今週の注目投資トピックは「テック株が世界的に下落、エヌビディアとASMLのダブルパンチ」元記事はこちら

以下、4月16日のブルームバーグの記事より引用。

人工知能(AI)向け半導体で圧倒的シェアを持つ米エヌビディアの中国向けチップ輸出に対する米政府の新たな規制と、オランダの半導体製造装置メーカーASMLホールディング の期待外れの受注を受け、世界の株式市場でテクノロジー株が下落している。

2-4月(第1四半期)に約55億ドル(約7850億円)の関連費用を計上する見通しを明らかにしたエヌビディアは、16日の米株式市場で一時7%安。ナスダック100指数は最大で2.4%下げた。

オランダの半導体製造装置メーカー、ASMLホールディングは7.6%安まで下落。半導体株は過去3カ月に売り込まれ、既に約2兆ドルの時価総額を失っていた。

トランプ米政権はエヌビディアに対し、同社が中国向けに設計したAIアクセラレータ「H20」について、今後は中国への輸出に許可が必要になると通知した。アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)は同社製の「MI308」にも輸出規制が適用され、最大8億ドルの費用が生じる見通しだと明らかにした。AMD株は一時8.1%安。

ASMLが16日発表した1-3月(第1四半期)の受注高はブルームバーグがまとめたアナリスト予想平均を下回った。最近の関税発表の影響を数値化する方法が分からないとの同社のコメントも投資家の不安をあおった。

関税がすでにグローバル企業に大きな打撃を与えていることが浮き彫りになる。欧州のテクノロジー株がASMLに連れて下落し、ストックス600テクノロジー指数は3.5%安となった。

インベスコ・アセット・マネジメントの木下智グローバル・マーケット・ストラテジストは、H20規制はエレクトロニクス分野での中国の台頭に対する懸念が背景であり、その意味で規制は恒久的な政策となる可能性が高いと分析。半導体のサプライチェーンに重大な悪影響を及ぼすだろうと予想した。

16日のアジア市場でも半導体関連銘柄が売られ、韓国のメモリーメーカーSKハイニックスが一時3.9%安、エヌビディアから半導体生産を受託する台湾積体電路製造(TSMC)が2.9%下げた。試験装置メーカーのアドバンテストはASMLの発表後に一時7.8%安と下げを広げた。

トランプ政権の新たな輸出規制でNVIDIAの「H20」、AMDの「MI308」を中国に輸出する為に許可が必要との事だが、形式的には規制でも実態は禁輸である。NVIDIAは1Qに関連費用を55億ドル(約7,850億円、AMDは8億ドルをそれぞれ計上すると報じられ、4月16日にNVIDIAの株価は7%、AMDの株価は8.1%下落した。また、オランダの大手半導体製造装置メーカーASMLが1~3月の新規受注が市場予想を下回った事でASMLの株価は7.6%下落した。半導体業界は関税政策により先行が不透明となっている。フィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)は年初来(2025/4/17まで)23.75%下落している。

NVIDIAの「H20」、AMDの「MI308」が輸出制限となった経緯であるが、米国は2022年以降、NVIDIAのA100/H100、AMDのMI250/MI300などを「AI軍事転用可能な製品」としてリストに追加した。その後、NVIDIAとAMDは中国市場向けに性能を意図的に制限した代替製品(H800、H20、MI308)を開発した。しかし、それでも米国側は「中国が軍事・国家プロジェクトに流用できる」と判断し、2024年からこれらの製品にも「許可制」を適用し、今回の「H20」、「MI308」の輸出制限に至った。

「H20」や「MI308」は、NVIDIAやAMDにとってグレーゾーンを突いた最後の妥協案だったが、それすら封じられた。性能制限された代替品ですら許可制にされる(実質禁輸)という事は米国は“中国向けのAIチップそのもの”を封じに来ている。AI学習や軍事用途に転用可能な先端GPU(H20、MI308など)は、米中の戦略対立の中核に位置しており、許可が実際に下りる可能性はほぼゼロである。

今回の「H20」、「MI308」の輸出制限の決定の前から2022年以降中国企業が第三国(シンガポール、UAE、マレーシア、香港など)を経由してNVIDIAのGPUを入手しているとの噂はあったが、アメリカ政府はこの第三国経由のルートもエンド・ユーザー規制の強化、第三国制裁の導入、NVIDIA製品のシリアル番号や出荷履歴のトラッキングの強化等厳しく取り締まっていく事が予想される。

中国企業は「H20」、「MI308」の代替品として中国メーカーのHuaweiが2023年に開発したAIチップ「Ascend 910B」を使う事も予想されるが、セキュリティや産業用途には対応できても大規模LLMの学習や生成用途にはパフォーマンス不足と見られている。中国への輸出規制がない国からGPUを調達する可能性については欧州のGraphcoreのIPUやカナダのTenstorrentのAIチップなどは一部の研究機関で注目されているものの、量産規模やエコシステムの充実度ではNVIDIAに遠く及ばない。韓国のSK hynix やSamsung ElectronicsはGPUやAIアクセラレータ自体の設計・製造は行っておらず、中国への直接的な代替供給元にはなり得ない。日本企業では、富士通がスーパーコンピュータ向けのArm系チップを開発した実績はあるものの、商用AIチップとして広く提供しているわけではない。以上を考えると「H20」、「MI308」の代替は限定的であり短期的には困難になると推測される。

中国は世界最大級の半導体消費市場の一つであるが、米国からの先端技術供給が滞れば、中国国内のプロジェクトや製品開発の停滞、延期、縮小が起こる可能性がある。特にAI開発、ハイパフォーマンス・コンピューティング分野では、NVIDIAやAMDのチップが不可欠であるため、製品そのもののリリース延期なども懸念される。米中の関税や輸出規制は、半導体産業に局地的なショックではなく、世界規模の構造的な需要リスクをもたらす可能性が高いと考えられる。

日本の半導体関連企業への影響であるが、東京エレクトロン(8035)、ローツェ(6323)は中国の半導体の最先端製造プロセス向けに東京エレクトロンは製造装置、ローツェは搬送自動化装置を主力製品として供給しているが、影響は大きいと考えている。米国の規制でH100/H20やMI308が輸出できなくなると、中国国内のAIインフラ投資・製造ライン建設が急減速しやすく、中国向け売上が減少する可能性が高いと思われる。