今週の注目投資トピックは「米ベイン、富士ソフトTOBから撤退表明 争奪戦終結へ」元記事はこちら

以下、2月17日の日経電子版の記事より引用。

米ベインキャピタルは17日、富士ソフトへのTOB(株式公開買い付け)を実施しないと発表した。対抗する米KKRが4日にベイン案を上回る1株あたり9850円のTOB価格を提示したことを受けて決めた。2024年9月にベインがTOB提案の予告を公表してからおよそ半年にわたって続いた争奪戦が終了する見通しだ。

ベインは1株9600円で2月上旬までをメドにTOBに入る計画を示していた。KKRは2段階で進めているTOBの第2回で1株9451円での買い取りを表明していたが、4日に買い取り価格を引き上げた。第2回TOBは19日が期限で、ベインの撤退により成立の公算が大きくなった。発行済み株式の約34%を取得した第1回との合計で53%超の獲得をTOB成立の条件に掲げている。

ベインは「予告を撤回することも選択肢に含め、今後の方針について慎重に検討を行っている」と記したリリースを10日に公表していた。ベインは約16%の株式を持つ富士ソフト創業家と組んでTOBを始める方針だった。

17日発表の文書では「創業者である野沢宏氏と相談の上、富士ソフトとその株主の利益も熟慮し、対応方針を検討してきた」と説明したが、さらなる価格引き上げには踏み切らない考えを明示した。

2024年9月にKKRが富士ソフト(9749)に対して開始したTOBに翌月10月にベインキャピタルが創業者一族の賛同により参戦した事により混迷していたが、ベインキャピタルの撤退でやっと争奪戦は終了する事になった。

ここで富士ソフトの買収合戦の経緯を時系列に振り返ってみる。

2024年9月5日 KKRは、富士ソフトの株式を買収するためにTOB(株式公開買い付け)を表明 提案価格は1株あたり8,800円で、当日の富士ソフト株は前日比1500円高の8,890円まで急騰。

2024年10月11日 ベインキャピタルが富士ソフトへのTOBで1株9,450円の法的拘束力のある提案をした。

2024年11月15日 KKRがベインキャピタルを上回るTOB価格9,451円を提示。

2024年12月11日 ベインキャピタルが再度価格を引き上げ、1株9,600円でのTOBを提案。

2024年12月17日 富士ソフトの取締役会がベインキャピタルの提案に反対を表明。

2024年12月18日 ベインキャピタルが富士ソフトの賛同を前提としない「敵対的TOB」を検討すると発表。

2025年2月4日  KKRがTOB価格を1株9,850円に引き上げ、ベインキャピタルの提案を再度上回る。

2025年2月10日 ベインキャピタルがTOB開始を見送り、提案の撤回も選択肢として検討すると発表。

2025年2月17日 ベインキャピタルが富士ソフトのTOBから撤退を表明。

 

今回のTOB合戦では富士ソフトの創業者であり会長である野澤氏ら創業家一族がベインキャピタルの提案を支持していると報じられていたが、結果的に、創業家はベインキャピタルの提案ではなく、取締役会の方針であるKKR支持に従ったと考えられる。KKRが最終的にTOB価格を9,850円に引き上げて、価格的に有利になったので創業家にとってもベイン支持の意義が薄れたと推測される。

また、企業ガバナンス的に考えた場合、富士ソフト取締役会は一貫してKKRの提案を支持しており、創業家にとっては取締役会と対立を深めるよりも円満な形で決着させる事が望ましかった。また、TOBの長期化により企業価値の毀損のリスク、社員の流出のリスク、顧客や取引先の信頼を損ねるリスクを考慮してKKR支持に変わったのだと思われる。