白紙に。自動運転領域でもGMと協業していたが、GMの自動運転タクシー事業撤退に伴い解消。一方で、GMは昨年9月に韓国の現代自動車と戦略分野での提携の検討を開始した。

ホンダ周辺では「三部さんはとにかく(4輪事業の)スケールにこだわっている。別の道を探すのでは」との声が上がる。

両社はEV(電気自動車)や電池、ソフトウェアでの協業については、継続するかどうか現在も協議しているとみられる。だが、感情的な反発が残ることを考えると、仕切り直してどこまで連携できるかは不透明だ。

「最も理想的な組み合わせ」(経済産業省幹部)だったはずの統合は幻のように消えようとしている。

先週5日に日産とホンダの経営統合の破談が報じられたが、13日に両社が取締役会を開き正式に破談を決定と報じられている。

日産とホンダの経営統合は経済産業省主導の話であるという見方もあるが、ホンダにとっては日産自身がリストラを断行できなければお荷物になる可能性が高く、破談になって良かったのではないだろうかというのが個人的な感想である。

日産は元CEOゴーン氏の傘下でコストカットで短期的に利益を出す事には成功したが、長期的な視点からの商品開発をしたとは言い難い。ゴーン氏傘下ではEVこそ未来とEV(BEV)に注力し、2010年に「リーフ」を世界初の量産EVとして発売し、EV市場の先駆者となる。しかし、EV市場の成長はここ2年程鈍化し、販売が伸び悩んだ。EVに全振りした結果ハイブリッドの開発に遅れた。2010年に「フーガ ハイブリッド」を発売したが、これは自社開発ではなくトヨタ方式に似たシステムを採用した。2016年に「ノートe-power」を投入したが、トヨタやホンダのようなパラレル式ハイブリッドとは異なり燃費性能はそれほど優れていない為に競争力は限定的であり、世界的なハイブリッド需要の拡大に全く乗れていない。

ホンダの子会社になる事を拒否するのであれば、残された選択肢は現状では鴻海の傘下に入る事だが、こちらの方が現実的かもしれない。鴻海はルノーが所有する株式を買いたがっていると既に報じられているが、ルノーは2023年より日産株の保有比率を徐々に下げている。ルノーは日産が経営危機だった1999年に救済し、「ルノー・日産アライアンス」として協力関係を築いた。両社は部品の共通化や開発コスト削減で互いにメリットを享受していた。しかし、ルノーはEV・ソフトウェア重視で、EV専業会社「Ampere」を2023年11月に立ち上げた。日産は「e-POWER」など独自の電動化戦略を進めており、Ampereへの参加にも消極的である。両社の技術戦略が合わず、シナジー効果がなくなっている。このような事情を考えるとルノーは日産株を手放す可能性が高いと思われる。

鴻海は自社EVブランド「Foxtron」を立ち上げ、EV市場に2020年に本格参入した。元日産の関氏(元副COO)が鴻海のEV事業を統括しており、ルノーとの交渉を進めていると報道されている。鴻海は2016年に経営危機にあったシャープを買収し、大規模なリストラを実施し、コスト削減と経営効率化を進めた。シャープは2017年に東証一部に再上場した。鴻海はシャープを再生させた実績があり、日産も単独での再生は難しいと思われるので、鴻海傘下に入る方が良いのではとの印象がある。